完璧で究極なアイドル様に執着されて   作:肉ぶっかけわかめうどん

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この作品は多数の独自解釈や設定を含みます。
原作との展開剥離、一部キャラの株下落などが発生する恐れがありますのでご注意ください。


今からガチで出会います

 

 ジャパンアイドルフェス。数多くのアイドルたちが集まるイベント、らしい。私は芸能界とか興味ないからこれがこの業界でどれだけの重みのあるイベントか分からないけど、人はかなり多く集まっているようにも見える。暑い。

 

 

 今日はかつて大人気だった伝説的アイドルグループの名を襲名した新人アイドルグループ『B小町』のデビューの日。

 

 重曹ちゃん……じゃなかった、元天才子役にして現アイドル。センターを務める有馬かな。サイリウムは白。

 実は年齢サバ読みしてる25歳。でも10代後半に負けぬパフォーマンスを披露する黄色のサイリウムのMEMちょ。

 そしてかつての母と同じ赤をサイリウムに選んだ最年少メンバーの星野ルビー。技にはまだまだ拙い部分が見受けられるが、不思議と引き込まれるようないい笑顔をする。

 

  

 そんな一流たちに技量では及ばないが、それでも必死の練習と情熱が掛けられているのが伝わる激しいダンスと歌を披露する三人娘の前で踊り狂う姿が二つ。

 爽やかに汗を流しながら三本のサイリウムを振り回す主人公のアクア君。でもすました顔のままでぶんぶん踊っているので周囲が若干引いている。

 その隣でかつての自分の赤を振って踊る美女。最初はぎこちなかったが、振り付けを覚え終わったのかアクア君と完全にシンクロした見事なオタ芸を披露している。しかし周囲は彼女には目を向けない。

 

「……」

 

 誰にも見えていないその背中を、赤いサイリウム片手に私はじっと見る。

 

 

 ねえ。

 

 娘の晴れ舞台を見られて満足でしょう?

 息子と一緒にお祭りで騒げて満足でしょう?

 

 だからもう、いい加減成仏してくださいませんか?

 

 星野アイさん。

 

 

 

 

 黒川あおい。今世における私の名前。

 黒川あかねの双子の妹として生まれるも、姉と違い演劇には興味を示さず平凡な一学生をやっている。

 

 私には一つの特技があった。それは霊能力である。

 前世では本業……といってもただの会社員をやっている傍ら、この特技を用いて副業をしており、中々の副収入になっていた。

 霊能力を用いた副業といっても霊媒だのお祓いだのと言ったいかにもな事をするわけでは無く、変な写真が撮れてしまって心配だとか、心霊スポットに行ってから何だか体の調子が悪い、等のちょっとした心霊トラブルの相談に応じるだけの簡単なものである。

 経験上、この手のトラブルはおよそ九割が相談者の思い込み、ただの気のせいであり、その誤解を解いて少しばかりの相談料を頂く楽な仕事だった。ごくまれにガチのお憑かれ様がやってきたりするが。

 

 そんな前世の私の最後は呆気無いものだった。

 久方ぶりのガチ案件。とにかく見るだけ見て欲しい、と提示された破格の報酬に目がくらみ、迂闊に足を運んでしまったのが運の尽き。

 一目見た瞬間に詰んでると理解できた。あと依頼者がクソ野郎だった事も。あの藁にも縋る思いはそういう演技だったのか。名演じゃん完全に騙されたわ。魔が差すとか、魅入られるといった表現はあるけれど、生きながらにして悪霊と化したような堕ちた生き物。人ってあそこまで豹変できるんだね。

 せめて道連れにしてやろう、と最後に呪詛かけてやった。効果出てたら良いな。

 

 

 

 そして始まった新たな人生。ここが『推しの子』世界であることは早い段階で気が付いていた。

 まあ気付いたからといってそれで私の何かが変わるわけでは無い。ただでさえドロドロの物語なのに変に介入したせいで奇麗に終わらなくなったら大変だし。私はこれまで通り、普通の学生しながらたまに前世から引き継いだ霊能力で小遣い稼ぎをするだけの日々を送るつもりだった。

