【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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お見舞いラッシュ

目を開けると、いつもと違う天井。枕も、布団も、部屋の様子も全く違う。

 

「そっか。私入院してたんだ。」

 

全体的に白い部屋。床も壁も布団もシーツも真っ白。ベッドの周りはぐるっとカーテンで仕切られていて、それも白。もう病的なくらいぜっぶ真っ白な部屋。

 

いかにも病院ですって感じがする。

 

生まれてこのかた入院なんてしたことがない。星野ルビーは健康優良児。病気とも怪我とも無縁の人生を歩んできた。

 

ミヤコさんが作る栄養満点のご飯をもりもり食べ、ダンスの練習で毎日汗を流し、可愛い弟を愛でることでメンタルも極めて健やか。昨日まで学校の保健室の場所も良く分かっていなかった。健康診断以外で行かないし。

 

だから病院なんて私の人生とは無縁の存在だった。………少なくとも、この16年間は。

 

「戻ってきちゃったんだぁ………。」

 

何の気なしに呟いた言葉だったけど、これが結構重たく心に響いてきた。この景色、この空気。試しに動こうとすると痛むお腹。自分一人じゃ何もできないか弱い存在。今の状況は私が()()()だった頃とよく似ている。

 

昨日まで元気いっぱいにダンスを踊って動画の撮影もしてたのになぁ。本当に落差がひどい。

 

思い出すのはたくさんの辛い記憶と少しの幸せな記憶。人生の大半を過ごした場所だけに思い出も多い。扉が開くたびにお母さんじゃない人が居て落ち込んだり。ちょっと遠くまで歩いてみたいと思って廊下に出た途端に転んだり。

 

………今だから分かるけどロクな人生じゃなかったんだね。

 

でもそんなひどい生活だからこそママの輝きは際立ってた。せんせの優しさが身に染みた。不幸中の幸いって奴? ちょっと違うか。

 

ていうか、幸せって何なんだろうね。

 

・・・

 

「ルビーちゃん! 大丈夫!?」

「MEMちょ静かに。ここ病院だよ。」

「うわお、落ち着いてるねぇ。ってそうじゃなくて体は平気なの?」

「点滴して寝てれば治るって。多分。」

 

MEMちょが来たのはお昼の2時過ぎ頃。面会できる時間になってすぐの事だ。

 

心配そうな表情の顔はなんだかやつれていて、お肌は荒れ気味。目のクマもひどいし、ちゃんと寝てるのかな。病人の私が言うのもなんだけどちょっと不健康じゃない?

 

「健康には気を付けてね。」

「こっちのセリフぅ!」

 

でも突っ込みのキレは健在だった。さすがお姉ちゃん。

 

「最近動画撮影多かったもんね。大変だったよね。」

「そんなんじゃないと思うけど。部活やってる子も同じようなものだよ。」

「仕事と部活じゃストレスが違うよぉ。とにかく、ゆっくり休んで元気になるんだよ。じゃあお休みぃ。」

 

そしてあっという間に面会を終え、よろよろとMEMちょは病室を出て行った。遠くから「大丈夫ですか?」「お構いなくぅ」って声が聞こえる。ひょっとして本当はもっと疲れてて、私の前では虚勢を張ってたのかな。

 

やっぱり健康に気を付けるべきはMEMちょの方だね。っていうか。

 

「お休みぃ、だって。それは夜の挨拶じゃないの?」

 

やっぱりMEMちょ疲れてるっぽいな。

 

・・・

 

しばらくベッドでぼーっとしてたらミヤコさんが来た。MEMちょとは違いエレガントな佇まい。手にはキャリーケースを引いている。

 

「はいこれ着替え。こっちは歯ブラシとか色々入ってる。あとスマホの充電器も持ってきたわ。」

「タブレットは?」

「あータブレット。アクアがこの後来るでしょうから持ってきてもらいましょうか。」

「うん。おねがい。」

 

タブレットをゲット。やったね。

 

入院生活に花を添える至高の一品だ。さりなの時は病室をママのグッズでいっぱいにしてたけど、今回は短期間の入院なのでそれは出来ない。でも今はタブレットがある。

 

技術の進歩は凄まじいもので、今時のタブレットならとっても綺麗な10インチの画面を軽々と両手で支えて動画なりホームページなりを見ることが出来る。前世の記憶ではテレビは箱みたいな形をしてたけど、友達はそんな形のテレビは知らない。

 

スマホも変わった。昔はスマホでママの映像を見ようなんて思わなかった。だって画面がギザギザで顔が良く見えないんだもん。

 

