【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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プライベート編
めんどくさい女たち


「ユーチューブの登録者がもうすぐ2万人行きそうです。」

 

今日は東京ブレイドの休演日。学校が終わり、アクアと先輩と私の3人で仲良く事務所に帰るとMEMちょが何やら自慢げに報告して来た。

 

2万人? えーと、確かぴえヨンが200万人くらいだから、その100分の1くらいか。大した事ないね。

 

「あー、ふぅーん。まだそん位かぁ…」

「もっともっと頑張らないとだね……」

 

先輩と私は揃って渋い反応。もう半年近くやってるけど中々成果が出てないみたいでがっかりだ。張り切る長女MEMちょに対し、次女の私と末っ子の先輩は100万人は遠いねーと果てしない道のりに落ち込んでいる。

 

しかしこの反応はMEMちょ的には予想外らしい。

 

 

「もっと私を褒めてぇ!?」

 

 

「2万人だよ!? 撮影も編集もほとんどウチでやって!! あの手この手でチャンネル伸ばしてきた私をもっと褒めてぇ!?」

「えっ……だってたったの2万人でしょ?」

 

たったの2万人。仮にもB小町のチャンネルなのに、登録者数が2万人なんて少なすぎる。

 

それにMEMちょの発言には見過ごせない点がある。

 

「MEMちょ。撮影も編集もアクアがお手伝いしてるよね。なんで手柄を独り占めしようとするの?」

「あ、いや、そういう意味じゃなくてですね。あのー………すみませんでした。大変助かってます。」

「よろしい。」

 

素直なお姉ちゃん大好き。

 

とにかくだね、と話を元に戻すMEMちょ。雰囲気に流されないオトナの女だ。さっきまでの勢いを取り戻し、ぴえヨン程分かりやすくも面白くもないユーチューブの授業が始まった。

 

「いい!? ユーチューブには国内だけで30万チャンネルあると言われてる。そのうち75%が登録者千人以下! 収益ゼロのチャンネルが大半を占めてる! わずか数%の頂点がその富を独占する中世も真っ青な搾取社会なの!!」

 

私は現代人だから中世の事情は知らないよ? なんとなく厳しい世界って事しか分からない。

 

「一方登録者2万人のウチは上位10%に食い込んでる! これだけでどれだけ凄いことか理解して!! そんなことも分からず登録者100万人とか抜かすなぁキッズ共!! そこは全チャンネル中0.1%の激高な壁なんじゃい!! 数えきれない死骸の上に立つ頂点なんじゃい!」

 

物凄い勢いで説明されて私も先輩も縮こまってしまった。さすが長女。迫力が半端ない。

 

ところで先輩は今の説明で理解出来たのだろうか。私は数字ばっかりの説明でイマイチピンとこなかった。MEMちょの必死さの度合いでまあまあ凄いチャンネルになったんだなぁってことは分かったけど。

 

2万人が10%で100万人が0.1%で30万のチャンネルがあって、えーっと千人以下のチャンネルが……駄目だ頭がこんがらがってくる。後でアクアに教えてもらおう。

 

「でも今月の収益10数万円とかでしょ? 事務所の取り分引いて……動画編集者の給料払って……メンバー人数分で割ったらもうお小遣い程度じゃない。バイトとかしてた方がマシなんじゃ…?」

 

混乱する私とは違い、状況を的確に理解した上でMEMちょに質問を投げる先輩。うぐっ、と痛いところを突かれた感じのMEMちょを見るに、かなり鋭い質問らしい。

 

話についていけない私はおとなしくMEMちょと先輩の様子を見守る。

 

「まぁ現状はそう……。売れるまではこの状態が続くと思う。当面『B小町ch』の財政状況はよろしくない。打てる手は打たなければならない……そこで。」

 

そこで……?

