【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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日付が変わってしまった……。
毎日投稿が続いていただけに負けた気分。


メルトの成長

鳴嶋メルト。

 

私が魂を込めて描いた『今日は甘口で』がドラマ化した際の主演俳優。

 

あの目を背けたくなるようなひどい演技は今でもよく覚えている。

 

はっきり言って、あの時の彼はただ顔が良いだけの、役者でも何でもない子供だった。どうせ学校とかでもチャラチャラしてて、顔のお陰でなんでもうまく行ってチヤホヤされて、自分は凄いと思い込んでたんだろう。

 

今日あまのドラマが大失敗に終わった原因の一端は彼の演技にある。勿論彼だけではないが、やはり主演を務めるだけあって出番は多く、一番強く印象に残っている。

 

そんな彼の姿を東京ブレイドの稽古場に見つけた時、またかと思った。やっぱり今回もダメなんだと。アビ子先生を泣かせることになるんだろうなと。

 

全くの杞憂だった。

 

モニターが開き、姫川大輝演じるブレイドが舞台上でただ歩くだけでこれが本物の舞台なのだと分かった。続いて登場した有馬さんも完璧につるぎを演じていた。衣装も、背景も、ステージも何もかもが一流の仕事によって作り上げられていた。

 

そして問題のメルト君だが、今日あまの時とは見違えるほどに演技が上達していた。

 

信じられなかった。

 

ろくに挨拶もしなければ練習もほとんどしていないことがバレバレの演技をしていたあのメルト君が、この舞台ではどう見てもプロの役者だった。上手い下手で言えばはっきり言って他の役者にはまだ数段劣る。しかし、熱量は見劣りしない。

 

舞台を作り上げる一員として魂を込めてキザミを演じていた。

 

今舞台上では、新宿クラスタの結成と渋谷クラスタ紹介が終わった所。渋谷クラスタの噂を聞きつけたブレイド一行が斥候としてキザミを渋谷の地へと差し向けている。

 

新宿クラスタのNo2であるキザミにとっては簡単な仕事の筈だが、匁という思わぬ強敵の出現により徐々に余裕を崩されていく。そして最後にはボロボロになりながらも根性だけで匁に立ち向かっていく名シーンへと続く。

 

一人渋谷に向かい、邪魔な敵を蹴散らしながら本拠地へと近づいていくキザミ。そこへ深い頭巾をかぶった優男を発見する。腰には一振りの刀。盟刀だった。見る者が見れば分かる。

 

「オイ、そこのお前。それ盟刀だよなぁ。」

「なんでしょう。見たところあなたは渋谷クラスタの一員ではないようですが。私の事も知らないようですし。何か御用でしょうか。」

 

喧嘩腰で話しかけるキザミに対し、丁寧に対応する匁。慇懃な態度は崩さないが、僅かずつじりじりと後退していく匁の様子から戦いに消極的であることが分かる。

 

この役者も文句なしに上手い。と言うかこの顔、他の2.5次元の舞台でもよく見る気がする。

 

対するキザミは強気だ。

 

「御用だぁ? 何言ってんだお前。剣主同士がこうして出会っちまったらよ、何をするかなんて決まってるんじゃねぇの?」

「ははは、ご冗談を……。我々のように徒党を組んで國盗りを目指す道だってありますよ。どうです? あなたも我々の仲間に―――」

「俺は新宿クラスタの斥候だ。お前がこっちの仲間になるってんなら歓迎するぜ?」

「……それは、出来ません。」

 

和解の道を探るが、新宿クラスタの名前を出されては最早敵対する以外の道はない。

 

徐々に精神的に追い詰められていく匁の演技が実に見事だ。毅然とした態度から少しずつ恐怖が表出し、それが彼の全身を支配していく様がはっきりと分かる。キザミはまぁ、こんなものだろう。普通に見てれば気にならない程度にはやれている。

 

剣を抜くキザミ。それを見て慌てて剣を抜く匁だが、怯える表情とは裏腹に剣を扱う所作は美しい。

 

「どうしても戦わなきゃだめなんですか? 親から無理やり剣を与えられ、こんな戦いに巻き込まれて。」

 

盟刀を正眼に構え、伏し目がちに言う。

 

「僕は戦いたくない……」

 

完璧な原作再現だった。

 

匁がどういうキャラクターで、何を思って盟刀を振るうのかを完璧に理解し、体で表現できている。隣で目を輝かせて彼を見つめるアビ子先生がその証拠。

 

「じゃあ大人しく俺に切られてろ!」

 

問答無用でキザミから切りかかり、戦闘が始まった。

 

初撃を正確に受け止めた匁。しかし反撃に出ることは無い。この期に及んでもまだ戦いを避ける術を探しているのだ。

 

