【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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とっても可愛い神様

朝食を終え、タレント組はしばし自由時間。スタッフさんたちはカメラやキャンプ道具みたいな荷物を次々と車へ運び込んでいる。

 

私は見晴らしのいい崖の上で朝の冷たい風に当たっていた。

 

そっと開く右手には年代物のキーホルダー。

 

『アイ無限恒久永遠推し!!!』

 

私の前世、さりなの忘れ形見。ゴローせんせが死ぬ時までずっと大切に持っていてくれた宝物。今では巡り巡ってせんせの忘れ形見となって私の手に戻っている。

 

私とアクアだけの秘密。ミヤコさんやB小町のメンバーにだって教えることは出来ない。だって、私達は転生者で、前世の記憶を持ってる普通じゃない人間だ。

 

生まれ変わりの事実は墓まで持っていく。アクアと一緒に。

 

「いーけないんだーいけないんだー。」

 

背後から聞こえて来た幼い声。

 

振り返ればそこにはいつの間にか小さな女の子が立っていた。年は10歳に満たないくらいだろうか。上品で育ちの良さそうなお洋服に綺麗な金色の髪。瞳の色はアクアによく似た蒼色。どこか現実離れした不思議な雰囲気を纏っている。

 

可愛い。

 

その少女は私を指さして………

 

「それ遺体から抜き取ったやつでしょ。いけないんだよそういう事しちゃ。」

 

年のわりに落ち着いた話し方だ。子供らしくもないくすっと笑う仕草が様になっている。

 

すごく可愛い。

 

いつの間にか周囲にはカラスの群れ。少女を囲むように周囲を飛んだり歩いたりしながらついて回っているようだ。普通なら子供がカラスに襲われてるんじゃないかと冷や冷やするところだけど、この子は余裕の表情を崩さない。

 

明らかに普通の人間ではない。そしてとっても可愛い。

 

「もしかしてお姉ちゃんあのお医者さんと深い仲だったのかな? だとしたら気持ちもわかるけど。」

「ねぇ、あなたは何者なの? 見たところ普通の人間じゃないよね。」

「あれ? 君にしては随分と鋭い返しをするんだね。でも良いの? あたし……お姉ちゃん*1が知りたいことを知ってるよ?」

「それは気になるけど、その前にひとつ良いかな。」

「なぁに? 答えてあげるとは限らないけど。」

 

 

 

「もう一回『お姉ちゃん』って呼んでくれないかな。」

 

 

 

何故か無言になる少女。

 

少し怪訝な様子で固まっている。思ってたのと違うぞ? どういうことだ? といった具合だろうか。

 

気になるのは「君にしては」という発言。私の事を良く知ってると言わんばかりだ。それも頭の悪い人間として認知されているらしい。

 

流石にアクアやあかねちゃんには勝てないけど、先輩より勉強は………出来ないか。ミヤコさんやMEMちょみたいにテキパキと仕事をこなして………ないな。

 

まぁ、頭が良くないというのは認めるとして。

 

この子は一体何者なんだろう。こんな可愛い子がいきなり現れて話しかけて来てお姉ちゃん呼びされるとかご褒美でしかない。私の日ごろの行いを神様は良く見てくれていて、かわいい使いを寄越してくれたのかも。

 

その割にやたら意味深な話し方をするのが気になるけど。

 

「私の力の及ばないところで君たち双子の運命に歪が生じていたのは知っていた。」

 

しれっと仕切りなおした少女はなおも語る。猫をかぶるのをやめたのか、先ほどまでの幼い子供のような話し方ではなくなっている。

 

こちらが本性なのだろうか。いずれにせよ可愛い。

 

「初めはほんの手違いだったんだ。先に生まれるはずの男の子がお腹に残り、女の子が先に生まれて来た。たったこれだけさ。問題ない、目を瞑ろうって考えるのも自然なことだよ。」

 

流暢に喋りながら右に左に歩くさまは海外の偉い社長さんのプレゼンみたいだ。

 

「双子だよ? 姉、弟の区別はあるにせよ、同じ日に生まれた同い年の人間。どっちが上かなんて気にするだけ無駄さ。」

「何言ってるの。とても大事な事だよ。」

「少し黙ろうか。……ところが君たちはものの見事にその姉と弟と言う立場通りの関係性を築き、果ては人格までそれに沿って変化してしまったという訳さ。本当に出来すぎている。まるで誰かの意思を感じるほどだよ。」

 

やれやれ、といった様子の少女。

 

口ぶりから察するにこの子は神様か、それに準ずる何かを人の身体に押し込んだような存在だ。そして私達を思い通りに操ろうと画策したが、私のお姉ちゃん力の前に敗北を喫したという事らしい。

 

「つまり、任務失敗ってこと?」

「一言でいえばそうなるね。」

 

ピーマンか人参でも嚙み潰したような、やや苦しい顔で吐き捨てた。かわいそうに。

 

「じゃああなたはどうしてここに居るの? というかどんな任務だったの?」

「目的は………少なくとも今全てを明かすことは出来ない。」

「話はお終い?」

「そうなるね。」

 

ならここからは私の番だ。

 

「じゃあ、私からも良い?」

「聞くだけ聞こうか。」

「君は何者なの? 幽霊? 神様? それとも人間?」

「あはは。君たちと同じようにこの器も母から産み落とされたものだよ。まぁ普通の親とは言えないけれど。触ってみる? どこにでもある子供の(からだ)さ」

 

おさわりOKとのこと。

 

私だって転生者。普通の人間じゃない。普通の人間に別の人格を捻じ込んだときにどんなことが起こるのか、少なくともこの少女よりも長い時間をかけてこの身で体験して来た。

 

体は普通の子供らしい。こんな可愛いお人形のような子供がどこにでも居るかと言われれば確実にNOだが、とにかく肉体は持っている。

 

であれば物理的な刺激に対する反応もそこらの子供と変わらないはずだ。苦い食べ物は苦手だし、痛みを感じればすぐに泣く。反対に、抱きしめられたときやなでなでされれば心が暖かい感情で満たされる。

 

要するに精神は肉体に引っ張られるということ。

 

そしてこの子の肉体は幼い少女であり、私は百戦錬磨のお姉ちゃん。

 

あとは、分かるよね?

