縛りでショタった呪術師の青春?   作:アンハピ

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何回呪霊って打っても予測変換が樹齢



守りたい理由

 

「浪川くんっ!」

 

絶体絶命のピンチに颯爽と駆けつけ、仲間に背を向けて強敵の前に立ち塞がる漢の姿がそこにあった。

 

「立てるか?」

 

なんだ、なんなのだこれは…この湧き上がる衝動は!

 

(か、かっけぇぇぇえ‼︎)

 

見た目12歳児は頭の中もやっぱり12歳児だった。

 

「…どうした?何か問題でもあるのか?」

 

なかなか返事を返さない僕に訝しむように再度様子を気にかけてくれる浪川くん。

それでも視線はあの呪霊から逸らすことはなく、全身から張り詰めた緊張感を漂わせている。

 

「あ…僕は大丈夫!浪川くんのおかげで命拾いしたよ、ありがと!」

「問題ないならそれでいい。座ってないで早く体勢を立て直せ。あいつはおそらく特級クラスの化け物、気を抜いたら死ぬぞ」

 

特級⁉︎いやだって任務の事前説明では三級か悪くて二級相当って聞いていたんだけど⁉︎

確かに格上だとはすぐに思ったけれど、それでも二級の強い方で僕がまだまだなのかと思っていた。

それがまさかの特級…これはもしかしなくても勝ち目はないのではないか?

授業で聞いた内容を思い出すに同じ等級の術師と呪霊ならば術師が強く、呪霊が術師より一つ上ならば互角程度だと言っていた。その通りだとするならば、あいつを倒せるのは一級以上の術師じゃないと不可能だ。

そこでふと、いつもの目立つ金髪がいないことに気がついた。

 

「浪川くん、秋斗くんはどうしたのっ⁉︎」

「あいつには外の保護監督に応援要請を頼んでいる。運良く五条先生に話がいけば最速で応援が駆けつけるはずだ。だから、それまで俺たちでこいつを抑える。倒せなくてもいい、死なないことを最優先に判断しろ」

「応援…分かった!」

 

どういうわけかあの呪霊について浪川くんは僕より把握しているらしい。探索の中であいつに関わる何かを見つけたのかもしれない。それで予定外の強敵が相手だと知って、即座に応援を呼ぶ秋斗くんと足止めの浪川くんで二手に分かれて駆けつけてくれたのだろう。

こういうトラブルが起きた時に冷静かつ迅速に判断を下せるところは尊敬に値する。

そんなやりとりをしているうちに、突然の乱入にこちらを伺っていた相手も腕をすっかり再生させて身構えた。

 

「ちっ、もう再生した。やはり急所を狙わなければ管斬でも押し切れないか……来るぞっ!」

「うんっ!」

 

浪川くんの声を合図に左右に飛び退き、敵の突進を回避する。

そのまま受け身を取って体勢を立て直した浪川くんは、相手の突進の勢いがまだ死んでいない隙に背後から斬りかかる。

 

ガギィンッ‼︎

 

しかし、首を180°回転させて背後を視界に収めるなり、一対の腕を強化させ鋼のような拳を振るって刀を弾いてくる。

 

「硬いな!だが鈍い!」

 

それも織り込み済みだったのか浪川くんは特に焦ることもなく、相手の体捌きを凌駕する速度で次から次へと斬撃を加えていく。

やがて、腕だけでは捌ききれなくなった呪霊は胴体や頭部、脚部に傷が増えていく。

 

『ゲヒッ…!ガゥッ…!』

 

それだけではない。

傷ができた場所がジュウジュウとまるで肉が焼けているように煙っている。そういえば、さっき助けに入って腕を落とした時も僕が攻撃した時より再生に時間が掛かっていた。あの管斬とかいう刀にそういう効果があるのかもしれない。

だが、焦れて痺れを切らした相手がついには胴体も180°回転させ、完全にこちらに向き直る勢いを利用して残る一対の腕を裏拳の要領で振り抜いた。

ゴウッと空気が唸る音と衝撃波で周りの物まで巻き上げている。

 

「浪川くんっ‼︎」

「見えている‼︎」

 

両足をこれでもかと開いて瞬間的に地に伏せた浪川くんの頭上を拳が通り過ぎる。完全に交わしきった彼は直後に僕のいる後方へと体を転がして距離を取った。

 

「これを応援が来るまで…か、なかなかしんどいな」

「その刀、呪具ってやつ?」

「あぁ、その中でもあいつのような獣の性質を持つような相手にはとびきり効果のある代物…のはずなんだがな」

「浪川くん、あいつのことに詳しいみたいだけど、あれなんなの?」

 

その質問にこちらに一瞬だけ視線を寄越して特に表情を変えるでもなく答えた。

 

「4階の突き当たりの部屋にあいつが発生した原因になったらしい紙とコインが置かれていた。書かれていたのは鳥居、はい、いいえ、0から9の数字、五十音表…それも異様に濃い残穢付きだ」