 

人差し指をピンと立てて、いい顔でMEMちょが言う。

 

「ルームツアー動画を撮ります!!」

「「ルームツアー動画!?」」

 

よくユーチューバーがやってる奴だ。自分の部屋を紹介してこんな高い物買っちゃいましたって自慢するヤツ。

 

「えー絶対イヤ!」

 

駄々をこねる末っ子。

 

そうだよね、ボッチだもんね。いつもウチに来てて自宅には寝に帰るだけみたいな生活してるし、嫌に決まってる……という訳ではなかった。

 

「自分の部屋をネットに晒すとかどういう趣味してるの? いくら動画がネタ切れとは言え私生活の切り売り始めたら終わりよ! 私は絶対反対。」

 

プロ意識が高いんだね。さすが先輩。

 

でもMEMお姉ちゃんには敵わなかった。

 

「ルームツアー動画を撮ると……部屋の私物が全て経費で落ちます。」

「すぐにやろ?」

 

相変わらずチョロいなぁ。

 

・・・

 

場所は変わって先輩の自宅。

 

大きなマンションだ。まず建物に入るところで鍵をかざして開錠。さらにエレベーターでもまた鍵がある。「ARIMA」の表札があるドアの前でまた鍵。先輩は慣れた手つきでどんどん鍵を開けていく。

 

厳重なセキュリティーだ。

 

「さて、ここからカメラを回すわけだけど、かなちゃん家の片づけとか大丈夫? 撮って欲しくない物があれば押し入れとかに入れといてね。」

「特に見せられない物も部屋も無いわ。強いていうなら生活感が無さ過ぎてモデルルームっぽいのが難点かしら。まあ動画にできそうな物はいくつかあるから問題ないわ。」

 

先輩……悲しい子。一人で黙々と使いもしない部屋の掃除をする姿が目に浮かぶ。真面目な先輩の事だからきっちり綺麗な状態を保ってるんだろうなぁ。

 

「ごめんかなちゃん。辛いこと思い出させちゃったね。」

「私とMEMちょが付いてるからね。一人じゃないからね。」

「余計なお世話よ!」

 

部屋に入ってみると中々に広く、3、4人くらいで住むのにちょうど良さそうな感じだ。

 

恐らく使うことが無い立派なキッチンに、一人暮らしではどう考えても不必要なほど大きな冷蔵庫。観葉植物は無駄に本物の植物で、色つやも良く瑞々しいところを見るにお世話も欠かさず行っているみたいだ。

 

広々としたリビングの中央には、ほこりも傷も一つも見当たらない綺麗な座卓。隣のダイニングテーブルには使用感があるのでウーバーで注文したご飯はそこで食べてるんだろう。

 

オシャレな棚には長らく音を発していないであろうCDコンポ。その下の段には難しそうな本が几帳面に背の高い順に並んでいる。

 

立派。本当に立派なお家だ。一人ぼっちでさえなければ。

 

「泣けてくるね。MEMちょ。」

「かなちゃん偉いよぉ。たった一人でこんな広い家をこんなに綺麗に維持して……。」

 

MEMちょ宅みたいな趣味全開の可愛い家だったら充実した日々を送ってそうだと安心できるけど、先輩の家はなんというか……ただただ綺麗だ。

 

一分の隙も無い。

 

「はーい♡ こちらChl●eの新作バッグになりまーす♡ 10万円位しましたー♡」

 

バッグは当然のようにブランド物。しかも一つや二つではない。

 

「こっちはゲーム配信とかすると思って買ったけどぜんぜん使ってない水冷ゲーミングPC♡ 30万くらいかなぁ!」

 

使い方もろくに知らないであろうパソコンも多分一番スペックが良い奴を買ってるんだろうなぁ。

 

「椅子はハーマン●ラーのアーロンチェアで…」

「結構高い買い物してるねぇ…」

 

カメラマンのMEMちょが思わず突っ込みを入れるほどに、次から次へと高級品が出てくる。

 

「自分のお金で買ってるから良いでしょ!? 一流のタレントである為には身の回りの物も一級品でそろえる必要があるの!! この世界安い女と思われたら終わりなの!!」

 

自分を正当化する先輩。必死だ。

 

