縛りでショタった呪術師の青春?   作:アンハピ

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連続で2話目投稿

戦闘描写って難しいよね




命懸け?の初任務

 

あのあと1人1発ずつ呪力の籠った拳骨を頂戴した僕たちは、一通りの片付けを命じられ脳天に響く激痛に悶えながら寮へと戻った。

呪術高専は表向きには全寮制の宗教系学校として振舞っているとのことで、学生寮や希望する教職員向けに社宅まで存在している。

その設備の維持費がどこからきているのかと気になるところだが、それよりも明日から早速隣の教室を使用することになってしまったことが気がかりだ。

浪川くんはかなりの本気度で呪術高専にきているみたいだし、明日このことを知れば早速怒られる気がする…。

いや、きっと寛大な心で許してもらえるはずと信じよう。

 

「しーちゃん隣の部屋だったんだな」

「一年生は部屋が並んでるみたいだね、ほら」

 

そう言って僕の部屋の左隣を指差せば、ちょうど浪川くんが扉を開けて顔を出したところだった。

制服から動きやすい服装に着替え、ランニングシューズを履いているあたり走り込みにでも行くのだろう。

怪訝な顔でこちらを伺っているが一体どうしたと言うのか。

 

「…なんだその頭の瘤は?」

「え…あぁ、トラブルがあったというかなんというか…」

「…なんだと?」

「いや…その」

「学長に大目玉喰らったんだよ〜」

「あっ…ちょ、秋斗くん⁉︎」

 

なんてことない調子でそうのたまう秋斗くんに驚愕の眼差しを向けた浪川くんは再び僕の方へと視線を寄越す。

 

「入学初日からなにをした…?」

 

視線から殺気を感じる…。

これは教室をダメにしたなんて言えばどうなるか、想像しただけで悪寒がしてきた。

 

「あー…それは明日のお楽しみ?みたいな?あはは」

「今ここで答えろ、返答次第では分かっているな…?」

 

これはもう腹を括るしかなさそうだ。

 

「……教室を吹っ飛ばしました」

 

その言葉に目を丸くしたかと思えば、どんどんと吊り上がり猛禽類もかくやという眼光になった。

 

「……俺は邪魔をするなと言ったよな?明日からの授業に支障が出ると言うことは俺の目的達成にとっても障害になる、つまり邪魔をされたことになると思うんだが、どうだ?」

「…ごめんなさい!どうか命だけはっ!」

 

これは土下座で平謝りするしかない。

100%自業自得だし、彼に迷惑をかけていることも明らかだ。

せめて命以外で償わせてもらうしかない。

 

「……はぁ、いや、すでに学長から処罰を受けているなら俺が勝手に罰するわけには行かない。だが、次はないと思えよ問題児」

「は、はい、善処いたします」

 

それだけ言い残すなりもうこちらを見ることもなく浪川くんは行ってしまった。

うう、初日からクラスメイトに問題児認定されるなんて、今まで比較的優等生で通ってきたと言うのになんと言うことだ。

 

「あはは、浪川は真面目だなぁ。しーちゃんだいじょぶ?」

「殺されるかと思った…」

「狼に目をつけられた子ウサギみたいに震えてたもんな」

「こ、子ウサギ」

 

秋斗くんは自分も頭に瘤を作っているくせにケラケラと随分楽しそうだ。

いやまぁ吹っ飛ばしたのは僕で彼は実質なにもしていないのだから申し訳なくも思うが。

 

「すでに明日から憂鬱なんだけど…」

「まぁまぁ、あのくらい呪術高専じゃ当たり前なんじゃない?普通拳骨だけじゃ済まないでしょ?」

「…たしかに」

 

入学初日から教室を吹っ飛ばした前例があるかは知らないが、少なくとも呪術が当たり前に飛び交う世界だ。

器物損壊程度は良くはないが頻繁に起こるのかもしれないし、そう考えると少し気が楽になってきた気がする。

 

「少しだけ気が楽になったかも。秋斗くんも僕のせいで学長に怒られちゃってごめんね?」

「こんくらい大したことないって。まぁ、明日から本格的に授業だしお互い今日は早く休もうぜ」

「うん、それじゃまた明日」

「おう、またな」

 

