完璧で究極なアイドル様に執着されて   作:肉ぶっかけわかめうどん

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ショートカット

 

 あれ、こんなんだったっけ?

 

 扉越しに盗み聞いたルビーの即興劇は棒読みな上に早口で、とりあえず緊張している事しか伝わってこなかった。

 

「アクア君」

 

 隣で姉がアクアに何か詰め寄っている。奥でこちらに気付いたルビーも何とも言えないような視線を送ってきた。

 

「あー、その、なんだ……」

「隠さなくてもいいよ。聞いてたんでしょ」

「すまん」

「良いよ。むしろ手間が省けたし。主役の件、アクア君の方からも言っといてね。じゃあ」

 

 姉が通り過ぎざまにアクアとツクヨミを一瞥し、カミキの方に一礼する。最後に私の方を見て、ふっと笑ってから去ってゆく。

 

 

「……何か笑うようなものありましたかね?」

「その状況を理解できてない間抜け顔がある。これ見れて溜飲も少しは下がったんじゃない?」

「はぁ……」

 

 ツクヨミが私の顔を指さして何やら言っているが、意味が分からないと返しておく。

 

 

 後に残されたルビーは少し泣きそうな顔になりながら兄を縋るように見ている。とても映画の主役など務まるように思えない演技ぶりだったが、ここから短期間で一廉の女優になるのか。漫画の主人公もビックリの急成長……。

 

「いつまで現実逃避してるの。ちゃんと見なさい。これが世間を揺るがすような演技ができる逸材に見える?」

 

 隣に現れたツクヨミにわき腹をつつかれた。

 うん、認めよう。このルビーは明らかに原作ルビーよりレベルが低い。

 

 あれー?

 

「どうしてこうなったんでしょう」

「本気で言ってる?」

 

 なぜかため息をつかれてしまった。

 

「ひどい事言うね。元をたどれば半分は君のせいでもあるのに」

「……私何かしましたっけ」

「したとも言えるし、しなかったせいとも言える。宮崎旅行から帰ってきた時、星野ルビーとどんな話をしたか思い出してみれば?」

 

 宮崎旅行といえば、去年の冬のMV撮影の時だろうか。そこの疫病神のせいで旅行中に双子の互いの前世バレが起こった上に、私宛のいらん伝言まで残してくれたせいで色々と面倒な思いをさせられたあれか。

 

「考えなしに動くな、兄とよく相談しろと言った覚えはありますけど」

「ほら、言った。ここからようやくお話が動き始めるって時にカット掛けたんだから、そりゃ何も始まってないに決まってる」

「え、あの発言のせい?」

「何もしなかった。ここには孤独も憎悪も確執も無い。全部最初から無かった事に、あるいは終わった後になっている。川の流れを変えた責任を取れとは言わないけど、自覚くらいはしたら?」

 

 川の流れというのは原作の流れの事を言っているのか?

 ……もう一度原作の流れを確認してみよう。宮崎旅行の後ルビーはどうなる。

 ゴローの死を知ったルビーは、アイとゴローの死の真相を追うべく積極的な行動を開始する。目的の為には芸能界で成り上がるのが最短の道だと奇しくも兄と同じ結論に至り、一日でも早く売れようとなりふり構わず、時には他者を踏み躙る事も厭わずがむしゃらに働くようになる。

 そんなルビーの暴走が終わるのは、アクアの前世を知った時。

 

「……あー」

「気付いた?」

 

 もしかして、原作中盤のあれこれ全部すっ飛んでる?

 ゴローの死は悲しいが、それの生まれ変わりがすぐ隣にいる現状ではルビーが暴れる理由は少ない。あの暴走は周囲と多くの確執を生んだだろうが、間違いなくルビーのレベルアップには繋がっていた。

 これらが全てなくなっているとすると、ルビーの現状も凡そ理解できる。

 

 特に憎悪は大きいだろう。幽霊は狭い場所に閉じ込めておくとより憎悪が増す。これは生きてる人間でも同じことだ。閉じた世界の中で憎悪と復讐を想い続ければ、炎は自然と大きくなっていく。さしずめ負のエコーチャンバー。繰り返し唱え続ける事で自分で自分を洗脳しているようなものだ。

 

 今ここにいるルビーと原作ルビーでは負の感情の大きさは天と地ほど違うだろう。そういう気持ちが全く無くはないだろうが、比べるまでもあるまい。

 

