一撃女   作:無名戦士

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サユリ:オリジン(1)

 家族が怪人に殺された。

 父さんも、母さんも、姉さんも、お爺ちゃんも、お祖母ちゃんも・・・。

 みんな殺された。

 私は、ボランティアに参加していたお陰で怪人の襲撃から生き残ることが出来た。

 

 だからなんだというんだ。

 大切な家族は全員殺され、帰るべき家は警察の調査が入ってホテル暮らし・・・。

 頼れる親戚もなく、これから一人で生きなければならない。

 

「どうしよう、これから・・・」

 

 公園のベンチに座り、ただ項垂れる事しかできない。

 これが夢なんじゃないのかさえ思えてくるほど、現実味がない。あの家に帰ればまたあの日常に戻れるような気がしてならなかった。

 しかし現実は非情だ。携帯の通話履歴を見れば警察の電話番号が、ネットを見れば今回の事件がニュースサイトで取り上げられ、これが現実だという事を物語っていた。

 

「なんで、こうなったんだろ」

 

 困っている人を助けたい理由でボランティア活動に積極的に参加し、それを生きがいにしてきた。

 別にそれらの行いに対して報酬が欲しかった訳ではない。けれど、それでも私は人だからちょっとばかり良い事があってもいいのではないかとも思っていた。

 その結果が、これだ。今までたくさんの人を助けてきたのに、なんでこうも私の大切な人の命が簡単に奪われなければならないのか。

 今までやってきた私の活動をすべて否定するかの如く、怪人は私の全てを奪っていった。

 

「もう、どうだっていいや・・・」

 

 死のう。

 そんな考えが脳裏を過る。家族が殺された今、これ以上生きていても意味がない。それに最近は怪人が増加傾向にあるらしく、自分と同じ境遇になる人もうんと増えていくだろう。

 想像しただけで吐き気を覚える。

 怪人は人間には勝てない。警察や軍隊が持つ火器ですら効果が無い場合だってあるのだ。

 このまま生きてもいずれ怪人に殺されるのは容易に想像できる。ならいっそ、世界が地獄みたいになる前に────

 

「あー、はっはっはっはっ!」

 

 私の思考を遮るように、笑い声が公園中に響く。

 視線を向けるとサラリーマンの恰好をした男と腰を抜かした顎が異様に大きい子供───そして怪人の姿があった。

 

「ヒッ・・・!」

 

 声にならない悲鳴を上げ、恐怖で体が硬直する。

 逃げなきゃいけないのに、まるで蛇に睨まれたカエルのように体が動かない。

 

「なんか思い出した。お前、昔見たアニメの悪役そっくりだわ!」

 

 怪人を前にしている筈なのに、その男性は面白そうに怪人の姿を見て笑っていた。

 あんな人を見るのは初めてだ。

 怪人は大抵自尊心が強く、ちょっとした挑発でさえ激昂する可能性があるのだ。そんな誰でも知っているような常識なのに、男性は平然としている、ハッキリ言って自殺行為にも等しい。

 

 案の定男性は怪人のカニのような腕によって殴られ、盛大に吹っ飛んでいった。

 当たり所が悪ければ死に、そうでなくても骨折していても可笑しくはない。

 私はただ、その光景を見る事しかできなかった。そして、怪人はその巨大な目を未だへたり込む子供へと向ける。

 

「ッ!」

 

 その光景を見た瞬間、私の身体は勝手に動き出した。

───あのままでは殺される。

 一目見ればわかる。あの怪人は、元からあの子供を殺すためここに来たのだ。

 

「逃げてッッ!」

 

 もう誰かが死ぬのは見たくない。その一心で子供に駆け寄り、首根っこを掴んで怪人から距離を取らせた。

 距離を取らせた、と言っても精々十数センチ程度だが、我を返させるのには十分だった。

 我に返った子供は私の声に従い、悲鳴を上げながら走って逃げていく。

───よかった。

 それでいい。私が割って入った事に怪人は驚き、子供が逃げるだけ時間は確保した。

 あとは私が逃げるだけだが、どうやらそんな余裕はないらしい。

 

「キミも俺様の邪魔をするのかぁぁっ!?」

 

 激昂する怪人を横目に私は武器に使えそうなものを探す。

 刃物はない。しかし胸ポケットにあったシャーペンがその代わりになるかもしれない。

 せめて包丁の一本でもあれば状況はマシになるかもしれないが、あの見るからに丈夫そうな殻を刃が貫けるとは思えない。

 

「殺してやるッ!」

 

 カニのような大きな腕を振り上げ、私を潰そうと狙いを定める。

 それを見た瞬間、恐怖で体が強張ってしまう。最後の最後でやっと自分らしく行動できたというのに、肝心な時に体がいう事を聞かなくなる。

 

───死にたくない。

 そんな事を、思ってしまった。これが私の本音なんだろう。

 本当はずっと生き続けたい。そして、家族の分まで幸せに生きていきたいのだ。

 それなのに、私は死にたいと思ってしまった。

 

「ははっ・・・」

 

 きっと、これは私に対する罰だ。

 そうとしか思えない。やっと自分の本音を理解できたのに、死は目の前に迫ってきている。

 けれど、子供を助けたことには悔いはない。それだけで十分だ。

 

 

 死を、覚悟した。

 

 

「待てコラ、この少子化時代に子供を殺そうとするなんて見過ごせん。ましてや女に手を挙げる上げるのも言語道断!」

 

 殴り飛ばされた筈の男性がそこに立っていた。

───なん、で。

 分からない。頭から血が出ていて明らかに軽症では済まない筈の怪我なのに、あのまま気絶した振りでもしていたらこれ以上怪我をしなくて済むかもしれないのに・・・それでも尚立ち上がるのか分からなかった。

 

「また思い出した。俺、小さい頃ヒーローになりたかったんだよ。サラリーマンじゃなくて、テメーみてーなあからさまな悪役を一撃でぶっ飛ばすヒーローに・・・なりたかったんだよ」

 

 やっと理解できた。

 彼はヒーローだ。誰かの為に戦うヒーローとしてこの場に立っている。そんな彼を見ていると、不思議と恐怖が消えていた。

 

「かかって来いコラ!」

 

 私の目に映る男性の姿は、この世界の誰よりもカッコよく見えた。

 

■■■

 

───たす、かった・・・?