そう言ってそれぞれの自室に入る。

僕の部屋は実家から持ってきた必要最低限のものしか置かれていない。結局、あのあと実家も売り払ってしまい今では僕の学費の一部に当てている。人死が出ている以上、大した値はつかなかった。

そもそも実家の所有権は購入した父にあるものと思っていたが、あちらはあちらで新しい家族との家があるらしく僕の知らないうちに母に完全に引き渡していたそうだ。本当に母と僕の元に戻ってくる気がない…一切未練などもなかったのだろう。

まぁ腐っても血のつながった親だし、だからと言って不幸になってしまえとは思わないが母の葬式にも来なかったことだけは恨んでいる。

あの人は父が出て行った後も指輪を外さなかった。

それこそ自分が死ぬその時も…。

心のどこかで戻ってくると思っていたのか、とにかく未練は捨てきれなかったのだろう。

その指輪は今では安い革紐を通して僕の首にかかっている。

正直見るたびに最低な父親が思い出されていい気はしないが、母が捨てきれなかったものを勝手に捨てるのも躊躇われた。何よりいずれ僕が直接あの男に突き返してやるつもりだ。

 

「五条先生、あの呪霊の出所はわかったのかな…」

 

件の呪霊、先生に聞いたところ二級相当の力があったらしい。

最強を自称するだけあって特級の先生には歯牙にも掛けない存在だったと自慢していたが。

あの呪霊による被害は僕の住んでいた街で事件の1週間前から続いており、子供から年寄りまであの時点で8名が行方不明になっていたことで、その対処として手の空いていた先生があの場に来ていたと言う。

そして、事件後に一連の被害を精査したところ、呪霊の最初に出現したポイントから僕の家までほぼ一直線に移動をしていたことが判明した。

それだけならば、どこか別の場所を目指す過程で僕の家が進路上で被害にあったとも言えたのだが、母を殺害した後あの呪霊は家の中に止まっていた。

つまり…最初から呪霊が母と僕を狙っていたと言うことだ。

さらに本来呪霊には余程強力な個体でもなければおよそ知能と呼べるものもないのだと言う。

それが目的地を目指して明確に移動し、さらにはターゲットが1人いないことを理解して屋内で待ち構えていた。

これらから導き出せること、それはあの呪霊を操るか、もしくは指示を出せる人間がバックにいると言うことだ。

 

(…誰が何のために)

 

情報不足な今、それを考え続けたところで答えなど出てくるはずもないが、そんな当たり前のことが分からなくなってしまうあたり、僕もまだ立ち直れたと言うわけでもないようだ。

その日は結局、そのまま襲ってきた睡魔に身を任せた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

僕たちの入学からはや半月が経過した。

すでに呪術界の基本的な知識などの座学から、術式の実践訓練といった授業内容にシフトしてしばらく立つが、呪力なしの格闘戦において、フィジカル面で圧倒的なハンデのある僕は事故の危険を考慮されて他の2人と組まされることはなく、ほとんどが教員を相手取った訓練になっている。

浪川くんが不公平だとでも言いたげな目で見てくるのだが、こればかりはお互いに不必要な負傷を避けるためなのだから許して欲しい。

と言うのも、僕の術式はまだ完全には使いこなせていない。その上、先日の教室の一件からもわかる通り、威力だけは余波で人死が出るレベルだ。

 

「それじゃ、今日も昨日の続きからいこうか」

「はい!よろしくお願いします!」

「可能な限り呪力放出の効果範囲を僕に絞りつつ、その上で出せる最大火力で放つように」

「はい、行きます!」

 

僕の生得術式『無窮界交呪法(むきゅうかいこうじゅほう)』は、オリジナルの自分と無数に存在するとされる並行世界の自分を接続する過去例を見ないという術式だ。

そして、この接続によってできることも半月の訓練の中でかなり解明された。

 

まずは『状態の上書き』

オリジナルに並行世界の自分の肉体状態を上書きして反映することができる。これはつまり僕が死にかけたとしても健康な状態の自分がいる世界と接続、反映することで無傷の状態で復活できる。

 

