【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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極寒のMV撮影

MV撮影二日目。昨日と同じように私達B小町メンバーとスタッフ一同がアネモネさんのスタジオに集結している。

 

「昨晩は……なんだか色々大変なことがあったみたいだね。気分が悪いとかあったら遠慮せず休んでね……。」

 

本当に大変だった……らしい。

 

らしいというのは私は昨晩のことは直接関わっていないからだ。かなちゃんとルビーちゃん。そしてアクたんとあかねちゃんが宿に戻る途中の出来事。鍵を持ち去ったカラスを追っていたら白骨化した遺体を見つけてしまうというミラクルを起こしてしまったのだ。

 

しかもしかも、その遺体というのがルビーちゃんが長年好意を寄せ続けていた想い人だった。

 

まさに、事実は小説よりも奇なり。*1

 

こんなことが現実にあるんだねぇ。せめてかなちゃんとルビーちゃんには元気になってもらえるよう、お姉ちゃんとして手を尽くそう。

 

「かなちゃん、もう大丈夫?」

「大丈夫よ。一晩寝ればスッキリしたわ。」

 

私の右手にはかなちゃんの左手ががっちりホールドされている。声からも手からも不安の感情は伝わってこないので、本当に大丈夫っぽい。

 

「ルビーちゃんはどう? 気持ちの整理はついた?」

「もう大丈夫。今朝もとっても良いことがあったしね。」

 

良いこと? 一緒に寝たアクたんが何かしたのかな。

 

同じく左手でがっちりホールドしたルビーちゃんの右手からも嘘の兆候は感じられない。これなら撮影も問題ないかな。

 

仲良く3人並んで手を繋ぎ、最年長の私が社長へご報告。

 

「社長! 行けます!」

「なら良かったわ………。行きましょうか……。」

 

げっそりと疲れた様子で社長が報告を受けた。一番ダメージ受けてるの社長だったね。

 

・・・

 

ロケ車の最後尾に並んで座るB小町メンバー。

 

車は私達を乗せて田舎の広い道をすいすい進んで行く。今日の撮影は川での水遊びと、森で散策する姿を撮るらしい。

 

「今日はほぼほぼ外ロケみたいだねぇ。」

「はー、嫌いなのよねMVの外ロケ。こんなクソ寒い中季節感ガン無視の衣装着せられて歌ったり踊ったり…」

「あははは」

 

私も駆け出しユーチューバーの頃は結構無茶したなぁ。激辛とか大食いとか氷水とか。

 

「撮影は冬なのに夏のシーン撮りたいからって真冬の九十九里浜を水着で走ったり、炎天下の夏の昼間にコート着てマフラー付けて走らされたこともあったわ。」

「先輩をそんな目に合わせるなんてひどいね!」

「落ち着いてルビーちゃん。これは仕事。かなちゃんだって納得の上でやってるんだよ。」

「演者って所詮肉体労働者よね……」

 

この年にして擦れてるなぁ、末っ子。

 

「今日も川で水遊びのシーンを撮るってアネモネが言ってたよぉ。」

「えっ、モネさん鬼! 真冬だよ? 気温10度も行ってないんだよ?」

「諦めなさいルビー。私たちはアイドルなの。こんなことはこれからも沢山あるわよ。」

 

うー、とかやばいー、とか唸るルビーちゃん。彼女はこうしてまた一歩大人の理不尽な世界に触れていくんだなぁ。

 

車で少し走れば、目的地に到着した。

 

撮影現場は自然豊かな森の中を流れる綺麗な川。丸っこい石で出来た地面を踏みしめながら川辺まで歩き、そっと水に手を入れてみる。

 

「づめ゛だい゛」

 

水温も気温と大体同じくらいだろう。恐らく摂氏一桁。間違っても裸足で入るべき温度じゃない。

 

………アイドルかユーチューバーでもなければね。

 

「さて、トップバッターは誰かな?」

「アネモネ。ここは私が。」

 

昼に向けて気温と水温は上がっていくだろう。朝一の冷たい川に踏み入れるのは一番上のお姉ちゃんの役目だ。

 

こういう体当たりの企画には慣れてる。企画じゃなくてMVだけど。

 

川遊びと言うからには衣装も夏らしく薄手のワンピースだったりする。スカートの下どころか生地そのものが風を通す極寒仕様だ。

 

殺す気だろうか?

