JIFが終わって最初の土曜日。久々のオフだ。
先月はぴえヨンによる特訓のおかげで精神的にも体力的にもギリギリで、本当に息つく間もなかった。こんなにゆったりとした気分でゴロゴロできる日は久ぶりだ。先輩達が来るまでアクアとのんびりしてよう。
「アクア、あーん」
「ん」
事務所にはアクアと私の二人だけ。こうして餌付けしてあげるのも実に1か月以上ぶりだ。口に押し込まれるじゃがりこをガリガリとかじるアクアは今日も可愛い。かじり尽くしてモグモグごっくんするアクアももちろん可愛い。
もう1本。
「あーん」アクアの口にじゃがりこをセット。「ん」準備完了。そのままゆっくり押し込んであげれば、小刻みに動くアクアの顎に砕かれてどんどん短くなっていく。最後に私の指がアクアの唇に触れるのは自然の成り行き。
もう1本。
今度は長めのやつ。慎重にアクアの口に先端を合わせ、「ん」アクアが咥える。ガリガリガリ。
「こんにちはー。」
半分くらい押し込んだところで事務所の扉が開き、先輩の元気な声が響いた。同時にアクアのガリガリも止まる。ちょっと嫌そうな顔で。
「ルビー、来たわよ。」
「お邪魔しまーす。」
「先輩、MEMちょ。いらっしゃい。」
ソファでアクアに餌付けをする格好のまま二人を迎える。半分になったじゃがりこはアクアの口に咥えられたままだ。
「久しぶりに見たけど相変わらず距離感おかしいわね。こりゃ学校で噂になるわけだ。」
まずは先輩の反応。慣れたものだ。
「わーお。」
続いてMEMちょ。驚いている。MEMちょが加入してからずっと特訓だったから、こういう姿を見せるのは初めてだ。
B小町のメンバーが揃ったのでこれからお仕事の時間。アクアには悪いけど、おやつの時間はもうお終いにして動画撮影の準備をしないといけない。
「アクア、早く食べてよ。」
「………」
「もう、お姉ちゃんが貰っちゃうよ。」
「あっ」
食べかけのじゃがりこを取り上げて食べる。むすっとした顔でいじけるアクア。機嫌悪いなぁ。どうしたんだろう。
「ほらルビー。早く始めるわよ。」
「うん。今行く。」
先輩に呼ばれ、後ろ髪を引かれつつアクアを置いて仕事部屋へと移動する。
事務所兼自宅の最上階にはダンスや演技の練習用の一面鏡張りの部屋がある。3人で踊るには狭いけど、打ち合わせとか簡単な動画の撮影はここで済ませている。JIFの特訓の時にB小町が3人で寝泊まりしていたのもこの部屋だ。
今では半ばB小町専用スペースと化していて、アクアが入ることはほとんどなくなっていた。
「この部屋入るの久しぶりだな。」
「何よついてきたの? これから仕事の話するんだから用事があるなら手短に済ませなさいよね。」
と思ったらアクアも付いてきた。
先輩が訳を聞いてるけどその口調からはとげを感じる。3人で仲良くしてる所をにアクアを入れたくないのかな? 私は一向に構わないけど。
アクアも裏方として立派にB小町を支えてくれているし、動画の打ち合わせに混ざるのは自然な事だ。
「別に用事なんかねえよ。」
「じゃあなんでついて来るのよ。」
「俺の家なんだからどの部屋に居ても良いだろ。」
「なら1階の事務所かアンタの部屋にでも籠ってなさい。仕事の邪魔よ。」
「邪魔するつもりはねえよ。」
アクアを追い払おうとする先輩。抵抗するアクア。これは…多分あれだ。久しぶりのおやつタイムを邪魔されてアクアは怒ってるんだ。先輩が来た時もむすっとしてた。
じゃあ先輩は私をアクアに取られるのが気に食わないってこと?