次に『呪力の共有』

オリジナルと並行世界の自分が有する呪力を分かち合うことができ、無数の自分から呪力を少しずつオリジナルに分け与えることで実質無限の呪力を得ることができる。

なおこれらの能力の行使は自身が術式の使用を意識するだけで可能であり、肉体状態の反映、呪力の共有といった動作にもほぼタイムラグはない。

これだけ聞くと完全無敵のチート能力に思えるが無論欠点もある。

 

例えば、

・自分以外を並行世界の対象と繋ぐことはできない。

あくまで自分のみが対象であるため、相手がすでに死んでいるか、もしくは瀕死の世界から肉体を上書きして倒すなんてことは不可能。

・頭を潰されるなど脳を一撃で破壊された場合、術式を意識する間もなく即死するため復活できない。

むしろ脳以外ならどれだけ致命傷でも数秒は意識があるため復活可能。

・術式そのものに攻撃的な能力がない。

呪力を弾丸に変えるといったことも不可能なため、攻撃手段は単純な呪力放出による攻撃か呪具を使用した攻撃のみ。

・自分の呪力量の上限は変わらない。

無限の呪力とは言ったが、減っても即回復により尽きることがないだけで、自分に溜め込める呪力の限界量以上を一度に得ることはできない。先生曰くこの限界量を超えて溜めた場合、肉体が持たずに即死する危険あり。なにそれ怖い…。

・接続対象となる並行世界は術式を発動する一日前の自分を起点として分岐した世界のみである。

何気にこれが一番ショックな欠点だった。

なぜなら…天与呪縛を受けなかった世界の自分から肉体を上書きして今より成長したイケイケな姿に、と夢見たからだ。

痒いところに手が届かない、ガッデム。

 

ざっくりと上げただけでもこれだけの欠点がある。

そして、今行っているこの訓練は呪力放出の出力、収束具合を自在に調節できるようになるための訓練なのだ。

そして、日々の訓練でもう一つ発覚したことがある。

それは天与呪縛によって肉体の成長が止まった代わりに得た力だ。

出会った当初、先生は六眼で僕を見てその呪力量のふざけた多さこそが得た能力だと思っていた。無論僕もそうだったが、正確には自身の呪力量の上限値が跳ね上がると言うもので、つまりは最大チャージできる呪力許容量が並の数十倍に匹敵するものになっていた。

この上限マックスまで溜めての呪力放出たるやツァーリボンバ級…何だか人扱いされない気がしてきた。

この天与呪縛により実質的にデメリットの一つである呪力の上限オーバーで死ぬ危険というのはほとんどないも同然だ。もちろん、限界がないわけではないので調子に乗れば死ぬが。

そして最大出力を使うこともおそらく一生ない。

そもそも人間の身で制御できる呪力の範囲は軽く超越しているのだ。

放ったところで自分を中心に敵も味方も一般市民も巻き込んで極大爆発、半径数十キロに及ぶクレーターが出来上がることだろう。

……やはり僕は戦略兵器か何かなのでは?

こういった取り扱い注意な仕様から先生は僕の術式についての詳細を上に隠している、といっていた。なんでも保守的極まりない腐り切った連中だとかで、最悪僕を消そうとするか引き込むためにあの手この手を弄してくる危険があるらしい。

長々とした術式の説明はこの辺で切り上げて、僕が術式の特徴を理解し呪力操作を磨き上げて生み出した技を披露しよう。

 

「ギャラクシー呪力砲(キャノン)‼︎」

「ぶはっ!」

「隙ありっ‼︎」

「ぐはぁ‼︎」

 

両手を前に突き出して技名を叫んぶ。そして正面約30度角でビームのような呪力放出を行った瞬間、後ろの方で浪川くんと実戦形式の組み手を行っていた秋斗くんが吹き出した。その隙を逃すはずもなく浪川くんの蹴りが腹部を直撃して明後日の方向に飛んでいってしまった。

なんだよ笑うなよ、かっこいいじゃないかウルトラ呪力砲。

 

「いやー、名前はともかく火力は一級品だね。現時点で僕の虚式といい勝負できるんじゃない?これでまだまだ制御できる出力を上げられる、伸び代があるんだから末恐ろしいよまったく」

 

などと軽い調子で言いながら傷ひとつない先生が砂煙を掻き分けて姿を現した。くそ、()れなかったか…!

