2012年8月6日
「しーちゃーーん!!!ただいま&おかえりーーー!!!」
「おかえり&ただいま!ぐはぁっ⁉︎」
今日のわんこも絶好調、任務帰りで疲れているだろうに、出迎えに来た僕目掛けて真っしぐらだ。
見上げる身長差の男に突撃されて、ズドンとなかなかに重たい衝撃音が鳴ったが、もはやこの程度慣れたものである。
よしよししてあげよう。
「おい桜庭、渡すものがあるんだろ」
「涼くんもおかえり…渡すもの?」
「あ、そうそう…これお土産兼誕プレね!」
そう言って秋斗くんが渡してくれたのは超高級菓子の詰め合わせだった。確かに任務の報酬が出るので、学生にしては僕たちはお金持ちだが、それでもこんな超がつく高級品を貢いでくるとはちょっと驚いた。
「あ、ありがとう、あとでいただくね!」
「美味しいって評判だったのと、任務地の近くに店があったから買ってきたんだ。この前はあんなことになって、何もお祝いできなかったからな。それより、しーちゃんをあんな拘束プレイみたいな目に合わせやがって総監部…なんか態度もえらそーだったしな!」
いや実際偉いんだよあの人たち。クソだけど。
あと拘束プレイとかいうな。
「いい加減お前は離れろ。見てるだけで暑苦しい」
秋斗くんの首根っこを鷲掴みにして引き剥がした涼くんは、何か渡すものがあるのか、入れ替わりでこちらに寄ってきた。
「これは俺からだ、おめでとう」
涼くんからのプレゼントはジャージ一式。
僕が持ってなくて汗だくで訓練していたので、気を利かせてくれたのだろう。実に実用的でありがたい。
「ありがとう!明日から早速使うね!」
二人とも僕がひどい目に遭わされてないか随分心配してくれたみたいで少し申し訳なくなる。
まぁ丸4日拘束されてたわけだから、実際に酷い目には遭ってるんだけど。
「それから…任務の時は薬袋のおかげで命拾いした。助かったよ、ありがとう」
深々とお辞儀して感謝の意を示してくる。
きっとあの後すぐに僕が連れ去られたせいで礼を言えなかったのを、律儀な彼はずっと気にしていたのだろう。
「それは全然いいんだよ。無事でよかった…あと少し遅かったら本当に死んでたかも知れないんだし、あんまり無茶しないでよね」
作戦開始早々に判断ミスして戦線離脱した僕が言えたことではないんだけど、戻ってみればお腹に風穴空いてて肝を冷やされたんだ。いいっこなしということで。
「それは約束できない。俺は守りたいと思う全てを守るために戦っている。だから、そのために必要なら命を懸けることも躊躇わない」
「涼くんが真面目なのは知ってるし、それはいいことだけどさ、ちょっと頑なすぎじゃない…?」
すごくいい顔で己の覚悟を宣言しているけど、それで死なれたら僕たちが凹むから真面目も程々にしてほしい。
「しーちゃん、こいつに何言っても聞かないって。頭カチカチだもん」
「誰の頭がカチカチだ?」
「あー、ほら、二人とも喧嘩はやめてよ。任務帰りなんだし、今日はもう部屋に戻ってゆっくりしなよ?」
またいつもの喧嘩、もとい戯れ合いが始まりそうだったので仲裁して、今日はもう休むことを勧める。
聞いたところによれば、僕が拘束されてから連日任務に赴いていたというし、疲労はかなりのもののはずだ。
「それなら、しーちゃんの反転術式で疲労改善できないの?」
「なるほど…多分できるかも」
急に使えるようになったせいか、そういう発想が湧かなかった。
確かに致命傷すら治療できるんだし、疲労を癒すみたいな使い方もできるだろう。
「そういう使い方はどうなんだ?」
「だぁ!もう!クソ真面目は黙ってついて来い!」
「な、おい!離せ!」
「反転術式使うのはいいんだけど、どこでやるつもりなの?」
で、結局二人とも僕の部屋に集まるのか。
