完璧で究極なアイドル様に執着されて 作:肉ぶっかけわかめうどん
自身の生きる目的は何か。それを明確に自覚して生きている人間はどれだけいるだろうか。
雨宮吾郎にとっては日々の業務が生き甲斐そのものだったと言えるだろう。患者は、子供は、出産予定日は、そしてB小町のイベントは待ってはくれない。毎日が今すぐにやらなくてはいけない事でいっぱいで、休んでいる暇などなかった。そこに至るまでの道にはいくらかの不本意があったといえど、それでもそれなりに幸せな日々が送れていたし、これも一つの充実した日々と言えるだろう。
星野アクアとなってからは、大切な家族や仲間達の笑顔を明日も見ることや、いつか来るその日に向けて牙を研ぎ続ける事が生き甲斐だった。
しかしその振り上げた拳を向ける相手はもういない。黒川あおいを信用するなら、探し求めていた黒幕は事件の直後に死亡しているらしい。つまり星野アクアのこの12年には、何の意味も無かったのだ。
幼少の頃、怨恨の赴くままに書き上げた計画も、独りで背負って皆を捨てて、独り地獄に落ちてでもと成してみせるという決意も、全ては役者の虚しい一人踊りであったのだ。
ではこれからは何のために生きればよいのだろう。アクアの頭に残ったものは二つ。やはりというべきか、それはアイとルビーだった。
アイの夢と、ルビーの夢の為に力を尽くす。それが今すぐに思いつく、己のやるべきことだった。それらが叶ったら、次は……いや、そんな先の話は今はいい。
と言ってもルビーの夢の為に己にできる事はそう多くない。B小町の前に塞がる壁は、B小町の力で超えていかなくてはならない。
ではアイの夢ならどうか。これなら可能だ。元よりアクアがしたかった復讐と同じ路線の上に存在しているため、これまでの準備の多くが流用できる。というより両立するように計画を立てていたのだから当然でもあるが。
それが望みというならば仕方ない。どうせもう復讐はできっこないのだ。自身を取り巻くすべてに区切りをつけて、新たなスタートラインを創る。まだ時期尚早と眠らせていたあの映画を、始めるべき時が来たのだろう。
勿論あの霊能者にも手伝ってもらう。望みを叶えるのが仕事というなら、これだって業務のうちに入るであろう。幽霊がいるというだけでは説明がつかないものは数多くあるが、それらは今は横に置いておく。いくら考えても分からないので考えるのにちょっと疲れてきたとも言う。
その件の人物は業務のさらなる追加を考えられているとも露知らず、テレビ局内の撮影スペースでのんびりと写真の束と格闘していた。
ディレクターの隣に用意された席で段ボールに並々と入れられた写真を手にとって数秒眺め、並べられた別の箱の中に入れる。この作業と並行して恐怖体験再現ドラマの撮影についてあれこれディレクターと話している。
以前のロケに居なかったスタッフやタレント達からは『誰だこいつ』という目線が飛んでいるが、当人は気にも留めず堂々としていた。
テレビのお仕事二日目は思いのほか大変だった。台本読んで感想を言うだけと聞いていたはずなのだが、実際に行ってみると次から次へと仕事を持ってこられた。まあしれっと仕事追加されるなんて社会人やってればよくある状況だけどさ。
通されたビル内の撮影スペースで、まずは段ボールいっぱいに詰められた大量の写真を選別する作業が始まった。全国から募った心霊写真の山を一枚一枚確認しては三種類に分別する。ただの撮影失敗や悪戯でできた偽物に、本物だけど無害なもの、本物だしとてもテレビに映せないものの三種類だ。
本物だけど無害なものにはそれがどういう霊だと思われるか裏にコメントを書く。たまたま通りがかっただけの浮遊霊だとか、撮影者に何かを警告しに来た先祖の霊だと思われる、などと予想を多く含むテレビが喜びそうなコメントを書いて箱に入れておいた。
