縛りでショタった呪術師の青春?   作:アンハピ

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戦況がだいぶ動きます。
そろそろもう一方のチームの描写にも戻りたい。



激動

 

「いや誰だよお前」

 

全身を覆う帯が解けたその下から現れた欧風の美女に、戦闘中という状況すら忘れて真顔でツッコんでしまう浪川。

だが、そんなこちらの動揺など知ったことではないようで、ペラペラとさっき迄の根暗さが嘘のように喋り出す。

 

「硯要だと最初に名乗っただろう!ふむ、こうしてすっきりした視界で見てみれば、中々クールなボーイじゃないか実に私好みだ!今晩一緒に食事でもどうかな!!!?」

 

完全に別人の勢いで熱烈なアプローチを繰り出す硯に浪川は完全にドン引きしていた。距離の詰め方が尋常ではない。もはや異常者の域だ。

 

「っ…断る。大体今は交流会とはいえ戦闘中だ。無駄話は後に…」

 

「そうか残念だ」

 

(速いっ‼︎)

 

衝撃的な変身に続いて怒涛の勢いで驚愕した。

話終わるその前にすでに硯が目の前に肉薄し、呪力の籠った拳を繰り出していたからだ。ご丁寧に刀で塞がれてもいいように帯を拳に巻いた上で、浪川の優れた動体視力を持ってしても反応が遅れる動きを見せる敵の豹変ぶりに瞠目を隠せなかった。

 

「くっ…!!!」

 

ガギィンと激しい音を立てて手元から弾き飛ばされた管斬は、やや離れた場所に突き立つ。なんとか防いだものの咄嗟に距離をとって硯を見れば、余裕すら感じる態度でストレットをしている。

 

「なぜ追撃しない」

 

「久しぶりに帯を解いたんだ。じっくり楽しみたいだろう?それに君も私のナイスなボディを長く楽しめる。Win-Winってやつだよ」

 

「意味がわからん!」

 

会話まで向こうのペースに持っていかれそうだ。

生粋の日本男児だる浪川にとって、硯の欧州的なテンションと語りは強烈に過ぎる。話すだけでイライラさせられていた。

 

(急な速度と呪力の向上……帯を解いた瞬間からだ。しかも、視界がスッキリしたと言っていた。おそらくあの帯を体に巻いていたのが奴の縛り。身体能力や呪力自体を抑えていたんだ)

 

縛りによって押さえつけていた分を解放したことで途端に戦闘スタイルも近接戦に向いたものに早変わり。さっき迄の帯を使用して敵を近づけさせない中〜遠距離スタイルからの激しい変化で相手を混乱させる狙いもあるのだろう。

とはいえ、縛りを解いただけでこれなら、術式の開示までされるとさらに底上げされて厄介になるのは目に見えている。

早期決着…浪川は短い時間で判断を固めた。

 

「色々考えているようね。でも、それは……無駄よ!」

 

「くっ!ぐあっ…!!」

 

またしても捕捉困難な程の速力を発揮し、今度は拳と蹴りの連撃。刀を失っているために呪力で強化した肉体のみでそれらを捌こうとするものの、一撃の速度も威力も違いすぎて複数発を防ぎきれずに吹き飛ばされる。

 

だが、飛ばされる方向はあえて意識していた。

受け身を取りつつ転がった先は管斬の側、即座に抜き取って体制を立て直す。

 

「武器回収と間合いの調整、判断が早いわね。でも、こっちを忘れていないかしらっ!!」

 

「!?」

 

先ほどまで硯の周囲に散らばっていた帯がなくなっている。

そのことに気がついたと同時に、縛りを解いたからと言って帯が操作できなくなっているわけではないことに気がついた。あれは術式効果であって縛りの効果ではないのだ。突然戦闘スタイルをガラリと変えてきたため失念していた。

 

「シン・陰流 簡易領域!五月雨!!」

 

