お待ちしてくださってる方ごめんなさい!
でもちゃんと書いてるので安心してね!
京都姉妹校交流会、その初日も開始から45分までに大きな動きを見せ、いよいよ大詰めを迎えていた。
現状のリタイアは東京校2人、京都校も同じく2人。
人数だけ見れば元々1人多い京都校が優勢だろう。
だが、2箇所で行われている戦闘自体の流れはまだわからない。
「ドォリャァァァア!!!!」
樹木を拳1発で薙ぎ倒す狭間の剛力、そして術式と呪力によって強化された鋼の肉体によって、彼と対峙していた京都校の2人は手をこまねいていた。
とにかく無駄にタフな上に動きも激しいため、決定打に欠けていたのだ。中〜遠距離からの強力な攻撃でダメージを何度も狙うが、本人の防御性能だけではなく、彼の背中に括り付けられている桜庭が存外的確に迎撃してくるせいで余計にやりづらい。
「ちょっと、式神使いなんだからもっとしっかり援護しなさいよ」
「んなこと言ってもよ……もう残り3体しか式が残ってねぇんだけど」
ここまでの戦闘で永野の操る式はここまでの戦闘で全10体のうち半数以上が祓われてしまっていた。幸い術式の関係上、式符を作り直せば復活するタイプのものとは言え、今この戦闘中に数の補填は不可能だ。
「ならその3体で背中のあいつを仕留められる?」
「厳しいかもな。残ってるのは全部飛行できないタイプだし、どちらかと言えばパワー型の奴らばかりだ。ここまでで陽動や奇襲に向いた式は使い切っちまった」
難しい場面。
真正面からでは狭間を仕留めるのは限りなく不可能に近い。
無論、百斂のような高火力の一撃を直撃させることができれば可能性もあるにはある。だが、背面を気にしなくていいあの男がおいそれと受けてくれるとも考えられなかった。
「なんだ。2人して考え事か?俺は一向に構わん。だから、もう少しくらいは楽しませろよ後輩!」
「う……きもちわるっ…」
なかなか歯応えのある2人を相手にしてウキウキの狭間に対し、背中に括り付けられている桜庭は激しい揺れによって三半規管がだいぶやられてきていた。というか、途中で一度ゲロった。
「時間もあまりないしな。ここからは出し惜しみなしの本気で行く……なんだ?」
「っ⁉︎」
突然会話を切り上げてそれぞれに反応する狭間と桜庭。
こちらは何も話していないにも関わらず、何やら誰かと通信しているような動きだ。それを見た京都校の2人は先輩たちの言っていた、相手の三年の1人の術式によるものだと判断する。
『2人ともよく聞け。薬袋が最も警戒していた嘴野と戦闘に入った。俺はここまでに回収した呪霊を詰めたピンキーを持って外縁ギリギリまで後退する。それから相手の2年2人を撃破したが、浪川と柳木がリタイアだ。人数振りは以前変わらず。さらに言えば相手には三年が残っている。十分気をつけろ』
それだけ早口に捲し立てると術式による通信が途切れた。
あとは任せる、そう言うことなのだろう。
「なるほど!よく分かった!予定変更だ!」
「あの……先輩。もう奇襲警戒しなくていいなら下ろしてください…」
これは桜庭にとって下ろしてもらう好機だった。
この状態事態、嘴野の不意打ち対策なのだし、三年が2人残っているとは言え、彼らの襲撃であれば隠密性はないために対処可能だ。ゆえにこの地獄のような戦闘スタイルを継続するメリットはあまり無かった。
「ん?あぁ、そうだな!」
ブチブチと力任せに桜庭を自身に括り付けていた縄を引きちぎる。それなりの太さと耐久性のものだったと言うのに、やはり人外じみている怪力だ。
「あら、ようやく合体解除ってことかしら。1人はフラフラだけど大丈夫なのかしら?」
「ご心配どうも…。んでも、不甲斐ない相方の分も仕事しねぇとしーちゃんに自慢できねぇからな。油断してると風穴空くぜ?」