「自分の周囲にどれだけ興味がないかよく分かる。気付けるチャンスはたくさんあったのに、尽く見逃してるんだから」

「……今後の参考までに、どういう所に気を付けるべきだったか教えてもらっても?」

「色々あるけど……人間関係を気にする、とかから始めてみれば? 全てが予測通りに進んでいたのなら、今頃周囲の人間関係はもっと荒れていたはずじゃないか。君の姉にしろ、そこの双子にしろ、B小町にしろ。平穏無事な時点でもっと疑問を持たなきゃ」

 

 言われてみればそれもそうか。

 姉とアクアはどうせすぐ別れると思っていたが、破局の話は未だ聞かない。アクアとルビーだって見るからに仲良しすぎる。B小町だってギクシャクしてる雰囲気は感じない。よく見れば違和感を感じられたはずのポイントは確かにいくつも存在したようだ。

 

 この世界ではアクアとあかねはまだ交際が続いているし、ルビーが暴れてないからB小町は仲良しこよしのままだし、有馬かなのスキャンダルの件もないから世間は星野アイが子持ちだと知らず、リークが切っ掛けで双子の仲が割れたりもしていない。

 

 これは困った事になったかもしれない。下手するとここから先は原作知識使用不可かもしれないのだ。

 

「いや、ただ単にまだその時が来てないだけだと思ってたんですけどね……」

「ちょっと調べればすぐ分かるでしょうに。先がどうなるか読めないから無難な手に逃げておくのは悪くないけど、処置をしたなら経過観察はすべきだったね。お医者さんが聞いたら怒られるよ?」

 

 何も言い返せない。ルビーにああ言った後は本当に何もしてない。今更な話だが、お盆の心霊スポットの時に本来いるべき某ADがおらず、ミヤコさんがまだB小町のマネージャーを兼任していた点をもっと疑問に思っておくんだった。

 いや、もっと前だ。宮崎旅行が原作と違う展開になっていた事が姉の話で判明していた時点で警戒しておくべきだった。既に前世バレが発生していたのは知れていたんだから、もっとどのような影響が出ると考えられるか……。

 

「……って、これなんで私が悪いみたいな流れになってるんですか」

 

 前世バラしたのお前じゃん。自然に気付いたならともかく自分から喋ったのにどうして私が責められる。

 ツクヨミが余計な事しなけりゃこんな苦労してないのでは。

 

「何、私が悪いって言うの?」

「いえ、そうとは言いませんけど、でも元々の原因は……」

「まあ確かにこっちにも非はあるかもね」

 

 あれ、あっさり認めたぞ。何かまたろくでもない事言いそうな予感がする。

 

「それじゃあ、責任とって今から軌道修正しようか?」

「え、できるんですか?」

「完全元通りになるかは保証できないけど、できる限りはやったげる。だって私が悪いんだもんね」

 

 今確信した。これ絶対ろくでもない結果になるヤツ。だってこいつが自分から勧めたり、あっさり受け容れたりするものがろくなモノのハズが無い。

 

「いや良いです。今の無しで」

「えー」

 

 本当に残念そうにツクヨミが口をとがらせる。小さな子供そのもので可愛らしい絵面だが、もしあそこでやってくれと答えていたらどうなっていたか。

 

「イエスと言ったらどうなっていたか気になる?」

 

 人の思考を読み取ったのかツクヨミがあちらから提案してきた。

 

「……まあ、気にはなります」

 

 実際何する気だったかは教えてくれるなら知りたい。

 そう伝えると、ツクヨミがこちらに近づいてきた。耳打ちするつもりのようなのでこちらも屈んで高さを合わせてやる。

 

「あらゆる手を使って壊しにかかる。本来一年かけるはずだった熟成を一週間で終わらせるならこれぐらいしないとね。するとどうなると思う?」

「どうなるって……」

「見かねた誰かさんが訴えに来る。あれ何とかしろって。あれが何かを訴えられる相手は今のところ私かお前しかいないけど、私に言っても聞く耳持たないの分かりきってるからそっちに行く」

 

