「かなちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「大丈夫……」
酷い物を見てしまった。
ルビーに連れられて祠の裏の洞窟に入ってみれば、そこには白骨化した人間の死体……
「うえぇ…」
「よしよしかなちゃん。お姉ちゃんが居るからねぇ。」
MEMちょに手を引かれて宿の部屋へと入る。
あの死体を発見してから怒涛の忙しさで時間が過ぎて行き、気づけば深夜。今まで余裕が無くて気づかなかったが、あの不吉な光景を思い出して具合が悪くなってしまった。
そしてMEMお姉ちゃんに落ち着かせてもらっている。
「かなちゃん、忘れるって言うのはムリだけどさ、あまり思いつめちゃダメだよ? かなちゃんは何も悪くないんだから。」
「分かってるわよそんな事………でも」
身の毛がよだつ光景だった。
明らかに何者かによって運ばれた死体。殺人事件。何年も人知れず放置され続け、乾き、腐り、朽ち果てていった人間がそこにいた。
恐怖に支配され、動けなくなってしまった。目を離せなくなってしまった。
あかねが私を抱えて引き剝がしてくれなかったらもっと酷いことになっていただろう。死体を見つめたまま不吉な妄想が頭の中を駆け巡り、心が壊れるまであそこで震えていたに違いない。
崖から落ちたらどれほど痛いのだろうか。16年間も一人で洞窟の中に居たら気が狂ってしまいそう。もし自分の身体があんな風に朽ち果てていったら………
自然と呼吸が早くなる。どんどん苦しくなっていく。
「はぁっはぁっ、嫌………怖い……」
「かなちゃん落ち着いて。ゆっくり息を吸うんだよ。」
MEMちょが背中をさすり、抱きしめ、頭を撫で、話しかけ…………お姉ちゃんムーブのフルコースで対処にあたる。その甲斐あって私はどうにか呼吸を整え、気持ちを落ち着かせることが出来た。
流石はお姉ちゃん。見事な手腕だった。
「もう大丈夫かな?」
「ええ、ありがとね。……これで死体役や殺される役をやることがってもバッチリ対応出来るわ。」
「逞しいねぇ。じゃあもう寝ようか。明日も撮影あるし。」
「ええ、そうしましょう。」
悪夢にうなされることも無く、安らかに眠ることが出来た。
・・・
翌朝。
「起きる時間はずらしてくれないのよね……」
「たはは……。こればっかりはお仕事だからしょうがないねぇ。」
寝たのは3時。起きたのは予定通りの7時。ああムカつく。
とはいえ4時間は寝れたので今日一日くらいどうにかなるだろう。車での移動時間や休憩時間にこまめに仮眠を撮れば問題ないレベル。この程度は売れてる子役時代にいくらでも経験してきたことだ。
むしろ他の二人を私がサポートするくらいで丁度いい。
「MEMちょは寝てないけど大丈夫なの? 私は慣れてるからだから平気だけど。」
「んー、かなちゃんは知らないと思うけどさ、私B小町のお仕事で割と徹夜とかしてるよ?」
「そうなの?」
「うん。私の顔見てみなよ。いつも通りでしょ?」
「言われてみれば確かに………」
MEMちょは余裕らしい。さすが長女。25歳鉄の女。
「じゃあ問題は………」
「ルビーちゃんだねぇ。昨日ルビーちゃんの様子はどうだったの?」
「それが………」
当時の状況を思い出す。
カラスを追って森を中を歩く途中、突如恋バナが始まった。
ルビーには想い人がいて、せんせと呼んで慕っていたらしい。JIFの時も同じことを聞いたけど、ルビーは昔ずっと一人で部屋から出られない生活をしていて、その頃ずっとそばにいてくれた「せんせ」なる人物に思いを寄せていたのだ。
しかしその人は職場から突然消え、それ以来ずっと消息不明。ルビーの「もう一度、会いたいよ…」という気持ちの籠った言葉を聞けば、どれほど強く思っていたかも伝わって来た。
そんな先生が白骨化した状態で見つかり、ルビーは号泣した。私が覚えてるのはそのあたりまでだ。
あの後は多分アクアが慰めたんだろう。昨日も一緒の部屋で寝たみたいだし。
「長年思い続けた初恋の人が死体で見つかるって………それどんな拷問?」
「ルビーの泣く様子は本当にすごかったんだから。この世の終わりかってくらいの号泣よ。」
「そりゃそうなるよ………。とにかく、朝食でルビーちゃんも部屋から出てくるから、その時に話を聞いてあげよう。」