それが今では目を凝らしてもドットが分からないくらいに細かい画面が当たり前。ママの顔が良く見えて嬉しい限りだ。もちろん私たちB小町chの動画も綺麗に映る。

 

文明の利器のおかげで病院での生活も退屈しなくなったね。

 

「よーし、気になってた動画一気見するぞー。」

「元気そうね。私はもう行くけど、何かあったらすぐに連絡するのよ。欲しいものがあったら持ってくるわ。」

「はーい。」

 

そして颯爽と病室を出て行った。さすがミヤコさん、やっぱり頼りになる。

 

………空元気なのはバレてないみたい。

 

・・・

 

外もすっかり暗くなった頃。アクアと先輩が二人でお見舞いに来た。制服を着てるってことは、学校からそのまま来たのかな?

 

と言う事は、私のタブレットは………?

 

「アクア、ミヤコさんからメッセージ来てなかった?」

「え? メッセージ? ………ごめんお姉ちゃん。タブレットは持ってきてない。」

 

少なくとも明日の昼過ぎまではスマホで我慢しなきゃいけないことが確定した。イヤホンも無いから音すら出せない。これは困ったことになったぞ。

 

「アクア………」

 

お姉ちゃんがっかりしましたの顔でじっとアクアの目をのぞき込む。失敗を咎められてあわあわするアクアが可愛い。

 

一方先輩はそんなアクアをにまにまとにやけた顔で眺めている。ちょっと性格悪いところが出てるね。他人の不幸は蜜の味的な気分に浸っているんだろう。まぁ、思うだけなら自由だ。人に迷惑はかけない。

 

でも、行動に移したなら話は別。

 

「アクア、あんた今から家に取りに帰るべきじゃない? 心配しなくてもルビーの事は私がしっかり見ててあげるから。」

 

言葉の上では真っ当な意見だけど、顔も声も明らかにお姉ちゃんを独占しちゃうよごめんねって感じでアクアを煽っている。これはちょっとオイタが過ぎるよ? 先輩。仮にも私の妹ならアクアとは仲良くしてもらわないと。

 

「先輩?」

 

お姉ちゃん怒ってますの顔でキッと先輩を睨みつける。すると先輩は間違いに気づいて急激に縮こまっていく。こちらも可愛い。

 

「ご、ごめんなさい。」

「分かればよろしい。ほらこっち来て。よしよし。」

 

お見舞いでもやることはいつもと同じな私達だった。

 

その後もアクアと先輩は面会時間いっぱいになるまで病室にいて、今日学校であった事とか、MEMちょが凄く心配してて凄いことになってるとか、やっぱりミヤコさんは凄いとか、色々な話を聞かせてくれた。

 

相変わらずお腹は痛いけど、可愛い弟と妹が私を取り合って我先にと話を聞かせてくる様子を眺めていればそんなことは気にならなかった。

 

「じゃあまた明日な。」

「ルビー、早く元気になりなさいよ。」

「うん。待ってるね。」

 

・・・

 

今日最後の面会もこれで終わってしまった。カーテンで区切られた狭い空間に一人取り残される。アクアと先輩のお話に夢中で忘れていたお腹の痛みがまた意識に上ってくる。スマホで動画でも眺めて気を紛らわそうとするが、音は出せないので没入感に欠ける。

 

そろそろ夜も遅く、病院全体が静かになってくる頃。静まり返った白一色の病室の中、痛みだけは憎たらしい程鮮明に感じられる。大した痛みではなくとも、他に意識するものが無ければ十分ストレスになる。

 

ああ、痛いなぁ。ずっと痛い。痛いだけの時間がずっと続くなぁ。

 

今この瞬間、私は間違いなく幸せじゃない。だって、誰も傍にいないしお腹は痛いし。これからこんな状態で明日の面会までずっとベッドの上に居なきゃいけない。

 

これが不幸って事なんだね。

 

今朝思いついた疑問の答えが分かりそうだ。幸せって何なんだろう? 今不幸が何か分かったから、その逆が幸せって事にしてみれば良い。

 

ズバリ幸せとは、体が痛くなくて、自由に動けて、皆に会いに行ける事だ。………中々いい線行ってるんじゃないかな。

 

そんなことを考えながら、16年ぶりの寂しい夜を過ごす私だった。

 




入院したことが無いので色々想像で書きました。盲腸も未経験です。
でも体が弱った状態で慣れない空間で一人で寝るって絶対怖いですよね。そもそも病院と言う場所がちょっと怖いというか異質ですし。
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