【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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吉祥寺家

やばいやばい。早くお部屋片づけないと……!

 

もうすぐアクア君たちが来ちゃう。約束の時間まであと10分。頼む! 間に合ってくれ…!

 

美少女&イケメンの芸能人4人が我が家を訪れるという緊急事態に、私はかつてないスピードで部屋の片づけと掃除を済ませ、見せてはいけないものは隠し、どうにか人を迎えられる部屋を用意する。

 

ピンポーン

 

ジャストタイム。最後のごみ袋を押し入れに投げ込んだ瞬間にチャイムが鳴った。

 

「おじゃましまーす!」

「わー! 皆いらっしゃーい!」

 

扉をあければ美少女と美少年が2人ずつ。視界が眩しい。漫画やアニメじゃあるまいし、こんな顔が整った人間が一堂に会して私の目の前に現れるなど想定外も良いところだ。

 

勢いよく挨拶してくれたのは今日あまでメインヒロインを演じた有馬さん。後ろにはストーカー役のアクア君と、今日あまとは関係ないけど彼女の黒川あかねさんだ。

 

そしてもう一人。何食わぬ顔でアクア君の隣に立っているのが今日あま主演の鳴嶋メルト。アンタも来るのか。顔が良いからって何でも許されると思うなよ。

 

いろいろと思うことはあるが、表面上は緊張と憎悪を悟られないよう自然な笑顔で対応する。

 

「さ、上がって。作業場所はこっちよ。」

「「「「はーい」」」」

 

作業場に案内すると皆興味津々といった様子で部屋を見まわしている。私にとっては見慣れた光景だが、漫画家と関わりの薄い彼らには物珍しいのだろう。私がスタジオに見学しに行った時も同じような顔してたのかな。

 

とはいえ、漫画や資料がたくさん置いてある以外は実の所普通の家と大きくは変わらない。今や作業のほとんどはデジタルで完結しているので、漫画家が扱う見慣れない道具と言えば液タブ位なものだ。

 

「これ液タブって言ってモニターに直接描けるんですよ?」

「全部デジタルなんですね!」

「最近の主流はそうねー」

 

以上。説明終わり。

 

PCの中身はさすがに見せるわけには行かないので、この説明が終わった時点で説明するべき物などもう存在しない。漫画家が住んでいるだけの普通の家だ。

 

後は用意していたお菓子をつまみながら、美男美女を侍らせて酒を煽るだけ。これはアレか、我が世の春と言うやつか。

 

「さっそく乾杯……って思ったけど、皆いくつだっけ!」

「16」「17」「17」「16」

「わっか……死にたくなってきた……。ごめん。じゃあ私だけイかせてもらうわ。」

 

私以外全員未成年。しかも20手前とかですらなく10代中ごろという若さ。そんないたいけな少年少女を家に招いてパーティーを開くことに罪悪感を感じるが、向こうからの申し出なのでこれはセーフ。

 

セーフ……だよね?

 

用意していたスナック菓子やジュースを机に並べ、お好きにどうぞと差し出す。酒も無いのにおいしそうに飲み食いする子供達。ああ、私にもこんな純粋な時期がきっとあったんだよなぁ。今じゃ見る影もない。

 

時の流れの残酷さを噛み締めつつ、一人寂しく2本目の缶ビールを開ける。

 

その後は色々と漫画の事について聞かれたりもしたが、まぁ素人の考えることは大体同じで、これまでさんざん聞いた質問とその回答を繰り返すだけだ。酔っぱらいながら適当に想定問答を繰り返していく。

 

アルコールが回って余計な思考が抜け落ちた私は、ただただ綺麗な顔たちを眺めてうっとりしていた。

 

これアニメやCGじゃないのよね……。芸能界ってスゴイ。

 

そんな感じで彼らに見惚れたままどれくらい時間が経っただろうか。一通り漫画家への質問が終わりパーティーもそろそろお開きかと思った頃、アクア君が唐突に雰囲気を引き締め、あの件について話しを始めた。

 

「僕が今日お邪魔した理由は薄々分かっていると思いますが、改めてお話しさせてください。東京ブレイドの舞台の件です。」

 

まるでイラストのように現実離れした美しい瞳。それが真っすぐ私に向けられる。

 

酔いは一瞬で醒めた。

 

「……そう。やっぱりその件なのね。」

 

私もアビ子先生に思う所は死ぬ程ある。舞台の脚本が気に入らないからと言って許諾の取り下げまでちらつかせて脚本家を降ろしにかかるなど言語道断だ。

 

彼女は自分の才能を信じ切って他者の意見を聞かず、それでも天才ゆえに周囲との軋轢を生みながらもとんとん拍子で売れていった。今回もそんな数あるトラブルの内の一つ。本来なら師匠として弟子の行いを正すべく働きかけた方が良いのだろう。

 

だけど、どんなに売れて大物になっても、やっぱり可愛い弟子の一人。今でも師匠と呼んで慕ってくれる彼女を突き放すなんて私には出来ない。

 

彼女がどれだけ漫画に命を懸けているか、どれだけキャラクターを愛しているかを私は知ってる。魂を込めたキャラクターをぞんざいに扱われれば泣いて悔しがるような子だ。ここで私が彼女を突き放せばどれだけ傷つくだろうか。

