【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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先生の遺体

「お姉ちゃん! はぐれるなって言われたばかりだろ! ああもう、あかね、有馬、追いかけるぞ。」

 

宿のカギをカラスに取られてしまい、口汚くカラスを罵りながら追いかけるお姉ちゃん。いつになく子供っぽいな。今こそお姉ちゃんモードになるべきじゃないのか。

 

そんなことを考えていても仕方がない。

 

まずはお姉ちゃんと合流しなければ。この際鍵はどうでも良い。まずは4人揃って宿に到着することが大事だ。この暗い森の中ではぐれたら朝まで迷子なんてことにもなりかねない。

 

少し走ったところでお姉ちゃんと合流出来た。しかしそこはすっかり森の中。がさがさと木の枝をかき分けてお姉ちゃんは歩いていく。

 

「くっそー挑発してるなぁー! 絶対捕まえてやる!」

「お姉ちゃん、大人しく宿の人に謝ろう。これ以上森の奥に入るのは危ない。」

「大丈夫! この辺なら多少は土地勘あるし!」

「それはそうだけど。」

「じゃあ良いよね! このまま行くよ!」

「あ、うん。」

 

押し切られてしまった。

 

いつの間にか危機感は薄れて森の中を探検する楽しさが勝って来たのか、和気藹々とお喋りに花を咲かせながら俺たちはカラスを追って進んでいく。

 

お姉ちゃんはあかねのことが気になる様子。

 

「あかねちゃんも「B小町」入らない?」

「いやーそれはちょっと……。かなちゃんと同じグループなんて恐れ多いって言うか、推しは眺めてるのが良いって言うか……。」

「あんたマジでただの厄介ファンよね。少しはタレントとしての自覚を持ちなさいよ。」

「私だってタレントである以前に一人の人間なの! 推しのアイドルの一人くらい居て良いでしょ?」

「まぁ、そこまで熱心に推されれば悪い気はしないけど。」

「かなちゃん……」

 

有馬の奴かなり素直になったな。少し前はあかねと有馬が同じ空間に居れば必ず喧嘩になっていたものだが、今はこうして会話が成立している。役者同士ではなく推しのアイドルとファンの関係に変わったからだろうか?

 

と言う事は有馬が仕事の軸足をアイドルに移したのが大きな要因だ。要するにお姉ちゃんのお陰だな。

 

「逆にルビーちゃんは役者に興味は無いの?」

「実は……ちょっとある。」

「そうなんだ!」

「そうなのか!?」

「そうなの!?」

「えっ何!? 皆そんなに大声出して。」

 

俺、あかね、有馬の3人が揃って声を上げる。

 

それは驚くだろう。アイドル一筋で他の仕事に興味がなさそうなお姉ちゃんが実は役者に興味があるなんて言ってるんだぞ。しかもここに居るのは若手の中でもトップレベルの演技力を誇る実力派の役者達。

 

反応しないわけが無いのだ。

 

「お姉ちゃん。監督の所へ行こう。帰ったらすぐにでも。」

「ルビー。そういう話なら私が教えてあげるわ。監督の所に行くまでも無いわよ。」

「ルビーちゃん。ララライっていう劇団があるんだけど、今度紹介しようか?」

「か…考えとく。」

 

お姉ちゃんは人気者だ。監督の言う所のコミュ力はばっちりだし業界には気に入られることだろう。容姿も完璧。演技力やセリフ覚えに難があるが、そこはこれからなんとかすれば良い。

 

しかしお姉ちゃんはすぐに役者をやりたいわけではないらしい。

 

「でも、まずはアイドル一本やりきってからって思ってる。いつかドームでライブやって! 皆が知ってるアイドルになって! それで……」

 

勢いよく話始めたお姉ちゃんだが、徐々にその勢いは落ちていく。そして少しもじもじと考え込んだ後、何故か脈絡もなく恋バナが始まった。

 

「アクア、年の差っていくつまでイケると思う……?」

「お姉ちゃん、好きな人でも出来たのか? しかも年が離れた相手?」

「まぁ、そういう事……」

「マジか……」

 

こういう時、弟としてどんな反応をすればいいんだ? お姉ちゃんならどうしただろうか。確か俺が以前相談した時には「アクアが真剣に悩んで決めたことならお姉ちゃんは何も言わないよ」みたいなことを言っていたっけ。

 