 それはつまり、アイさんが娘を見るに見かねて私に止めさせてくれと訴えに来ると言う事か? 声は聞こえないから行動で。

 それはそれで面倒くさそうだな。基本放置で問題ない、そも視界に入ってくる事があんまりないアイさんがやたらめったらアピールしにくるとなると鬱陶しい事この上ないぞ。

 

「因みにこれ、普通に一年かけるルートでも多分こうなる。本来なら誰にも頼れず、ただ指咥えて見てるしかできなかった誰かさんだけど、ここでは動いてくれるかもしれない視える相手がいるもんね。切羽詰まってるから本当にしつこいし、あんまり無視してると最悪力づくで来られるかもね?」

 

 言われてみるとそれもそうかもしれない。原作と同じルートに進んだルビーを見たらそりゃあ私のとこ来るよね。

 

「……それは困りますね」

「でしょ? 私は被害者ですみたいなツラしてこっち見てるけど、お前だって恩恵受けてる側なのよ。被害者じゃなくて加害者側。そのへん自覚ある?」

 

 お前もこっち側、か。嫌な言葉だ。私だってなりたくてこうなってるわけじゃないのに。

 まったくどうしたものか。ため息しか出ない。

 

 

 で、これからどうしようか。ルビーが使えないならもう主役は黒川あかねか不知火フリルしか……いや、フリルいないからあかね確定か。あれ、そういや何でフリルいないんだっけ。確かスケジュールが空いてないとか何とか……でも原作でもスケジュール埋まってたけど、作品トンで急に予定空いたから来れるようになったハズ。私がどう行動しようが不知火フリルのスケジュールに影響なんて出るとは思えないが、もしかして気付かないうちにこっちでも何かやらかしてる?

 

「あ、ここにいた」

 

 灰色の壁で視界を満たしぐるぐると混乱する思考を何とか落ち着かせようとしていると、重い陰鬱な空気を物ともせず押しのけるキラキラした声が響いた。

 誰かと思ってそちらを見れば、有馬かながこちらに向けて手を振っている。

 

「もうお昼休み終わってるよ。早く来なさい」

 

 どうやらアクアとルビーを呼びに来たらしい。それ以外の面々にも目を向けつつも明らかにアクアを目掛けて駆け寄ってくる。

 そんな有馬かなを見ていると、頭にふと原作の一シーンが浮かんだ。有馬かなの高校、そしてB小町からの卒業式だ。そういえばあれは映画が始まる前の事だったか。

 

 そうか、卒業式だ。原作では卒業後に映画に入る。しかしここの有馬かなはまだ卒業前。原作よりおよそ半年ほど前倒しになっているんだ。だから不知火フリルは来れなかったのか。ならこれは私のやらかしではなさそうで一安心。

 

 いやちっとも安心じゃない。そんな事より主役問題について早急に何か手を……ああ、昼休み終わってるなら仕事にも戻らないと叱られる。えーと、今すぐやらないといけないのは何だったけ、優先順位付けて順に処理を……。

 

 あー、今はとてもじゃないけど頭が回りそうにない。とりあえずいったんデスクに戻って落ち着こう。

 

「おい」

 

 なんかアクアに呼び止められた。何ですか今はちょっと相手してる余裕ないんですけど。

 

「……この状態で放置されても困るんだが。たまには説明をしてくれ」

 

 それはまた今度で。

 というか原作関連なんて説明できること一つもないけどね。

 

 

 

 アクアの呼びかけを無視して消えていった黒川あおいの後ろを追って、ツクヨミとカミキも去ってゆく。

 

「ここからどうなるでしょうか」

「さてね。今は頭空っぽにして続きを楽しむ時間で良いんじゃない?」

「なるほど、たまにはそういうのも良いですね」

 

 子供のように笑いながら消えていった二人から遅れて十秒、アクアも静かに歩き始めた。ルビーも兄の背を追って慌ただしく走り出す。

 

「え、ちょっと待ってこれどういう状況? ねぇ私にも説明してよ!」

 

 最後に来て、そして最後に取り残された有馬かなは抗議の声を上げてアクアの隣、ルビーに掴まれていない側へと駆けた。

 

 

 

 デスクに戻って仕事を再開してからも、私の頭にあるのは今後の撮影の事ばかりだった。 

 普段はブラックだが今回は甘々にしたコーヒーをカップ一杯飲み干したら少し気分が落ち着いたので、ここらで改めて考えてみる。

 

