アクア君の思い入れのある場所を一通り巡り、アクア君と私は再び山の麓のスタジオへと戻って来た。
「暗くなる前に戻れて良かったね。」
「だな。田舎の夜道は本当に危ない。うっかり崖から落ちたりしたら大変だ。」
「確かに。そういえばアクア君、調子が良くないって言ってたけどどう? 落ち着いた?」
「それがなんだか妙にすっきりした気分なんだよ。宮崎に行くって聞いてからずっと気になってそわそわしててさ。一通り見たいもの見れたから落ち着いたのかな。」
「それなら良かったね。それに調子も戻ったみたい。」
宮崎に着いてからアクア君は少し様子がおかしいように見えた。久しぶりに訪れる故郷にノスタルジーを感じていたのだろうか。それにしては随分と熱心に雨宮さんについて語ってたけど。
気になる事が無いとは言えないけど、彼の気が済んだなら私はそれで良い。アクア君、なんだか思いつめたような戸惑ったような顔をしていたから。
せっかくの旅行だ。楽しまないとね。
「さて、お待ちかねのかなちゃんだ。」
「お姉ちゃんとMEMちょもな。」
「私はかなちゃん単推しですから。アクア君はB小町箱推しなんだよね?」
「まぁな。」
PVの撮影を生で見られる。楽しみだ。
スタジオの重たい扉を開いて中に入ろうとした瞬間、聞き覚えのある音楽が聞こえて来た。それだけで私のテンションは一気に最高潮。スタジオの奥で踊るかなちゃんめがけて一目散に駆け寄る。
「アクア君! 踊ってる! かなちゃんが踊ってるよ! 早くこっちこっち!」
「はははっ。相変わらず有馬には目が無いな。カメラは回ってないみたいだが、リハーサルか?」
「かなちゃん! かなちゃん!」
「もう聞いてないな。」
かわいいなぁ、かなちゃん。
まだリハーサルだというのに凄く楽しそうに踊ってる。スタッフさん達もかなちゃんにつられて皆笑顔だ。ルビーちゃんやメムさんも時折かなちゃんの方を方を横目で見ては顔を綻ばせている。皆かなちゃんの可愛さに焼かれてるんだね。
撮影用のセットぎりぎりまで近寄りかなちゃんが良く見えるポジションを確保するべく少しづつ前進する。
もっと、もっと近くで……
「こーら。部外者はここまでだよ。」
「あ、アネモネさん…。すみません。」
怒られてしまった。
その後も少し下がってはじりじりと近づき、その度にアネモネさんにつつかれる。5回ほどつつかれた辺りでリハーサルは終了。かなちゃんたちが戻って来た。
「あかね。さすがに空気を読もうな。これ仕事だから。」
「だってかなちゃんが可愛くて……」
「それは全面的に同意するが。」
アクア君にも呆れられてしまった。君もお姉ちゃんに近づこうとしてスタッフに止められてたよね? 私見てたよ?
季節柄、空調が聞いているとはいえ室温はかなり低い。リハーサルを終えたかなちゃん達は身体が冷えないようベンチコートを纏い、3人で仲良く休憩を取っている。
タイミングを見てアクア君はルビーお姉ちゃんへ、私はかなちゃんへ、各々がお目当ての人物へと近づこうとするのだが……
「お姉ちゃん。凄い可愛かったぞ。これなら人気爆発間違いなし……」
「先輩ちょー可愛かったー! もっかいぎゅーってして良い!?」
「お姉ちゃん…?」
ルビーお姉ちゃんに駆け寄るアクア君だが、当のルビーちゃんはかなちゃんと仲良くお喋り中。
「かなちゃん、ちょっと衣装が……」
「駄目よルビー。せっかくの衣装がしわくちゃになるじゃない。これで我慢しなさい。」ニコッ
「先輩きゃわーー!!」
「かなちゃん…?」
そしてかなちゃんがルビーちゃんにとびきりの良い笑顔を返し、私の事は眼中に無い。
完全にアイドル姉妹だけの世界を作り上げてしまっている。
和気あいあいと撮影に臨むのは良いことだしこれがB小町の良いところでもあるけど、もう少し外向けの顔と言うかファンサービス的なものが欲しいかな……なんて。せっかく撮影に同行できたのに眺めるだけだなんてもったいない。
もっとアイドルのかなちゃんとお近づきになりたいのになぁ。
でもあんなに幸せそうな雰囲気を壊すことはさすがに出来ない。ここはもっと手ごろな人を選ぶとしよう。
「仕方がない。MEMちょに話でも聞くか。」
「そうだね。ここはメムさんで我慢するしかないか。」
「聞こえてるぞ餓鬼共ぉ。」
とは言いつつも声は優しいし顔はちゃんと笑ってる。さすがメムさん優しいなぁ。
「あとあかね。メムさんなんて呼びかたはよそよそしいよぉ。MEMちょって呼んで欲しいな。」
「分かった。メムさ……MEMちょ。」
「そうそう。年上とは言っても今ガチで共演したもの同士なんだからさ、もっと友達みたいに気楽に話してよ。」
「そうだね。MEMちょ。」
呼び方を変えるって勇気がいる。メムさん……じゃなくてMEMちょは私にとっては尊敬する姉貴分みたいな人で、今ガチの時はご飯をご馳走してもらったりネットをメインに活動するためのノウハウを沢山教えてくれたりした。
私と年は一つしか変わらない筈なのにとっても経験豊富で肝が据わっている凄い人だ。今までなんとなくさん付けで呼んでいたけど、今日またひとつ距離が縮まった気がして嬉しい。
「それじゃあこれから本番だから、二人ともくれぐれも静かにね。お姉ちゃんとの約束だよ?」
「「はーい」」
年上の威厳もきっちり示していく。さすがだなぁ。
MEMちょが撮影場所に戻り、そのまま本番の撮影が始まった。背景はMEMちょのお家みたいなkawaii系。コンセプトはクリスマス会やお誕生日会のような感じだろうか。色とりどりのハート形の風船が浮かび、床には沢山のラッピングされたギフトボックスが置かれている。
衣装は全体的にフリフリでちょうちょ型の大きなリボンが目立つ。とっても可愛らしくて女子受けが良さそう。
そんな可愛すぎる推しの姿に私のテンションは爆上がり。箱推しのアクア君も同様だ。
(かなちゃん! かなちゃん! 有馬かな!!)