その言葉の通り、お姉ちゃんは俺とあかねの関係については基本的に口出ししてこない。昔は女の子が近づくたびにムキになって追い払っていたお姉ちゃんだが、真剣なお付き合いをするとなれば俺の意思を尊重するという考えだ。

 

大事なのは本人の意思。外野が口出しするべきではないってことか。

 

「お姉ちゃん。本気でその人の事が好きなのか?」

「うん。本気だよ。」

「だったら俺は何も言わない。年の差があると苦労も多いだろうけど、諦めるのも辛いよな。どっちに転んだって何かしらの後悔はするもんだ。これはお姉ちゃんの受け売りだけどさ、そうなったときに傍に居てあげるのが弟なんだよ。」

「アクア、立派になって……」

「当たり前だろ。俺たちは姉弟なんだから。」

 

ひとまずこんな所だな。結局これはお姉ちゃんとその想い人の間の問題なワケで、いくら弟とは言え干渉するのはなるべく避けた方が良い。

 

お姉ちゃんが決めたことなら、尊重しよう。

 

だが、ここに居るのは俺だけではない。年頃の女子二人も背後に控えている。そこで恋バナなどを始めればその二人が食いついてくるのは当然のこと。

 

「ルビー。あんたJIFの合宿の時はそんな人いないとか言ってたわよねぇ。お姉ちゃんともあろう人が妹に嘘をついたことになるのかしら?」

「ルビーちゃんの好きな人かぁ。気になるなぁ。」

 

女子と言う生き物は本当に恋愛話に目が無い。しばらく俺は蚊帳の外だろう。カラスの行方を見失わないように粛々と歩みを進めるとするか。

 

しかしお姉ちゃんの好きな人は気になるので聞き耳は立てておく。ロクでもない男じゃないことを祈りながら。

 

「すっごく優しい人! 私がずーっと1人だった時にずっと側に居てくれていつも励ましてくれて……。せんせが居なかったら頑張って生きようだなんて思わなかった。アイドルになろうなんて思わなかった。生きる意味をくれた人。」

 

それって……誰かに似ているな。

 

ずっと一人ぼっちで、ただ生きることが何よりも大変で、ドルオタの活動を心の支えにしていた健気な少女が脳裏に浮かぶ。こんな偶然もあるんだな。

 

いやしかし、冷静に考えてお姉ちゃんがずっと一人だったことなんてあっただろうか。お姉ちゃんの隣にはずっと俺が居たじゃないか。俺とお姉ちゃんはいつでも一緒に生きて来た。それにお姉ちゃんの言うせんせと呼ぶ人物に心当たりも無い。

 

俺ですら知らないとは、一体どういう事だろう。

 

「でも今は何処に居るか分からないんだ。突然職場からも消えて消息不明になっちゃったんだって。どうせ女性トラブルでトンズラこいただけだと思うけど。」

「えー……いいのそんな人で?」

「思わせぶりな人だったんだよ! 私が何度好き!結婚しよ!って言ってものらりくらり躱してさ!」

 

お姉ちゃんが勢いに任せて好きとか結婚しよとか適当に言いまくっただけというのが真相のような気もするが、当人としては本気だったという事か。相手からしたら迷惑この上なかっただろうな。もし話す機会があれば一言謝っておこう。

 

当時を思い出して怒りだすお姉ちゃん。しかし直後「けどそれでもいいの」と気を取り直し、記憶の中の想い人を見つめながらこう呟いた。

 

「もう一度、会いたいよ…」

 

気持ちの籠った一言だった。

 

・・・

 

カァ! カァ!

 

女子3人が恋バナに興じている間にようやくカラスを追いつめた。追跡はほとんど俺の仕事。事の発端はお姉ちゃんだというのに何故。

 

たどり着いたのは崖下の少し開けた空間。中央に祠が立っており、その周りだけ手入れされているのか木が生えていない。それにしてはここまでの道は随分と歩きづらかったが。

 

鍵を持ったカラスは祠の裏の空間へと逃げ込んだようだ。

 

「あの祠の裏の空間だ。逃げられたら厄介だから早めに鍵を取り返そう。ここで逃げられたら他のカラスに紛れてもう見つからないぞ。」

「先輩取ってきて。小さいから穴に入りやすいでしょ。」

「誰がチビよ! ルビーが行きなさい! 鍵取られたのはあんたのせいでしょ。」

「仕方がないなぁ。じゃあ一緒に。」

「え? ちょっと待って。力強!? ア、アクア助けてー!!」

 