 黒川あかねが主役の地位につくと今後どのような影響が出ると予測されるか。

 

 ……撮影そのもので別に何かが起こる、というのは無さそうだ。実力はあるんだし、まあ無難にこなすか。大売れするかは不明だが、悲惨な事態にはならないだろう。

 

 では逆に星野ルビーが主役にならなかった事で起きる問題とは何だろうか。

 

 正直言うと、よく分からない。私がルビーを推したのも単に原作だとそうだから、以上の理由は無いし。強いて言うならここ一番でのルビーの鬼気迫る演技が無くなるので映画の見応えが目減りしてそうな事か。

 見応えがなくなり映画が売れず、その結果カントクやプロデューサーは立場が危うくなるかもしれない。鏑木プロデューサー、色々とコネ総動員してるから売れないとヤバいみたいな話あったはずだし。

 

 でもそれって私関係ないよな。

 

 そう、そうなんだよ。私の目的はあくまでアクアがもう気が済んだと言えるように映画を作ること。出来栄え自体はどうでもいいんだよ。あんまり酷いクオリティだともう一回作り直しとか言い出すかもしれないが、黒川あかね主役ならそんな酷い出来にはならないだろうし。

 

 ルビーがいなくても私は別に困らない。

 そう考えると少し気が楽になった。

 

 では今後はあかね主役として行動すべきか。演技力はあるんだし、前半はむしろ原作より良くなるかもね。こだわり屋のカントクによる撮り直しが少なくなるから撮影スケジュールも原作より早く進みそう。

 うん、これ黒川あかね主役ルートでも私にとって問題はないんじゃないか?

 

 これまで私は基本的に原作からあまり外れてほしくないと思っていた。完全独自ルートとか始まられたら原作知識が使えなくなるからね。

 でももう物語も終盤と考えればそこまで恐れる必要もないのかも。さっさと撮影なんか終わらせて、犯人を打ち明けるという私の仕事の最終段階に進んでもいいかもしれない。

 

 

 これはもうルビー推しからあかね推しに乗り換えるべきかも、とそこまで考えた時、ふと頭に考えがもう一つ浮かんだ。ここでの敢えてのルビー推し継続というのはどうだろう。

 

 犯人を打ち明けるにあたって、アクアは激しく抵抗する事が予測される。まずこれを説得するのも一苦労だし、何とか受け入れさせたとしてもその後絶望に苛まれて余計な事をされても困る。あくまで前向きであってもらわねばならないのだから。

 この問題を解決するためにはまずルビーを攻めるのが有効だ。まずここを攻略できれば説得する際に味方になってもらい、その後もアクアの精神の立て直しに役立ってもらう事が期待できる。まずルビーが壊れたらどうするんだ、という問題があるが、そこは私が上手く宥めすかすしかないだろう。まだゴロー先生本人の生まれ変わりじゃないだけ難易度はマシだ。

 

 時として、『何を言った』ではなく『誰が言った』が重要になる場面というのがある。非常時であったり、衝撃的な内容の話であったりすれば尚更。あの人が言うなら仕方ない……というやつだ。

 ルビーに少しでも話を聞いてもらいやすくするために、ある程度好感度を稼いでおきたいところだが、今はまさしくそのチャンスではないだろうか。

 後援し続けてくれれば私にそれなりに恩を感じてくれるだろう。頑張り虚しく主役になれずとも、相手が圧倒的格上の黒川あかね相手では負けても仕方ない。つまり無理して勝たせずとも良く、負けてもペナルティは無い。適当に口を合わせとくだけで恩が売れるという事だ。

 

 どうせ外れるなら最後に原作知識の大盤振る舞いでルビーを手助けして恩を稼ぐ。まあ最悪負けてあかね主役になっても損はしない。どうせバイトだし責任なんぞたかが知れてる。言うだけ言ってみて、通ったら儲けもん。思い付きにしては悪くないのでは?