 

それを聞いてその紙とコインがなんだったのか、日本に生きる人間ならばおそらくほとんどの人間が知らないはずはない、占いを起源とするゲームに行き着いた。同時にそれが相手の正体を指し示す最悪のファクターであることに冷や汗が滲み出す。

 

「……それもしかしなくてもコックリさん、だよね?」

「ああ。そしてこの廃旅館という負のエネルギーが溜まりやすい環境、4階という死を連想させる場所選びも雰囲気を盛り上げようとしたバカがいたんだろう…ロケーション的な要素も組み合わさって顕現した。あれは『特級仮想怨霊』だ」

 

『特級仮想怨霊』…数ある呪霊の中でも伝説や怪談等の噂などを起源として、それに対する人々の恐れや忌避の感情が元となって誕生する呪霊のことだ。特に知名度や話の中での恐ろしさの強いものほどその力が強まる傾向にある。

 

「コックリさん…なんて知らないやつほぼこの国にいないんじゃないの?」

「だろうな、だから生まれたばかりの呪霊でも特級とつくだけの力を持っている」

 

なんて迷惑な話だ!もちろん、最初にこんな心霊スポットでオカルト遊びを始めたバカが一番悪いが、呪霊として顕現したのならこれまでに肝試しに来た連中も揃いも揃ってやったに違いない。

というか、あの呪霊が『こっくりさん』…締まらないから少しだけかっこよく狐狗狸(こくり)と呼ぶとしよう…だとするならば、特級仮想怨霊として顕現しうる存在の中でもとびきりやばいやつだ。それこそトイレの花子さんとか口裂け女とか、そういうやつくらい怪談上位ランカーだぞ。

お母さんが昔言ってた!『犬や猫みたいな動物の霊は人間よりタチが悪い』って!

初任務でこんな化け物に当たるなんて高専の下調べに不信感が募るのも致し方ない。というか、呪術師が人手不足なのって才能のある奴が少ないのもあるだろうが、若手が調査不足の任務で殉職しまくってるからとかそんなんじゃないだろうな?

 

「浪川くん、さっきまで戦ってて分かってると思うんだけど、あいつの再生能力がある以上、急所を探して責めないと先に僕たちの体力が尽きちゃうと思う…」

「だろうな、だがさっき伝えた通り、俺たちの仕事は応援が来るまでの時間稼ぎ。はなから俺たちだけで倒し切れるとは思っていない」

「悔しいけど、今の実力じゃ浪川くんのいう通り…だね。分かった、僕はどうしたらいい?」

「一合交えて分かったことがある。単純な接近戦なら俺はあいつに遅れを取らない。そして、多少だが管斬で治癒を遅らせることができる。…俺が奴の動きを抑えている間に死角に回り込み呪力放出を撃ち込め。全身に傷を抱えてお前の火力を浴びれば、流石にしばらく行動不能にするぐらいは見込めるはずだ」

 

なるほど、奴の呪力によるガードの硬さは確かに厄介だ。現にさっきも腕を消し炭にこそできたが、僕のギャラクシー呪力砲を防ぎ切られてしまった。その硬さを全身に傷をつけて劣化させ、そこに一撃浴びせる…いける気がしてきた。

 

「分かった、巻き込まれないでよね!」

「誰に言っている、いくぞ‼︎」

 

その頃には狐狗狸もようやく傷が塞がってきたところだった。

こちらが左右に散会したことを見るや迷わず浪川くんの方に仕掛けに行く。どうやら、管斬の再生阻害が思った以上に嫌らしい。若干僕が雑魚扱いされた気がしてムカついたが、浪川くんは接近戦において一年最強だ。入学半月で組み手でも徒手空拳で五条先生とそこそこいい勝負ができるレベルに立っているのだから、その才能は折り紙つきといえる。

再度浪川くんと狐狗狸の接近戦が再開される。

鋭い斬撃と拳撃の応酬が繰り広げられる中、互いに体のあちこちに細かな傷が増えていく。確かに浪川くんのいう通り、単純な接近戦なら押しているが無傷というわけにはいかないらしい。その上こちらは傷が治ることはない。

 

「浪川くんっ‼︎」

「っ!」

 

狐狗狸の背後を取った僕は合図を叫ぶ。それを聞いてほぼ同時と言っていいタイミングで真上に飛びのく浪川くんを視認し、すかさず両腕から呪力砲を解き放った。

 

『ガァァアアッ‼︎』

 

直撃。体のあちこちに刻まれた管斬による傷をさらに焼き潰すように呪力の奔流が狐狗狸を飲み込み、部屋の壁を突き抜けてついには奴を屋外へと吹き飛ばした。

 

「開けた場所ならこちらがより有利だ!追うぞ!」

「えっ⁉︎ちょっと!浪川くん、なにをっ‼︎」

 

僕を小脇に抱えた浪川くんは問いかけな答えることはせず、壁にできた大穴から空中へと身を投げ出した。いや、ここ3階なんだけど⁉︎知らないかもだけど高い所ダメなんだよ僕‼︎飛び降りとか尚更‼︎

