「仕事の時間だ」
「はーい」
ママと社長はこれから仕事だ。
ママが仕事で面倒を見れない時は社長の奥さんのミヤコさんがお世話をしてくれている。ママほどじゃないけどとても綺麗な女性で、社長さんに選ばれるだけあって器量の良い人だ。どんなに仕事が忙しくて余裕の表情を崩さない、出来る女だ。
でも、そんなミヤコさんでも初めてのベビーシッターで双子の面倒を見るのは大変らしい。
「一応私、社長夫人じゃないの・・・?」
「美少年と仕事できると思ってアイツと結婚したのに!!」
「私はベビーシッターやりに嫁に来たんじゃねええええ!!」
やばい。なんかキレてる。
「なあ、お姉ちゃん。ミヤコさんの様子がかなりヤバいぞ。このままだと俺たち虐待されるかも。」
「虐待ってなに?」
「親が子供をいじめることだ。ミルクくれなかったり、放置されたりするぞ。」
親が子を虐める。子供を放置する。身に覚えがある。ああいうの、虐待っていうんだ。
前世で人生の大半を過ごしたあの病室を思い出す。パパもママも病院に来てくれなくて、ずっと一人ぼっち。看護師さんや患者さんに気に入られるために、自分を押し殺してか弱い少女を演じ続けた日々。
「ねえ、アクア。何とかならないの?私虐待されるなんて絶対嫌だよ。」
「赤ちゃんにできることなんてほとんどない。せいぜい可愛くして気に入られることくらいだな。」
「可愛く・・・ね。」
自慢の弟の賢い頭脳をもってしても有効な解決策は浮かんでこない。
また前世と同じようにいい子を演じなければならないのだろうか。まあ、私だけならまだ良い。こういう事には慣れている。幼稚園に入ればミヤコさんがベビーシッターをする必要もなくなるから、それまでの辛抱だ。
でもアクアはどうだろう。か弱い存在を演じてミヤコさんに上手く気に入られることが出来るだろうか。彼は人に甘えるのが苦手で実の母にすら遠慮があったのに。
私が何とかしなきゃ。
私は前世でよく赤ちゃんや小さい子供の動画を見て癒されていた。どんなシチュエーションで子供の可愛さが引き立てられるのか、きっちり把握している。今こそその知識を生かす時だ。
「ほらアクア、笑って。」
「えぇ、いきなり言われても・・・」
「じゃあこうしてやる!」
「あはあ。くすぐったい!」
お腹をくすぐってあげると、アクアは可愛い声で笑い転げた。いいぞ、可愛いぞ、我が弟。その調子だ。ミヤコさんをメロメロにしつつ可愛い弟とスキンシップをとる口実にもなる。我ながら良い作戦を考えたものだ。さて、ミヤコさんの反応はどうか。
「やば・・・。この双子可愛すぎない?ヤバい、何かに目覚めそう・・・。」
パシャ、パシャ
よし、もう可愛くてたまらないという感じの表情だ。作戦は成功。私とアクアのあまりの可愛さに完全にやられてるね。写真まで取っちゃってる。
「ミヤコさんも赤ちゃんの可愛さには抗えないってことだね。子供同士が楽しそうに遊んでるシチュエーションってすごい癒しなの。どう、お姉ちゃんすごいでしょ?」
「ああ、助かったよ。」
「これからミヤコさんの前ではちょっとあざとい位の感じで仲良くしようね。」
「うーん、なんだかルビーの思惑通りって感じで癪だが、仕方ないか。」
意外とミヤコさんはチョロかった。そして、可愛い弟とイチャイチャする口実もできた。私、天才かもしれない。
・・・
「ほーら、ミルクの時間ですよー。」
あれからミヤコさんは私たちにとても優しくしてくれるようになった。あと、もともと綺麗だったけど、雰囲気がもっと柔らかい感じになって大人のお姉さんって感じでますます綺麗になった。まあ、ママとアクアの可愛さには劣るけどね。
「ベビーシッターにも慣れてきたし、こんなに可愛い子たちを独り占めできるんだから、こういう生活も悪くないわね。」
いくら何でも変わりすぎじゃないかと思うこともある。もともとそういう素質があったのだろうか。普通に過ごしていれば勝手に母性に目覚めてくれて、私が何かをする必要もなかったかもしれない。
ちなみに、あの日ミヤコさんが取った写真はアイにも送信された。その結果、
「うちの子きゃわー!!ミヤコさんずるい!こんな可愛い子供たちを独り占めしてたの!?」
「お、アイ。おまえいい笑顔するようになったじゃねえか。ソレ使えるぞ。」
「なるほど・・・コレがイイのね、覚えちゃったぞー。」
アイはますますアイドルとしての輝きを増していくのだった。
ミヤコさん
可愛い双子の様子をみて、母性に目覚める。
アクア
なんだかんだルビーのことをお姉ちゃんとして認めつつある。
ルビー
子どもが好きで、前世では赤ちゃんや小さい子供の動画を見るのが好きだった。