2013年9月15日
姉妹校交流会、毎年9月、呪術師にとっての繁忙期である夏のシーズンを乗り切り、忙しさが落ち着きを見せた頃に行われる姉妹校との交流会。
昨年の勝利校が会場となるルールがあり、去年の交流会では我らが先輩方の活躍によって東京校が勝利を収めたことで、今年の会場はここ東京に決まったという。
より具体的には初日団体戦、二日目個人戦の二日間に渡る日程を、それぞれの校の学長が提案した種目で行うという形だ。
相手を再起不能にしたり死亡させなければ呪術による妨害ももちろんありの中々ハードなイベントのため、ここで見せ場を作れると生徒にとっては昇級のための貴重なアピールチャンスにもなる。
「て、ことなんだけどさ。去年の先輩たちってぶっちゃけどうだったんすか?」
「去年はこっちが人数的に有利だったのもあって勝利に漕ぎ着けたが、はっきりいって互いの生徒たちの実力は伯仲していたと言っていい」
僕たち一年は去年の開催日にはそれぞれ任務で見学すらできなかったために、実際のところどんな雰囲気での開催なのかがいまいち掴めていない。
その辺りの認識の差を埋めるためにも先輩方に情報提供を求めた秋斗くんだったが、佐渡先輩の説明を聞く限り、余り大きな力関係の差はなさそうだった。
「人数については今年は京都校の方が一人多いらしい。人数のハンデをどう詰めるかが肝心だな」
「ガハハ、そうはいうがお前たち!一つ重要なことを忘れていないか⁉︎」
「そうよ、今年はこの軟弱一年がいるじゃない。この子に任せとけばそれで試合終了なんじゃない?」
先輩二人は僕を最終兵器みたいに扱っているが、種目がどう言ったものかによるだろう。そもそも殺さないように手加減というのも意外と難しいことを理解してほしい。
「あはは…まぁどんな種目でもやれるだけはやりますけどね。多分、五条先生がいる以上、一人だけとはいえ特級がいる僕たち東京校に不利になるようなお題出してきそうなんですけど…」
これは今まで五条先生と付き合ってきた中で磨かれた勘だ。
だが、ほぼ間違いなく当たると断言してもいい。
夜蛾学長が提案するとはいえ間違いなく口挟むだろうし、そうしなければ人数が一人多いとはいえ、京都校にとってクソゲーになってしまう。片方があまりに圧倒的すぎると生徒それぞれの見せ場の面でも問題が発生するのは避けなければならない。
ぶっちゃけた話をすれば、僕というズルに何の枷もしなければ30分以内に相手を全員戦闘不能にできる自信が僕にはある。
だから、あまりやりすぎてヘイトを集めないためにも、個人的には縛りをつけて欲しいまであるのだが、僕のこの願いは果たしてあの軽薄教師に届くのか…甚だ疑問だ。
「はいはーい!みんなちゅうもーく!テンション上げていくぞ〜‼︎それでは早速、2013年度!姉妹校交流会を開催しまぁぁす‼︎はい、拍手〜ぱちぱちぱちぱち〜‼︎」
こういう時に先生を無視すると逆に絡みがめんどくさくなるのは学習済みだ。現に東京校の生徒は全員素直に拍手している。
そして、それを京都校がやばい宗教を見る目で見ているのが辛い、なんか涙が出てきた。
「う〜ん、流石我らが東京校!今日もノリが良くて何よりだ!辛気臭い京都校に負けるなよみんな!」
開催前から教師が一人、すでに片方に肩入れしている。
そんなんでいいのか本当に。
「それでは初日、団体戦の種目は〜?」
デケデケデケデケ……ドン‼︎
「バチバチ⁉︎呪いの電気ショック〜‼︎」
名前からすでに危険な匂いがプンプンしてるんですが、電気ショックとはこれいかに。
「じゃあ説明していくので耳の穴かっぽじってよーく聞くように!まず!今から帳を下ろすので、その範囲内が今回のフィールドになる!帳は出入り自由なので、万が一範囲外に指一本でも出たらその時点で場外失格‼︎さらに!フィールド内には蝿頭から三級までの低級呪霊を20体放ちます!この呪霊には今からみんなに配るベルトのどれかに連動した発信機がついてまーす!そしてそして〜、呪霊を祓うとなんと!発信機が作動して連動しているベルトをつけた対象に気絶するレベルの電撃が流れまーす!ベルトが作動した人もその時点で失格!」
……競技なのに電撃の威力がおかしくないか?
