【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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キスだってHだってやじゃないよ?

舞台『東京ブレイド』は千秋楽を迎え、俺のスケジュールは当面の間白紙となった。

 

これからどうしようか。監督が新しい映画を撮影するという話は聞かないし、ミヤコさんや鏑木さんに聞いてもめぼしい仕事は無いそうだ。B小町chも軌道に乗ってきてスタッフも揃ってきたから手が足りている。

 

今日はあかねとのデート、そして近日中にはB小町のPV撮影で宮崎旅行に行く。監督の所に行けば雑用はいくらでもあるだろうからそれなりに充実した日々ではあるのだが。

 

やっぱり演技の仕事がしたい。

 

学校から帰り部屋着に着替え事務所のソファーでだらしなく天井を見つめていると、お姉ちゃんがやれやれといった顔で話しかけてきた。

 

「腑抜けた顔してからに。燃え尽き症候群にでもなった?」

「逆だ。もうちょっと刺激が欲しい。」

「だったらアクアも宮崎行く?」

「えっ」

「えっ」

「お姉ちゃん。俺留守番の予定だったの?」

「まあそりゃ、B小町のお仕事だし。アクアは監督の家に居れば良いでしょ?」

「俺は良いけど。確か2泊3日だったよな。宮崎まで行くなら出発は早朝だし帰りも遅くなるだろうし、丸3日間は俺達離れ離れになるな。いや俺は全然平気だけどさ。」

 

お姉ちゃんの事だから多分よく考えずに決めたんだろう。

 

俺達が3日間も会えなくなることなど今まであっただろうか。監督の家に連泊するのは日常茶飯事だが、会おうと思えばいつでも会えるので気にならない。しかし今回は宮崎。ちょっと寂しくなったので帰りますとはいかない。

 

これで不安にならないわけが無いのだ。だって俺は不安だし。

 

俺の指摘に対しお姉ちゃんの反応はというと。

 

「よ、よゆーですけど」

 

プルプル震えながら強がっている。説得力ないぞ、お姉ちゃん。

 

「……本当に良いのか?」

「アクアちょっと待ってて。…………MEMちょー!!」

 

じっと2秒ほど見つめたところでお姉ちゃんは陥落。MEMちょに泣きついた。これで俺の宮崎行は確定だろう。駄目なら自費で行けば良いしな。

 

あわただしく駆けていくお姉ちゃんを見送り、再びだらしなく天井を見つめる。

 

宮崎か。行くのは初めて……ではないな。生まれた病院が確か宮崎だったはずだ。母さんはアイドルでありながら俺たちを生み二児の母となったが、人目を避けるために田舎の病院を選んだのだと聞いている。

 

とても自然が綺麗な所らしい。

 

 

 

―――嘘はとびきりの愛なんだよ?

 

 

 

なんだ? 今の記憶は……

 

大きな建物の屋上。綺麗な夜空。俺が知るより少し幼い母さんが綺麗な笑顔でそう言っている。お腹が大きく膨らんでいるってことは妊娠している? ということは病院だろうか。

 

ああなるほど、これは前世の記憶。病院で産科医をしていた()()()()が母さんと喋ってるときの記憶か。

 

お腹の中に居るのは俺とお姉ちゃんだな。

 

前世の記憶にも思い出しやすいものとそうでないものがある。いわゆる知識と呼ばれる意味記憶はそっくりそのまま引き継いでいるのに対し、今思い出したようなエピソード記憶は自分の記憶でないという認識が働くためかあまり表には出てこない。

 

それでもこうやって思い出したってことは余程強く印象に残ってるんだろうな。母さんは魅力的な人だし、雨宮さんが夢中になるのも当然か。

 

宮崎という言葉が記憶のトリガーになったのだろう。となれば今回の宮崎旅行では雨宮さんの事を深く知れるかもしれないな。

 

思い出すと言った方が適切かな?