「負けねえぞこらぁああぁ!」

 

がむしゃらに攻撃を続けるキザミ。攻撃を読まれようがお構いなしにガードごと弾き飛ばして匁に攻撃を加えていく。ゴリ押しでどうとでもなる相手だとなめてかかっている。

 

そのツケはすぐに返すことになる。

 

「はぁ、はぁ、いい加減にしやがれ! ちょこまかと逃げ回りやがって!」

 

息切れだ。徐々に動きは鈍くなり、精彩を欠いた攻撃は易々と匁に捌かれるようになってしまっていた。

 

演技のレベルの低さも相まって、キザミの情けなさを上手く表現できている。この配役を考えた人間は大したものだ。

 

キザミ……メルト君はよくやった。今日あまから9カ月でここまで演技力を向上させ、一端の役者を名乗れるまでに成長した。真摯に演技に打ち込む姿勢は素直に認めよう。格上の役者の前で見劣りしちゃうのは残念だけど、こればかりはしょうがないわよね。

 

二人の闘いはいよいよ佳境に入る。

 

意を決した匁が、ついにキザミに攻撃を加える。せめて苦しまぬよう、一撃で絶命させるべく急所へと狙いを定める。

 

「すみません。でも、これが僕の役割だからっ!」

「ぐあああぁああ!」

 

ところがキザミの驚異的な反射神経により僅かに狙いを外され、生来の頑強な肉体により致命傷には至らなかった。これこそが匁の最も恐れていた展開。自らの刃で傷つき苦しむ姿をまざまざと見せつけられ、ひるんでしまう。

 

血を吐き、痛みに顔を歪めるキザミ。先の展開を知らなければ、もう勝負は決したと誰もが思うだろう。

 

その時だった。

 

キザミが己の盟刀を高く投げ上げた。くるくると回転しながら宙を舞う一振りの刀。対峙する匁……を演じる役者すらもがその突飛な行動に目を奪われている。やがて落下する刀を、キザミは華麗に受け止める。その顔には再び燃えるような闘志が漲っていた。

 

客席から歓声が沸いた。今のは原作で実際に描かれた一コマだ。匁を強者と認め、それでも尚立ち向かっていくキザミの決意を表現するためのパフォーマンス。

 

「すごいすごい! 実際に出来ると思って描いてないのに! ちゃんと原作通りにやってくれるなんて…。原作再現すごい!」

 

アビ子先生も大はしゃぎだ。

 

私も例にもれず、メルト君の突然の大技に心を奪われていた。

 

―――凄い。さっきまであんな情けない役者だと思ってたのに、こんな派手でカッコいい技……。

 

一体どうしたことだろう。ついさっきまで大したことのない役者だと思っていたキザミ役が、突然の大立ち回り。突然のギャップ。予想外の出来事に、私を含む観客の注目はキザミに集まっている。

 

キザミの反撃が始まった。

 

痛む体に鞭打ち、うめき声をあげながら緩慢な動きでどうにか立ち上がり、刀を構えた。そのまま匁に突進。ベース配分も何もない、ただの気持ちだけの攻撃。怒涛の如く押し寄せていく。

 

感情が載っている。眼から指先の一つまで。悔しいという感情が客席に届くほどの強さで………!。

 

「ああああああ!! おぅれは誰にも負けねぇ!!」

 

ホール全体が彼を見つめていた。観客も役者も、その気迫に圧倒された。

 

決死の反撃も匁に捌かれ、力尽きて倒れるキザミ。冷静に見ればただの一撃で匁に敗北を喫した負け犬だ。

 

しかし彼をそんな目で見る人間はここにはいない。キザミの覚悟は観客に確かに伝わった。あっけに取られる人や手に汗握って戦いの行方を見守る人も居れば、キザミを応援する子供もいた。その悔しさと意地に突き動かされる彼の気持ちは観客の心を大いに動かした。

 

私もその一人。

 

何故だかいつの間にか涙が流れていた。キザミの気迫が伝わったから? 原作の展開を思い出しているから? それとも、メルト君の確かな成長に感動したから?

 

多分、そうだろう。メルト君の成長した姿を見て私は泣いたんだ。

 

今日あまの一件以来、ずっとメルトの存在が心の片隅に残っていた。私のキャラクター(子供達)をひどい演技で台無しにした少年は、憎むべき相手として強く私の脳裏に焼き付いて離れない。

 

そんな憎い相手が弟子の描いた漫画の舞台でこんなにも素晴らしい演技を見せてくれたのだ。そのギャップが私の心を突き動かした。

 

―――もう、やれば出来るじゃない。

 

私が板上の彼を見る目は、まるで我が子を見るようだったとアビ子先生から後になって聞かされた。

 




ヤンキーが人助けするとめっちゃ優しく見えるアレ。
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