俺は呑気にお姉ちゃんに引きずられていく有馬を見送った。その先に何があるのかも知らずに。

 

仲が良いんだなあの二人、などとあかねと話していると洞窟の中から有馬の悲鳴が聞こえた。

 

「キャアアアア!!!」

「あかね、行こう!」

「うん!」

 

有馬のリアクションが大げさなのはいつもの事だが、今の悲鳴は尋常ではない。洞窟に入ろうと祠の裏に回れば、そこには腰を抜かして尻餅をつく有馬の姿。

 

「な……何よ…あれ………」

 

俺達が来たことにも気づかず視線を一点に固定したまま震えている。一体何があったのだろうとその視線の先を追う。果たしてそこにあったのは………

 

白骨化した人間の死体だった。

 

その死体は白衣を着ている。顔には見覚えのある眼鏡。白衣の下の洋服は()が普段着ていたもの。

 

雨宮さんの記憶が一気に蘇る。あれは間違いなく雨宮さんの死体。こんなところに居たんだな、雨宮さん。16年間もずっと、誰にも見つかることなく……

 

ではお姉ちゃんのこの反応は一体どういう事だろう。

 

雨宮さんの死体の前で泣き崩れ、まるで大切な恋人と生き別れたかのように悲痛な叫び声を上げている。

 

「せんせ! せんせ! 何で? 何でこんなところに居るの!? 嫌ぁ! 嘘だと言ってよぉ!」

 

せんせとは先の話で言っていた想い人の事だろうか。しかし雨宮さんとは面識のないはずのお姉ちゃんが何故彼の事を知っているのか。

 

少し考えればすぐに答えにたどり着けただろうが、この時の俺はそれどころではなかった。

 

死体の前で号泣するお姉ちゃん。そして突然見つかった白骨化死体と泣き崩れるお姉ちゃんの姿が衝撃的すぎて、呆然とする有馬。とりあえず二人とも死体からは遠ざけるべきだろう。あんなグロテスクでショッキングな物を見ていたら具合が悪くなってしまう。

 

「お姉ちゃん。一旦宿に戻ろう。鍵は見つけたから。」

「嫌ぁ! 離して! せんせが! せんせがこんなになってるの!」

「あかね。有馬を頼む。」

「うん、分かった。」

 

お姉ちゃんと有馬を祠の中から引きずり出す。

 

俺に抱えられながらもお姉ちゃんの視線はずっとあの死体に向けられている。「何で……何でよぉ」と泣きながらこぼれるお姉ちゃんの弱音。こんなに落ち込んだ姿は母さんが殺されたとき以来じゃないかと思う程だった。

 

こんな時お姉ちゃんだったらどうする? って、考えるまでも無いよな。

 

「お姉ちゃん。大丈夫だ。ほらぎゅってしてやる。よしよし。元気出せよ。」

「アクアぁ……ありがと……」

 

腕の中でお姉ちゃんは俺の服をぎゅっと握りしめて震えている。その姿を見てミヤコさんの言葉がフラッシュバックしてくる。

 

『あなたが危ない目に遭ったら私たちは不安になるし、あなたが傷ついたら悲しくなるのよ。』

 

今なら良く分かるよ、ミヤコさん。

 

お姉ちゃんのこんなに痛々しい姿を目の当たりにして、俺の心も悲鳴を上げているんだから。まるで自分の事のように苦しいし、痛いんだ。お姉ちゃんは俺がトラウマで苦しむたびにこんな辛い思いをしていたんだな。

 

「今度は俺の番だから。」

 

お姉ちゃんがずっと俺にそうしてきたように、お姉ちゃんが辛いときは俺が支えになろう。いつだって俺たちは二人で一つ。やっぱりどちらが欠けてもダメなんだ。

 

俺たちは、姉弟だから。

 




気づけば90話。3桁の大台が見えて来ました。

が、そろそろストーリーも破綻する頃ですかね……。9巻以降は本格的に復讐劇がメインになっていくので、本作のルビーお姉ちゃんではどう頑張っても原作通りには行きません。

9巻冒頭の半年後こうなりましたみたいな感じで〆るか、開き直って原作沿いのタグを外すかの2択でしょうか。

やめ時を探りつつ書き進める今日この頃です。

完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。

  • 原作沿いのまま完結!
  • オリジナルストーリーで続行!
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