 

とにかく、楽しみだ。

 

・・・

 

あかねとデート。

 

例によってオシャレなカフェでアリバイ作りも忘れない。

 

舞台で毎日のように会っていたからあかねの私服は沢山見て来たが、今日は俺の知らない服を着ている。しかも一段とおしゃれだ。やはりデートとなれば服装にも気合が入るのだろう。

 

柄の無いシンプルなコートの下にはくるぶしまで伸びる長いスカート。全体的に白か薄いベージュで、あかねのキレイな黒髪が映える。

 

自慢の彼女だ。

 

俺はと言うと、上は灰色のパーカーに黒いジャンパー、下はジーンズと言うラフな格好だ。最近ごつめのジャンパーにハマっており、集めたジャンパーが部屋のクローゼットを圧迫し始めている。今日着ているのもその中の一着。

 

あかねとこうしてデートするのも慣れたものだ。舞台で毎日のように濃密なスキンシップを取っていたこともあり、お互いすっかり打ち解けている。

 

「こちらタピオカミルクティーになります。」

 

お目当てのタピオカの登場。今日はパフェではない。

 

さて、写真撮影か。室内の照明は比較的強めかつ隙間なく配置されているから、カメラの向きは気にしなくて良いだろう。じゃあ構図は……と、早速写真撮影について考えを巡らせていた俺だが、いきなり腕をつかまれ中断させられてしまう。

 

タピオカから視線を外し、そのまま腕、肩、と視線を移動させた先には少し怒ったあかねの顔。

 

「アクア君、お話があります。」

「何だ? あかね。」

「ねぇ、そろそろ普通に写真撮らない?」

「普通ってどういうことだ? 俺は至極普通に写真を撮ってるつもりなんだが。」

「もう! この映画オタク!」

 

怒られてしまった。

 

しかし普通に写真を撮るとは意味深な発言だ。俺は写真や映像を撮るにあたってはセオリー通りの方法を用いることが多い。コンテストに応募するわけでもない日常の写真に変なテクニックを用いた奇抜な写真など不要だろうし。

 

これまでにアップロードして来た写真だってオーソドックスかつそれなりにハイクオリティな仕上がりになっている。

 

芸能人としての華やかさはしっかりと演出しつつ近寄りがたい雰囲気は出来るだけ抑え、普段通りの気の抜けたデートのワンシーンをうまく切り取ったような写真の数々。どこからどう見ても恋人同士にしか見えないおかしな点は無いように思うが、一体何が不満だというのだろう。

 

あかねはまだ不満げな顔。そしてその手にはスマホが握られており―――

 

パシャッ

 

「はい、もう写真は終わり! 私がアップロードしておくからね。」

 

止める間もなく写真を撮り終えてしまった。

 

「あかね?」

「良い?アクア君。SNSに投稿する写真はカメラマンが撮るようなきっちりした写真ばかりじゃないんだよ。いかにも素人がスマホで撮りましたっていう感じの写真だってそれはそれで味があるの。というか、毎回毎回デートの度に写真撮影のせいで変な空気にするのはやめて。」

「ご、ごめん。」

 

どうやら俺の常識がおかしかったらしい。

 

そういえばSNSなんて今ガチでしかやった事ないし、カメラと言えば監督仕込みの撮影方法しか知らないから確かに知識は偏ってるか。

 

これからはあかねの言う通りにしよう。

 

写真撮影をさっさと済ませ、冷たいタピオカ片手にしばらく会話を楽しんでいると宮崎旅行の話題となった。

 

「でも良いなー宮崎旅行。」

「あんまり行かないのか旅行?」

「うーん国内はあんまり…。年末年始は毎年家族で海外とか行くけど。」

 

滅茶苦茶育ちが良いタイプだ。

 

「私仕事で修学旅行も行けなかったし同世代が皆でーって旅行は一度も言った事無い。良いなぁ。」

「じゃああかねも行くか?」

「えっ良いの!?」

「ああ。どうやら『東ブレ』の慰安旅行も兼ねてるらしいしな。そろそろあかねとはじっくり話をしなきゃいけないと思っていたしな。」

「じっくり話……」

 

あかねと二人きりで、じっくりと。

 