ちょっと試してみよう。まずはこっそりMEMちょと作戦会議だ。
「MEMちょ。今からちょっと良い感じに口裏合わせてくれない?」
「良いけど、なんで?」
「あの二人、お姉ちゃんの取り合いで喧嘩してるっぽい。」
「ははーん。それはまた仲の良いことで。」
「お願いね。」
「オーケー。」
15秒でMEMちょを味方につけた。仕込みは完了。
そして作戦決行。今度はアクアと先輩に聞こえる声で
「お腹痛いかも。ちょっと休んでて良い?」
「あらら。ルビーちゃん大丈夫? 良いよゆっくり休んでな。」
「大丈夫か? お姉ちゃん。一旦部屋に行くか?」
「アクアありがとー。連れてってー。」
よし、予定通りだ。これでゆっくり私の部屋でアクアから事情聴取が出来る。
部屋へ移動。わざとらしくゆっくり歩く私をアクアは紳士的に介抱してくれる。優しい弟に育ってくれて嬉しい限りだ。どこに出しても恥ずかしくない自慢の弟だね。どこにも出したくないけど。
ベッドに腰掛け、いざネタばらし。
「お姉ちゃん、どうしたんだ? 急に仮病なんて使って。」
「あれ。バレてた。」
「あんなのバレるに決まってる。」
「さすがは役者だね。お姉ちゃん鼻が高いよ。」
とっくにバレてたか。それでもちゃんと付き合ってくれるアクアが可愛い。
「で、何か話でもあるのか?」
「うん。」
「何?」
「アクア、最近お姉ちゃんが先輩に取られたと思って妬いてるんでしょ?」
「………っ!」
図星だ。
無表情を貫くアクアだけど、お姉ちゃんの目は誤魔化せない。まったく手のかかる子だ。ほんの一か月お姉ちゃんが忙しくしてただけで拗ねてしまうとは。
そんなところも可愛いんだけどね。
「おいで。」
「んぐぁ」
強めのぎゅ。
とにかく今は甘やかしてあげよう。寂しすぎてお姉ちゃんの後をついて回る弟とか可愛すぎる。なのにいっちょ前に恥ずかしがってあの二人の前ではべったり引っ付いてこないなんて。これはもう私の方が我慢できない。
気のすむまで押しつぶしてからそっと放してあげると、どことなく満足気なアクア。ミッションコンプリートだ。
「じゃあお姉ちゃんはお仕事に戻るから。」
「分かった。」
アクアを部屋に残し、再び仕事部屋へ戻る。
アクアが私の演技に気付いたということは、同じく役者の先輩も演技に気付いているだろう。あからさまにお姉ちゃんを横取りされた先輩は果たしてどんな反応を見せてくれるだろうか。
部屋の扉を開けると先輩と目が合った。最初の一瞬だけぱっと明るい笑顔。直後にはっと何かに気付く。最後にはむっとした顔で目を逸らした。いやもう遅いって。
「ちょっとルビー。アクアを甘やかしすぎじゃないの?」
「良いじゃん別に。弟なんだから。」
「何よそれ。それを言うなら私だって……」
「私だって……何?」
先輩はしまったという顔で黙り込んだ。
私だって妹だもん!って素直に言えばいいのに。アクア共々、本当に素直じゃないんだから。甘えられるうちに甘えておかないと後で後悔するよ?
……大好きな人が突然いなくなって、会えなくなることだってあるんだから。
「ほら先輩。意地張ってないでこっちおいでよ。」
「大丈夫よ。」
「そうは見えないけど。」
「なんでもないったら!」
あーもう面倒くさい。こうなったら実力行使だ。ぴえヨンの特訓で鍛えた私の筋肉から逃れられると思うなよ。
ゆっくりと距離を詰める私に対し、一応逃げる振りだけはする先輩。でも明らかに逃げようという意思が無い。簡単に腕の中にとらえることが出来た。
「えいっ」
「ぐえぇ」
アクアと同じく、強めのぎゅ。
ちっこいなぁ、先輩。アクアと違って押し潰してしまいそう。私ぴえヨンみたいなマッチョじゃないのに。
「お姉ちゃんを独り占めしたい気持ちは分かるけど、アクアの気持ちも考えてあげてね。私は一人しかいないんだから。」
「分かってるわよ……。ちょっとムカついただけ。」
「分かればよし。」
先輩を優しくリリースする。こっちも満足したみたい。
これで後腐れなくお仕事に打ち込めるね。
「そんじゃぁ、次の動画の内容を説明するよぉ。」
「「はーい」」
これにて一件落着。お姉ちゃんも楽じゃない。
本編進めるの疲れたので息抜き。
ルビーの話は書いてて癒されます。