 前世でそれが理由で死んだくせに懲りていないのかって? 普通にバイトするのが馬鹿らしくなるくらい楽に稼げちゃうんだよねこれ。きっと今世の死因も同じになるだろうけど辞められない。来世ではちゃんとします。

 最近は名が広まってきたのか神社やお寺さんから依頼されるようにもなってきた。昔ならともかく、今はお坊さんだって力の無いただの人が大半だし、そういう相談しにお寺にやってきた人達に私を紹介してくれたりする。

 

 

 運命の出会いをしてしまったのはとある豪雨降る台風の日の夕方。

 話題の恋愛リアリティーショー『今ガチ』の収録に参加していた演劇やってる姉、あかねが共演者に怪我をさせてしまった。あかねに悪意は無く、相手も恨んでなどいないよくある不幸な事故。しかし世間からのバッシングは激しく、あかねはそれを真正面から受け止めてしまい精神に大きなダメージを負った。

 収録中の事故を知らぬ母も娘の異常にはさすがに気付いており、できる限りあかねと一緒にいてほしい、今あかねを一人にしない方がいい気がする、と私に頼んできていた。私は大丈夫だと知っているから安穏と構えていられるが、そうでない人たちからは心配で仕方なかっただろう。

 実際これからあかねは自殺未遂を起こすのだし。流石にこれを断ると薄情者呼ばわりは避けられない。姉の動向に可能な限り目を光らせる事を約束する。

 

 

 その日も誰にも言わずふらりと家を出たレインコート姿の姉を追い、こちらに気付いたら逃げるかもしれないから傘で顔を隠しながら尾行していた。

 当てもなく、フードで顔を隠して町を徘徊するだけの、生きながらにして幽霊のようなあかねの姿。たまにすれ違う通行人のほとんどが顔を強張らせている。正面から見たあかねの顔はきっとひどい状態なのだろう。

 

 原作展開はまだなのか。あれ確か台風の日だったはずだからもうすぐ主人公が現れるはずなんだが……あかねを見失わない範囲できょろきょろと目的の人を探していると突然後ろから肩を掴まれた。

 

「あかね……っ!」

 

 驚きと共に振り返れば、視界一杯のイケメン。誰かと思えば原作主人公の片割れこと星野アクアではないか。

 

「す……すみません、間違えました!」

 

 私とあかねは双子であり、背格好はよく似ている。近くで見ればさすがに別人だと分かるが、ある程度距離があったら判別困難だろう。

 今まさにあかねを探していたらしいアクアは間違えて私の方を捕まえてしまったようだ。

 二秒ほど、私の顔を覗きこんでいたアクアが慌てて頭を下げてくる。

 

「あ……」

 

 アクアが頭を下げた瞬間。アクアの背後にいたそれと私ははっきり目が合ってしまった。

 星のきらめきにも例えられた大きな瞳にもう光は無く。流れる黒髪は闇の帳のように空間を切り取っている。少し口角を上げるだけで数多を魅了するであろう薄い唇は今は何も主張せず固く結ばれている。白いエプロンには真っ赤な痛々しい染みが大きく広がったままだ。

 

「星野……アイ」

 

 さっきまで、気配なんかなかった。ここまで近付かれて私が気付かない? 祓うのはともかく、探知にだけはそれなりに自信あったんだけど。

 

 いや、もうそんな事を言っても仕方ない。いまここにあるのは私が最悪の対応をしてしまったという事実だけだ。

 死者とはっきり目を合わせて、反応を返してしまった。もう、私が『視えている』事は完全にバレた。

 霊への対応は無視こそが最善。自分が見えていない相手に積極的に干渉をかけてくることは少ない。霊とは未練、強い感情の残滓であり、感情とは他者にぶつけて初めて意味を成すものだから。