だが、先生の立っていた周囲以外ははるか後方、校庭の土手手前辺りまで地面を抉り飛ばした跡が残っている。

 

「今はこの威力が制御できる限界ですね。これより一度に放つ呪力量を上げると制御できなくて全体攻撃になっちゃうと思います」

「ははっ、ここでは絶対やるなよー?次は紫鶴のポケットマネーから修繕費出すことになるだろうから。まぁ、その前に上の怒りを買ってこの世にいないかもだけど」

「それは勘弁してください」

 

軽薄クソ教師がなんてことを言いやがる。

だが、わずか半月でこの威力を制御できるようになったのは先生の指導の賜物だといってもいい。

無下限呪術による大幅な威力減衰があるからこそ、放った後の被害がこれで済んでいるし、いつもギリギリの威力で放出を繰り返すことで呪力制御もスピーディーに上達した。

もし先生がいなければ校内ではこんな訓練はできなかったはずだし、あちこちの無人地域なんかに出向いて自然環境を破壊しまくることになったかもしれない。その点だけは素直に感謝だ。

 

「うっへぇ、昼飯が喉まで来た…」

 

そうこうしていればダメージから復帰した秋斗くんがお腹をさすりながらフラフラ戻ってきた。あちこち土汚れが目立つが一応大丈夫そうだ。

 

「訓練中に隙を見せるからだ。呪霊相手なら死んでいたぞ軟弱者」

「くっそー、ちったぁ手加減するか寸止めしろよなー!」

「実験形式だと言ったろう。手加減も寸止めもなしだ」

 

キリッとした鋭い眼光そのままに淡々と言い放つ浪川くん。

その言いように秋斗くんもげんなりだ。

 

「真面目ちゃんめ〜!ていうか、しーちゃんもその名前なんとかならないの?任務中に吹き出して俺死んじゃうかもなんだけど」

「えぇ〜!ギャラクシー呪力砲だめかな?」

「いや、ダメっつーかなんつーか…ダサいかな?」

「ダサいな、それにガキっぽい」

「ダサっ…、ガキっぽい…」

 

2人して口を揃えて辛辣なことを言う。

涙腺も12歳児だと言うところを見せてやろうか。

いや、先生の前でそれは余計にいじられるから我慢だ。

名前については要検討、自分としてはイケてると思うのだが、そのせいで仲間が命を落としただなんて僕も死んだ本人も嫌すぎる。

 

「おしゃべりはその辺にして続き行くよー?」

「はい!次、お願いします!」

 

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「諸君、本日も一日お疲れサマンサー!そして毎日血みどろの努力を積み重ねている健気な生徒のみんなに朗報だ!明日の授業はお休みだよん!」

 

ホームルームで唐突にお休み宣言。

世の一般的な学生ならば両手をあげて大喜びだ。

だが、ここは呪術高専。ただの休みな訳もない。

 

「それはつまり…」

「さすが涼、お察しの通り君たち一年生3人で初の任務だよ」

 

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「これまた随分な…」

 

そう溢した僕たちの視線の先には、明らかに何か出ますと言った雰囲気を醸し出す廃旅館。

立地としては郊外の木々と自然豊かな一角だ。

錆びてガタついた門、割れた窓ガラス、至る所に描かれたスプレー缶による落書き、散乱したゴミの数々…と映画の撮影に使えそうな広さも相まって呪霊の住処としては百点満点花丸だ。

 

「憩いの森リゾート…って書いてあるな。看板の字が滲んでダイイングメッセージみたいになってるぞ」

「わ、ほんとだ。芸術点高い…ていうか、何でこう言う廃墟って全部如何にもって雰囲気になるんだろうね?」

「風通しがないだけでも物の劣化が一気に進むって言うからなー」

「無駄話はそこまでだ。いくぞ」

 

僕たちの会話を中断させて壊れた自動ドアから建物内に入っていく浪川くん。いつもよりピリピリしている気がするのは僕だけだろうか。まぁ、初の呪霊相手に実戦だ。僕と秋斗くんの緊張感が足りないだけかもしれない。