東京ブレイドの公演が始まる少し前、確か通し稽古が始まった頃だったか。有馬と喧嘩するあかねを舞台袖へ連れて行き、なだめるためになでなでしたことがあった。

 

その時判明したのが、あかねのなでなで欲求だ。

 

あかねは「お兄ちゃん……」と俺に甘えながらなでなでされることをずっと望んでいたのに、機会が無かったせいでずっと我慢していたのだ。それがあの場で叶い嬉しそうに撫でられるあかねだったが、姫川さんの登場によって中断せざるを得なくなった。

 

あれは間違いなく不完全燃焼だっただろう。二人で出かけようと言ったような気もする。

 

「あかね。B小町のPV撮影中は俺達はフリーだろ? だから…ゆっくり出来るんじゃないか?」

「そうだね……ゆっくり…できるね…」

「それにPV撮影では他のファンに先駆けて有馬の新衣装が見られる。」

「かなちゃんの可愛い衣装……」

「来るか?」

「行く。絶対に行く。」

 

あかねの顔は真剣そのものだった。

 

タピオカを堪能し、帰り道。あかねと並んで夕暮れの街を歩く。

 

「『今ガチ』から……もう半年くらい? 色々あったけどあの番組楽しかったよね。」

「ああ、本当に色々あった。恋リアっていうコンテンツも興味深かったし、MEMちょと知り合ったのも今ガチだったな。」

「うん。でも一番記憶に残ってるのは……」

「炎上、だな。」

 

あかねは歩道橋の手すりに手をかけ、一段一段、踏みしめるように上っていく。ここを上って道路の上まで歩けば、あの場所だ。

 

俺もあかねの後を追って階段を上り、そのまま歩道橋の中央へと歩く。あの時と全く同じ道路の真上。あの日もこうして歩道橋の真ん中に立ってあかねは道路を見下ろしてたんだよな。そしてそのまま手すりに上って天を仰いで……

 

道行く車を眺めていると、後ろからあかねに抱きしめられた。

 

背中に感じる柔らかい感触とふわりと香るシャンプーの甘い匂いに気持ちをかき乱される。肩の上から回された腕がぎゅうっと俺の身体を締め付ける。

 

「……この場所だ。君がここで私を助けてくれた。ぎゅって抱きしめて撫でてくれた。」

「そんなこともあったな。」

「あの時の感触が忘れられない。ふと思い出してアクア君が恋しくなっちゃう。」

「そのための宮崎旅行に誘ったんだ。ゆっくりしよう。」

「うん。楽しみに待ってる。」

 

話も一区切りついたので再び歩き出そうとするが、あかねは俺を離そうとしない。どうしたのかと思っているとあかねの口から思わぬ言葉が飛び出した。

 

「私アクア君となら……キスだってHだってやじゃないよ?」

「あかね……それはなんていうか、やばい。」

 

やばい。

 

体を密着された状態であかねにそんなことを囁かれたら誰だってやばい。抱きしめるあかねをそっと押しのけて冷静を装って歩き出すが、心臓ははち切れんばかりに強く、そしてせわしなく脈動している。

 

セリフもシチュエーションも完璧だったな。

 

こんなごついジャンパーじゃなくてもっと薄手のアウターを着ていれば……ってそんなことを考えている場合じゃない。大方勢いに任せての発言だろうが、一応確認はしておこう。

 

「その、あかね? 雰囲気に流されてそういう事言うのはまあ良いとして、宮崎旅行に行く話をした直後にそれってもう誘って」

「ごめんアクア君今の無かったことにしてもらっていいかな。」

 

振り返ると顔をリンゴのように真っ赤にして恥ずかしがるあかねが居た。

 

「……行こうか。」

「……うん。」

 

いつもなら手を繋いで帰るところだが、この日に限っては少し距離を開けて歩く俺達だった。

 




アクア≠ゴロー
知識は持ってるけど自分がゴローであるという自覚は無いという設定です。

完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。

  • 原作沿いのまま完結!
  • オリジナルストーリーで続行!
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