「撮影終了ー!」
長い長い外ロケから戻り、アネモネさんのスタジオで仕事を終えたB小町メンバーが喜びの声を上げている。社長の私としても無事にすべての撮影を終えられて一安心だ。
一時は、と言うか昨日の晩はどうなるかと思ったが、何故かルビーも有馬さんも朝にはすっかり元気になっており、翌日の撮影は大丈夫かと一晩じゅう悶々と悩み続けた私だけがげっそりと疲れ切った状態で朝を迎えることとなった。
まあ、タレントが体調崩すよりはましだけれど。
しかしここで私の心労は終わらない。
撮影は過密スケジュールかつ演者の肉体的負担が大きいものばかり。アネモネさんの脳内コンテのお陰でほとんど準備いらずで撮影に入れたのは嬉しいが、脳内コンテの季節設定が真夏だったのがいけなかった。
季節度外視で真冬にも関わらず水遊びや山歩きと言った内容がメイン。今は真冬。そしてここは標高もそれなりに高い山の中であるにも関わらずだ。気温10度を下回る中真夏用の涼しげな格好をさせられ、カメラが回る度に体を冷やして戻り、しばらく体を温めてまた撮影を繰り返すB小町メンバーにはさすがの私も同情してしまった。
一難去ってまた一難。白骨化死体の発見の次は撮影のせいでタレントたちが体調を崩すんじゃないかと冷や冷やしっぱなし。しかし彼女たちはどうやら想像以上に逞しいらしく、またしても私だけが無駄に気疲れする結果となった。
それでもやっぱりタレントが体調崩すよりはましだけども。
そんな過酷な撮影を敢行した主犯格、と言うか原因となったアネモネさんは何食わぬ顔でB小町メンバーに労いの言葉をかけている。
「皆お疲れ。まぁ後はゆっくり観光でもして行ってよ。」
「明日の昼にはもう飛行機だけどね……」
「全然ゆっくり出来ないわよそれ……。とりあえず温泉でゆっくりしたいわぁ…。」
「だねぇ。」
「早く先輩をむぎゅってして体力回復したい……。」
「あーそれ私もぉ。」
「私は抱き枕じゃないわよ。……まぁ良いけど。」
かくしてPVの撮影は無事に終了したのだった。
・・・
とりあえず温泉で疲れを癒し、旅館の一室で私とメムさんの二人きり。撮影は終了したが仕事の話は残っているのだ。アネモネさんとの窓口になってくれているメムさんには少しだけ話を聞かなければならない。
「ごめんなさいね。皆でゆっくり寛ぎたいでしょうに。」
「良いんですよ。B小町の為にやれること全部やるって決めたのは私ですから。あはは。アネモネとの話はもう済んでます。何でも聞いて下さい。」
このやる気の高さには頭が下がる。
………もう少し緩めてくれても良いけどね? ちょっと怖いから。
「で、本題なんだけど、PVはいつ頃上がるのかしら?」
「スタTの方は急ぎで仕上げて来月中には上がるそうです。POP IN 2の方はちょっと時間がかかります。」
「具体的には?」
「それが何とも。アネモネはただのアーティストに戻りたいなって言ってましたけど、大方自分の作りたいコンテで映像を撮ったからには完璧に編集して良い映像にしたいとかそんな感じだと思いますけど。」
「お友達価格で準備なしで撮影してくれたのだから急かすのも悪いわよねぇ。」
「変に急かすよりも気の済むまで時間かけてもらった方が良いと思いますよ。アネモネの好きにさせればハイクオリティな映像が上がってきます。ここは間違いないです。」
「貴方がそこまで言うなら待ちましょうか。」
「はい。ありがとうございます。」
来月に1本、そしてその翌月か遅くとも翌々月くらいにもう1本がリリースできるわけだ。起爆剤として期待がかかる新曲のPOP IN 2は時間をかけてでもクオリティを追求すべきだし、この流れで問題ないだろう。
「投稿は任せるわね。良い感じに注目を集めて頂戴。」
「任せてください。得意分野ですから。もう種をまき始めてますよ。」
あら有能。
「一体何をしてるの?」
「大したことじゃないですけどね、主にMEMちゃんねるとコラボしたがってるユーチューバーさんにB小町とのコラボを要請するとかです。スタTのPV動画はそれなりに再生数は稼げるはずなので、その前後で集中的にコラボを入れようかなと。」
「なるほどね。」
「その後はPOP IN 2の公開がいつになるかによって予定が変わる感じですね。」
もう全部この人に任せておけば良いんじゃないかしら。
メムさんの働きのお陰で腕の良いアーティストにPV作成をお安く依頼することができ、撮影も1度の出張で済んだ。その上自身が演者として過酷な撮影をこなしつつ既に今後の方針まで決めている。
これが普通の社員なら大いに労ってウチの会社に良い印象を持ってもらうべくヨイショするところだ。しかし。