しかしこの山、私が処分しなくちゃならないんだよな。これを頼まれる時に処分を引き受けてもらえないか遠まわしに聞かれてしまった。処分費はきっちり貰ったから仕事としてやるけど。後日ロケメンバーのお祓いをいつもの寺でするから、その時にカメラの前で住職がお経あげながら燃やすだけだし。
それが終わったら今度は恐怖体験談の再現ドラマにコメントを求められた。既にテレビによる脚色済みの台本にコメントしろと言われても正直困る。金貰ってるから分かる範囲で答えはするが。
専門家の観点がどうのこうのと言っているが、それなら連れてくるのは霊能者ではなくホラー映画の専門家の方が良いんじゃなかろうか。エンタメにおいて大事なのはリアルじゃなくてリアリティだろうに。
とはいえたまに何か聞かれたら答える程度で、私の一言で何かが動くような事なんて何もなさそうだ。引き続き写真の山との格闘に精を出す。
「本物はほとんど無いんですね」
音もなく私の隣までやってきたカミキが分類した写真を見ている。
「大抵はただの勘違いです。有害レベルともなると本当に滅多に無いですよ」
少なくとも今回はまだ一枚もお茶の間にお出しできないレベルは出ていない。見たらアウトな代物がそんなにポンポン出てきても困るだけだが。
黙々と次の写真を手に取った。一緒に添えられた撮影状況を記した投稿者からの手紙と合わせて写真を拝見。
ふむふむ、家族旅行でお城に観光に来た時の写真か。気持ちの良い青空に漆喰の白、天守閣の黒色が良く映える。写真の中心には笑顔とピースサインをレンズに向けた母子が映る。
で、これの何処に怪奇現象が……と写真を眺め、そしてそれを裏返して『見るな』と書いた箱にそっと置いた。あったわ良くないやつ。
「おや、これがそうですか」
その裏返した写真をカミキが摘まみ上げた。見るなと言った傍から見ないでください。
「……これがそんなに危険なのですか?」
カミキが写真の一点を指さした。投稿者からの手紙に書かれていた部分だ。写真の中心にいる子供の肩を大きな手が掴んでいる。もちろん子供の背後に人などいない。
「それも霊ですけど、そこじゃないですよ」
仕方ないのでこちらも写真の一点を指さす。休日昼間の観光地という事で周囲には多くの人がいる。その殆どは記念写真を撮る一家など気にせず好きな方へ歩いているが、中には一家やカメラの方へと目を向けているのもいる。私が指したのはその中の一人で、観光客に交じって立っている小さな子供だ。
「これ、生きてる人間じゃないですね」
なぜここにいるのかは知らない。きっと幸せそうな一家連れが羨ましかったのだろう。
写っている手の方はおそらく守護霊。うちの子孫に触れたら許さないと威嚇でもしにきたか。悪意はあっても力は大してなさそうだから守護付きの相手に手は出せないだろう。
「何かされる心配はおそらくないでしょう。でも人によってはこれを見て気分が悪くなる人もいるかもしれないので一応こっちに分類しておきます」
霊感もとい感受性がそれなりに強く、かつ長時間まじまじと見ないと影響は無いだろうが、それでも苦情の電話がテレビ局に来ないとも限らないので警戒しておく。
「なるほど」
カミキは写真をそっと箱に戻した。そうそう、触らないで。
カミキと話をしている間にも眼前では撮影が続いていた。何やらルビーがスタッフから怒られている。そしてそれをアクアが困った目で見ていた。アクアが幽霊役でルビーが会社員の役のようだ。気味の悪い演技を求めるなら確かにアクアが適任か。
ディレクターに話を聞けば、ルビーが上手く演技できないらしい。今撮っているのはルビーが大きく悲鳴をあげるシーンなのだが、何度挑戦しても悲鳴でなく歓喜の黄色い声になってしまう、と。幽霊役として迫りくるアクアの能面にニヤつきが止められないとは何ともルビーらしい。遠くの方で見守るミヤコさんもこれには頭を抱えていた。
「うーん、何かいい手はありませんかねぇ」
ディレクターも困り果てていた。でもニヤつくのはルビーがルビーである限り無理そうな気がする。