なんとか吐き気を堪えて大地を踏みして締める。足場がきっかりしてしまえばこの酔いもすぐに覚めるだろうし、何より迎撃ばかりでフラストレーションが溜まっていたのだ。ここからは自由に攻めることができるといくらか気分も良くなった。
「痩せ我慢は好きじゃないわね!赤血操術・苅祓!!」
言いながら加茂が放ったのは、血液をチャクラム状に形成して放つ。いわば血液版の気円斬だ。血液パックを割ることでそれなりの量を確保して形成したそれは、直径2メートルほどの円板として繰り出され、立ち並ぶ狭間と桜庭の2人を纏めて切り裂かんと迫り来る。
「ぬぅ!」
先に素早く反応した狭間はまるでマトリックスの如く体を後方に逸らして苅祓の真下を潜り抜けるように回避、桜庭も跳躍して寸前で回避する。
だが、これでいい。
「安心してる暇はないわよ!」
1人は無理のある体勢、もう1人は身動きの取れない空中。
追撃への隙を作ることこそが狙いだったのだ。
「式符陣・怪震!!」
永野の残る3体の式神が一斉に解放され、2体は狭間、もう1体は桜庭に肉薄する。2人の目に映ったのはこれまでの小物とは明らかに違う異様だった。
美しい白毛並み、盛り上がる筋肉、振り翳される剛腕……ゴリラが3体、そこに顕現していた。
マトリックス状態の狭間の腹部と顔面に式神の拳が叩き込まれる。完全にタイミングを図られていたがために、交わすこともできずにそれらが直撃。激しい砂埃を巻き上げる。
対して、空中にいながら術式で式神を撃ち落とした桜庭は受け身を取りながら着地する。
「先輩!」
彼の目から見ても大ダメージの避けられない一撃。
いくら剛体を有する狭間であっても無事とは思えなかった。
だが、風に攫われて砂埃が晴れた先の景色を見て、またしても二年生たちは驚愕することになった。
「嘘だろ。マジで人間かよ」
「作戦変更、あのゴリラ3体全部狭間とかいう先輩に集中」
狭間はそり返った体勢のまま、腹部と額に呪力を全て回して受け切っていた。流石に衝撃の全てを逃すことはできなかったらしく鼻血が噴き出している。しかし、それも特に問題ないと言わんばかりにさらに腹筋に力を込めると、勢いよく状態を起こしながら体を捻り、前後に立つ式神をラリアットの容量で薙ぎ払った。
パワー型と言うだけあって距離は取らされたものの、式神もこれまでの鳥型などと異なりその程度で消える様子はない。
さらには桜庭に撃ち落とされた個体も特にダメージを負った様子もなく狭間の包囲網へと加わった。
「あんまり持たないかもだから、そっちを早く終わらせろよ!」
「言われなくてもそのつもりよ」
『赤鱗躍動!!』
途端に加茂の額に赤い紋様が浮かび上がる。
自分にターゲットを変えたことに気づいた桜庭が構えを取るが、今までのように血液を射出した様子が見られない。
それもそのはず、赤鱗躍動は体内の血流を操作することで身体能力を極限にまだ引き上げる、いわばドーピング。加茂は撃ち合いでは手数で桜庭に当たると判断し、接近戦で仕留めることにしたのだ。
「はっ!!!」
凄まじい踏み込みと共に、目にも止まらぬ早さで懐に飛び込んできた加茂。対して桜庭はなんとか反応して腕を交差させてガードするが、繰り出された回し蹴りをまともに食らって後方に吹き飛ばされる。それを確認した加茂も反撃の隙は与えまいと飛ばされた桜庭目掛けてさらに突進を仕掛ける。
(ぐっ…なんつぅ蹴りだ!腕が痺れて術式が練れないっ!!)
なんとか後転しながら勢いを殺したらいいが、顔を上げれば拳を振りかぶった加茂が凄まじい勢いで接近してきているのが目に映る。呪銃による反撃は間に合わないと判断するまで0.5秒、残りの0.5秒で彼は地面ギリギリまで低くし、相手の足元を払うように蹴りを繰り出した。
(その勢いなら躱わせねぇだろ!!)