「何か飲む? ビールでも日本酒でも何でも良いわよ? よく働いてくれたから今日は奢るわ。」
「社長。私にとっての最大のご褒美が何か分かってますよね。」
「……ええ勿論。話はもう終わりだからあの子達を頼むわね。」
「行ってきまぁす!!」
それすら必要ないと来た。ああ、神様仏様MEMちょ様。
嬉しそうに部屋を飛び出していくメムさんを見送り、一人ぽつんと部屋に残される。お仕事の話も終わったところで、冷蔵庫にしまってある少しお高いビールを取り出してグラスに注ぐ。
「はぁ………。どうにかB小町はメムさんのお陰で軌道に乗りそうな雰囲気が出て来たわね。私一人じゃどうしようも無かっただろうし本当に助かるわ………。」
誰もいない静かな部屋でビールを雑に流し込む。お気に入りの銘柄の筈だが初めて出会った時のような美味しさや感動はない。これならそのへんの缶ビールでも飲んだ方が安上がりだ。
心の底からお酒が美味しいと思えないのは、あの男が居ないからだろうか。
「壱護………どこに行ったのよ………。貴方が居ればルビーはもっと早く苺プロでデビューして、今よりもっと売れて………」
思い出すのはいつだってあの幸せだった頃の記憶だ。ドーム公演を目前に控え、アイ個人もB小町も仕事がびっしり埋まり、事務所もどんどん大きくなっていったあの頃。壱護は毎日のように高い酒を飲み、うめぇうめぇとご機嫌だった。
そしてあの日、突然貴方は消えてしまった。娘のように可愛がっていたアイの後を追うように。
苺プロはどうにか持ちこたえた。ルビーとアクアの為、なんとしてでも倒れるわけには行かなかった。会社も、私自身も。家事に育児に社長業と息つく間もなく働き続け、目まぐるしく時間が流れて気づけば12年。
ルビーもアクアもあと3年と少しで成人するところまで来てしまった。ついこの間までほんの小さな子供だったような気がするのだけど。
「私、ちゃんと母親出来てたかしら………。あの子達は聞き分けが良いからほとんど苦労は無かったけど、仕事を理由に構ってあげられないことも多かったわ。社長としても今一つ馬力が足りないというか、勢いがないし………。」
ねぇ壱護、貴方が居てくれたらもっと上手くやれてたかしら?
・・・
「へーここが芸能の……」
「そう。
最終日の午前。この宮崎旅行の一番の目玉である荒立神社へとやって来た。有馬さんが言うように、ここには芸能の神として知られる
この二柱の神様が結婚して住まわれたという言い伝えから、
「折角だからお願い事していこぉ。」
メムさんの声を合図に、皆がお賽銭箱の前に並んだ。各々お賽銭を投げ入れて静かに手を合わせ、静かに目を閉じている。
―――ウチのタレントが問題起こしませんように。
随分と消極的なお願いだ。彼ならきっと………。いや、考えても仕方がない。壱護はもういないし、私は彼のようにはなれない。私なりの方法で必死に苺プロを切り盛りしていくしかないんだ。
「さぁ、行きましょう。飛行機逃すと大変よ。」
「「「「「はーい」」」」」
号令を掛ければ仲良く返事をくれる苺プロ所属のタレントたち(ともう一人)。この子達の未来は私の双肩にかかっている。
どこか神秘的な雰囲気の漂う森の中で、新たに気を引き締める私だった。
8巻分が終了。原作沿いはここまでです。
アンケートの結果通り、ここからはオリジナルストーリーで書き進めていくことにします。復讐抜きで皆が幸せになるルートを追及する方針は変えないため、さしあたり壱護の復帰が当面の目標になるでしょうか。もちろん姉弟たちのイチャイチャも適度に差し込みつつ。
新章突入にあたり、投稿ペースが変わると思います。原作沿いを選んだのは小説をほとんど書いたことが無く話を考える自信が無かったためですが、ここから先は話も自分で考えなければなりませんので。
とりあえずいつの間にか目標になっていた「原作沿いをやれるまでやる」は達成と言う事で一仕事終えた気分です。毎日投稿が96話も続くとは正直思っておらず、自分でも驚いてます。
完結か続行か。原作単行本9巻以降、本格的に復讐劇が話のメインになっていきます。復讐をしない今作において、原作沿いのストーリー展開はここで破綻です。つきましては、8巻の内容で完結とするか原作沿いを諦めてオリジナルストーリーを描き続けるかをここで決めさせてください。
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原作沿いのまま完結!
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オリジナルストーリーで続行!