秋斗くんはすでにソファに寝そべってくつろいでいる。
なんて遠慮のなさ、少しムカつく。
「このソファー、めっちゃしーちゃんの匂いがする!」
「嗅がないでよ!追い出すよ⁉︎」
なんとなくこうなる気がしたから嫌だったんだ。
無理やり連行されてきた涼くんはベットに腰掛けて、汚物でも見るような視線を秋斗くんに送っているが、そんなもの程度で彼は止まらないだろう。
「さ!しーちゃん!早速癒してください!」
「なんか変な意味に聞こえるからやめてもいい?」
「なんで⁉︎俺が言ったら全部変態臭く聞こえるっていうのか!」
「「今更?」」
「二人ともひどいっ!」
ひどいのは秋斗くんの普段の行いだろう。
まぁ、このまま放置しても僕の匂いとやらを堪能し尽くされそうな気がしたので、手っ取り早く回復させておかえり願うとしよう。
「じゃあとりあえず始めるよ?」
「おねがいしやすっ!」
「なんでお前はそんなに期待に満ちた目をしているんだ」
反転術式とは呪力と呪力を掛け合わせて正のエネルギーを生み出すことによって、生命体の欠損などを治癒することができる高等技術にあたる。使えるかどうかも才能によるところが大きいらしく、使用者は貴重な人材として重宝されるんだそうだ。
秋斗くんの背中に両手を添えて、あの時のように呪力同士を掛け合わせるイメージを高めていく。
すると次第に白い輝きが溢れて秋斗くんを包み込むように広がった。
「あ"あ"あ"〜、ぎもぢぃ〜」
だいぶ気持ち悪い声が出ている。
早く終われ、早く終われ、早く終われ…。
「薬袋、もう十分そうだ。桜庭、そこ代われ」
「何言ってんだ!俺はまだ…ぎゃっ!」
見るに耐えかねたのか秋斗くんを雑に蹴り落とす。
そして、なぜか涼くんはソファに仰向けで横になった。
たぶんさっきまで秋斗くんの顔面があったところに、自分の顔をくっつけたくないんだろう。
ていうか、ベッドじゃダメなんですかね?
「じゃあ、次行くよ」
さっきと同じ手順で反転術式を展開し、光で彼を包み込む。
が、彼は特にうんともすんとも言わない。
それはそれで効果があるのか不安になる。
「…涼くん、どうかな?」
「あぁ、ちゃんとできてる」
「ならいいんだけど…」
左様ですか。
反応の落差が激しすぎて風邪を引きそうだが、効いているのならいいだろう。
そう言えばさっきまでそこに転がっていた秋斗くんはどこに…
「ほほう、これがしーちゃんのベッド…さっきより香りに深みが」
「何してるのさっっ‼︎」
「ぐっ⁉︎」
あの一件以来、息をするように自然と行えるようになった呪力操作を行い、インパクトとほぼ同時に呪力が伝わるように拳を繰り出す。その一撃は正確に秋斗くんの腹部に突き刺さり、一瞬の悶絶の後、彼は意識を飛ばした。
油断も隙もないなこの変態は。
そういえば、一瞬黒い光みたいなのが見えたけど、きっと気のせいだろう。
「回復させたのにもう瀕死か?」
「知らない!もう治さないからね!」
秋斗くんが目を覚ましたのはそれから一時間後のことだった。
そして、目覚めるなり空は深々とぼくに土下座した。
あの拳がよほど効いたらしい。
「調子に乗って大変申し訳ありませんでした」
「次はないからね?」
後に彼は語ったという。
しーちゃんはきっと五条先生と同じ怪物になってしまったのだと。
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北海道での一件から早2週間、僕はあれ以来、上の連中に絡まれるようなこともなく、週に三度ほど入る任務をこなし、それ以外の日は体術を磨くべく、二人との訓練を行う日常を過ごしていた。