自身の周囲を取り囲むように襲いかかる帯の群れを咄嗟に迎撃し、包囲網を飛び越えるように回避する。

しかし、すでにそこには硯が回り込んでいた。

 

「逃がさないわよ!」

 

空を裂く鋭い蹴撃が浪川の脇腹に突き刺さる。

バキ!と嫌な音が内側に響いたのを聞いて、走り抜ける激痛に瞬間的に呼吸が乱され樹木に叩きつけられた。

 

「が…っ!」

 

「今のは入ったわね。そろそろ降参かしら。痛めつける趣味はないし、ベルトを外してもらいましょうか?」

 

金髪を風に靡かせながら余裕の笑みで歩み寄る硯。

だが、痛烈な一撃を受けたにも関わらず、浪川の顔に浮かんだのは笑みだった。

 

「忘れているのはお前もだろ。こっちも二人だぞ?」

 

「もらったーーー!!!!」

 

「っ…!きゃぁ!!!」

 

油断し切っていた硯の横っ面を殴り飛ばしたのはピンクの塊。

浅田をリタイアさせて駆けつけた柳木の操るピンキーの殴打が直撃したのだ。

激しく音を立てて茂みに吹っ飛ばされた硯を見て、浪川も痛みを堪えながら立ち上がる。

 

「間一髪ね、先輩に感謝なさい!!」

 

ドヤッと胸を張って豪語する柳木に苦笑を一つこぼす。

 

「はい、今なら助かりました。そっちは案外早く終わったんですね」

 

「あの野球少年、性格だけじゃなくて行動パターンまで分かりやすすぎるのよ。私にかかればチョチョイのチョイってやつよ。それよりあんた随分ボコボコにされてるじゃない!護衛がそのていたらくでどうすんのよ!」

 

プンスカ怒る小柄な先輩を前に苦笑はため息に変わった。

何はともあれ一先ず窮地は脱したが、以前、硯のフィジカルを生かした近接戦闘力と遠隔で操ってくる帯は脅威だ。

茂みに突っ込んだことで見失ったのもまずいと、炯眼呪法も併用して周囲を警戒する。

 

「柳木先輩、奴は縛りを解いた高速肉弾戦と体を覆っていた帯を操作して全領域をカバーしてきます。奴の拳は俺が捌くので、帯の対処頼めますか?」

 

「いいわ。しくじらないでよね!」

 

互いに背中合わせ、微かな音も空気の変化すら見逃さない。

 

(っ…くる!)

 

地面スレスレを蛇が這うように走り抜ける帯がその先端を硬化させて襲いかかる。

 

「ピンキーちゃん!」

 

即座に反応した柳木がぬいぐるみを放り投げると、再び背中のチャックが開いて複製を召喚。帯の猛攻の全てをぬいぐるみの中に広がる空間に飲み込んで無力化する。

 

「ナイスアシストです!」

 

「妙なぬいぐるみ!呪骸ってやつね!」

 

だが、その隙を逃すはずもなく柳木狙いで襲いかかった硯の蹴りを、それを察知していた浪川が刀の峰で打ち払う。

 

「っ…!あら、反応が良くなってきたわね!」

 

「お前の速度には慣れてきた」

 

驚異的な天性の動体視力と自身の術式の併用による目により、ここまでの応酬で硯の動きに対してすでに慣れを見せ始めた浪川。

慣れたの発言に驚きを見せるも、手負いの浪川を先に潰すべきだとターゲットを切り替えた硯が高速の連続蹴りを繰り出してくる。受けにきた刀を蹴り付ける反動で、硯自身が対空しているのがその凄まじさを物語っていた。

 

「はぁぁあ!!!」

 

「いい加減っ!倒れなさいっ!!!」

 

 

 

 

 

「━━━━━おまたせ」

 

ハッととした三人が声の方を向いたのと、光軸が硯の腹部に直撃し、衝撃で吹き飛ばされたのはほぼ同時だった。

 