 

「いやぁぁあっ‼︎‼︎⁉︎」

「舌噛むなよ!」

 

ダンッ!と華麗に着地した彼は僕を無造作に転がす。

人をなんだと思っているんだ!とキレ散らかしたい所だが、まずは敵の様子を確認しなければと、3階から直接地面に叩きつけられた狐狗狸に向ける。

 

『ギ…ギィッ…!コロ…コごッ、ゴロスゥ』

 

ギチギチと関節を軋ませながらホラー映画もかくやの動作で起き上がる狐狗狸。先の一撃で腕4本と左足、尻尾も2本消滅している。かなりの大ダメージを受けているように見えるが、それでも立ち上がるとは驚異的なタフネスだ。

しかもだんだん語彙力が増えてきている気がして気持ちが悪い。

殺すって言ったよね今?

 

グジュリ…

 

「うげっ⁉︎」

「っ⁉︎」

 

なんと突然失った腕とは別に背中から一体の腕が生えてきたではないか。まさか再生とは別に新しく生やすとは…。

しかも、頭上に腕を掲げて何やら指をワキワキと蠢かせている。

 

「な、なにしてるんだろあれ…?」

 

その時、僕を覆うように影が差し、何かが勢いよく振り下ろされた。

 

ズガァァアンッッ‼︎

 

「っ…うぁあ!な、浪川くんっ⁉︎何をっ!」

「クソっ!何だこれはっ⁉︎」

 

突如襲いかかってきた正体、それは味方のはずの浪川くんだった。反射的に飛び退いたものの、右腕に深い切り傷を負ってしまった僕は激痛に呻きながらさらに後方に下がる。

一体何が、そう理解する間もなく浪川くんは再び追撃を仕掛けようとこちらに向かってくる。それを見てすぐさま僕も術式で傷を完治させ走り出す。

 

「や、やめてよ!何のつもりでこんなっ‼︎」

「っ…奴の術式だ!腕を掲げた途端に自由が効かなくなった!振り解こうとしても途端に力が抜けるっ‼︎」

 

あ、操られている⁉︎最悪だ、優勢だったはずが一気に立場が逆転して劣勢じゃないか!一瞬視線を狐狗狸に向ければニヤニヤと最初に見たような嫌らしい笑みを浮かべて楽しげにしている。

その時ふと思い出す。

任務前の説明で聞いた生還した学生の発言、「俺じゃない」……まさかこの術式で学生たちを操って殺し合わせた⁉︎

惨すぎる想像に自分たちがそうなる可能性が今迫ってきていることを痛感する。

これでは味方同士でやり合っているうちに傷も回復されて、どうしようもなくなる。

 

(完全に失念してた!授業で言ってたじゃないか、高位の呪霊は術式を獲得している場合もあるって!特級が持ってないわけないのに…くそ!油断したっ!)

 

「ぐっ…やむを得ないか!薬袋っ‼︎これ以上は無理だ!奴が回復し切る前にお前だけ逃げろっ‼︎‼︎」

「な、何言ってるのっ!そんなことできるわけないよっ…!」

 

冷静沈着で判断の早い彼だ。この場において共倒れになるよりもそれが最良の判断なのかもしれない。だが、突然自分は見捨てて逃げろだなんて言われて、はいそうですかと逃げ出すほど人手無しじゃないつもりだ。

 

「バカ野郎!二人揃って同士討ちでもするつもりか!」

「そんなこと言ったって…!」

「頼む…俺に仲間を斬らせないでくれっ…!」

 

血の滲むような懇願に思わず目を見開いた。

彼がこんな顔をするなんて思わなかったから…。

普段はクールで真面目、口調もきついしどちらかといえば取っ付きにくい印象が勝っていた。

だが、全てを守れるくらい強くなる為に高専にきたと、彼はそう言っていた。その覚悟は生半可な気持ちで呪術の世界に足を突っ込んだ僕より断然硬いものだと肌で感じ取れた。

その彼がこんな泣きそうな顔で懇願している。

自分の手で仲間をこれ以上傷つけることは、殺めることだけはしたくないと。

でも…それでも。

 

「僕だって仲間を見捨てたくないっ!」

「っ…!クソ、止まれぇッ‼︎」

 

僕がそれでも引かないと悟った彼は渾身の力で自身の振り下ろされる腕を止めようと雄叫びを上げる。

だが、無慈悲にも狐狗狸の術式の強制力の方が彼の腕力を上回り、冷たい鋼の刃が僕の眼前に迫る。

 

バシュッ…ガギィンッッ‼︎

 

甲高い金属音と共に彼の手元から刀が弾かれ宙を舞う。

 

「しーちゃんにっ!何してんだ浪川コラァッ‼︎」

「なっ⁉︎がはっッ⁉︎」

「ちょ⁉︎秋斗くんっ‼︎」

 