てっきり五条先生のように特級として、単独で様々な任務を与えられたりするのだろうかと思っていたが、そんなことは特になく、これまで通りに一年同士や二年の先輩と任務に向かうことがほとんどだ。
先生曰く、あくまで僕の危険性に対してつけた特級であって、確かにポテンシャルはそれだけあるものの、技術や戦闘経験の未熟さから、僕単独の特級案件などの任務は先生の判断で跳ねてくれているそうだ。
それは叛意と見做されないのかと聞けば、僕が自分から断ったのならともかく、先生が断る分にはセーフとのこと。
そういう裏技みたいなことをさせると、先生の上に立つものはいないようだ。
しかしそんな中、僕宛で新たな任務が舞い込んだ。
その任務内容は、呪詛師組合『アラガミ』という最近できたばかりの組織の壊滅。呪詛師御用達の闇サイト運営や呪殺依頼の斡旋を行なっている他、所属メンバー自身も依頼を請け負うことがあるのだという。
特に注目すべきはメンバー12名の少数規模かつ東京を拠点としながら、依頼さえあれば日本全国に出張までする、かなりアグレッシブな組織だという。
普通、こういう闇組織は大きな動きは余程のことがなければしないものだが、自分たちの腕にかなりの自信があるのかもしれない。
そして、判明しているうち1名の術式が僕の目に留まった。
『創霊呪術』呪物や呪具を触媒として呪霊を創り出し操る術式。
…似ている。
福岡の狼呪霊も呪具を核として作られたと言っていたし、組織の概要を見る限り、こいつが黒幕でなかったにしろ、依頼を受けて僕の実家を襲撃した呪霊や狼呪霊を創り出したということも考えられる。
それにこんな希少な術式を持っている人間が、そう何人もいるとは思えない。
そして、この依頼は可能であれば呪詛師は捕獲、危険と判断した場合は殺害も認められているのだというから、こちらも大概ブラックだ。
場合によっては、僕は今日、悪人とはいえ初めて人を殺すことになるのかもしれない。
「それにしても五条先生、よくこの案件を僕に通したな。腕試しのつもりなのかな?」
僕は一応、先日から特級という扱いになったが、相手は12名、内3名は一級相当という手練だ。
難易度は確かに特級案件、しかも可能なら捕縛との文言がある以上、余程の場合を除いてこちらは手加減が必要なわけだ。
訳ありとはいえ、約半年三級に留めておいた僕が経験不足なのは先生も承知のはずだ。にも関わらず、任務や僕の元に通した。
やはり妥当に考えれば、あの案件で急激なパワーアップを遂げた僕の力を試す目的。
そして、この創霊呪術を持った男を見て、僕の追っている相手の可能性があるということにも気づいて、手掛かりになればと思ったのかもしれない。
「先生の思惑がなんにしろ、事件の真相に近づく大きな手がかりかもしれない…よし、やるぞ僕!」
そんな僕は今、すでに敵本拠地と思われる港の倉庫群に来ていた。今回の補助監督は伊地知さんではなく、初対面の男性の人だったのだが、僕を下ろすなり"帳が降りるのが見えたら突撃して結構です"とだけ言い残してさっさと行ってしまった。
なんだか態度が冷たいし感じが悪かったのだが、僕が特級の危険物認定されているからだろうか?少し傷ついた。
すぐ背後は海、多くの貨物船が停泊しており、そよぐ海風が心地いい。
だというのに目の前の倉庫の中には、人の死を食い物にする悪鬼どもが12人。今日この時間、全員がここに揃っていることも確認が取れているらしい。
ぶっちゃけ、それだけの情報網があるならもっと任務の等級詐欺を減らして欲しいものだが、イレギュラーは付きもの、あまり我儘は言うまい。
そうこう考えているうちに、空からジワリと薄闇が幕を張り始めた。
「多対一における強襲の鉄則、初撃で最大の痛手を…」
まずはセオリー通り、挨拶がわりの一撃をお見舞いするとしよう。