「脚本の方を変えるのはどうでしょうか」
そこへ助け舟を出したのはカミキだった。
「例えば、最後のシーンを顔が映らない角度にするとか、あるいは最後は悲鳴でなく無言で気絶に変更するとか、で行けませんかね」
その演技が役者にできないのを理由に脚本を変えるのは演劇でもよくある話だとカミキは言う。人も時間も金も有限。妥協しないと言えば聞こえはいいが、それは予算と納期を守らない理由にはならない。いかに上手く妥協してみせるかも監督の腕の見せ所とか何とか。
『本物』に拘り過ぎるせいでろくに仕事を貰えないカントクか。そんな人がどこかにいたような気がするな。
「もしくは、ここを笑うシーンにしてしまうか。どうしても笑ってしまうなら、いっそ思い切り笑ってもらう、という事で」
カミキの言葉を聞いて、ディレクターはじっと考え込み始めた。
「……黒川さん」
ここでディレクターは何故か私の方を見た。何でしょうか。
「笑ってる幽霊って、実際いるんですか?」
笑う幽霊か。なるほど、そうするつもりか。
「結構いますよ。そういうのって九割方ろくでもない霊なんで嫌いです」
怒っている顔、恨んでいる顔、悲しい顔。霊というのはその抱える未練に関連した表情をしている事が多い。だが笑顔というのは本来嬉しい、楽しいといった幸福な時に浮かべる表情だ。幸福な気持ちで亡くなった人が霊となって現世に残っているなど本来あり得ない。
霊になってから幸福を感じる時があるとしたらどんな時だろう。思い人が自分に会いに墓や仏壇に来てくれた時とかだろうか。他には……新しい執着の対象でも見つけた時とか。
だから笑っている悪霊というのは特に危ない。幽霊の時点でろくでもないが、それに輪をかけて危ない。
「よし、決めました」
ディレクターが立ち上がり、皆に集まるよう指示を出した。集まったスタッフやタレント達へ、ディレクターはこう伝えた。
役を入れ替える、と。
そこからはとんとん拍子に撮影は進んでいった。
いくつかの会社が中に入った、どこにでもあるありふれたオフィスビル。そこでオフィスを構える小さな商社に勤めるサラリーマン、アクアの物語。
そのビルでは半年前にルビーという女性が非常階段から身を投げる事件が起きており、その原因は同僚の男性社員との揉め事であり、その男こそがアクアだと説明が入る。真っ直ぐではなく、あちらこちらにぶつかって回りながら落下した死体、その五体は無事なところが無い直視に堪えない有様だったという。
恋人が自殺した場所でよく平然と働ける、と吐き捨てた名もなき先輩社員の見る先では、その非常階段に続くドア前の自販機で休憩しているアクアの姿があった。
クライマックスとなる場面では、満面の笑みで足を引きずり歩く血塗れのルビーと、追われて深夜のビル内を悲鳴をあげて逃げるアクア。
追い詰められたアクアは最後の退路となる封鎖された非常階段から脱出を試み、そして地面に叩きつけられて動けなくなったアクアと、それを傍らで見下ろしてにやにやと堪え切れない笑みをこぼすルビーをアップで映して暗転、終幕となる。
最後にアクアが襲われた日は、ルビーが身を投げた日からちょうど一年だったとケガで入院したアクアがナレーションをつけて今度こそおしまい。つまり命日の日に連れて行こうとした事になる。
そも恋人が死んだ場所で平然としているあたり、既に精神に異常をきたし始めている。この時点でもう憑りつかれていたのだろう、死なずに済んだのは本当に幸運、とは霊能者の解説。私がしたわけではないが、特に否定する理由もないから番組が用意したこれでいいと思う。実際、霊とか呪いの影響を受けている人ってこうして精神的に壊れていく事が多いし。いつ自殺しても周囲が不思議に思わないぐらい弱ったところでいよいよ憑り殺しにくるのが黄金パターンか。
投稿者の送ってきた話の内容からはもう原型とどめてないレベルで改変されたと思われるが、私には関係ない事だからまあいいか。