 怪人の死体を見る限り助かったのは確かだ。

 ならどうやって?分からない。

 状況の変化が速すぎて頭が付いていけてない。とにかく、そんな感じだ。

 

「大丈夫か?あんた」

 

 どきりと心臓が跳ね上がる。

 怪人を倒した男性が顔を覗き込むように私をジッと見ていた。

 

「えっと、はい・・・大丈夫です」

 

「うし、ならよかった」

 

 ニッと笑い、私に手を差し伸べる。

 私の心配より自分の心配を優先したらいいのに。と思いつつも口には出さない。

 ここは彼の厚意に甘えた方がいいだろう。

 

「あの、ありがとうございます。怪我、大丈夫ですか?」

 

「ん?大丈夫じゃなか?意識もはっきりしてるし」

 

「包帯持っているので応急処置くらいはさせてくれませんか?」

 

 せめてそれくらいはやっておかないと私の気が済まない。

 それに、傷口から細菌が侵入して感染症を引き起こす可能性も十分に考えられるから余計に放っておけないのもある。

 

「助かる」

 

 返事を聞いた私はさっきまで座っていたベンチまで走って行き、バッグを取りに向かった。

 バッグから消毒液やガーゼ、テープなどを取り出し男性の手当を始める。

 

「凄い、ですね。怪人を倒すなんて・・・」

 

「そうか?」

 

 頭の傷口に包帯を巻きつけながらそっと呟く。

 基本的に怪人退治は警察か軍の特殊部隊の仕事だ。少なくとも、一般人が相手にするような存在ではない。

 人に害を与える事があるイノシシや熊と言った害獣とは違う。超常的な力を持つ生き物、それが怪人だ。

 それでも尚立ち向かう男性は、私にとってとても眩しく見える。

 こんな人になりたい。そう思った。

 

「ヒーローに、なりたいんですよね?」

 

 おずおずと聞いてみる。

 ヒーローになりたい。確かにこの人はそう言っていた。

 

「まあ、そうだな。就活全戦全敗の俺が言うのも馬鹿らしく聞こえるけど」

 

 気恥ずかしそうにはにかみ、空を仰ぐ。

 

「ガキの頃、ヒーローに憧れていたのを思い出してな。それを・・・目指そうと思う」

 

 そう言いながら、空に手を伸ばした。

 私も子供の頃、憧れていた職業があった。ケーキ屋さんにパン屋、女優、獣医師・・・時が経つにつれてその憧れは色褪せて行ったが、この人の夢は今も輝きを失っていない。

 素直に羨ましいと思った。

 

「素敵ですね、それ・・・。頑張ってください」

 

 心の底から応援したい。そんな気持ちが湧き上がってくる。

 だから、私は思わず微笑みかけた。

 

「おうよ・・・」

 

 すると男性は照れくさそうに頬を掻き、そっと顔を背ける。

 この人はきっと、多くの人を助けるかもしれない。そんな感じがした。

 

 そこで会話が途切れた。

 包帯を巻く音と環境音だけが流れ、時が流れていく。

 ───何か話さないと。

 そう考えるもこれと言った話題が思い浮かばない。

 何か新しい話題がないか悩んだが、結局応急処置が終わるまで沈黙が続いた。

 

「これで一応終わりです。傷は深くありませんが、念のため数日の間激しい運動はやらない方がいいです」

 

 素人の意見ですが。と最後に付け足し、余ったキットをカバンの中にしまう。

 少なくとも病院に行くほどの怪我ではないと思う。最終的な判断はこの男性に委ねられているが、大丈夫だろう。

 

「サンキュな、自分でやる手間が省けた」

 

「はい、こちらこそありがとうございます。感謝してもし切れません」

 

 そう言いながら頭を深々と下げる。

 男性は困惑していたが、それでも下げ続けた。

 今日助けられたのは子供だけではない。私と私の心が救われたのだ。

 家族を失った絶望から救ってくれた私のヒーロー。それが彼だ。

 

「おう、ヒーロー・・・だからな・・・」

 

 すっくと立ち上がり、男性はその場から立ち去ろうとする。

 

「あ、あのっ!」

 

「・・・?」

 

「また、会えますか?」

 

 咄嵯に出た言葉だった。

 もう二度と会う事はないかもしれない。けれど、それでも私はこの人と話がしたかった。

 どんな人なのか、知りたい。ただそれだけだ。

 突然の質問に驚きつつ、彼はこう答えてくれた。

 

「おう、そのうち会えるだろ」

 

 ただ一言そう言い、彼は颯爽と公園から出ていった。

 格好よかった、と改めて思う。

 今後、彼は数多くの人を助けるだろう。そんな感じがした。




某ワンパンマン二次創作を見つけてそれに強く影響されました。
元ネタの更新が絶望的でもう自分で新しく書くしかないと思った次第ですね。
元ネタを意識して書いているからか結構被っている要素が多くて盗作判定を受けないかが心配。
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