 

 そうと決まれば早速行動しよう。配役が決定してしまってからでは遅い。異を唱えられる内が勝負だ。

 

 

 

 見つかって仕事を頼まれないように静かに目立たぬよう、オフィスを歩く。幸いな事に皆自分の仕事に打ち込んでいて誰からも呼び止められなかった。

 

 全員が集まっている。色々と外に声が漏れ聞こえている会議室をノックし、少し間を開けてから扉を開く。真面目な話をしていたであろう映画関係者や劇団ララライの皆さんの視線が一斉に私に刺さる。大量に並んだ机と椅子の上に乗った大量の顔が全てこちらを向いているのは中々に圧迫感を感じる光景だ。

 

「ルビーさん、ちょっと」

 

 何しに来たか問われる前にルビーを手招きして呼び出す。そして歩いてきたルビーの手を引っ張って室外に連れ出すと、会話が聞こえないように戸を閉めた。

 

「ど、どうしたのあおいさん」

「主役、まだやる気あります?」

 

 ルビーの耳元でそっと囁くと、彼女の顔が困惑に染まった。

 

「もしルビーさんがまだ諦めてないなら、ぜひその夢お手伝いさせてください」

「え……?」

「ですから、ルビーさんの主役と、B小町のドーム行き。私が全力で応援しますと言ってるんです」

 

 いきなりこんな事を言われてまだ困惑顔の治らないルビーへと、さらに畳みかける。

 

「勝負を捨てるのは早いんじゃないでしょうか、ルビーさん。貴女には貴女にしかない武器がある。ここからの巻き返しだって決して不可能じゃないと私は信じてます。と言っても私も万能ではないので確実にドーム行ける保証はできませんが、私にできる範囲で精一杯のサポートをさせていただきたいと思っています」

「え、えと何であおいさんがそんな事」

 

 何で、とな。手助けの理由が分からないと不安かな。

 

「理由ですか? ルビーさんが主役になってくれた方が私にとっては後々都合が良いんですよ」

「……お姉ちゃんだと都合が悪いの?」

「いや、別に不利益が発生するわけじゃないので最悪そっちでも構いはしませんけど……でも私はルビーさんこそが相応しいと信じてますよ」

 

 何故かルビーから信じられないようなものを見る目が向けられた。やっぱ突然こんな甘言囁かれてもとても信用ならないのかな。

 

「まあ私の事情はいいじゃないですか。それで、ルビーさんはどうなんですか。まだやる気あるのかどうか教えて下さい」

「……ある。やりたい」

「じゃあ私とやりましょうよ。ルビーさん、他に頼る人いませんよね。黒川あかねより貴女の方が相応しいって言ってくれそうな人誰か思い浮かびます?」

 

 現状のルビーの問題は誰も味方がいない事だ。劇団ララライ関係者は当然あかねの味方であり、ルビーに味方してくれる可能性があるのは苺プロの身内ぐらい。

 その身内のアクアは映画製作の中心的立ち位置だが、それでも押し通せる我が儘にも限度はある。有馬かなは自身も一人の演劇屋。演技に関しては公平な立場を貫くだろう。MEMちょはあかねとも友人だから、どちらか一方だけに肩入れというのはしづらい。

 つまり、今のルビーに味方すると明言しているのは私だけだ。私が付くとツクヨミとカミキもセットで来るだろうが、あれはただ見てるだけの連中なので実質一人。

 

「悩んでる暇はありませんよ。今まさに配役決めをやってる最中なんですよね? 異を唱えるなら今日が最後のチャンスです」

「……」

「それとも、まだ私が信じられませんか? 子供時代しか経験していないルビーさんには分からないかもしれませんけど、大人の、社会人の世界ならこれぐらい普通ですよ。持ちつ持たれつ、ギブアンドテイク、Win-Win。愛は無くとも利益では結ばれてるビジネスライクな関係なんてありふれたものです。貴女は夢へ進む、私は自分の仕事をする。それだけの話ですよ。私のもう一つの仕事、ルビーさんもご存じでしょう?」

 

 夢へと邁進するルビーを支える。今はこれが私の霊能者としての仕事になる。私は真面目に自分の仕事をしてるだけ。だから貴女は何も疑わず信じてくれていいんですよ。

 

 

 やけに長く感じた数秒の後、ルビーの首が縦に振られたのを確認した私は、内心でぐっとガッツポーズを作った。まずは第一歩だ。

 

 

 でもここまで思い付きだから、ここからどうするかは何も考えてないんだよな。

 ポテンシャルはあるが今は素人に毛が生えただけのルビーで黒川あかねに対抗する手段か……。何があるかな。

 室内へ戻るルビーと一緒に歩きながら、私は早速次の問題に突き当たってまたため息をついた。

 

 

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