「う……新手…?」

 

地面を転がりながらも受け身を取って立ち上がった硯の視線の先には、今回の団体戦において三年の先輩たちが要注意人物にリストアップしていた強敵。

 

「……遅かったな、薬袋」

 

「ごめん、間に合わなかったね。でも五条先生が開始直後に転写で移動は禁止なんて言うからだよ。許してね」

 

助太刀に現れた特急術師を認めて軽口を叩く浪川だったが、すでに満身創痍。そして、その腕に巻かれていたベルトは先の応酬で蹴りが掠めたのか、ズルリと地面に滑り落ちてしまった。

 

浪川涼 リタイア

 

「ちょっと!本当に遅いじゃないの!どうすんのよ浪川やられちゃったじゃない!」

 

だが、リタイアになった本人よりブチギレている人物が一人。

帯の猛攻を一人で捌いていた柳木が顔を真っ赤にして激昂していた。

 

「あ、ちょ、柳木先輩!すみませんってば!すぐ挽回するから許して!」

 

ポカポカと殴りかかってくるそれをいなしながら謝罪するが、一向に鎮まる気配がない。そして、そんな相手のやり取りを見ていた硯はその隙を見逃さなかった。

瞬時に大地を蹴り抜いて接近、真っ向勝負幅が悪いと判断して、即座に薬袋の左腕に巻かれたベルトに手を伸ばしたのだ。

 

(ベルトさえ奪えばリタイアにできる!今しかないっ!!)

 

「お姉さん、自分のベルトは?」

 

だが、その刹那の中、避けるそぶりも見せない少年の発言に耳を疑い、視線を自分の左腕に向けて今度は目を疑う。

ベルトの金具部分に焦げ付いたような跡を残して外れかかっていたのだ。そして、今自分が相手からベルトを奪おうと伸ばしているのは同じく左腕、激しい動きによって気がつくと同時についにベルトが外れ宙を舞う。

 

カチャと音を立てて地面に落ちたベルト。

中途半端に伸ばされた腕。

呆然と立ち尽くす硯。

 

「落ちちゃったね、お疲れ様」

 

「いつの間に…!」

 

「初撃に2発打ち込んだの気づかなかった?腹部に低出力に絞った呪力放出を1発、ベルトをピンポイントで狙う極細のを1発」

 

死角からの攻撃だったとはいえ、衝撃に気を取られているうちに、ほぼ同時かつ的の小さいベルトにピンポイントで狙撃していたのだ。どれだけ細かい呪力操作が必要かは言うまでもなかった。

 

「悪い、相性が悪かったなどと言い訳する気はないが悔しいな…」

 

「涼くんお疲れ様。それ治してあげるからじっとしてて」

 

浅田と硯をリタイアに追い込んだことを確認し、肋の折れている浪川に反転術式で治療を行う。青黒いオーラとして認識される呪力とは異なり、白い輝きが患部に当てられるとみるみるうちに内部の骨が修復され、その他の外傷も順序完治させていけば、数分もしないで全開の状態にまで回復した。

 

「助かった。俺はエリアの外まで一人で行けるが、柳木先輩が一人だ。このままペアを組んで行動してやってくれ」

 

未だに離れた場所から聞こえる戦闘の後からして、向こうはまだ誰も脱落はしていないのだろう。こちらは一人、相手は二人が脱落している以上、人数はイーブン。

向こうに合流するよりも、いつ仕掛けてくるかわからない嘴野を警戒して、自分が柳木を護衛しながら残りの呪霊を回収して回る方が有利にことを運べそうだ。

 

「あーあ、あとちょっと早かったら人数有利だったのにな。あーあ」

 

肝心の柳木はさっきからこの調子で実にやりにくい。

襲撃を受けても敢えてそのままほったらかしにしてやろうかと思う程度にはウザかった。

だから、何も返さずに無視をしたのが良くなかったのだろうか。

 

何かが地面に落ちる音がした。

 

「え、嘘」

 

「っ!?」

 

何の音なのかを理解して振り向くと同時に公開した。

呆然と立ち尽くす柳木、地面に落ちたベルトを見て理解した。

柳木の腕からベルトが外されていたのだ。

 

(嘴野先輩か!?)