 

私はともかく、可愛い妹達までこの罰ゲームみたいな恰好で川に入らないといけないとは………まあやりますし、やらせますけど。

 

プロのアイドル舐めんな。

 

「じゃあ行くよぉ。あまり長くは浸かってられないから、アネモネホント頼むよ。」

「はいはい、分かってるよ。」

「かなちゃんとルビーちゃん、応援よろしく。」

「「まかせて」」

 

もこもこのベンチコートを羽織った二人が川辺へと歩いていく。

 

そして私も意を決してコートを脱ぎ棄て、刺すような冷たい風に素肌を晒し急激に奪われる体温を感じつつそこから生まれる強烈な不快感を鉄の意思でねじ伏せて裸足でキンキンに冷えた氷のような石の上を歩き川の中へと足を踏み入れるんじゃゴラァ。

 

気合で押し切る。

 

しかし川に足先を付けた瞬間、流水が奪う想像を絶する熱量に恐怖し、心が折れた。

 

「ごめん無理。一旦上がる。」

「流石のMEMちょもこれはきつかったかー。ははは。」

 

アネモネが笑う。ダウンのベストを着こんだまま。

 

時刻は朝の9時。季節は真冬。少し標高の高い山の中、上流から流れてくる水の冷たさを理解しているのだろうか。

 

多分理解した上での無茶ぶりなんだろうなぁ。

 

さて、今のトライで足の感覚はほぼお亡くなりになった。荒療治だが、こうでもしないと真冬の川には入れない。慣れが重要なのだ。

 

「アネモネ、行くよ。」

「はいよー。」

 

再び川へ歩き、今度はちゃんと両足ともきっちり水に浸かる。

 

急速に奪われる体温を感じつつ、タイムリミットぎりぎりまで精一杯の笑顔を維持。応援してくれる妹達のお陰もあり、良い表情を作れているはずだ。

 

川での撮影ある以上、季節は夏。暑い暑い炎天下。と言う事になっている。

 

水を蹴り上げたり軽く走って見たりと、あたかも真夏暑さのなか涼しさを求めて川で遊ぶ少女のごとく涼やかな雰囲気を演出していく。

 

やせ我慢だけどね!

 

そのまま数分ほど寒さに耐えつつギリギリまで水遊びをしていたが、さすがに限界が訪れる。

 

「もームリ限界。」

「MEMちょ大丈夫?」

「ほらカイロよ。温めておいたわ。」

 

川から上がると、可愛い妹達が私の身を案じて駆け寄ってくる。ルビーちゃんの手にはタオルにコート、そしてかなちゃんは懐で温めておいてくれたアツアツのカイロを取り出す。

 

素早く水気をふき取り、カイロを足に当てて応急処置を行う。

 

「うわー足冷たい! MEMちょよく頑張ったね。」

「これからルビーちゃんもやるんだよ?」

「あっそうだね。」

 

生返事だった。

 

2番手はかなちゃん。私の撮影中に衣装に着替え、ベンチコートにくるまってその時を待ち構えている。表情は少し硬め。

 

私が凍える様子を見てれば当然の反応だね。

 

しかしか撮影が始まってしまえばかなちゃんのプロ意識の高さを思い知らされることとなる。寒いとか冷たいなどとは一切言わず、完璧な表情としぐさでカメラのファンに向けて必死に可愛さをアピールするのだ。

 

何と言う精神力。さすが年齢イコール芸歴のアイドルだ。

 

しかしかなちゃんも人間。数分もすれば体は冷え切り、撮影終了を余儀なくされる。

 

撮影モードから切り替えも見ものだった。太陽のような眩しい笑顔から一転、川の水の冷たさがこちらにまで伝わってくるような強張った表情に一気に変わる。

 

そのままバシャバシャと水をの中を跳ねながら川を脱出。

 

「タオルタオルタオルーーー!」

 

こうなるのを我慢してあの笑顔を作らなきゃいけないんだからアイドルって大変だ。

 

「先輩こっちこっちー!」

「かなちゃん、熱々のカイロはここだよぉ。」

 

まぁ、姉妹で仲良く助け合えばその大変さだって楽しい思い出に変わるんだけどね。

 

