虎杖悠香は虎杖悠仁には届かない〜羂索さん家の今日のご飯〜 作:母親面
悪夢を見た、いつものように忘れ難き悪夢を。
ボサボサの髪をかき分けながらベットを降り、自室を出て顔を洗う。
すると、後ろから声をかけられた。
「いつにも増して顔色が悪いじゃないか、どうしたんだい?」
「いや、元はと言えばお前のせいだろ羂索」
ツッコミと共に二人は洗面台の前で朝の挨拶を交わす、これが私の日常。
何処かで歯車が狂ってしまった虎杖悠香の記録。
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「チーズINハンバーグ一つ」
仙台への出張任務、それが今回五条悟に下された指令であった。
だがその内容は普段の呪霊討伐とは違い最近噂のとある呪詛師の捕獲、仙台まで辿り着き流石に一日では終わらないと考えた五条はスマホを取り出すと、ご当地グルメを調べ始めた。
呪霊案件で全国各地を巡る五条悟、肝心の呪霊はすぐさま払ってしまうためその後の時間は空いてしまうのだ。
空いた時間で腹を満たす、級術師であり御三家の人間である彼に取って食事代はどれほど高くても気にする程の事ではない。
そのような事情もあり彼にとって任務先での食事は楽しの一つとなっているのだ。
「それとドリンクバー」
厚切りの牛タンを味わってもいいし海の幸に舌鼓を打つのも悪くない案だ、そう思っていたのだが気まぐれな彼の目に留まったのはなんら珍しくないファミレス。
たまにはこういうのも良いと思い入店、人気メニューであるチーズINハンバーグを頼んだというのが事の次第だ。
「初めまして、現代最強」
そんな彼の前に現れたのは黒いフードを被った少女、遠慮する様子も躊躇いも無しに彼の向かいの席へと腰を下ろした。
当然ながら五条悟に待ち合わせの予定はない、今回の仕事は最低でも一級以上と推測される呪詛師の捕獲、そんじょそこらの術師が同行しても邪魔なだけだからだ。
「君、誰?」
五条悟の口から当然の疑問が飛び出す、とは言っても彼の脳内では目の前の人間の正体は大雑把ではあるが推測出来ていた。
六眼は、見抜く。
黒のフードに施された隠蔽などお構いなしに、その目の前に科学的迷彩も呪術的防御も意味はなく。
「通りすがりの野良術師ってところかな。まぁ、別に特に目的とかあったわけじゃないんだよ。フラッと歩いてたらたまたま貴方を見つけてしまって」
「へぇ、フラッと歩くのに『伊織の糸』で編まれたフードを着てるんだ」
「材質まで……⁉︎いや、むしろ当然かな。六眼があるんだし」
見るからに驚きながら少女はフードを取った、現れたのはピンク色の髪の少女。
伊織の糸という呪具名を言い当てられた事から多少の動揺が見て取れる。
平安時代末期に菅原の人間により創り出されたその呪具は、『術師力を隠すべし、無用な敵を作る事なかれ』と言った制作者の意図そのままに、編まれた布は呪力を通さなくなり着用者一般人に紛れる事が可能となる。
糸そのものの量は多く、五条家にもその一部が存在するため彼は言い当てる事が出来たのだ。
「まぁ、それは良いんだけどさ。君から両面宿儺の呪力を感じるってのはちょっとスルー出来ないよね」
五条悟にとって最も衝撃だったのは少女から感じる呪力。
それはまさに高専に保管されている特級呪物、両面宿儺の指と酷似していたのだ。
「……そうですね、その話をしに来たんです」
「それ、
「……人に聞かれてどうこうって話じゃないけど、出来る事なら二人っきりで話したいかな」
五条悟は思考する。
今回の目的の呪詛師は人を害するタイプではない、それ故に殺害ではなく捕縛。
場合によっては高専への勧誘も視野に入れている程だ。
少しばかり目の前の少女に時間を使っても問題はない、そもそもの話どんな事情があったとしても宿儺の指と同じ呪力を放っておく事なんて出来やしない。
そして彼は────
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「後は頼みます」
その言葉が呪いのように彼を伝って私を苦しめた。
私はそうじゃない、その人じゃないのに。
「悪くなかった!」
彼はどうだか知らないが、私はその言葉が理解できなかった。
だからきっと私は虎杖悠仁にはなれない。
「急にらしい事を始めてしまったなと思って」
黙れ羂索。
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「親は……仕事?」
「えぇまあ、アレを仕事に含めたくは無いけど。あ、そういえば水飲みます?」
「ファミレスでドリンクバー飲んだしいいかな」
フードの少女の家はこの近くにあるらしく、どうせならそこで話そうと言う事になったのだ。
五条悟はこれを呪詛師の罠かどうかなど一切考えはしなかった。
場所を指定したくらいで自分を殺せる程の術師などは今現状存在しない、危機感を感じる必要そのものが無い。
それに加え、彼にはほんの少し好奇心があった。
そして少女の誘いに乗って辿り着いたのはマンションの一室、表札には虎杖と記されていた。
「じゃあ座っといて、色々説明の準備をしてくるから」
敬語と素らしきモノが入り混じった口調で、少女は彼に話しかける。
五条悟は言われるままに椅子に腰変えると、グルりと周囲を見渡した。
まず感じたのは呪力の残穢、それは少女以外にも最低二人の術師がここに出入りしている事を示していた。
それに加えて幾つもの呪具の気配、それに気づいた五条は笑みを浮かべていた。
「とんだ棚ぼただね」
年がら年中人手不足の呪術業界、そこに現れた少女は恐らくかなりの実力者、それに加えて呪具のコレクターの可能性有りときた。
彼の思考はすでに勧誘へと傾いていた。
「さて、準備終わりっと」
彼が独り言を呟いた次の瞬間、自室らしき場所から箱を持って出てきた少女が彼の前の椅子に座った。
オレンジジュースのペットボトルをテーブルに置き、厳重に呪符で包まれた箱も置いた。
「はじめに言っておくけど、私の事情や過去には言えない事が多すぎる。
「言えない、そうなると縛りでも結んでるのかな?」
「そーいうこと。子供の頃に縛りを結んじゃってね、それから色々と話せない事が増えたんだ」
「それは君の同居人の術師と関係があるのかな?」
「……言えない。というかなんでわかったんですかこの家に私以外の術師がいるって」
少女は驚いたように一瞬目を見開くと、数瞬の沈黙の後にそれを否定した。
「うーん、君術師としての経験少ないでしょ。残穢の事が頭から抜けてるんじゃない?」
「あっ、カンペキに忘れてた。そうだそういえばそうだよ、それがあったよ」
あー、と唸りながら額を抑える少女。
しかし五秒もすると切り替えが済んだのかキリリとした目で再び話し始めた。
「私のど忘れは置いといて、本題に入りましょう」
そう言いながら少女は呪符を剥がして箱を勢いよく開けた。
「……マジ」
「えぇ、宿儺の指2本、それがこの箱に封印されていました」
六眼ですら見抜けなかった真実、宿儺の指の存在。
「そして私の名前は虎杖悠香、千年生まれてこなかった宿儺の指に耐えうる程の器」
五条悟の驚きを置き去りにして少女の話は進む。
「単刀直入に言うよ、私は貴方と取引がしたい。差し出せるモノは後で示す。そして私の要求は二つ、一つは恐らく私を死刑にしたがるであろう上層部への牽制」
宿儺の指すら封じる檻、そんなモノ彼は見たことがない。
「もう一つ。まぁこれも直球に言おっか。私を呪術師にして欲しい」