「そうね。」
さっさと支度を終えて部屋の片付けも済ませておく。私の荷物はキッチリキャリーケースにまとまっており、今すぐにでもここを出られるようにしている。
もともと綺麗好きなのもあるけど、いざという時に慌てたくないというのが大きい。
最終日の朝になって慌てて荷造りを始める奴が必ず一人は居るのよね、大人数で旅行するときって。今回で言えばそう……不思議そうな顔で片付けの様子を眺めるMEMちょとか。
「お姉ちゃんの癖にだらしないわね。最終的には全部キャリーケースに入れて持って帰るんだから、散らかすだけ面倒が増えるのよ?」
「いやぁ、最終日に全部片づければよくない?」
まあいいわ。最終日にひーひー言いながら片付けに負われるMEMちょが目に浮かぶ。その時私はその横で惰眠をむさぼってやろう。
朝食の時間。
宿の食堂に苺プロのタレントとスタッフ一同、そして黒川あかねが集合する。
気になるルビーの様子は………意外と平気な顔をしている。アクアにべったりなのはしょうがないとして、撮影中止になるほどのダメージは無かったと見て良いわね。
私が席に着くと右にMEMちょ、左にルビーが座るいつもの並び。たった一晩なのに随分長いこと3人が揃っていなかったように錯覚してしまう。
長い夜だった。
すぐさま私はルビーに声を掛ける。
「ルビー、具合はどう? 撮影だけど大丈夫?」
「あはは………さすがに落ち込んだけど、何とかなりそう。」
じっと見つめる視線の先にはルビーの愛する弟、星野アクアの姿があった。まあそういう事だ。
「先輩こそ大丈夫? 怖かったでしょ。」
「こっちも持ち直したわ。」
逆サイドに振り向けば一番上のお姉ちゃんの頼もしいどや顔。こっちはこういう感じ。
「でも二人とも無理は禁物だよぉ。今日の仕事はPV撮影。ずっと映像が残るんだからね。出来る、じゃなくて
「そうね。今日は外ロケだし肉体的にも負担は大きいわよ。体調を崩しそうなら早めに言いなさいね。」
MEMちょと社長のお言葉で空気が引き締まり、そのままいただきますの流れ。
3人仲良く宿の美味しい朝食を頂くが、なにやらルビーの様子が普段とは異なることに気付く。食べ方がやたら丁寧と言うか上品と言うか……
そう、お姉ちゃんモードになっている。
「ルビー、今日はお行儀が良いのね。」
「そうかな? いつも通りだと思うけど。どしたの先輩。」
「いやいや、いつも通りじゃないでしょ。食事と言えば私があんたより年上であることを示せる数少ないシチュエーションよ? 見落とすはずがないわ。」
「先輩必死すぎー。」
表情や口調はいつも通りのルビーだ。しかし何というか、お姉ちゃんモードの時の底知れない感じと言うか、心の奥底まで見透かされそうな鋭い眼光を確かに感じる。
「まぁ、色々心境の変化があったって言うのは確かだけど。」
「それって聞いても良いのかしら?」
「良いけど、実際自分でも良く分からないんだよね。何かが変わったのは確かなんだけど。」
「それじゃ聞く意味がないじゃない。」
「でも分かってることもあるよ?」
「何よ?」
ミヤコさん、MEMちょ、アクア、あかねが揃ってルビーへ注目する中、ルビーもまたそれぞれの顔を順番に見つめ…………るかと思ったけどあかねはスルー。
なんとなく分かったわ。
「えっとね、せんせは居なくなっちゃったけど、私には可愛い妹と頼れるお姉ちゃんが居るって事。」
「おい、それだけか?」
「あははっ、妬かないでよ。勿論アクアも、ミヤコさんもね。私には大事な家族が居るんだから、いつまでも落ち込んでる訳にはいかないの!」
まったく調子の良いことで。
理科の教室にあるあの人体模型は夢に出たことがありますが、遺棄死体を見た場合はさらにダメージが大きいでしょうね………。
死ぬ過程を想像する余地が残ってるとポイント高いと思います。
完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。
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原作沿いのまま完結!
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オリジナルストーリーで続行!