 

アクア君には悪いけど、ここはアビ子先生の味方をしよう。本当の意味で彼女の味方になってあげられるのも私だけだから。

 

「ごめんね。」

 

これが私の役割だ。東京ブレイドという作品を愛する者の一人として、ここで道を間違えるわけには行かない。

 

「アビ子先生の気持ちとても良く分かるから。私は人の仕事にケチ付けるの得意じゃなくて、メディアミックスは割と全部お任せしちゃう主義の人だけど……本心はアビ子先生と同じ。出来ることなら愛を持ってキャラに触れてほしい。キャラは自分の子供みたいなものなんだからさ。この件に関しては力になれないかな。」

「……先生の気持ちは分かりました。でも、もう少しだけ話を聞いてください。」

 

しかしアクア君は否定の言葉を聞いても顔色一つ変えず、相変わらず綺麗な瞳をこちらに向ける。まるで私の心の中を全て見透かすような鋭い視線だ。

 

続いて彼の口から語られたのは、私と真逆の意見。

 

「アビ子先生の気持ちが分かるなら、なおの事彼女を説得してあげて欲しいんです。」

「どうして?」

「脚本家のGOAさんも、東京ブレイドという作品を愛しているからです。彼だけじゃない。役者陣だって同じです。僕たちは演技を愛しています。漫画家がキャラを愛するように、役者も魂をこめて作り上げた役を我が子のように愛するものなんです。今回の舞台の主催は劇団ララライと言います。皆一流の役者だと胸を張って言えます。キャラクターをぞんざいに扱う人間など誓っていません。アビ子先生とGOAさんの意思疎通さえ上手くできれば素晴らしい舞台になるはずなんです。どうか、考えを改めてはいただけませんか。」

「それは……」

 

何も言い返せなかった。漫画家には漫画家のブライドがある。ならば、役者や脚本家にも同じようにプライドがある。そんな当たり前のことを突きつけられた。

 

なんて真っ直ぐな子なんだろう。稽古期間が無いとか、収益の問題があるとか、いくらでもそれらしい説得材料はあるのに。そんなことは微塵も考えず、舞台に関わる人間たちを信じてくれと真正面から言ってのけた。

 

その純粋さはアビ子先生にも負けてないかもしれない。

 

私の負けだ。

 

「あなたの熱意は伝わったわ。私の方からアビ子先生を説得してみる。」

「ありがとうございます。」

 

少しほっとした様子の彼。そんな些細な表情の変化からも舞台への想いが伝わってくる。

 

「説得にあたり、いくつかお願いがあります。」

「なに?」

「まず、アビ子先生にこのチケットを渡してください。今回の舞台はステージアラウンドという特殊な施設で行います。恐らくアビ子先生はそのことを知りません。なので、脚本を書く参考にと言う体でこの舞台を見るように言ってください。」

「わかったわ。」

「それから、アビ子先生に伝えてほしいことがあります。」

「伝えてほしいこと?」

 

ええそうですと首肯した彼は、強い意志を瞳に宿し、こう言い放った。

 

「僕たちは演技には自信があります。どんな脚本でも完璧に応えて見せます。そう伝えてください。」

 

返事すら忘れて彼の瞳に魅入ってしまう。本当に演技が好きなんだ。いや、好きと言う言葉では足りない。愛しているんだ、演技を。

 

私たち漫画家と何も変わらないじゃないか。クリエイターは皆良い作品を作るために必死なんだ。それは舞台を作る人たちだって同じこと。ならば分かり合えるはずだ。一流のクリエイターであるこの人たちならアビ子先生ときっと分かり合えるはず。

 

「先生? どうかしましたか?」

「ああ、ごめん。ちょっと酔っぱらってぼーっとしてたみたい。」

「本当にお願いしますよ。先生が頼りなんですから。」

「大丈夫よ。私だって良い作品作るために命かけてるクリエイターなんだから。任せて頂戴。」

「………なら、これ以上言うのは野暮ですね。」

 

私の覚悟、伝わったみたいね。

 

こうして話はまとまり、酒とジュースを追加してしばらくホームパーティーを楽しんだ後彼らは帰っていった。お行儀よく飲み食いしてくれたおかげで片付けもすぐに済む。このまま今日中にアビ子先生の所へ行ってしまおう。

 

久しぶりに心を震わせる本物のクリエイターの言葉を聞けた気がする。普段は家に籠って漫画ばかり描いてるから考えてこなかったけど、世の中には漫画家以外にも沢山のクリエイターがいて、それぞれが魂籠めて作品を生み出しているんだ。

 

漫画家だけが特別じゃない。当たり前の事だ。師匠として、アビ子先生にも言って聞かせるべきだろう。

 

私だって半端な覚悟でプロの漫画家をやってない。アクア君のように、この熱意を真っ直ぐぶつければ伝わるはず。むしろ、それ以外に彼女の心を動かす方法なんてない。やってやろうじゃないの。

 

高ぶる気持ちを抑えつつ、私はアビ子先生の自宅へと出発した。

 





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