さぁ、ラストを締めくくるのはルビーちゃんだ。一番芸歴が浅く、この手の体を張った撮影にも慣れていないだろうから、厳しい撮影になりそうだ。

 

まずは川の水とのファーストコンタクト。

 

「無理ぃ。」

 

一時撤退。私とかなちゃんで足を拭いてあげる。

 

「あれ、カイロは?」

「温めちゃうと次はいる時またしんどいんだよぉ。冷たいままの方が感覚がなくなって楽だから。」

「何それ怖い。」

 

割と体育会系の発想ではある。

 

しかしかなちゃんの言う通り所詮アイドルは肉体労働者。体を張ってなんぼのお仕事だ。ここは頑張ってもらわないと。

 

足以外をぽかぽかに温めたルビーちゃんが次のトライへ向かう。

 

冷たい石の上をぺたぺたと歩き………入水。今度はちゃんと入れたね。一度入っちゃえばしばらくは大丈夫だ。

 

存分にカメラの向こうのファンに笑顔を届けるといいさ。

 

私とかなちゃんはルビーちゃんの笑顔を引き出すため、応援に回る。

 

「ルビーちゃん頑張れー。」

「ルビーお姉ちゃん! 最高に可愛いよー!」

「先輩もねー!」

 

おお、出たかなちゃんのルビーお姉ちゃん呼び。これをやるってことはかなちゃんの応援は本気モードってことだ。妹大好きなルビーちゃんにこの応援は刺さるからね。

 

しかしこの日のルビーちゃんは少し様子が違った。

 

というより朝から少しいつもと違う雰囲気で、何故か今日のルビーちゃんは常時お姉ちゃんモードっぽい感じなのだ。かなちゃんやアクたんによしよししてあげる時のあの感じ。

 

そしてかなちゃんの応援でより一層お姉ちゃん力が倍増し………

 

「わーお」

「お姉ちゃん………」

 

カメラに背を向けていたルビーちゃんが振り向くと、その圧倒的な目力に気圧されてしまった。私だけではない。かなちゃんも、アネモネやカメラマンも、母親の社長でさえもがその瞳に魅入ってしまっている。

 

あの目に睨まれて「こらっ」とか言われたらどんな悪ガキでも一撃で反省しそうだ。

 

お姉ちゃん力、ここに極まれり。

 

そのまま撮影は続行。一体どんな映像が取れてるやら。カメラマンさんのテンションの上がり具合を見るに、相当良い感じのが取れてるだろうね。

 

水をすくって投げてみたり、蹴り上げてみたり、水面を見つめながらゆっくり歩いたりと、カメラの前で次々と動きを見せるルビーちゃん。

 

そして少し動きを出そうと思ったのか、駆け足でカメラマンさんに近寄る最中、事件が起きた。

 

「うわっ」

 

バッシャーン

 

川底の凹凸に足を取られたのか、盛大にずっこけた。

 

転んだわけだから、当然あの凍てつくような川の水に、全身を浸すことになる。これは危険。すぐにでも川から上げて、着替えさせてあげないと風邪ひいちゃう。

 

「ルビーちゃん!」

「ルビー!」

「う゛う゛う゛う゛う゛ざむ゛い゛い゛い゛」

 

ガタガタ震えながら川から上がってくるルビーちゃん。ああ、なんて痛ましい姿。代われるものなら代わって………あげたくもないけど、気持ちはルビーちゃんの味方だからね!

 

ルビーちゃんの極寒地獄はまだ続く。

 

彼女は一刻も早くびしょびしょに濡れた服を着替えなければいけない。しかしここは河原。暖房の効いた部屋どころか風を遮る壁すらない。

 

しかし服を着替えるには今来ている服を脱がなければいけないわけで。

 

「寒い寒い寒い!!!」

「頑張れルビーちゃん! もう少しの辛抱だから!」

「タオルは用意できてるわ! 早く着替えてロケ車に入りましょう! 今暖房で温めてくれてるから!」

 

結果ルビーちゃんは無事に着替え、すぐにロケ車で体を温め、事なきを得たのだった。

 

アイドルのお仕事って、大変だぁ。

 

*1
これも小説ですが




最近調子悪い気がする。
自分の書いた文章が面白くない。

完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。

  • 原作沿いのまま完結!
  • オリジナルストーリーで続行!
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