心理学の本に書いてあった。自分に自信が無い人ほどファッションや持ち物などを高級なものに揃えるのだと。そういう人は凄い物を持ってる自分も凄い存在に思えてくるらしい。

 

芸能人なら見栄を張るのは当然だけど、使いもしないし人に見られるわけでもない物まで高級品にこだわるのははっきり言って異常だ。

 

先輩の心の闇を垣間見た気がした。

 

撮影は終了。3人で過ごすのにちょうどよい広さのリビングでくつろぐ私達。部屋を見まわしたMEMちょが不思議そうな顔で尋ねる。

 

「売れない役者って言ってるわりには良いマンション住んでるよねぇ。」

「まぁ貯金はあるしちゃんと運用もしてるから。タレントは全員2段階オートロックマンションに住むべきなのよ。この職業で一番怖いのは結局のところ変なファンだし。」

「お金があればねー。」

 

変なファン、ね。確かにそうだ。ママもこういうセキュリティーの厳しいマンションに住んでたらあんなことにはならなかったのかな。

 

「ルビーもルームツアー撮るなら協力するよ?」

「んー……でも私は高い物買わないし…」

「そんなこと言って確定申告の時に泣きを見るのは自分だよ? 税金のキツさは大人になったときに分かるんだから…」

「か……考えとく…」

 

とは言ったものの、私の部屋はおいそれと紹介できるような部屋じゃない。だってあの部屋には……。

 

撮影を終えた私は少し憂鬱な気分で家に帰った。

 

・・・

 

『るびーのおへや』

 

手作りのプレートが吊るされたドアノブを捻り、ドアを開ける。正面にはママの大きなポスターが何枚も貼ってある。ルームツアーを撮ることになれば当然このポスターも映り込むだろう。

 

アイのファンですと言い張れば何の問題も無いが、顔つきが似てるしトークでうっかりママとの関係がバレたらと思うと迂闊なことは出来ない。

 

「ママのポスター、剥がした方が良いのかなぁ。」

 

私がママの子供だって秘密は墓まで持っていくつもりだ。

 

だけど星野ルビーの真ん中にいつもアクアとアイが居る。それを隠して良いのだろうか。アイドルとして正しいのは……。

 

先生なら何て言うかな。

 

「きっと好きなようにしたらとか適当なこと言うんだろうな、先生……」

 

ユニット名を『B小町』にした理由は三つある。

 

一つはママがが叶えるはずだった願いを引き継ぐという気持ち。もう一つは私と同じくママの大ファンだったアクアに少しでも元気になってもらいたかったから。

 

そしてもう一つ。失踪してしまったゴロー先生を見つけるためだ。

 

星野ルビーに転生してしばらくした頃、私はこっそりママのスマホで先生に電話しようとした。転生なんて荒唐無稽な話は信じてくれないだろうけど、優しい先生の事だから子供のいたずら電話でも構ってくれると思ってた。

 

『えっ……どういうことですか?』

『ゴロー先生は何年か前、急に連絡が付かなくなって、いわゆる失踪と言う…』

 

淡々と告げられる事実。生まれ変わっても先生との再会は叶わなかった。

 

「先生が『B小町』と言う名前を見逃すはずがないもんね。どこかで私の事見ててくれるはず。」

 

もっと有名になればきっと見つかる。2万人じゃ足りないけど、100万人が注目するアイドルになれば先生の耳にだって入るはず。もっともっと有名にならなきゃね。

 

「ママ、アクア。私頑張るから。」

 

アクアが居ない部屋で一人、新たに決意を固めたのだった。

 




という訳でプライベート編に入りました。ゴロー先生の白骨化遺体の発見から鬱展開が約束されているので今から気が重いです。
今作のポリシーとして「復讐はしない」を掲げておりますのでルビーの闇落ちは一時的なものになると思います。姉弟愛と姉妹愛で何とか乗り切るつもりです。

完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。

  • 原作沿いのまま完結!
  • オリジナルストーリーで続行!
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