気絶するレベルって運が悪いと死ぬんじゃ…。
腐っても教育機関でそんなデスゲームやらせる気かこいつは。
説明を聞いている生徒全員の顔色がどんどん悪くなっていく。
「もちろん、例年通り呪術による妨害もありあり!再起不能な怪我や死なせなければ何してもOK!時間は一時間、時間切れの時点で立っていた人数の多い方が勝利となりまーす!質問はあるかな⁉︎」
「はい!先生!」
「元気のいい紫鶴くん!何かな?」
「発信機が誰につながっているか見分ける方法はありますか⁉︎」
「ありません‼︎」
ないのか⁉︎
つまり、簡単に祓える低級呪霊を仕留めて自チームの自爆覚悟で電撃を流して回るか、手間は掛かるが直接京都校の生徒とやり合ってノックアウトするか、場外を狙って失格にさせるか…この3択ってことか。
「はい」
「はい!いつもクールな涼くん!何かな?」
「場外はあくまで体の一部が帳から出たらアウト、両足がエリア内に付いていてもお構いなしという認識でいいですか?」
「ザッツライト‼︎ちなみに着用している衣類がミリ単位でも帳の外に出ていたらアウトなので気をつけて!」
これもまた中々厳し目のルールだ。
帳の外縁ギリギリで戦闘を仕掛けて場外を狙えるが、自分が激しい動きの中で帳に掠めでもすれば、それだけで失格率がグッと上がる。
かなり戦略が求められるやつだ。
「はい!」
「君は京都校の…えーと、一年の永瀬くんだったね!」
「はい!電撃のベルトが途中で外れた場合はどうなりますか⁉︎」
「うん、いい質問だ!もちろん即アウト!つまり、戦闘で相手を倒せなくてもベルトを狙って引っ剥がす手段も存在している!」
ここにきて4択目か。
これはチーム内で打ち合わせをしておかないと、バラバラに動いて安易に呪霊狙う奴がいたら運次第で自滅してしまう。
方針を固めねば!
「それじゃあ、質問はもうなさそうなので今から5分!作戦会議の時間をあげるから、みんなでよぉぉく話し合って決めるように!以上!」
「で、まずは方針ですが、どのパターンで攻めます?」
「呪霊狙いは楽だが博打要素が強すぎる。かといって場外狙いも現実的ではないな」
佐渡先輩と涼くんのインテリ組が真面目に議論してるけど、残りの三年二人は考える気ゼロらしく、一人は筋トレ、一人はぬいぐるみで遊んでいる。
そして、残りの二年、秋斗くんと僕は異様に深いとこまで考察し始めた二人を前に口を出さないでいる。
試合開始前からチームワークが壊滅的な気がする。
あと、意外にも僕を考慮したこちらに不利なルールがなかったことが意外だった。もしかしなくても、こっちに肩入れして勝たせようとしてるんじゃないだろうなあの教師。
「というわけでだ。我々東京校は試合開始と同時に二人一組を作り散開、京都校のメンバーを極力1対2の状況に持ち込み、ベルトの破壊、もしくは奪取に重点を置いて攻める。無論、相手も全員が孤立して散開するとは考えにくい。相手が同数までは戦闘を仕掛けていいが、こちらより人数が多かった場合は確実に撤退、そのグループは後回しにする。なお、試合中の連絡は帳の影響で携帯が使えないからな、今回に限り私の術式で代用する。以上だ」
佐渡先輩の術式、『共感呪術』は文字通り他者と思考や視界をリンクさせて迅速かつ広範囲に渡る情報共有、指示を可能とするインテリな頭脳にぴったりな司令塔向きの能力だ。
一度にリンクできる相手も最大8人と、ここにいる全員とリンクしても3人分は余裕がある。
先輩曰くこの3人分を活かして、相手との戦闘も可能と言っていたが、明らかな司令塔能力でどのように戦闘するかまでは教えてもらえなかったが。
「はーい、瑠花ちゃんから提案でーす」
「なんだ柳木、ちゃんと聞いてたのか」
「当たり前でしょー、私がこの中で一番非力でか弱いんだから、司令塔のことをよぉく理解しておかないとね。それで、提案なんだけど、相手がこっちより多かった場合はただ撤退じゃなくて、軟弱一年とチェンジすればいいと思いまーす」
その発言にギョッとしてそちらを見やると、柳木先輩がニヤニヤと底維持の悪い笑みを浮かべていた。
なんて女だ!僕を生贄にする気か?やっぱりあの人とは仲良くできそうにない!