(お姉ちゃん! 有馬! MEMちょ!)
もちろん声には出さない。
「やっぱりかなちゃんは可愛いなぁ。」
「流石お姉ちゃんだ。輝いてる。」
撮影は滞りなく終了し、時間は夜の9時。まだあと一時間は未成年組もお仕事が出来るがミヤコさんの指示により早めに宿に戻ることになった。
B小町で一人だけ現場に取り残されるのは成人しているMEMちょだ。
「ねえかなちゃん、本当に帰っちゃうの? ルビーちゃんにやったやつ私にもしてくれたらお姉ちゃんめっちゃ良い画が撮れると思うんだけどなー。良いPVになると思うんだけどなー。ちょーっとだけで良いからさっきのアレ私にもやってくれない?」
「えー、そこまで言われると逆にやりたくなくなるっていうかー」
「あわわわわごめんよかなちゃん。ほらこの通り! この通りですから! お願いしますから!」
物凄く必死にかなちゃんにお願いするMEMちょを面白そうに弄るかなちゃん。ルビーちゃんだけでなくMEMちょともとっても仲が良さそうだ。
それにしてもMEMちょの必至さが凄い。一体かなちゃんはルビーちゃんに何をしたというのだろう。
「ねえルビーちゃん。かなちゃんはルビーちゃんに何をしたの?」
「ふっふっふー。先輩はねー、私の笑顔を引き出す為に応援してくれたんだよ。めっちゃ可愛い末っ子スマイルで! ほらこんな風に。」
ルビーちゃんがサインはBのポーズを決める。
「えーっ良いなぁ。私もかなちゃんにやって欲しい!」
「そう簡単にはやってくれないよ。これは私と先輩の強い絆があるからやってくれることなんだから!」
「じゃあ私もかなちゃんとお近づきに……」
「コラ! 先輩に近づこうとする悪いファンは私が許さないよ!」
「悪いファン……」
このスタジオに来てから怒られてばかりな気がする。撮影の邪魔をしたのは悪いと思ってるけど、かなちゃんとお話しするくらいは許してほしい。
シュンとする私。
「あかね。ほら元気出せよ。」
「アクア君……」
「お姉ちゃん、着替えが終わったら皆で宿に戻ろう。ここであかねと待ってるから。」
「うん分かった。ごゆっくりー。」
ごゆっくりだなんて、そんな……。
私をなでながらルビーちゃんと会話をするアクア君。話ながらでもなで方は相変わらず上手で、ものの数秒で私は顔が緩んでしまう。
ルビーちゃんとかなちゃんが着替えて戻ってくるまでの数分間、私はアクア君とスタジオの前で夢のような時間を過ごす。そしてスタジオの扉が開き、MEMちょが二人を連れて出て来た。
「よーし、皆そろったね。じゃあ暗いから気を付けて帰るんだよ。絶対にはぐれないように。」
「「「「はーい」」」」
「メムさ……MEMちょは大変だね。これから撮影だなんて。」
「あはは……。私だけ成人してるからねぇ。こればっかりはしょうがない。」
「そうだよ。MEMちょは25歳なんだから、もう大人だもんね!」
「えっ」
ルビーちゃん今25歳って言った? MEMちょは高校3年生の18歳じゃないの?
MEMちょの額に冷や汗が浮かぶ。
「そうなんですか? 私今までMEMちょは18歳だと……」
「バレちゃったらしょうがないねぇ……。私ホントは25歳なんだぁ。てへっ」
「あっそうなんですね………メムさん。」
「泣いて良い? 私泣いて良い? せっかく距離縮まったと思ったらなんかまた敬称付けて呼ばれてるんだけど。」
「よしよしMEMちょ。私はお姉ちゃんの味方だよ。」
「ルビーちゃん……君のせいなんだよぉ……でもありがとね……」
25歳の人気インフルエンサーを呼び捨てはちょっと無理かな……。ごめんなさい、メムさん。
私たちは4人で宿へと向かう。
宿のカギをメムさんから受け取ったルビーちゃんがご機嫌に先頭を歩いていく。今日は早朝から長時間の移動、そしてこんな夜まで撮影をこなしたというのにルビーちゃんはまだまだ元気だ。すごいなぁ。
「おっとまり♪ おっとまり♪ あっカラス。かわいー。」
「危ないよー。」
「知ってる? 鳥目って言って鳥は夜だと全然目が見えないんだよ!」
「違うよ違うよ、それはニワトリの話であって……」
「あー!」
などと話していると、ルビーちゃんの手に握られていた宿の部屋の鍵をカラスが咥えて飛び去ってしまった。
「このクソカラス!! 焼き鳥にしてやる!!」
「だから言ったのに…」
「まてー!」
ルビーちゃんはわき目もふらずにカラスを追いかけ始めた。
完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。
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原作沿いのまま完結!
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オリジナルストーリーで続行!