時系列はジャパンアイドルフェスの約1か月前。ぴえヨンによる特訓が始まった頃です。
ついでにタイミングが無くてやらなかったB小町の女子会もやります。
JIFまで1か月を切り、ぴえヨンによる特訓が始まった。
ぴえヨン監修の練習メニューはハードで、学校に行っている時間以外はすべて彼のスケジュールに従って生活しなければいけない。体力面と歌唱力に不安のある私とMEMちょは毎日走り込みと発声練習を欠かさず行うことになっている。
まるで陸上部とかの合宿みたい。というか先輩とMEMちょはウチに泊まり込みだから、まさしく合宿だ。
今日の分の練習を終え、ご飯を食べて、お風呂にも入り、あとは寝るだけ。自宅の3階にある鏡張りの大きな部屋にお布団を3人分並べ、準備は完了。真ん中は先輩。その右手側にMEMちょで反対が私だ。
これから一か月間、私たちは毎日ここで姉妹のように仲良く眠ることになる。
「じゃあ、寝ましょうか。」
「ちょっと待ったぁ!」
「先輩、何か忘れてない?」
早々に電気を消して寝ようとする先輩をMEMちょと私が引き留める。
分かってないなぁ。仲の良い女子が3人、同じ部屋で布団の上に寝そべってる。この状況でやることと言ったら一つしかないでしょ。ね、MEMお姉ちゃん?
私のアイコンタクトにMEMちょが応える。
「寝るのはまだ早い! さぁ可愛い妹達! 楽しい楽しいガールトークのお時間だよぉ!」
「待ってました!」
そう、夜というのお喋りの時間なのだ。
懐かしいなぁ。前世の記憶を持って生まれた私とアクアは生まれてすぐに喋ることが出来たけど、人前では赤ちゃんの振りをしなきゃいけないからずっと黙りっぱなし。苦肉の策で夜な夜な布団を這い出て別の部屋に移動してひたすら語り合ったんだよね。
よちよちと布団から出ていつもの部屋に入ってくるくるアクアの可愛さと言ったら、もう言葉では言い表せないよ。
で、今ここにいるのは先輩とMEMちょ。
同じアイドルグループの仲間だし、いつでもお話は出来る。でも幼き日の私達と同じく、人前で話せない事だってある。女子だけの空間で、なおかつ寝る前というリラックスした状態でこそ話せる大事な話だってあるのだ。
それは何かって? そんなの決まってる。
「で、先輩。アクアをあかねちゃんに取られちゃったわけだけど、先輩的にはどう思ってるの?」
恋バナだ。
しかもその恋バナの登場人物は私の可愛い弟のアクアと可愛い妹(設定)の先輩。気にならないわけが無い。アクアからは色々話を聞いたし相談も受けたけど、先輩からはどう見えているのかイマイチ分かっていない。
良い機会だ。じっくりと聞かせてもらうとしよう。
手をわきわきさせて先輩ににじり寄る私。しかし頼れるお姉ちゃんのMEMちょがぽかんと間の抜けた顔で考え込んでいる。かと思ったら急に驚愕の表情になった。
「えっ、そういう事!? かなちゃんアクたんの事…!」
「ああそう言えばMEMちょは知らないんだっけ。先輩はアクアの事好きなんだよ。」
MEMちょは先輩と知り合ったの最近だもんね。知らなくて当然か。
急に気まずい顔で冷や汗を流し始めるMEMちょ。布団の上に正座し、目を泳がせながら語り始めた。
「えーとですねぇ。私としましては、今ガチで共演したあかねとアクたんがくっついて嬉しい気持ちがあるわけですよ。炎上騒ぎで急激に距離を縮めていい感じになった二人を見て、カップル成立、もう手出しは無用、とか率先して言いふらしていたわけでありまして。」
今ガチの裏側ではそんな駆け引きが……! って私は全部アクアとあかねちゃんに聞いてるから知ってるけど。
MEMちょは続ける。
「とはいえですよ。憧れのB小町に入って、そのメンバーであるルビーちゃんとかなちゃんは可愛い妹分なわけで。もう本当に可愛くて大事に思っているわけです。そんな妹分の恋路は全力で応援したいと考えておりまして。つまりどういう事かと言いますとですね。」
仰々しい話し方はここで一旦終了。すぅ、と息を吸い込み、苦々しく思いの丈を吐き出した。
「私はどっちを応援すればいいのぉ………」
布団に崩れ落ちるMEMちょ。妹の為にそこまで真剣に悩めるのは優しい証拠だ。やっぱり私の見込んだ通り、とっても良いお姉ちゃんみたい。
さすがにこのまま話を進めるのは忍びないので、フォローはしておく。
「まぁまぁ、MEMちょに責任はないよ。アクアが自分で選んだことなんだし、MEMちょが先輩を虐めたわけじゃないでしょ?」
「ううぅ、ルビーちゃん……ありがとー……。うん。そうだよね。最終的にあかねと付き合うって決めたのはアクたんだ。私は悪くない。」
「そうそう。そういう事。」
MEMちょが復活。さぁ、これでやっと本題に切り込める。私が聞きたいのは先輩の気持ちだ。あれだけ自信満々にアクアを落とすといっていた先輩だけど、ふたを開けてみればアクアはあかねちゃんと付き合うことになっていた。