撮影も写真分類もいち段落し、ようやく控室で休憩となった。
備え付けのお茶とお菓子はどうぞご自由に、との事。カミキとミヤコさんの三人で机を囲んでのんびりとお茶を淹れる。
カミキは早速優雅にお菓子を堪能していた。齧られた饅頭の断面から見える白あんが美味しそうだ。私も一つ貰おう。
取り敢えず目についた大福を齧る。冷蔵庫に入れられていたのであろう、まだ冷たい抹茶味でもちもちの求肥と黒い餡子の落ち着いた色合いや風味が目にも口にも優しい。ただのお茶のオマケと思いきや結構ちゃんとしたやつだった。商品名をメモしておこう。
それから暫く、三人でとりとめのない話をした。先のドラマの感想から近年の芸能界の情勢、今の若者の流行に至るまで当たり障りのない世間話。その最中、ミヤコさんの携帯に着信があり、彼女は部屋を出ていってカミキと二人きりになる。
今日の本題、切り出すなら今か。
「カミキさん。一つ聞いてもいいですか」
「なんでしょうか」
「雨宮吾郎という産婦人科医をご存知ですか?」
彼の顔から穏やかな雰囲気が霧散した。お茶の入ったカップを戻し、両肘を机について手を組んだ。組んだ両手で隠れた口元から声が聞こえる。
「失踪して、白骨死体になって見つかった医者でしたね。ニュースで名前を見ただけなので、それ以上は深く知りませんが」
「雨宮医師はいつ頃死亡したのでしょうか」
「失踪したとされるその日に実はもう、というのが常識的な考えですかねぇ」
こちらを見るその目はまるで捕食者のようだ。目の前にいる動く物は自分が襲える獲物か否か、見定める捕食者。
「実際はもう少し、具体的には四年程度は生きていたんじゃないかと推測しているんですけど、これについて証言とかできる人を知りませんか。直接の死因とかはどうでもいいんですよ。ただ暫く生きていたと証明できるものが欲しいだけ。その前にも後にも興味はありません」
「……」
じっと、私とカミキは目を合わせていた。
少々の無言の後、カミキは口を開いた。
「申し訳ありませんが、お力にはなれそうにありません」
「そうですか。残念です」
本当に申し訳なさそうに、カミキは首を横に振った。そう簡単にペラペラ喋るはずもなかったか。
「首を突っ込むのはほどほどになされた方がよろしいですよ。触らぬ神に祟りなしとも言います。貴女や、貴女の身近な人に何かあったらどうするんです?」
そして目を見据えてカミキは続けた。余計なお世話かもしれませんが、と締めた一連の言葉はこれ以上詮索するならただではおかないという意味か。他に証言できそうな人物がいないとはいえ、こういう危険があるからこの話題本当はしたくなかったんだけどな。
さらに死人が出てアクアの復讐再スタート、なんて展開が始まったらもう手に負えないからそれは勘弁してほしい。
「今は困りますね。忠言、胸に刻んでおきます」
「今じゃなくても困るでしょうに……」
組んでいた手を解き、カミキは背もたれにゆったりと体を預けた。パイプ組みのイスが軋んで耳障りな音を立てる。
食べかけだった饅頭を口に放り込んでお茶で流せば先ほどまでの空気はどこへやら。穏やかな笑みへともう戻っていた。
「ああそうだ、こちらからも黒川さんに一つ聞いてみたいことがあったのでした」
会話の途切れたタイミングで丁度よく帰ってきたミヤコさんが席に座るまでを目で追っていると、今度はカミキの方から話しかけられた。目こそこちらに向いているが、手は次のお菓子を漁ってゆるい雰囲気を演出している。
「死後の世界……いわゆる天国と地獄というやつが本当にあるのかどうか。黒川さんのお考えを窺っても?」
また変わった話題が来たな。カミキさんってあんまりそういうの気にしそうなイメージが私の中にはないのだが。
「私見ですが、天国はともかく、地獄はあるかと」