狙い通りに勢いの乗った加茂は走り寄る足を払われ、前方につんのめるように飛び上がる。自身の頭上を抜けていく加茂を見ながら、痺れの取れ始めた腕を構え、相手の着地の瞬間を狙って呪銃を放つ。
「身体能力だけじゃないわよ!」
相手も足払いを受けた時点でそれを予測。
即座に両手を地面に突き出すと、その場に着地せずにさらに宙へと舞い上がり、弾丸が地面を抉るよりも早く後方に飛び退った。
「曲芸師かよ」
「生憎、動体視力も血流操作で高めているの。その程度の追撃なら技を見てからでも対処できるわ」
「そーかい。だったらこれはどうだ!」
『呪銃掃射式・十銃!!!』
両手の十指全てから繰り出される弾丸の嵐。
一瞬で眼前を覆い尽くした弾幕に、持ち前の動体視力を駆使して交わせるものは回避、難しいものは呪力による肉体強化を併用して弾丸自体を払うことで対処する。だが、いくら反応できたとしても人間の手足は合わせて4本のみ。全身をカバーすることはできずに少しずつ体のあちこちに掠め始める。
「ぐっ!バカスカと女性に打ち込むもんじゃないでしょ!!」
耐えかねた加茂は射線から退くのではなく、敢えて突撃を選ぶ。
回避したとして、相手の手の動き一つで射線を調整できるのならそれも無意味と考え、砲台である桜庭自身を玉砕覚悟でつぶすつもりらしい。
それを見た桜庭は予想と真逆の動きを見せた相手に驚きを隠せない。
「マジかっ!!」
「大マジよっ!!!」
ドッ!と鈍い音を立て、加茂の強化された拳が桜庭の腹部にめり込む。
「がっ…!!?」
直撃。
衝撃に呼吸が乱された桜庭はそのまま後方へと殴り飛ばされた。
バキバキと木々をへし折りながら吹き飛び、ついには偶々そこに鎮座していた岩に直撃して停止した。
「ぐ…あぁ…くっそいてぇ…!」
今ので骨が何箇所か折れたのを察して下手に動かないように身を庇う。幸い、吹き飛びながらも呪力による肉体強化で致命傷は避けたが、ベルトは吹き飛ばされた際にどこかで外れたのか見当たらない。カッコつけた割にリタイアか、とため息を吐くがどのみちこのままでは戦闘不可能だ。
それにやれるだけはやったのだと自分を納得させた。
対する加茂も呪銃の嵐を無理矢理に突っ切ったおかげで満身創痍。しかも、肝心のベルトは弾幕にやられて拳を放った衝撃で外れてしまっていた。
「レディの顔に傷つけやがって……ムカつく」
そこまで吐き出したものの全身から襲う痛みに意識を手放す。
式神3体で狭間を相手取っていた永野は、倒れ伏す加茂を確認し、怪物相手に1人取り残されたことに気がついて青ざめた。
「おいおいおい!マジかよふざけんな!」
「ハッハ!桜庭も戦闘不能か!抱いてやるから俺と一騎討ちだ!一年坊主!!!」
「冗談!!あんたと正面きってやり合っても勝てねぇことくらい分かるわ!!」
式神で足止めをしているうちに本人は素早く後退を始める。
狭間もそれを追いかけたいが、思った以上にこの式神たちが手強い。パワー型なだけにタフさも段違い、何度薙ぎ払ってもしつこくまとわりついてくるのだ。
「敵を前に逃げるとは…!……貴様それでも漢かっ!!」
だが、それ以上に狭間が気に食わないことがあった。
敵前逃亡、漢とはなんたるかを信条とする狭間にとって永野の戦略的撤退は看過できないものだったらしい。
「ひぃ!鬼かよあんた!!!」
怒髪天をついた様子でこれまでにないほどの呪力を練り上げ、それらを蒸気として発散。一瞬で辺り一体が霧に包まれた。
(とんでもねぇ水蒸気!でも、逆に助かった!この視界の悪さなら逃げ切れる!!)
「…はっ!!?」
戦況に希望を見出し、気が緩んだせいだろうか?
いや、確かに逃げ切れると判断はしたが気を抜いたわけではない。そのはずなのになぜ自分の背中に凄まじい衝撃が走っているのか?
ゴッ!と永野の背中にめり込んだ拳は確かに狭間のものだ。
瞬間、全身に走った衝撃が永野の体を大地に叩きつけた。
「逃すわけがないだろ」
なぜと答えるまでもなく意識を刈り取られた永野。
その背後に剛腕を振り抜いた体勢で立つ狭間。
一見視界を悪化させたように見えたあの水蒸気には絡繰があった。そもそもあれは狭間自身の呪力を練り上げ、体内に術式で構築した器官を利用して生み出したもの。言ってしまえば狭間本人の呪力なのだ。そして、それを周囲に撒き散らすことで自身の呪力に触れた他の呪力に反応するレーダーのように使った。それがあの霧の中で逃げる永野を寸分狂わずに捉えたトリックだったのだ。
気絶した永野に歩み寄った狭間は、彼の腕から無造作にバルトを引きちぎる。
「逃げる男は漢ではない。鍛え直すんだな、一年坊主」
桜庭、加茂・永野ペア それぞれリタイア
ゴリラ系の先輩は大体頼りになる!
団体戦は次回で終わらせたい!