何が起こったのか理解するより早く浪川くんの土手っ腹にドロップキックをお見舞いしたのは、応援要請をしに行ったはずの秋斗くんだった。

鬼の形相で駆けてきた彼は、僕を斬りつけようとする浪川を見てほぼ反射的に呪銃(じゅがん)で刀を弾き飛ばし、勢いそのまま浪川くんを引き離そうと蹴り付けたのだ。

 

「お前にしーちゃんのこと頼んだのに!何でお前が斬り殺そうとしてんだっ‼︎」

「待って!違うんだよ秋斗くん!浪川くんは呪霊の術式で操られてるんだって‼︎」

「……え?まじ?殺す気で蹴っちまった…」

 

僕の説明に怒りの形相から一気に青ざめる秋斗くん。

どうやら見た目以上に渾身の力で蹴り付けたらしい。

だが、おかげで命拾いしたのも事実だ。

 

「ぐ…今のは効いたぞ、桜庭ァ…!」

「ひっ、お、俺は謝まらねぇぞ!しーちゃんのこと任せろって息巻いて、呪霊の術式に簡単に操られてるお前の不甲斐なさを呪うんだな!むしろ仲前殺しなんてせずに済んだんだ、感謝して欲しいくらいだねっ‼︎」

 

幽鬼のようなオーラを纏って立ち上がる浪川くんに、一瞬ビビり散らかしたものの盛大に開き直る秋斗くん。

 

「うわぁ…」

「ちょ、しーちゃんまで!助けてあげたのにその目は何さ⁉︎」

「いや、それは本当にありがと」

「浪川も組み手で俺を盛大に蹴り飛ばしてくれただろ!これでおあいこだ!」

 

まだ根に持っていたのかあれ。

秋斗くんはさっぱりしているように見えて意外と執念深いらしい。人は見かけによらないと、こんなところで学ぶハメになろうとは…。

 

「…ていうか、浪川くん体は…」

「っ!術式が解けている…!」

「もしかして、離れたところまで蹴飛ばされたから…?」

 

もしそうだとするなら奴の術式の効果範囲は目視で渋めに見積もって20m程度。秋斗くんに蹴り飛ばされたことで効果範囲外に逃れたのだろう。何というファインプレー。

 

「⁉︎ふ、ふはは!その通り!それも見越してのドロップキックだ浪川!俺に感謝するんだな!」

(さらっと知ったかぶりしてる‼︎)

「それより桜庭、応援要請はどうなった」

 

蹴られた箇所を気にすることもなく管斬を拾った浪川くんが、狐狗狸に近づきすぎない距離を保ちながら問いかける。

 

「役目を果たしたから戻ってきたんだよ。いい報告と悪い報告、どっちから聞きたい?」

「ふざけるな、要点だけ掻い摘んでさっさと説明しろ」

「クソ真面目ちゃんめ…応援は呼べたよ、けど五条先生は別任務についててダメだった」

「何⁉︎くそ…ならやはり俺たち3人でこの場を切り抜けるしかないか…!」

「まぁ待て待て、五条先生は来ないけど応援が来ないとは言ってないだろ?」

 

そう意味深に勿体ぶる秋斗くんに怪訝な表情を向ける浪川くん。

 

「仮に来るとしても間に合わないと、そう言ったはずだ………まさか近くに一級以上の術師がいたのか?」

「えぇっ!ここ高専からもかなり離れてるし郊外の森林地帯だよっ⁉︎」

 

僕たちの驚きように自慢げにニヤつく彼。

だが、その会話を中断させる一撃が繰り出された。

 

『コロスッッ‼︎』

 

ビシッ!ビシシィ‼︎

 

いつの間にやら傷を修復させた腕を合わせて三対六本となった腕を振りかぶって交差させるように振るうと、その延長線上に斬撃のようなものが駆け抜けた。

素早く散り散りに交わした僕たちのいた地面に無数の亀裂が走る。

 

「あいつ遠距離攻撃できたの⁉︎」

「爪から斬撃を飛ばせるのか!」

「いや、違う!」

 

僕と秋斗くんが距離を取りつつ攻撃の正体を探っていると、操られることを避ける為、僕たちよりさらに後方に飛び退いた浪川くんが何かを捉えた。

 

「呪力でできた糸が指先から出ている!奴の術式の正体は糸だ!」

「全く見えないんだけど‼︎」

「さすが浪川、視力もいいんだな!」

「言ってる場合か!」

『シシヲ…バラスッ‼︎‼︎』

 

再び追撃の糸が頭上から叩きつけられ、激しく砂を巻き上げながら大地を抉る。

 

「浪川くん!さっきから思ってたけど、あいつ言語能力成長してないっ⁉︎」

「しーちゃん、そんな主人公が戦いの中で急成長するみたいな…呪霊だよ?」

「ふざけてる場合か!薬袋のいう通り、短時間で成長しているんだ!腕が増えたのも再生の延長じゃない、呪霊そのものとして進化しようとしている!」

「進化⁉︎あれより強くなったら本当に殺されるじゃんっ‼︎」

 