 だから、霊は自身を認識してくれる相手にはとことん執着する。感情を受け止めてもらおうとあの手この手で干渉する。

 

「えっ」

 

 さすがにその名は聞き逃せなかったか。アクアが頭を上げて私をじっと見つめてくる。

 またアクアの顔で隠れてくれた、と思ったら今度は横にずれてきた。アクアの右肩に顎を乗せるような形でまたこちらをじっと見てくる。

 

「あっ、えっと……」

 

 その視線から逃げるように私は周囲を見渡し、少し遠くの歩道橋にあかねの姿を見つけた。

 

「あ、あそこにいますよ!」

 

 指さした先にいる、今まさに歩道橋を上がっていくあかね。アクアも視力に問題は無いらしく、彼もあかねに気付いてくれたようだ。

 

「姉をよろしくお願いします、アクアさん!」

「あ、ああ、わかった!」

 

 背中をぐいと押して、アクアに先を促す。彼も私に聞きたい事はあれど、今はあかねが優先で動いてくれたようだ。雨の中を走り、あかねの元に向かっていく。

 

 

 

 危惧したような事態は起こらず、原作通りの展開に収束した。

 限界まで追い込まれていたあかねをアクアは間一髪で止められた。めでたしめでたし。

 

「……」

 

 ほら、アクア君帰ろうとしてますよ。ついて行かなくていいんですか?

 

「……」

 

 無駄な事だと知りつつも、そっぽを向いてみる。向いた先に移動してきた。

 ああ、これもう完全に家まで憑いてくるパターンだな。

 見た感じ、今はそこまで悪い存在には見えない。ちゃんと供養してもらえているのだろう。とはいえいつ変化するか分からない。良い幽霊は成仏した幽霊だけだ。家族友人、かつて親しい間柄だったからこそ呼ばれて連れていかれそうになるなんてよくある話で、その時はこうして縁を持ってしまった私の方も危うくなる可能性もある。

 どうしよう。

 

 

 

 

 台風の中ふらりと出かけ、帰ってこない黒川あかねを探して街をさ迷っていた時に見かけた後ろ姿。

 肩を掴んで振り返させた彼女の顔を見た時、オレは自身の誤りを悟った。後ろから見た姿はそっくりだが、前から見ると細部に違いが見える。

 

「す、すみません、間違えました!」 

 

 間違えて別人に掴みがかっていた。叫び声の一つも挙げられても仕方の無い状況であり、下手に警察沙汰にでもなろうものなら大変だ。呼ばれてしまっては逃げるわけにもいかず、あかねの捜索どころではなくなってしまう。

 間髪入れず頭を下げ、先を急がせてもらおうと口を開きかけた矢先、オレの耳は思いもしない名前を拾っていた。 

 

「星野……アイ」 

 

 なぜここでアイの名前が出る?

 親子なのだ。探せば顔に面影くらいは見つかるだろう。

 だが、百歩譲って妹のルビーならばともかく男の自分をアイと見間違えるなどありえない。 

 下げていた頭を上げ、視線を合わせようとすると露骨に目をそらされた。

 

「……あ、あそこにいますよ!」 

 

 話をそらしにかかっているのが丸わかりな声色で離れた位置にあった歩道橋を彼女は指さす。

 一応その先を確認すると、まさに探していた人物が歩道橋を登っているところであった。黒川あかねを探している、などと一度も言ってはいないのにどうして分かった? 