先輩は何を思うだろう。きっと落ち込んでるだろうから、私とMEMちょが優しくしてあげよう。
「で、先輩。どうなの……って。あー……」
「そんなの……ぐやじいにぎまっでるじゃないのよぉ……ひっぐ」
MEMちょに気を取られている間に、先輩はまともに喋れないくらいにボロ泣きしていた。
そんな末っ子の様子を見て姉二人は大騒ぎだ。
「うわあぁぁ、かなちゃん。大丈夫? じゃないよねぇ。」
「先輩、ほらこっちおいで。悲しいよね。今日はお姉ちゃんがたくさんよしよししてあげるから元気出して。」
「ルビー……」
先輩が泣き止むまでに3分もかかった。気分屋の先輩にしてはかなり長引いた方で、振られたショックがいかに大きかったのかが良く分かった。いつもの調子を取り戻した先輩はここぞとばかりに愚痴をこぼし始める。
「いやーホント優しいわー。どっかのアクアとは大違いね。」
「かなちゃん、アクたんのことはもう大丈夫なの?」
「フン! あんな奴もうどうでも良いわ! 好きになる要素一個もないわよ! デリカシーと常識が無いし? クールぶってるけどただのムッツリ。年上に対する態度がヤバいし、一度も敬語使われたこと無いし! 一度ガツンと言わなきゃ駄目かしらね! あーあ、子供の頃はまだ可愛げがあったのにね。」
「あれ? 付き合い長いんだ?」
「そうよ小さいころ現場でね! 私とアクアがまだ3つとか4つの頃!? あんなヤツ一度会ったら忘れられないじゃない!? 昔からずっとアイツが脳裏に居たのよ! あの頃は天使みたいだと思ってたのにあんなに憎たらしく育っちゃって! 私の思い出を
「ん? ん~~?」
アクアへの想いを断ち切るべく、途中までは頑張ってアクアへの悪態をついていたが、結局後半はアクアの事が大好きだと自白してしまっていた。随分と可愛い弟の悪口を言ってくれたが、さすがに可愛そうなので今日だけは追及しないでおく。
「さて、かなちゃんの話はこんなもんで良いかな? 吹っ切れたみたいだし。」
「そうかな。私には未練たらたらに見えるけど。」
「私のことはもう良いわよ。それよりアンタたちはどうなの? 私だけ聞かれるのは不公平よ。」
顔を見合わせる私とMEMちょ。
「先輩。私はアクアしか眼中にないからそういう話はないかなー。」
「仕事一筋で恋愛とか考えたこと無かったからなぁ。ごめん私も無い。」
恋バナはここでお終い。仕事一筋のMEMちょとアクア一筋の私には浮ついた話などあるわけが無かった。
じゃあもう寝るわよね、と先輩が明かりを消し私たちは布団に入る。しかし、電気を消したくらいでは楽しい楽しいガールズトークは終わらない。薄暗い部屋に、囁くように小さな声が響く。
「なんだか修学旅行みたいだね、先輩。」
「あんたは自宅で寝てるだけでしょ?」
「じゃあ女子会?」
「わたくしめもその女子とやらにカウントされてしまっていいのでしょうか。」
「女子とおばさん会にする?」
「やめて。ホント心に刺さるから。マジでやめて。」
つい最近までMEMちょは高校生だと思っていたから、今更おばさんなんて言われても信じられない。今まで通り、ちょっと年上のお姉さん、いやお姉ちゃんとして接してあげよう。
「それにしてもよくぴえヨンは特訓の話受けてくれたよね。やっぱりミヤコさんの社長命令には逆らえないのかな。」
「うーん、それもあると思うけどぉ、ぴえヨンさんはウチの稼ぎ頭なんだよね? なら断る事も出来ただろうし、そもそもぴえヨンさんが仕事休むと苺プロの経営にも響くだろうしそんな事社長が頼むかなぁ。」
「なによ二人とも知らないの? アクアが家まで来て面と向かってこの件をお願いして来たってぴえヨンさん言ってたわよ。」
「アクアが……そっか、そういう事か。」
薄暗い天井を見上げながら考える。横の二人がどんな顔をしているかは分からないけど、布団の中、私のテンションはうなぎ登りだ。
全部分かった。やっぱりアクアは…
アクアは私が大好きすぎる……!
私の為にJIFを成功に導こうと……! 相変わらず私の事となると必死でかわいい! 赤ちゃんの時からそういう所あるんだよなー…! すぐ難しい顔して考え込んで周りを巻き込んで……!
アクアはほんと可愛いなぁ。 根がバカ素直なのに変に大人ぶる癖も私は理解してあげてるからね! 仕方ないよ昔っからそうだったもんね! 早く立派な大人になれると良いねっ!
「んっ~~!」
「どうしたのよルビー。そんな変な声出して。」
ふふふ。先輩には分かるまい。
私は3つか4つどころか生まれた瞬間からずっとアクアの側にいたんだから。何もかもお見通しだよっ! ああもう最高……! 今日は寝れそうにない…!
私もアクアの事大好きだからねっ!