呪霊が負のエネルギーでできているように、怒りや憎しみの感情が強まれば呪力も強まる。僕たちが中途半端に追い込んだことで、奴の殺意が進化するに足るレベルまで達したということだろう。まさか自分たちの奮闘が裏目に出るとは泣きたくなってくる。

そうこうしていると更なる追撃が放たれる。

 

「薬袋!また上だ!」

「っ!ギャラクシー呪力砲‼︎」

 

ドゴォォォオオッ‼︎

 

浪川くんの指示を聞いて咄嗟に頭上目掛けて呪力砲を放ち、奴の糸を全て焼き払う。

 

「そこだっ‼︎呪銃掃射式・十銃(てんがん)‼︎」

 

ガガガガガガガガガッッ‼︎

 

秋斗くんが攻撃後の隙をつき、構えた両手の指先からガトリングのように呪力の弾丸を一斉射する。

しかし、それすら俊敏な動きでアクロバティックに回避した狐狗狸。そのまま空中で糸による反撃を繰り出すと、その糸の一筋が秋斗くんの右手を掠めた。

 

「痛っ…!こんにゃろー‼︎まだまだっ!ってあれ⁉︎」

「秋斗くんっ⁉︎」

「まさか!」

 

糸が掠めた彼の右手が徐に僕と浪川くんの方に向けられる。

 

ガガガガガガガガガッ‼︎‼︎

 

「なっ!くそっ!避けろ二人ともっ‼︎」

「何やってる桜庭っ!お前まで操られてどうする!」

「わぁああ‼︎」

 

掃射される弾丸を必死に回避する。

秋斗くんを奴から引き離さなくては!

 

「この…こうなったら!」

「薬袋!何をする気だ!」

 

さっきから助けられてばかりでいいとこ無しだったんだ。

そろそろ僕だってやれるところを二人に見せたい。

覚悟はとうに決まっている。

 

「しーちゃんっ⁉︎」

「うりゃぁぁあ‼︎‼︎」

 

僕は自ら弾丸の射線に飛び入り、頭を腕で守りながら秋斗くん目掛けて走り寄る。

無数の呪力の塊が体を蜂の巣にする。だが、術式を展開し続けることで傷ができるとほぼ同時に完治させる。

弱点の頭部も腕でガードすることで何とか成立している捨て身の行動だ。痛い、痛い…死ぬほど痛い。一瞬痛みで意識が飛びそうになるが、歯を食いしばって足を動かす。

 

「しーちゃん!やめろっ‼︎」

「薬袋っ‼︎」

 

ついに弾幕を抜け、秋斗くんの隣を駆け抜ける。

そして即座に彼と狐狗狸の立つ場所の間目掛けて呪力砲を解き放つ。

 

「っ!解けた‼︎しーちゃん‼︎」

「向こうに走って‼︎」

「でもっ‼︎」

「早く行けってば‼︎‼︎」

 

それを聞いて秋斗くんは逡巡の後、僕の意図を理解してくれたのか、浪川くんの方目掛けて走り出す。

それを見届けた僕は狐狗狸に向かって突撃を仕掛けた。

 

(二人はもうあいつにあれ以上近づけない。それに僕の予想が正しければ…。さっきは仕留め損ねたけど、もう一度あれをやる!)

 

タダで近づかせてくれるわけもなく、次々に繰り出される糸を呪力で強化した肉体で弾きながら肉薄、防御を突き破ってできた傷は即座に回復させる。

予想通り奴は自分の攻撃でつけた傷が残っていなければ、糸を繋いで相手を操れないらしい。

ならばその隙を与えないまでだ!

 

『ギィッ‼︎オイデックダサイィイァ‼︎』

「望み通り来てやったぞ毛玉野郎っ‼︎」

 

ガシィッ‼︎

 

あと数メートルまで接近したところで思い切り地面を蹴って跳躍し、奴の胴体に掴み掛かる。

狐狗狸もすかさず三対の腕で貫手を繰り出した。

 

(今度はやられる前に放つ‼︎)

 

崩天撃(ビッグバン)‼︎』

 

カッ!と僕の体が激しい閃光を放ち、同時に全方位めがけて高密度の呪力が放出される。

 

『ウギィアッ⁉︎』

 

ズガァァアン‼︎

 

激しい爆音と爆風が離れた位置に立つ二人に襲いかかり、周囲の大地も空中に巻き上げられる。

立ち上る土煙に視界が遮られるなか、その煙を突き破るように僕の体が放り出された。

 

「しーちゃんっ‼︎」

「無茶苦茶なことをっ!」

「うぅ、いてて…、あいつはっ⁉︎」

 

すぐさま心配して駆け寄ってきてくれる二人だが、僕の傷は既に術式で完治している。

呪力に指向性を持たせず、自分を中心として解き放つ『崩天撃』をゼロ距離で喰らったのだ。いくら機敏な奴でも密着状態ならば上下左右のどこにも逃げ場など存在しない。

次第に晴れた土煙の先、奴は右半身が消し飛んだ状態で跪いていた。

 