 

「姉をよろしくお願いします、アクアさん!」

 

 背中をぐいと押される。

 問いたいことは山ほどあるが、今はあかねが優先か。 

 

 歩道橋の上から道路を見下ろすあかねの顔は真っ暗だった。薄暗い中でも一際主張する異様な闇。

 今まさに飛び降りようとしていた彼女を確保し、暴れるあかねを落ち着かせる。

 

 静かになったあかねをそのまま抱き留めつつ、先の彼女がいたはずの街角に目をやるが、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 後日、精神的に立ち直りつつあるあかねにあの事を尋ねてみた。

 

「妹? 確かにいるけど……あおいも私の事、探してくれてたんだ。見た目の割に大人びたというか、ちょっとひねくれた部分もあるけど、良い子なんだよ」

 

 二人で撮ったという写真も見せてもらった。確かにあの時会った子だった。

 さらに情報を得ようとあかねに質問を重ね、それに快活に答えてくれていたあかねだったが、何度目かの質問の後、その表情を突然暗くした。

 

「なんであの子の事ばっかり聞くの? そんなにあおいが気になる……?」

 

 しまった。気がはやりすぎた。

 アイの事となるとどうにも冷静さを欠いてしまう。もっと時間をかけてじっくり情報を集めるべきだった。

 最初は暖かった周囲の目線もこちらを咎めるそれに変わってしまっている。

 謝罪、そして放課後に二人で行動する約束の取り付けを行い、一度場を解散する。

 

 黒川あかねは使える。

 そんなあかねとの関係は維持しつつ、何とかその妹から話を聞く機会を作らなければ。そのために、今はとにかくあかねを宥めよう。

 

 

 

 

 

 その晩、私は夢を見た。

 

 どこか知らない部屋の中で、赤ん坊が二人、腕の中で幸せそうに眠っている。

 小さな子供が一心不乱にノートに何か書き殴っている。ぶつぶつと何か呟いている。

 小学生ぐらいの子供が二人、記念写真を撮っている。片方は満開の笑顔、もう片方は作った笑顔。

 

 その他にも、場面は次々に切り替わりつつ、二人の子供の成長が写されてゆく。

 

 音が無くとも、光が無くとも。この視点の主が何を伝えたかったのか、分かった気がする。

 

 悲しいのだ。

 我が子が復讐に囚われている事ではない。

 自分自身に嘘をついている事が悲しいのだ。

 

 

 彼女は世界で一番の大嘘吐きだ。

 ウソかホントか、もう区別がつかなくなってしまった愚か者だ。

 それでも最後にたった一つ、嘘じゃないと信じられるものを見つける事が出来た。

 

 だからこそ。

 自分に嘘をつくのだけはやめてほしい。

 君だけの人生を生きてほしい。

 

 私みたいに、ならないで。

 

 

 

 

 ああもう。なんてもの見せてくれるのか。

 こんな副業やってれば、人間の汚い部分を目にすることはよくある事だ。それでも辞められないのはたまには綺麗なものにだって出会えるからだろう。

 それに私、困ってる人に縋られると弱いんだよなぁ。他の視える、かつ手を貸してくれる人が現れなければ、彼女は今後も嘘に塗れる我が子二人をただただ見ている事しかできないのだ。

 

 

 

 

 

 長い夢から覚めると、そこは視界一杯の星野アイだった。

 

 相変わらずその瞳に光は無い……というか眼球が無い。真っ暗ながらんどうの眼窩で私をじっと見下ろしてくれている。

 予告なしで迫力満点のどアップに私は思わず飛び上がり、そのままベッドから転落する。心臓に悪い事はやめてほしい。漏らしたらどうする。

 したたかに体を打った私を見下ろして、アイはご満悦のようである。軽い悪戯のつもりなのだろう。

 

 きっと家でも彼女はこうして、子供たちの寝顔を見守っていたのかもしれない。しかし彼らは視えないから、何も反応を返すことは無い。

 こいつめ、リアクションを返してくれるのがそんなに嬉しいか。嬉しいんだろうなぁ。

 

「ああもう……」

 

 憑いてきちゃったものは仕方ない。

 原作主人公兄妹に嘘つくのをやめさせて、新たな生に前向きにさせる?

 私が一番やりたくなかった事の最たるものじゃないか。

 

 

 ま、できる限りはやってみて、そして結果がどうなるにせよお早めに成仏願うとしようか。

 

 

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