 

さて、どこから攻めたものか。定番はぎゅっからのなでなでだけど、あれはある程度雰囲気を作った上で最後の一押しとして使う〆のテクニック。これから距離を縮めて行こうとするこのシチュエーションには合わない。

 

となれば、まずあはこの子の言う通りほっぺたを触ってみるとしようか。触れ合わないことには始まらない。

 

「じゃあお言葉に甘えて。」

 

少女の前にしゃがみ込み、可愛いお顔のほっぺめがけて手を伸ばす。優しく触れるとむにっと指先が沈み込んだ。

 

触り心地はの良さは子供の頃のアクアと同じくらいかな?

 

「やわらかいね。髪もさらさら。」

「よく手入れされてるだろう?」

「えらいえらい。」

「バカにしないで欲しいね。」

 

褒められると反発するんだ。意外とプライドが高いというか、人の言葉に過敏に反応するタイプなのかも。冷静にふるまってるけど割と感情豊か。

 

なんか先輩っぽいな。

 

………ワンチャン、ゴリ押しでいける?

 

作戦決行だ。ほっぺを手のひらでむぎゅっと挟み、顔を固定。そのままじっと少女の目を見つめる。先輩なら2秒、アクアなら5秒で陥落する必殺技だ。

 

「………恥ずかしいんだけど?」

 

勝った。タイムは3秒。先輩よりは肝が据わっていた。

 

目を逸らした時点で主導権はこちらにある。後は煮るなり焼くなり好きに料理すればいい。

 

「ねえ、好きな食べ物はなぁに?」

「何を言うかと思えば、そんなことを聞きたかったのかい? 特にないよ。これはただの器。仮の姿に過ぎないんだから。」

「私は貴方じゃなくてこの子に聞いてるの。」

 

優しく頭をなでなでする。

 

お姉ちゃんスマイルで緊張をほぐし、空いた手を肩に回す。そのままゆっくり体を引き寄せ、私の肩のあたりまで少女の顔を近づける。

 

「大変じゃない? 任務とか運命とか難しいことばっかり。ほんとはもっと遊びたいよね。」

「くどい。私は見た目通りの存在じゃないと何度言えば分かるのかな。そんな事したって無駄さ。意味が無い。そもそも君が私と仲良くして何のメリットがあるというんだい? まったく意味が分からないよ。」

 

とっても饒舌になったね。良い兆候だ。

 

「何してあそぼっか? おままごと? それとも鬼ごっことかの方が好き?」

「………いい加減にしなよ。無意味だと言ってるだろう?」

 

声が震えてる。もう一押しかな。

 

ぎゅっと抱きしめ、頭を撫でる。そして自慢のお姉ちゃんボイスで耳元でささやいてあげる。

 

「お姉ちゃんの前でだけは、ただの子供になって良いんだよ?」

「………」

 

言葉は無い。でも返事はちゃんと貰ってる。

 

私のシャツをぎゅっと握り込んで離さない。ぷるぷる震えて何かを堪えているみたいだ。子供なんだから、もっと自由に思ったことを言えばいいのに。

 

「ねぇ、私の事『お姉ちゃん』って呼んでくれる? そしたらお姉ちゃん嬉しいなぁ。」

「………お姉ちゃん。ほら、これで良いだろう? もうこんな辱めは終わりにしてくれないかな。」

 

辱めだなんて、そんなひどい言い方しないでほしいね。子供は子供らしくお姉ちゃんによしよしされておけばいいんだから。何もおかしくない。

 

あるべき姿に戻っただけだ。

 

謎の少女はプルプル震えたまま涙目でこちらを睨でいたが、やがて出会ったばかりの落ち着き払った様子に戻り、私の前から去っていった。

 

小さな拳がきゅっと握られていたので何かしらの爪痕は残せたように思う。

 

「あー………可愛すぎて心臓とまるかと思った。」

 

神様、素敵な少女をありがとう。

 

*1
原文ママ。ツクヨミちゃん痛恨のミス。




ツクヨミ(仮)
とっても可愛い8歳くらいの女の子。
人の子供に神様か神の使いの魂を宿らせたっぽい存在。生まれ方は転生者と大体同じと思われる。
ルビーの前に突然現れて「お姉ちゃん」と呼んだために気に入られ、ろくに話も聞いてもらえず子供扱いされることに。実際ちゃんと子供だった。


公式の設定は分かりませんが、今作では肉体が本来持つべき人格が後からインストールした人格とは別に存在します。ルビーのように混ざりあったり、アクアのように転生してきた側が自主的に引っ込んだりと人によって状況は様々。ツクヨミちゃんは肉体側の人格を押し殺して転生側の人格を表に出しているようです。
また、物理的精神的刺激によって引っ込んでいる側の人格が持つ記憶や情動が引き起こされることがあります。病院を見てゴローの記憶を思い出したアクアや、明確に肉体側の人格に語り掛けられて気持ちがぶれてしまったツクヨミちゃんが良い例です。

完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。

  • 原作沿いのまま完結!
  • オリジナルストーリーで続行!
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