敷地の外で待機している補助監督は僕たちが中に入ったのを見届けて早速帳を下ろしている。

敷地内を覆うように夜の闇が侵食していく。

この帳は呪霊相手に大立ち回りを演じる術師たちを外部の一般人の目から守ってくれる役割がある一種の結界術で、覆われた内部はそこだけ夜になったような薄暗さになってしまう。また、副次的に電波が遮断されるために携帯等で連絡が取れなくなるという。

命懸けで戦ってるこちらとしては救援がすぐに呼べないなんて不便すぎる気もするが、公になって情報操作に奔走することになる補助監督たちのことを考えれば我慢せざるを得ない。

 

屋内も散々な荒れようだ。特にガラスや鉄の破片が散乱している場所が見受けられる。戦闘中にこれらで余計な怪我をしないように注意しなければ、鉄片なんか錆びているから破傷風になる危険もある。

そんなことを考えつつ、特に会話もなく進めば止まったエレベーターの隣に非常階段が用意されているのが見えた。

 

「さて、呪霊のいそうな気配はビンビン感じるけどもどうやって探す?向こうから出てきてくれる可能性もあるけど3人いるんだ。俺は手分けして探すに一票」

「手分け自体は効率的だが、遭遇した場合にどうやって他2人と合流するつもりだ?補助監督も説明した通り、電話での連絡も取れないんだぞ」

「あー、そっか。なら消去法で3人一緒に探すってことになるけど…」

「あ、あの…それじゃあ間をとって僕が1人、秋斗くんと浪川くんがペアを組んで二手に分かれるのはどうかな?僕なら仮に呪霊と遭遇して相性が悪かったりしても術式のおかげですぐ死ぬことだけはないし、時間稼ぎをしている間に僕の攻撃の騒音で2人も気づけると思うんだけど…」

「構わない。だが、初の実戦だ。俺たちが着く前に払ってしまわないように気をつけろ。呪霊相手の戦闘経験を積むことも俺の目的のための糧にする」

「あはは、善処します」

「俺もそれで構わないけど、しーちゃんほんとに1人で平気なの?怖くない?」

「子供扱いしないでよ秋斗くん!」

 

本当に対極的だなこの2人。

片や実戦経験を積むために呪霊の心配。

片や子供と思っているのか同期の心配。

ていうか、秋斗くん最初は3人手分けって言ってた気がするんだが。

 

「まぁしーちゃんがそれでいいなら俺も文句はないよ」

「決まりだな、なら俺たちは最上階から下に向かって捜索する」

「うん分かった。じゃあ僕は下から探していくね、2人とも気をつけて」

「しーちゃんも無理しちゃダメだよ?ほぼ不死身って言っても痛いのは痛いんでしょ?」

「あはは、気をつけるよ。心配してくれてありがとう」

 

そうして2人は階段を登って行った。

さて、ここからは単独行動、どちらが当たりを引くか運試しだ。

いや、呪霊だしハズレか?

その前に今回の任務内容をおさらいするとこうだ。

この廃旅館は約10年前に経営難によって廃業したそうで、それ以来近隣では有名な心霊スポットとして名を馳せていたと言う。

過去にもいくつか事件はあったそうだが、ここを溜まり場にしていた不良グループと別のグループとで抗争があったとか、肝試しに入った学生が中で怪我をしたとかそう言った程度のものだった。

しかし、1週間ほど前に5名の大学生グループがここへ立ち入り、なんとたった1人を除いて行方不明になっているというのだ。唯一帰ってきた男子学生も余程恐ろしい目にあったのか、発言が支離滅裂で中で何が起こったのか要領を得ないらしい。

一つだけはっきりと聞き取れたという言葉は「俺じゃない」

これらの事態を把握した呪術高専は呪霊による被害の可能性が非常に高いと判断。実戦経験を積ませるにも丁度いいと新一年生3人にこの任務が割り当てられたのだ。

ちなみに今回の相手は被害人数から考えて3級、悪くて準2級程度と思われ一年生3人で対処すれば解決できるとの判断が下された。

 

