【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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B小町のホームビデオ

「えーっ…こんなところまで撮るんですか?」

 

アネモネさんがカメラマンさんを連れてルビーを撮影し始めた。撮影前に小腹を満たそうとサンドイッチを頬張るルビーは恥ずかしそうだ。反応に困っている。

 

「アイドルのMVは踊りパートとドラマパートに分けて撮ることが多いでしょ? メインは全体のダンスの映像で尺を稼ぐけどちょくちょく個々の可愛さを切り取ったカットを挿入しなきゃいけないのよ。」

 

なるほど。それで日常のさりげない仕草を撮影して回ってるのね。

 

その手の撮影なら私達B小町の得意とするところ。私達はアイドル姉妹を打ち出して活動しており仲の良いアイドルグループとして知られている。しかも実際の所は設定以上に親密な関係で、仕事では社長やMEMちょに抑えるように言われるほどだ。

 

まあ、主にルビーの事なんだけど。そして時々私も。

 

先輩かーわいーとか言って抱き着いてほっぺをぐりぐりと押し付けるくらいの事は日常茶飯事。一緒にお風呂に入ったり夕飯を食べて帰ったり、ちょくちょくルビーのお部屋でお泊りもしている。学校から帰るのも一緒。

 

ちょっとルビーお姉ちゃんに染まりすぎかもしれない。

 

「かなちゃん。」

 

アネモネさんのお呼びだ。次は私の番か。

 

「カメラを大好きな人だと思って振り返って。」

 

大好きな人……うーん。

 

最初に浮かんで来たのは、ルビーだった。続いてアクア。いつの間に逆転したのかアクアは2位に陥落している。ちなみに3番目はMEMちょ。

 

アイドルのPVとしてはやっぱり男の顔を思い浮かべた方が良いんだろうなぁ。でも大好きな人と言われて2番目を出すのもなー…。やっぱりルビーで良いか。アイドル姉妹で売り出してるんだしお姉ちゃん大好きで何もおかしくないよね。

 

そんな雑念だらけの気持ちで私は振り返る。

 

「へぇ……良いカオ。ここに来た時からずっとその顔してるわよねぇ。毎日が幸せって感じ。」

「!!」

「なるほどねぇ。アイドル姉妹とは聞いてたけどここまで仲が良いとは。さーてかなちゃんの大好きなお姉ちゃんはどっちかなーっと。」

「ちょっと待ってください! やめて恥ずかしいから!」

「それも良いカオね。よく撮れてるわよー。」

 

駄目だアネモネさんが止まらない。ルビー、MEMちょ助けて!

 

「はいはーい! 先輩の大好きなお姉ちゃんは私、星野ルビーでーす!」

「何を言うかねキミぃ! かなちゃんが好きなのは私! 頼れる長女のMEMちょに決まってるでしょうが!」

「良いよ良いよー。良いカオ取れてるよー!」

「ちょ、ルビー! MEMちょ! 何やってるのよ恥ずかしいってば!」

 

PV撮影と言う名の辱めに耐え切れず逃げようとする私。しかし一瞬早く動き出したMEMちょに捕まってしまった。遅れてルビーにも抱き着かれ、その向こうにはニヤニヤとこちらを眺めるアネモネさんとカメラのレンズ。

 

羞恥に赤くなるこの表情もバッチリカメラに収められている。

 

ルビーはともかくMEMちょは確信犯だ。彼女はぶりっ子キャラを演じているが根は仕事一筋の熱血女。手っ取り早く私から良い表情を引き出すならくっついておけば外れは無いとの読みだろう。なんたって私はチョロい女だ。

 

MEMちょの思惑通り、私の意思とは関係なく表情筋が良い仕事をしてくれている。

 

MEMちょがアネモネさんに振り向き、自慢気に言う。

 

「どうよアネモネ。」

「これは良い素材が集まりそうね。」

 

悔しいけれど、同感よ。

 

お姉ちゃん二人に気が済むまでもみくちゃにされた後、ようやく解放された。後に残ったのは少しの疲労感と絶大な安心感。やっぱりお姉ちゃん達は凄いわ……。

 

ベンチで休憩。スタジオの中央ではルビーをメインに撮影が進んでいる。私の素材はもう十分らしい。

 

それにしてもルビー、芸歴が短いせいもあってかカメラに向けて表情を作るのはそんなに上手くない。いつも私に向ける笑顔の方が何倍も可愛い。

 

ちょっとお手伝いしちゃおうかしら。

 

「ルビー。こっち見て。」

「どしたの先輩。」

「アンタの笑顔はそんなもんじゃないでしょ?」

 

ルビーの視線をこちらに向けさせ、私はにっこりと微笑んで見せた。効果あり。作り物ではないルビーの笑顔が炸裂する。

 

アネモネを始めとしたスタッフ一同のテンションも上がっているようだ。

 

これは面白い。ならばもう一押し。

 

「ルビーお姉ちゃん頑張れー!」

「先輩きゃわーー!!!」

 

両手でメガホンの形を作り、ちょっとあざとい感じで応援する。

 

散々恥ずかしいところを撮影されたせいで感覚がマヒしている。そこへ私の高いプロ意識も合わさり、ルビーの可愛さを引き出すためなら何でも出来る精神状態になっていた。

 

あくまで仕事。こんなこと普段なら絶対にやらない。

 

このやり取りを目の当たりにしたスタッフ一同も良い笑顔。ちなみにMEMちょはこんな感じ。

 

「ねぇかなちゃん! それ私にも頂戴! お願いだから!」

「MEMちょの撮影の時やってあげるわよ。」

「それじゃダメなの! 今じゃなきゃダメなの! 私の撮影深夜だから!」

「じゃあお預けね。」

「ああもう何で私成人してるのぉおおおぉ!?」

「25年前に生まれたからでしょ。」

 