 

だが、すでに相手は姿形もない。

こちらに触れる瞬間以外は認識されなくなるだと聞いていたが、まさかこれほどの隠密性を発揮するとは思わなかった。

まだ近くに入るはずだが、放っておけば自分だけでなく戦闘中の残りの面子もかき回されるのは必死だ。

 

かと言って、仕掛けてくるまで視認不可な相手など待ち構えるだけ無駄だ。だからこそ、判断を迅速に相手をこの場で仕留める覚悟を固めた。

 

「二人とも僕の側に!」

 

「っ!」

 

薬袋の叫びにいち早く反応した浪川は、未だに呆然としている柳木を引っ捕まえると滑り込むように足元へと転がり込んだ。

 

「無窮界交呪法・極ノ番『遍照』」

 

自分と味方の立つこの場所と気絶した浅田を回収している硯の立つ場所のみをレンジから外し、この場を中心とした半径200メートルを覆うように頭上からの呪力放出が降り注ぐ。

無論、殺害禁止に抵触しないように出力はかなり絞っているが、それでも巻き込まれた木々が薙ぎ倒されるほどの一撃が吹き荒れた。

 

「あ、あんためちゃくちゃするわね…」

 

「緊急事態です。見えないなら全方位まとめて攻撃するに限ります」

 

「……ほんと殺す気かよ」

 

「上だ!」

 

浪川の声に仕留め損ねたと気づいた時には、相手はすでに攻撃範囲から外していた自分たちの直上に姿を現していた。

即座に全員が見上げた先、空中から滑空するように迫る刺客。

忍者のコスプレのような改造制服に携えた小刀、間違いなく試合前に京都校側に立っていた男、嘴野だった。

 

呪力を込めた小太刀による一閃が迫る中、薬袋は即座に足元に転がる二人を捕まえて後ろに飛ぶ。

すでにリタイアとなっている二人を巻き込むことを気にも留めない攻撃。交わすと思って仕掛けたのか、本当にどうでもいいと思っていたのか。

 

「嘴野さん…で合ってます?」

 

「あぁ。敵を全て倒したという油断、リタイアした仲間を二人抱えている状況、どちらも好機だと思って仕掛けたんだが、まさかあんなに派手にかましてくれるとは思わなかった」

 

そういう嘴野の制服の右肩のあたりが裂けている。

どうやら遍照か、吹き飛ぶ木々に掠めたのだろう。完全に避け切れたわけではないらしい。

 

「特級の一年、できれば今ので仕留めたかったが…」

 

「戦わなくていい相手まで巻き込もうとするやり方は好きじゃないですね…」

 

「なんだ?呪術師なんてものはイカれてなきゃだめだ。そして、特級なんていうからには随分イカれた野郎だと想像していたが、存外お優しいんだな?」

 

「……涼くん、柳木先輩とすぐにここを離れて」

 

「分かった。あとは頼む」

 

託された言葉に頷きだけで返し、素早く走り去る二人を見届けてから相対する標的に向き直る。

 

「……先輩は術師家系の出身ですか?」

 

「ん?あぁ、戦国の時代から続く術師、そして忍の一族の末裔だ。故に闇討ちも関係のない相手を巻き込むことも責めてくれるなよ?……虫唾が走る」

 

「なるほど、分かりました。先輩はどうにも…」

 

思い起こしたのはカケラも残さず無惨に殺したあの男の醜悪な笑み。そして、奴と対峙した時の言いようのない憎悪と怒りの感情。

 

 

「僕が一番嫌いなタイプみたいだ」

 




アニメ二期、最新話を見た俺の心はボドボドだ
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