「3階まできたけど全然見つからない…本当に呪霊の仕業だったのかなこれ」

 

1階から各部屋をくまなく探してはいるが姿形も見当たらない。

遭遇すれば場の雰囲気も相まって軽く悲鳴を上げるかもしれないが、それはそれでいい合図になるはずだ。

ただ反射で吹き飛ばしたりしないようにしなければ、あとで浪川くんの方が怖いかもしれない。

一方のもう一組は最上階に当たる8階からすでに4階まで降りてきており、廊下の突き当たりの部屋に入ったところだった。

 

「見当たらないな、そろそろしーちゃんと合流しちゃうんじゃないこれ?」

「…いや、これを見てみろ」

 

室内に入ると部屋の中央に陣取るように古びた丸テーブルが置かれていた。

そしてその上には紙に鉛筆で書かれた

鳥居・はい、いいえ・0〜9・五十音表

その隣にはコインが置かれている。

有名なアレだった。

 

「コックリさん…だよなこれ。…もしこれが原因なら今回の呪霊相当やばいやつなんじゃ」

「あぁ、しかもこのテーブルの上に残った残穢…最近発生した呪霊のものなのに妙にはっきりと見える。まだ可能性の話だが俺たちの予想が当たっていれば二級どころじゃない、一級以上の術師がいなければ話にならない相手だ」

「…しーちゃんがヤバいっ!」

 

大慌てで部屋を飛び出そうとする秋斗の腕を咄嗟に掴んで引き留める。

 

「な、浪川!離せよ!早く合流しないとしーちゃんが危ない!」

「落ち着け桜庭!俺たちが合流したとしても事態が悪くなる可能性が高い!」

「はぁ?そりゃ単純な攻撃力ならしーちゃんが上かもしんねぇけど相手が相手だ。力任せの呪力放出が当たるとは思えねぇ!それにほぼ不死身とはいえ苦痛は感じるって話、さっきしたばっかだろうが!仲間が苦しんでるのに見捨てる気かっ‼︎」

 

鬼気迫る様子で浪川に怒りを露わにする秋斗だが、それに対して冷静沈着な浪川が秋斗の胸ぐらを掴み上げさらに声を荒げた。

 

「落ち着けと言っている‼︎俺を見くびるな!仲間は見捨てない!どんな奴だろうがチームを組んでいる相手なら俺は死んでも守り抜く!そのためにここに来たっ‼︎」

「っ…!」

「いいかよく聞け桜庭。お前は今すぐ外に出て補助監督に事態を伝えろ。一級以上の術師の応援要請をしてもらうんだ」

「それならお前の方が足が速い!俺が残った方がいいんじゃ…」

「最後まで聞け!確かに補助監督の元につくのは俺の方が早いが、俺が残るのはこいつがあるからだ」

 

そう言って浪川は自身が肩にかけていた竹刀袋を下ろし中身を引き抜いた。

そこには一振りの日本刀。

 

「『管斬(くだきり)』という呪具だ。今までの訓練で把握しているだろうが、俺は刀を使用しての戦闘が基本だ。そしてこいつは数多ある呪具の中でも獣やそれに類する性質を持った呪霊に対して特攻と言える威力を発揮する」

「じゃあ三人がかりで隙を作ってそいつを叩き込めば…」

「勝機はある…だが、相手の等級から予想される身体能力を考えれば、二人がかりでも薬袋の呪力放出を直撃、もしくは俺の斬撃を急所に叩き込めるかは五分だ。最悪、薬袋一人を残して俺たちが先に殺される可能性すらある。だからこそ、お前は応援を呼びにいくんだ。運良く五条先生がいれば最速で駆けつけてくれるはずだ」

 

はっきり言って予想通りの相手なら五条以外が応援に来るとなった場合、到着の前に甘く見積もっても薬袋以外は死んでいるだろう。

そこまで聞いてようやく秋斗も納得がいったようで、それを確認した浪川も掴み上げた手を離す。

 

「分かった…しーちゃんのこと頼む。お前も応援が来るまで死ぬなよ」

 