僕は北海道で取り戻した記憶とき、本当の自分と呼べるものも取り戻した。それが同時に自身の術式のルーツを知ることにもなったのだ。
だからだろうか、呪いのなんたるかを今の僕はほぼ感覚で認識している。
これまで意識的に行なっていた呪力操作、それを今となってはほぼ無意識、動作に付随する形で自動で行えているのだ。
その域に至ったことにより、僕はこれまで持て余してきた呪力を最大効率で利用できている。
その結果手に入れたのが、イカ呪霊相手に見せた拡張術式及び極ノ番。
自身の術式の解釈を広げることで、呪術は更なる奥行きを僕に見せてくれた。
『拡張術式・千界門』
自身の内に繋げていた並行世界への門、僕はそれを体の外、広い世界に広げる。
途端に虚空を覗かせる直径1mの穴が空間に出現し、無数のそれらが呪詛師達が潜む倉庫をドーム上に取り囲んだ。
「中でどんな悪事を働いているかは知らないけど、何してようが君たちが悪であることに変わりはないからね。容赦なくいかせてもらうよ」
この世に神はいない、いるとすれば意地悪な神様だけだ。
だから僕は、僕の手の届く範囲の宝物を守り、手の届く範囲の害悪を滅ぼそう。
『無窮界交呪法・天照』
四方八方から繰り出された呪力は、極細のレーザーのように収束率を高められており、あらゆる物体を貫き着弾地点で膨張・炸裂する。
一瞬のうちに穴だらけになった倉庫の壁と屋根は自重を支えきれずに倒壊し始めた。
「な、なんだ今のは‼︎」
「襲撃だ!呪術師のやつ無茶苦茶やりやがっ…ぐぁ⁉︎」
「おい!崩れるぞっ!」
完全に無警戒な状態で、しかも逃げ場のない密室。
直撃したやつもいれば、手足が千切れたやつもいるかもしれないが、確認してみて致命傷なら拘束してから適度に治療するとしよう。
炸裂で粉々になられたら流石に再生できないので、出力もだいぶ絞ってある。聞きたいことがあるやつ以外、正直死んでくれて結構だが、外からでは誰に当たるか分からないから仕方ない。
ついにガラガラと崩れ切った倉庫を前に、万一この惨状から逃走を図られても困ると、先ほど展開した千界門の密度を上げ、まるで領域のように完全包囲する。
1m以内に近づくと自動で迎撃する包囲網の完成だ。
「これで逃走経路は潰した。あとは一人ずつ捕らえて創霊呪術の使い手を探さなきゃ」
ようやく土煙が晴れた段階で立っていたのは軽傷2人、無傷が3人。普通に考えて無傷の連中が一級相当の手練だろう。立ち姿にも隙が少ない。
軽傷2人は式神使いらしく呪符を構えている。
残りの7人は手足のどれかが飛んでいるようで、随分辛そうに呻き声を上げているから、戦闘不能扱いで良さそうだ。
「いたぞ!あいつだっ…?」
「制服…呪術高専の関係者か…?」
「え、何?ジロジロみないでよ気持ち悪い」
「おいお前、高専はいつから小中高一貫になったんだ?」
激情していたはずの連中が突然静かになり小首を傾げたかと思えば、訳のわからない質問をしてきた。
「は?何の話?」
「とぼけんなよ!テメェは囮か何かか?こんな無茶苦茶しやがった奴はどこだ⁉︎」
そこまで会話をしてようやく理解が及んだ。
なるほど、小学生に見える僕が気を引くための囮で、攻撃を仕掛けてきた別人がいると思ってるわけか。
「おじさんたちさ、人を見かけで判断してはいけませんって、子供の頃、学校で習わなかった?」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!テメェは後回しだ、仲間はどこにっ…⁉︎がぁあああ‼︎う、腕がぁぁあ‼︎」
あ、思わず両手飛ばしてしまった。
式神使いって分かってるし、そっちはまぁいいか。
そして、その光景を見たことでようやく最初から敵が僕1人であるということを理解したらしい。