「ふむ、鬼畜に見えて一理あるな。薬袋は瞬間移動に近いことができるし、相手が油断した瞬間に京都校全員が一番警戒している薬袋と入れ替わる。確実に動揺は誘えるか…。だが、瞬間移動できるのは薬袋だけだ、組んでいたペアが孤立することになる」
「残念ながら僕は自分だけしか移動できないんですよねー、五条先生みたいに他人も連れてテレポートできればよかったんですけど」
無窮界交呪法の対象はあくまで僕自身、領域内なら必中効果で相手にも影響を与えられるけど、その範囲内しか移動はできないから、どの道ペアを連れてあちこち飛び回るのは不可能だ。
「だからさ、綺麗に二人一組じゃなくても特級なら単独行動もいけるんじゃないって話よ。そしたら3人組が一つだからでしょ!」
「流石に初参加で単独行動は可哀想かと思ってそうしたんだが…薬袋、一人でもいけるか?」
「え、えぇ〜、すごい不安なんですけど…」
「何言ってるのよ!あんた五条先生と同じ特級なんだから情けないこと言わないの!本当軟弱ね!」
「まぁそういうな柳木!薬袋は思慮深いというやつなのだろうきっとな!ガハハ!」
「まぁでも、しーちゃん単独行動できるなら、3人組は奇襲的な動きもできるんじゃね?基本見つかりやすい位置で二人を行動させて、その死角にもう一人を忍ばせるておけば戦闘中に隙もつけるしさ」
ここにきて秋斗くんがまさかの単独行動推しにきた。
本人に自覚があるかは知らないが、まさか駄犬なりに忠実だと思っていた君に裏切られるなんて思わなかった。
しかも普段あんまりこういう作戦立案はしないくせに悪くないとこをついてきやがる。
「ふむ…だが、あくまで本人の意思を尊重しよう。どうだ?」
「……ぁあーー!もう分かりましたよ、やりますよ!」
心配そうな佐渡先輩と涼くん以外の視線が"やれ"と言わんばかりだったので、もうこうなったらヤケクソだ。
なんだったら全員まとめて領域に閉じ込めて一網打尽にしてやる。
「はぁい!作戦会議終了〜!それじゃあ各校の生徒は作戦に従って散開!今からジャスト5分後にスタートしまぁす!合図とかないので各々時間測って始めてくださーい!かいさーん‼︎」
先生の説明が終わると同時に全員が素早く行動を開始した。
すでに帳は降りているが予想していた以上にエリアも広いらしい。これは余程のことが無ければ場外になることもないだろう。
ちなみに僕のスタート地点はエリア中央から北に位置する川のある場所だ。残りは桜庭・狭間・佐渡の3人ペア、浪川・柳木の2人ペアで、それぞれ3人ペアが南西、2人ペアが南東から包囲する形で進軍する予定となっている。
スマホの時計を確認、もう間も無く開始だ。
はっきり言って初参加で単独行動は心細いし避けたかったのだが、まぁこうなった以上仕方がない。
可能な限り瞬間移動によるメリットを活かして引っ掻き回してやるとしよう。
血で血を洗う激闘の予感が森を満たし始めていた。
『薬袋…悲報だ』
「佐渡先輩?どうしたんですか?」
さぁやるぞと意気込んだ矢先、共感呪術で佐渡先輩が連絡を取ってきた。
悲報…嫌な予感しかしない。
『あ?これ聞こえてる?もしもしー?紫鶴?五条先生だよ!一個伝え忘れたことがあってさ!今回、紫鶴は瞬間移動禁止ね!』
「は?」
『それじゃ!頑張ってねー!』
「おい待てクズ教師こらっ‼︎」
『…もう戻られたようだ。さて、いきなりピンチだな薬袋』
……………作戦が試合開始前に瓦解した。
オリキャラの能力とか戦闘スタイルを考えている時が一番楽しい。