『ウ、グギ…』

「ど、どんだけ頑丈なのさ…」

 

いくら何でもタフすぎる。おそらくは咄嗟に左に身を捩りつつ正面を腕でガードしたのだろうが、あれでも仕留めきれないとは…。五条先生が虚式といい勝負できるかもとか言っていたが、この体たらくではまだまだ及ばないということだろう。

だが、この損傷具合ではしばらく動けまい。

 

しかし、死闘の終わりは唐突に訪れた。

 

カァ…カァ…

 

「烏?帷が降りてるのに何で中に…」

「時間稼ぎ、成功みてぇだな」

 

カツッカツッとヒールの音が近づいてくる。

 

「おや、緊急の応援要請だというからせっかくの休暇を切り上げて来てみれば、ほとんど終わっているじゃないか?」

 

顔の右側を隠すように編まれた銀髪に黒い服装が豊満な肉体美を強調している女性。彼女こそが応援要請を受けた一級術師ということなのだろう。

 

「ほう、高専の一年だけであれを追い詰めたとはなかなかどうして…今年は粒揃いみたいだ。とはいえ、報酬を弾ませた以上、最低限の仕事はしないとね」

 

バサバサッ

 

僕たちの頭上を旋回していたカラスの群れの様子が変わった。

途端に狐狗狸目掛けて群れが高速で滑空を始めたのだ。

 

「黒烏操術…神風(バードストライク)

 

『…ググ、ギヒァッ⁉︎』

 

ズドッ!ドジュッ‼︎ズパァン‼︎

 

衝撃…何というスプラッタ。

黒烏操術という彼女の術式によって操られていたのだろうカラスたちが、凄まじい勢いで狐狗狸に特攻を仕掛けてあの頑丈な肉体をぶち抜いた…と思ったらそのまま衝撃でカラスが爆散。

あまりにもグロッキーだ。

だが、半身を失った状態ではなす術もなく残った肉体すら蜂の巣にされ、ついには特級仮想怨霊もサラサラと砂のようになって消え去ってしまった。

と、同時に帷が解除されて陽の光が辺りを照らす。

 

「倒しちゃった…」

「ふふ、休暇に駆り出されたのは気に食わないけど、楽な仕事で儲けさせてもらったよ。君たちも随分と災難だったね?」

「いえ…それよりも救援ありがとうございます。おかげで命拾いしました」

 

律儀に頭を下げて謝礼を述べる浪川くんを一瞥した彼女は不敵に微笑む。

 

「なに、見ての通り虫の息だった呪霊に止めを刺しただけだ。私がもう少し遅れていても君たちだけで払えたんじゃないか?」

「いえ、私たちだけではあと一押しが足りず…とにかくありがとうございました」

 

浪川くんは彼女のことを知っているようだが有名人なのだろうか?この世界に入ったばかりの僕にはとんと分からない。

 

「ねぇ秋斗くん、あの人は一級術師何だろうけど有名人なの?」

「え?あぁ、しーちゃんは知らなくて当然か。あの人は冥冥さんって言ってフリーの一級術師なんだよ。なんでもすごい守銭奴らしくて、高専なんかから依頼を受けるたびにふっかけるらしいよ」

 

なんと…では今回の件でも高専は大変な額を請求されたのかも知れない。合掌。

 

「皆さーん!ご無事ですかー‼︎」

 

補助監督の女性がこちらに駆けてきている。

彼女も予想外の相手がいる死地に学生を送り出してしまったのだから、気が気じゃなかっただろう。

全員生きているのを確認して安堵の息を吐いていた。

 

「よかった…全員生きてますね!特級相手に…本当に、よかった……クビは免れそう…」

 

ん?今ボソッと何か言った気が…いや、気のせいか。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。色々と荷物や弟も置いてきたままだからね。報酬の件くれぐれもよろしく」

 「はいっ!冥冥さん、ご協力感謝いたします!」

 

補助監督に報酬の念押しをしてから、彼女はこちらを振り返ることもなく去ってしまった。

何とも不思議な雰囲気の女性だなと思っていれば、浪川くんが疑問を口にした。

 

「それにしても、なぜあの人がこの近くにいたんだ?」

「それがさ、この近くの川沿いにキャンプ場があるらしくて、休暇に弟さん連れて来てたらしい」

「なるほど…それで」

 

弟と二人でキャンプとは随分姉弟仲がいいらしい。

一人っ子の身としては少し羨ましく感じるものだ。

しかし、終わってみれば何ともあっけなく感じる。

術式で疲労とは無縁の僕と違い、他の二人はグッタリとしているが。

 

「そういえば気になってることがあるんだけど…」

「ん?どったのしーちゃん?」

「説明の時に聞いた生き残った学生のことなんだけど、とても一般人があの化け物相手に生きて帰れるとは思えなくて…どうしてかなって」

 