天国の実在は分からないけど、地獄に相当する場所は多分ある。お墓や仏壇の前に行くと特に分かる。成仏した魂と、堕ちた魂、いずれも既に現世におらず観測できないという点は同じだが、やはり違うのだ。その何かを言語化しろと言われると難しいが、とにかく『あ、堕ちたんだな』という感じがする。
「やはり、悪い行いをすると……?」
「さあ?」
私の答えに、カミキが困ったような顔になった。でも実際分からないのだから仕方ない。
善い行いをすれば天国へ行けると言うが、じゃあ善い行いとは具体的にどんな人生なのだろうか。
傍若無人を絵に描いたようなクズが天寿を全うし安息の日々を過ごしているかと思えば、誰からも好かれた好青年が若くして事故死し地獄へ連れていかれている。
善悪の基準など人間のそれですら常に移ろい続けている。昔は許されたが今はダメ、またはその逆など例を挙げだしたらキリがない。ましてや神様や閻魔様といった存在の次元からして違う連中のそれなど想像もできない。
「古今東西、いつどこの基準での悪い行いなのやら」
「それでも、大抵どこの時代や地域でも禁忌とされる行いはあるでしょう。殺人とか」
「人殺しが悪なら、戦争を経験した世代からはそれなりの数の地獄行きが出ていないとおかしい。でも私の知る限り、そんな事態にはなってない。神様の考える事はよくわかりません」
私が思うにきっと、人間が昆虫を見るのと同じぐらいの感覚なのだろう。気に入られれば飼ってもらえる時もあるが、基本的には無視。嫌われれば簡単に踏みつぶされ、時には無害有益であるにも関わらず存在そのものが不快だと殺虫剤を向けられる。
要するに『我に不愉快な思いをさせたから地獄行き』程度でしかないのだ。善良に生きたつもりでも、知らぬところで不興をかっていて目覚めたら地獄にいるかもしれないのだ。
「逆に、地獄に落ちてしまわれた方はどういう振る舞いを?」
「それがさっぱり。何が神様の気に障ったんでしょうかね。もう運次第と思った方が良いかと」
それが分かれば苦労はしないというやつだ。
「……なるほど。つまり死んだ後どうなるかは、死んでみないと分からない。善悪など気にせず今を自由に、自分の為に生きるべし、と」
どうせ分からないなら、生き辛くならない程度に好き勝手するのが一番良い。私はそうありたいと思っているし、他人がそうある事も否定しない。私に害が無い限りは。
「ご意見、ありがとうございます。黒川さん、貴女はそういう人なのですね」
「後悔はあれど、納得いく人生を送れるといいですね」
愉快そうに小さく笑ったカミキが、一口チョコをぼりぼりと豪快にかみ砕いた。上品とは程遠い食べ方も何気に似合う人である。
ところで、カミキさんはこの質問を通していったい何が知りたかったんだろう。ああ見えて地獄に行くのは怖いのだろうか。あるいは地獄に行ってみたいのだろうか。親子揃って死にたがりの地獄行き希望だったら面白いな。考える事は一緒だな、さすがは親子! だなんてアクアに言ってやったらさぞ嫌がってくれる事だろう。
ミヤコさんも目を私とカミキの双方を行き来させて、いったい何の話をしてるんだこの二人は、なんて言いたげにしていた。
三人で交互に視線を交わし合う謎の時間が生まれたが、スタッフが撮影再開の呼びかけに来たことで中断された。
休憩の後に残った作業を片付け、写真の山をいつものお寺に置かせてもらったらようやくお仕事終了。まだお祓いと写真焼きはあるが私は本当にいるだけなのでこんなの仕事のうちに入らない。
その後日、ロケで使った物品の補充のため一泊二日の買い出し旅行の計画を立てていたら突然アクアが封筒を黒川あかね宛で送り付けてきた。中身はB小町のライブチケットが二枚だ。予定決まってたら教えてとは言ったが、お高い良い席のチケットまで押さえておいてくれるとは。
二枚組のチケットを見て嬉しそうに顔を綻ばせ、そして添え書きにそのチケットは私ら姉妹の分と書かれているのに気づいて露骨にテンション下がった姉の姿に思わず笑ってしまったら、ほんの一瞬だが凄い目で睨まれたような気がした。