瞬時に攻撃対象として認識しつつ、僕が穴から放った呪力放出を見て、自分たちを囲むこの無数の穴全てが同じことのできるものだと認識したらしい。迂闊に近寄ることもせず、ジリジリと僕との距離を測っている。
やっぱり無傷組3人は戦闘慣れしているらしい。
「近寄れねぇってんなら、こいつはどうだ!」
が、残る1人の式神使いは痺れを切らしたのか、懐から取り出した10枚の呪符を全て切り、目算で強めの個体で二級程度の呪霊を呼び寄せた。
「お前たち、あのチビを殺せ!」
「おい!寄せ‼︎」
「……チビ?」
「なっ、一撃で俺の式を⁉︎あがっっ‼︎」
バジュッ‼︎と音を立てて極細の呪力砲を包囲網から放ち、呪霊の群れを一網打尽にしてやった。
今のはお口の悪いこのおじさんが悪い。
それもついでとばかりに両足を撃ち抜いて立てなくしてあげた。
これで三対一、一級相当と言われている呪詛師のみだ。
資料だと創霊呪術の使い手もその中に含まれていたから、誰か分かるまではやりすぎないようにしなければ。
「おいおい、マジかよ…五条悟じゃなきゃ対処できると思っていたが、高専の連中、こんなのを隠し持ってたとはな…!」
「先生だったら最初の一撃で全滅だったんじゃないかな?」
「先生って…お前あのバケモンの教え子かよ。バケモンの生徒もバケモンってか?」
こいつはやけによく喋るな。
銀髪オールバックにチャラチャラした服装、品のないアクセサリーの数々。見るからに下品な30代の男だ。
「…さっきからバカスカと撃っているが、これだけの威力と精度で呪力が尽きた様子がない。加えてあの外見、天与呪縛の類で何かしら強化を得ているかもしれん。迂闊に近づくなよ」
こっちは40代ぐらいに見える細身で黒髪七三分けの男。
冷静に分析をしているし、しかもなかなか鋭い。
一番警戒しないといけなそうだ。
「何でもいいでしょう。派手に暴れてくれた訳ですし、落とし前さえきっちりつけてくれれば文句なしですね」
最後の1人は20代後半といった印象…こういう組織にあるまじき和装、着物を着ているせいで尋常じゃなく浮いている。
そして、体に巻き付くように芋虫のような呪霊がくっ付いているが、何だあれ?
なかなかに個性的な面子だが、相手は全員が一級相当、逃げ道こそ塞いでいるが、相手を逃さないということは、3人が全員確実に僕だけを狙って仕掛けてくるということだ。
「愉快なお仲間さんみたいだけど、用があるのは1人なんだ。おじさんたちの中で創霊呪術を使える人ってだれ?」
「んなもん…勝ってから聞けやクソガキィ‼︎」
残念、スムーズに答えてくれれば楽だったがそうはいかないらしい。
最初に仕掛けてきたのはチャラ男だ。
上着の前を開いたかと思えば、その内側に見えたのは多数のナイフ。そのうち2本を抜き取り、逆手に構えたかと思えば、小太りな外見に似合わない速度で突っ込んできた。
(接近戦タイプ、足も結構早い)
天照で迎撃を開始するが、どこにそんな身体能力を隠していたのか、巧みに回避して迫ってくる。
「そんなぬりぃもんに当たるかよ…っ!」
だが、僕まであと3m程度に迫った瞬間、チャラ男の目の前に新しく穴が出現、反射的に足を止めた相手はそのまま上に飛び越える。
「いないっ…⁉︎どこ行きやがった‼︎」
「バカっ!上だ‼︎」
仲間の声も虚しく、空中で身動きの取れない男のさらに上から飛来した僕は、そのまま男の脳天に呪力を込めた拳を叩き込む。
ノーガードで喰らったせいで、思い切り頭頂部を陥没させた男は、鼻血を噴きながら地面に叩きつけられた。
穴による目眩し及び一瞬の足止めの隙に、上空に瞬間移動を行い、そのまま落下による加速と呪力強化を載せた鉄拳…我ながら綺麗なコンボが決まったと思う。彗星拳と名付けよう(ドヤ