戦いの途中で特級の実力を肌で感じる度に強まっていた疑問だ。

しかし、それを聞いた浪川くんがそんなことかと会話に入ってきた。

 

「自分をより強化するためだろう。怪談話や噂が元となってできた呪霊だ。わざと一人、自分の存在を知る生き証人を逃せば、その事件を噂に聞いた連中が勝手に恐怖心や好奇心を抱いて、奴の力の糧になる。更には肝試しで噂を確かめに来る命知らずも増えて万々歳だ」

「めちゃくちゃ狡猾じゃん…あれより強くなる前に払えてほんとよかったよ」

「……あぁ、そうだな」

「浪川くん?」

 

ふと彼に視線を向ければ、何とも真剣な表情の彼が僕を見つめていた。

 

「右腕は何ともないか?」

「え?あぁ、うん大丈夫。僕の術式知ってるでしょ?即死しない限りはどんな傷も完璧に元通り!」

「そうか、それならいい。……すまなかった」

 

そう言って頭を下げて謝罪を述べる彼に慌ててその必要はないとフォローを入れる。

 

「あ、謝らないでよ。秋斗くんのおかげで術式も解けたし、その術式の正体を見抜いたり、その前にも間一髪で浪川くんに助けてもらったりしたしさ。結果的に僕は何の怪我もしてないんだし…だから謝らないで」

「だが、俺は自分に建てた誓いを不本意とはいえ破ってしまった。このままでは俺が俺を許せない…」

 

どうして彼はこんなにも頑ななのか…全てを守れるくらいに強く…そんな目的のあるくらいだから過去に何かがあったのだろう。

 

「浪川くんはどうしてそこまで他人を守ることに拘るの?あ、いや、答えたくない理由とかあるなら答えなくていいんだけど…」

 

その問いに一瞬眉を顰めた彼は絞り出すように語り出した。

 

「……俺は二度、家族を失っている。一度は交通事故で実の両親を、二度は引き取られた先でできた義理の弟を呪霊による被害で失った」

 

家族を二度も…そんなもの一度だって味わいたくないのに、そんな経験をしてなお戦うことを選ぶ彼の心の強さは本物だ。

 

「弟は血こそ繋がっていないがよく懐いてくれた。引っ込み思案な子だったから、よく同級生に揶揄われて俺に泣きついてきたよ。その度にいじめっ子を懲らしめてやったがな」

 

正義感が強く生真面目な彼らしいエピソードだ。

 

「その弟が『兄ちゃんが僕を守ってくれる姿が一番かっこいい』とよく言っていた。それが何より誇らしくて何があってもあいつだけは守れるようにと剣道を始めたんだ。…それなのに俺は、あいつが命の危機に晒されている時、その場にいなかった。一番肝心な時にあいつが憧れた兄でいてやることができなかった…」

 

その時の無力感は…後悔はいったいどれほど彼を苛んだのか。

誰かを思う気持ちは時として『呪い』となり、その者を深く縛り付ける。

 

「もう二度とあんな思いはしたくないと…そう思って竹刀を握った。がむしゃらに練習に打ち込んで大会では何度も優勝するくらいには強くなったが、それでも足りないと思った。だから事件の事後処理をしていた補助監督に頼み込んで呪術界に足を踏み入れた」

 

その目に宿る覚悟は辛い過去を語り切った今でも揺らがない。

 

「それが浪川くんの誰かを守りたい理由、強くなりたい理由か。すごいね、浪川くんは…尊敬するよ」

「いや…結局、敵の術式のせいとはいえお前を危険に晒した。桜庭に偉そうに約束までしておいてあの体たらくだ。尊敬などされるような人間じゃないさ」

 

真面目もすぎるとここまでか…。

とはいえ、彼の気持ちもわからなくはない。もはや自分を戒め罰することでしか、彼は自分自身を許してあげられないのだろう。

 

「……じゃあ、罰として浪川くんも下の名前で呼ばせてくれたら許してあげる」

「……本当にそんなことでいいのか?」

「そんなことってなにさ!浪川くんだけ苗字呼びなのも仲間外れみたいで嫌だったんだよ?」

 

そう言って微笑んで見せれば、彼は一瞬目を丸くした後、溜まりに溜まった毒気を抜かれたように息を吐く。

 

「そうか…なら、好きに呼んでくれて構わない」

「じゃあ、今から涼くんってことで、へへっ」

「っとに浪川は真面目ちゃんだな。本人が許すって言ってるんだから素直に許されとけよな。………それはそれとして、しーちゃん俺もごめんなー!めちゃくちゃ痛かったよな!俺のこと撃たれた数だけぶん殴っていいから!許してくださいっ!」

「うわっ、だから許すってば!大体、弾幕に突っ込んだのは僕だし、秋斗くんも操られてたんだからさ!不可抗力だよ!」

「しーちゃんがやざじいー!」

 

そうして、謝罪合戦もほどほどに僕たちはようやく補助監督の運転する車で帰路についたのだった。

 

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後日、教室にて

 

「いやぁ、任務から帰ってみれば…君たち大手柄だったみたいじゃない?担任として僕も鼻が高いよ」

 

相変わらず軽薄なノリで何よりだ。

その可愛い生徒が揃いも揃って初任務で死にかけたというのに、あれか?最強だから弱者の気持ちは分からないってやつか?