ご愁傷様。私の激励はそんなに安くないのよ。

 

MEMちょは呻き声を上げながら社長の所へ戻っていった。年齢差に悩むMEMちょを社長が慰めるのはいつもの事だ。

 

それにしても気分が良い。私の一声でルビーが満点の笑顔を見せ、私の応援欲しさにMEMちょが必死にお願いをしてくる。試しにルビーに向かって手を振れば………ほら、またいい画が撮れているみたいだ。

 

皆が私に注目して、私の一挙手一投足に反応してくれる。

 

子役としてデビューして人気が右肩上がりに上がっていた頃のようだ。あの頃は何も難しいことは考えずに、ただ目の前の人やお母さんを喜ばせようと思ってお仕事をしていたんだっけなぁ。

 

ほら私凄いでしょ?可愛いでしょ?って。そしたら皆笑顔になってくれる。

 

芸能人としてこんなに幸せなことがあるだろうか。一度は全てに見放された私だけど、ルビーと出会ってアイドルになってからはお仕事が楽しくて仕方がない。

 

「あ……やば。また思い出しちゃった。」

 

でも、一度心に刻まれた傷は無かったことにはならない。ふとした瞬間に蘇ってきて私を絶望の底へと叩き落とす。

 

幼少期の私にとって、母親が世界の全てだった。ちょっと想像してほしい。親に頼ることでしか生きる術を持たず親を喜ばせることが何よりの喜びと感じる幼い少女が、母親にこんな仕打ちを受けたらどんな気持ちになるだろう?

 

『なんでもっとはきはき喋らないの! あれじゃ目立たないでしょ!』

『でも……』

『でもじゃない! かなの為に言ってるのよ! もっともっと売れてすごい女優さんになるんでしょ!?』

『……うん。がんばる。ちゃんとお喋りできなくてごめんなさい。』

『まったくあの番組……私のかなをあんな現場の賑やかしみたいな扱いして……。クレーム入れないと駄目かしらね。』

『ダメだよママ。そんなことしたらみんなに嫌われちゃうよ。』

『うるさい! いつからそんな事言うようになったの? そんな悪い子はママの子じゃありません! お家から出ていきなさい!』

『ごめんなさい! もう失敗しないから! 悪いこと言わないから! ごめんなさい!』

 

撮影の後でこんなやり取りがあったのも1度や2度ではなかった。

 

繰り返し刻み込まれた恐怖や切迫感は今でも体が覚えている。幼い子供にとって親からの拒絶は死刑宣告も同然。例えるなら背後から銃口を突きつけられ、何か一つでも間違ったことをすれば頭を打ちぬかれるような、そんな気持ちだ。

 

それが過去の記憶と共にふと蘇ってくる。私の自由な感情を奪っていく。

 

「どしたの? かなちゃん。暗い顔して。」

「ちょっと考え事してただけ。」

「にしては随分と顔色が悪いねぇ。手もこんなに冷たい。ルビーちゃんは忙しいから、今はMEMちょお姉ちゃんで我慢してね。」

 

むぎゅっと強めに抱きしめられる。

 

ルビーの陰に隠れて忘れがちだが、MEMちょも二人の弟を持つ生粋のお姉ちゃん。妹分の私が落ち込んでいるのを見たら構ってあげたくてしょうがなくなる。いつもはルビーに譲って私にはぎゅってしてこないけど、やるときはやる女だ。

 

そしてそんなお姉ちゃん達に教育され、生粋の妹へと変貌を遂げたのがこの私。

 

MEMちょの抱擁に、条件反射的に心も身体も安心感で満たされていく。さっきまで暗い気持ちに支配されていたのが嘘みたい。

 

お母さんの機嫌を取るためにやりたい演技を我慢して、数字ばかり気にして、芸能界で上手に立ち回って生き残って……

 

そんなことやりたくなんか無かった。

 

私には大好きな仲間が居る。私の頑張りを見てくれるファンもどんどん増えてきている。目の前に、カメラの向こうに、アイドル有馬かなを見て笑顔になってくれる人が確かに存在している。

 

私が本当にやりたかったのはこういう事。

 

「せんぱーい! もう一発良い顔ちょうだい!」

「ほらルビー、行くわよ!」

「きゃわーー!!! 何度見てもきゃわーー!!!」

 

立ち上がってサインはBの決めポーズ。右手を腰に当て、左手は人差し指を立てて真っ直ぐルビーの方向へ。そして全力の笑顔も忘れずに。

 

ルビーのはじける笑顔がご褒美だ。

 

スタッフさん達も仕事が順調に進むおかげで良い雰囲気。アネモネさんもご機嫌になっている。

 

「うーん順調順調。このペースならMEMちょの撮影も深夜前にできちゃうかなー。」

「よっしゃきたぁ! かなちゃん、頼むよぉ!」

「どうしよっかなー」

「かなちゃん!?」

「そのカオPVに使っていい? 中々味があるかも。」

「アネモネそれはやめて。」

 

愉快な現場だ。

 

私の応援もあり、ルビーのドラマパートの撮影も早めに終わった。未成年組はダンスパートを撮れば今日の撮影は終了。

 

この短時間で終わった割に、私もルビーも驚異的な量の素材を撮影できたらしい。その殆どは私とルビーの掛け合いによって偶発的に撮れたシーンで、アネモネからの指示で撮れたシーンは数えるほどしかない。

 

もうこれ、PVと言うよりホームビデオなんじゃないかしら。

 

完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。

  • 原作沿いのまま完結!
  • オリジナルストーリーで続行!
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