返事を待たず秋斗は部屋を突っ切り窓ガラスをぶち破って空中に身を投げ出した。呪力による身体能力強化で着地は問題ないと見て最短距離で補助監督の元に向かったようだ。仲間のピンチに熱くなるのは仲間思いでいいことだが、同時に欠点にもなり得る。自分の説得が効いてくれて良かったと少しだけホッとした。

 

「善処しよう」

 

浪川も階段を目指して一気に駆け出した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

三階305号室と書かれた扉を開け、僕は室内を見渡した。

これまでに見てきた部屋と特に大きな違いはないように見える。

この階も残りの部屋数は半分、二人がかりな分探索の早い二人ならばそろそろ上の階に来ている頃だろう。

 

「これはやっぱり別の意味でハズレだったかなぁ…ただの事件だったんじゃ…」

 

パキッ

 

「っ⁉︎」

 

勢いよく振り返る。

だが見慣れてきた廊下が続くだけで特に変わったものは見当たらない。

 

「うぅ…ラップ音とかいうやつかな?なんか急にめちゃくちゃ心細くなってきた…」

 

パキッ

 

「な、なにっ⁉︎」

 

やはり廊下には何も見当たらない…というか、本当に背後から聞こえたのかも定かではない気がしてきた。

 

バキンッ‼︎

 

「うひゃあっ‼︎」

 

急に耳元でなったような大きな音が聞こえて思わず後ずさる。

…今のは『後ろ』じゃない。

 

 

『上』だ

 

 

咄嗟に視線を天井に向ければ、果たしてそこに任務対象であろう呪霊が鎮座していた。

大きさは2m程度だろうか、犬とも狐とも形容できそうな獣毛に覆われた耳と長いマズルに剥き出しの犬歯、その眼は4対も顔面に蠢いている。胴体は人型のそれに近い。獣毛に覆われているのは同じだが、3本の尾を揺らしながら人間のような脚で天井を床にして胡座をかき、鉤爪のならぶ細長い指を備えた強靭な四肢が2対、一対は不思議な印を結ぶように組まれ、もう一対はさっきまで僕の頭があった場所に添えられていた。

 

『オイデ…クダサイマシタ…ケヒッ』

 

「……で、でたぁあっっっ‼︎‼︎‼︎」

 

ホラー映画として完璧な構図になっているあたり僕には役者の才能があるのかもしれない……じゃない!

あの手、あと少し反応が遅れていたら多分頭を持っていかれていた。それを認識した瞬間ドッと冷や汗が噴き出した。

それにこの距離まで全く存在に気が付かなかった。

呪霊とは呪力…つまり負のエネルギーの塊だ。呪術師であれば六眼を持つ五条先生のように視覚で見ることはできずとも、その禍々しい気配をある程度感じ取ることはできる。

だが、目の前のこいつは完全に気配を殺していた。

存在を認識して初めてそのとてつもない呪力を浴びせられて愕然とした。気づかないほどに呪力の弱い雑魚だから気づかなかったんじゃない。こちらに一切感知させないほどに呪力と殺気のコントロールに長けた『格上』ということだ。

 

『オ…オオ、イデクダサイ』

 

刹那、呪霊の姿が視界から消えた。

 

「は…?あぐっ‼︎‼︎⁉︎」

 

ズガァン‼︎‼︎

 

瞬間移動にも等しい速度で僕の左隣に現れた呪霊。

認識するよりも早く唸りを上げる蹴りを受けた僕は隣の部屋へと壁を突き破って叩き込まれた。

たった一撃の蹴り、それだけで左腕と肋骨を数本へし折られた。

 

「う…ぐ、くそ、無茶苦茶しやがって」

 

激痛に呻きながらも即座に術式を意識し、並行世界の自分の肉体を上書きして怪我を完治させる。

危うく意識まで刈り取られるところだった。

いくらほぼ不死身とはいえ意識を飛ばせば、術式で回復する前に完全に殺されてしまってゲームオーバーだ。

それにしてもこの呪霊、やはり一級並みの戦闘力…いや下手をしたら特級かもしれない。肌で感じる呪力が尋常ではなく、対面しているだけで吐きそうな気分だ。

何より僕は常識はずれの呪力量を有しているわけだが、未熟な肉体ゆえの脆弱性を加味しても、保有する呪力だけで生半可な攻撃は痛くも痒くもない防御力を発揮できる。

それを突き破ってなんなくダメージを通してきた…これは浪川くんたちを待って手加減していたら本当に殺されてしまうかもしれない。

 