 

「先生」

「どったの涼?」

「今後、実践訓練の割合を増やすべきだと考えます。今回の一件、予定外の強敵が相手だったとはいえ、全滅の可能性は限りなく高かった。奴の発生がもう少し早かったのならば、戦闘時点で領域展開を習得していた可能性も否定できない…。そうなっていれば今頃俺たちは」

 

「はいはいそこまでー。涼、焦る気持ちは分かるけど君たちはまだまだ卵、雛鳥にすらなってないんだよ。上を見るのはいいけど、身の丈に合わない努力をしても目標に辿り着く前に潰れるのがオチ。もちろん最終的には特級相手に余裕で勝利できるくらいになってもらうつもりだけどね」

 

そして、と続ける。

 

「その卵たちが未熟とはいえ、格上の特級相手にあと一歩まで追い詰めて生き残ったんだ。僕はそれを何より評価しているし、今回の件で殻にヒビくらいは入ったと思うよ」

 

……あれ?いいこと言った風だけどさらっと馬鹿にされてないか僕たち。

 

「救援に来てくれたっていう冥さんも褒めてたらしいし、もっと自信を持つといい。いやぁ、やっぱし僕の教えの賜物ってやつだねきっと。あぁ、あと君たち全員にこれだけは言っておく。強くなりたいなら生き残ること、以上」

 

それじゃ解散〜といつものノリでなし崩しにホームルームを終わらせる担任に思わずため息が出そうになる。直前までの真剣な空気が台無しだ。でも…

 

「強くなりたいなら生き残れ…か。確かに死んじゃったらそれまでだもんな…」

 

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「今年の一年、随分と面白い子が揃っているじゃないか、五条君」

「あれ?冥さん、こんなとこで会うなんて珍しいね。今日は何用?」

 

廊下を歩く五条の前に姿を現したのは、先日の任務で彼の生徒たちの救援に応じた冥冥だった。

 

「先日の応援要請に応じた際の報酬、振り込みがまだだったからね。その催促にわざわざ足を運んであげたのさ」

「またとんでもない額ふっかけたから用意に難儀してるんじゃないの?」

「心外だな、労働に見合った正当な対価を請求したまでさ」

「ははっ、どの口で言ってんだか。ま、そんなことより生徒たちの件は感謝してるよ。報告でしか聞けてないけど、止めは冥さんが刺したんでしょ?」

「あぁ、といっても聞いての通り本当に虫の息だった。実に楽な仕事だったよ…ただ」

「ただ?」

「あの任務…彼らは本当に想定外で特級と当たったのかな?」

 

冥冥の発言に五条の纏う空気が途端にヒリつく。

 

「…理由を聞いても?」

「なに、至極単純な話さ。生徒たちに回される任務の多くは、事前に高専の補助監督や窓で下調べしたのちに回される。等級詐偽はままあるが、三級から二級程度と特級を見積もり損ねるなんてことはそうそうない」

 

確かに事前に過去に起きた事件を調べ上げていたわけだし、あそこで4階の指定の部屋まで行き、そこでコックリさんをやる肝試しが流行っていたことくらい調べがつかないとも思えない。

そして、その点を把握できたのなら特級仮想怨霊の出現も十分予想できたはずだ。

 

「私も任務内容を聞いただけだから確信があるわけじゃないが、あの呪霊被害にあったという生存者、彼にまとわり付いた残穢の濃さをみれば標的の等級はある程度予想がついたはず…とね」

「……つまりうちの生徒はわざと、狙って、特級の相手をさせられた、と?」

「さぁ…それは私の知るところではないよ」

 

そう微笑んで肩をすくめて見せる冥冥。

 

「まぁ、真実がどうであれ、結果的にその呪霊を下して生き残った生徒たちの勝ちだと思えば悪くないよ。それにどこかの誰かさんが偶々近くにいたおかげで、手痛い出費も嵩むみたいだし、ザマァ見ろ、さ」

「人聞きが悪いな、正当な対価だと言ったろう?」

「はいはい、とにかく助かったよ、冥さん。今度一緒にお茶でもどう?」

「五条君の奢りなら喜んで」

「OK、じゃ今後ともうちの可愛い生徒たちをご贔屓に」

 

そう冥冥に別れを告げて再び廊下を歩む五条。

しかし、その顔には先ほどまでの笑みは見当たらなかった。

紫鶴の件といい今回の件といい、探ることがまた増えそうだ。

 

「全くどうして呪術界ってのはこう陰気なのかねぇ…」

 




次回は日常パート
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