「今の移動速度、まるで瞬間移動でもしたような感覚…」
「僕の術式だよ。無窮界交呪法、この世界の僕と無数にある並行世界の僕とを繋いで、呪力の共有、肉体の上書きを行う。さっきから周りにある穴は並行世界に繋がってる、僕以外干渉できないけど。それから瞬間移動のからくりは…」
「っ⁉︎」
今度は黒髪七三の真横に出現する。
僕の背面には術式による穴が開いていた。
「穴の先に自分の肉体を上書き…"最初からそこにいた"ことにしているとでも‼︎」
「インテリな見た目通り、理解が早い!」
本来同一の存在は同じ世界に存在できない。
移動先の座標に肉体情報の上書き(この場合は転写と呼称)した場合、元々僕が立っていた地点と転写先とで二人の僕が存在することになる。
さらにずれた座標に存在する同一の存在には、重なることで一つの存在になろうとする力が働く(世界の修正力と呼称)
結果、上書きされた新しい自分と瞬時に同化することによって、僕は"最初から転写先にいた"と世界の情報が修正されるのだ。
これが瞬間移動のカラクリである。
キレる頭でそのカラクリをある程度理解したのだろう七三は、背後からの僕の拳を察知するなり、即座に回転蹴りを放って迎撃、立て続けに蹴りを多用した連撃を仕掛けてくる。
さっきのチャラ男は本当に一級だったのか怪しいが、この人は体捌きがよりしっかりしている。
涼くんほどではないが、蹴りばかり繰り出されると手足のリーチが短い分、僕の打撃は届かず下がるしかなくなる。
さらにそこに敵の援護が入る。
僕の顔スレスレを走り抜けたのは火炎。
ちらりと視線をやれば和服の男が操っているのだろう、炎の鬣を持った獅子が出現している。
ふと自分を覆った影に上を見れば、今度は鳥型の呪霊が鉤爪を構えて突進を仕掛けてきている。
(呪霊を操っている…あの和服か‼︎)
「今のを交わしますか…、末恐ろしい小僧め」
鳥型呪霊の攻撃を後方に飛んで交わしながら、今度は黒髪七三の術式なのだろう、間髪入れずに頭上から降り注ぐ何かを術式で空中に跳んで回避する。
見渡せば周囲に水滴が浮いている。大方、水を操る術式とかだろう。七三が水を入れていたらしい水筒をその辺に投げ捨てていた。
だが、これで創霊呪術の使い手は和服の方で確定。
つまり、七三に用は無くなったということだ。
「
空中から落下する僕に合わせて放たれたのは高圧の水流、つまりはウォーターカッターだ。
しかし、僕は即座に両足の裏に穴を作り出し、空中に立つことでその一撃を回避する。
僕だけが干渉できる穴は他人はすり抜けるが、僕が触れた場合のみそこに実在する物質として認識される。あくまで穴の中を出し入れ可能なのは呪力と向こうの世界の肉体情報。穴そのものに手を突っ込むようなことはできない。
それを利用して、足元に展開すると必然的に空間に固定された足場になるのだ。
「空中に立つとは…だが!」
七三が構えた指をビッと上に向けると、真下を通過している最中の水が槍のように変形して突き上げてくる。
変幻自在とは正にこのことだと思いつつも、足裏の穴からの呪力放出によって全て撃墜する。
「七三おじさんは少しじっとしてて」
「ちっ!次から次へと…!ぐぉっ⁉︎」
四方から放つ呪力放出をアクロバティックに回避したものの、着地のタイミングを狙って真上から照射、直撃を受けた七三は吹き飛ばされる。
あちこち焦げているが呪力で身を守ったのだろう、呪詛師にしておくには勿体無いくらい優秀と見える。
だが、これで残るは和服の男のみ。
「あんたにはいろいろ聞きたいことがあるんだ、でもその前に…」
「手足の二、三本は覚悟してよね?」
戦闘書いてたら思ったより長くなった。
秋斗のあれは仕様です。