『コークリィ…コークリコゥ』

「なに?コク◯コ坂?ジ◯リ?け◯フレじゃないのかよ毛玉野郎!もう怒ったぞ!ぶっ飛ばしてやる!」

 

犬(狐?)面で楽しそうに4対の瞳を歪めて奇怪な声を発する呪霊。そいつめがけて両腕をファイナルフ◯ッシュでも放つかのように突き出す。

 

「消し飛べ!ギャラクシー呪力砲‼︎」

 

ドゴォォォオオオオ‼︎‼︎‼︎

 

放たれた膨大な呪力の奔流が射線上のあらゆる物質を消滅させながら、反対側の部屋まで突き破り建物自体に風穴を開ける。

その爆音と衝撃で建物全体が大きく揺れ、巻き上がる粉塵に一瞬視界が悪くなったものの、それも徐々に落ち着いてゆく。

 

「ふふ、やったか」

 

フラグ発言をしっかりと決めてから粉塵が落ち着くのを待つ。

次第にぼんやりと呪霊と思しき影が見え、ついにはっきりと見えるほどになった。

 

『ヤッテ…クダサイ…マシタ』

 

なんだかさっきまでと声が違うが仕留め損ねたらしい。

しっかりとフラグを回収して相手の状態を観察する。

どうやら呪力を込めた2対の腕を正面で交差させて防御姿勢をとったようだが、その腕は肘から先が消し飛んでいる。

あれだけの素早さで交わせなかったのならば僕を格下と舐めている証拠だ。

 

「さっきのお返しだ毛玉野郎、次で終わらせてやる!」

 

追撃をと即座に回復させた呪力を両手の先に込める、が、呪霊も簡単に連射を受ける気はないらしく、目にも止まらぬ早さで懐に入り込み、残った足を使って連続蹴りを繰り出してきた。

 

「ぐっ…!うあっ‼︎」

 

ガッ‼︎ガガッガツンッ‼︎‼︎

 

こちらもそう何度もやられるつもりはない。

素早く両腕に込めた呪力を身体強化に回して防御力を底上げ、連続蹴りを腕で受ける。だが、小さな体が軽さゆえに押し負けてしまい、勢いを殺しきれずに後方に吹き飛ばされてしまった。

蹴り自体による肉体的ダメージは防御しきれたが、勢いは受けきれないということか。

うまく受け身を取って体制を立て直すが、呪霊は再度僕を蹴り飛ばそうと接近していた。

 

「何度も食らうかっ‼︎」

 

今度は喰らうまいと身体強化した腕で呪霊の蹴りを掴んで受け止め、ガシリと強く押さえ込む。

 

『ケヒッ⁉︎』

「へへ、捕まえた!今度こそ消し炭にしてやる!」

 

両腕が塞がっているため指向放出はできないが、強敵相手ゆえにやむを得ない。下手したら建物ごと崩落するかもしれないが、二人の身体能力ならうまく脱出してくれるはずだ。

 

崩天撃(ビッグバン)‼︎…ってあれ⁉︎」

 

が、先ほどまでなかったはずの腕がいつのまにか再生していた。

間髪入れずに僕の頭部めがけて四つの拳が迫り来る。

 

「ヤバっ…」

 

これは……死…!

 

 

ザシュッ‼︎

 

 

反射的に目を瞑ったがいつまで経っても衝撃はやってこない。

むしろ何か切断するような音が聞こえた気がして目を開けてみれば、再び呪霊の腕は肘から先がなくなっていた。

 

「へっ…?」

「ほぼ不死身を自称するだけはある。ちゃんと生きてたな薬袋」

 

そこに立つのは刀を携えて僕と呪霊との間に割り込むように立ち塞がる浪川くんの姿だった。

 




趣味の範疇でやってる小説だしガチガチにとまでは言わないけど、小説を書く上での基本ルールを勉強しなきゃ(するとはいってない)
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