縛りでショタった呪術師の青春?   作:アンハピ

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日常パート。
私は当時普通の小学校だったんで私服でしたが、私立の制服憧れてました。



貫くは男の誇り

 

先日の初任務の一件で学生服がそれはもうズタボロになった僕は、あれから新しいものが出来上がるまで体操着で1日を過ごしていた。

 

「しーちゃんの制服とかって特注になると思うんだけどさ、そのついでにカスタマイズとかしないの?」

 

昼休み、教室で菓子パンを頬張る僕の向かいに座った秋斗くんが何の気なしに尋ねてきた。

 

疑問を投げかけた当の本人はシャツやズボンこそベーシックなものだが、上は短ランにカスタムしているせいで不良感が底上げされている。いくら呪術高専の制服はカスタム可能とはいえ、露骨に旧時代の悪を彷彿とさせる仕様はいかがなものかと思うが。

 

「僕は今でこそ問題児扱いされてるけど、中学までは良い子の模範のような優等生だったんだよ?特に見た目に不満もないし普通のでいいの」

 

「そっか〜、でもせっかく許可されてるんだし、自分だけの個性とか出してみたくならない?」

 

「個性って言われても…もう僕の存在そのものが個性みたいなものじゃん」

 

「あっはは、そう言う自覚はあるんだね〜」

 

僕の3倍はあるだろう菓子パンやらおにぎりの詰まったコンビニの袋をあっという間に平らげた彼は、同じ空間にいるもう一人に話題を振る。

 

「真面目ちゃんの浪川がカスタムしてるってのが一番意外だけどな」

 

「俺のはフードを付け足しただけだ。お前のような品性の足りない仕様じゃないだけマシだろ」

 

「誰が下品だ浪川コンニャロー!」

 

お互いに本気の蹴りをぶつけ合ったせいか、入学から随分経って打ち解けてきたからなのかは知らないが、最近の二人のやり取りはずっとこんな調子だ。

悪友というかなんというか、罵り合いながらも戯れている…そんないかにも男友達と言ったやり取りには少し憧れる。

 

それにしても、制服をカスタマイズか…。

制服なんて細かく指定されてるのが当たり前だったし、その着こなしでオシャレしようとか思ったこともない身だ。

しかしながら、案外モテる秘訣みたいなのはそういう細かな気遣いにあるのかも知れない。

二人とも女の子にモテそうだし…。

 

「…僕もカスタムしてみればよかったかな」

 

「お⁉︎しーちゃんが乗り気になった!カスタムなら一過言ある俺にぜひ相談してよ!きっといいアイデア出せるぜ〜?」

 

「……なんでお前の方が乗り気なんだ?」

 

訝しげに秋斗くんを見つめる涼くん。しかし、そんなものは知らぬ存ぜぬで大型犬よろしくグイグイとくる秋斗くん…なんだか目が輝いている。

それにこういう目は見覚えがある、なんだっただろうか。

 

「うーん、そもそも僕オシャレとかあんまり意識したことがないからさ。どういうのが似合うかとかも正直わからないんだよね」

 

白状するとこれまではお母さんの買ってきた服をそのまま着ていた。特にそれで問題はなかったし、周りに何かを言われた記憶もない……というのは嘘だが、せいぜい子供服だとかかわいいとかそういうくらいだ。

 

ファッションとはそもそもある程度プロポーションが良くないと決まらなかったりするし、服に着られているみたいになるのだけはごめん被りたい。

その点、日本人の平均身長以上はある二人がこの上なく羨ましい。

 

「なるほどなるほど、オシャレ初心者にはいきなりカスタムってのも確かにハードルは高いよなぁ。……そうだ!今回の制服はいまからじゃカスタムできないだろうし、オシャレを学ぶためにも放課後に服でも買いに行くってのはどうよ?俺付き合うからさ!」

 

名案!とばかりに満面の笑みでそう提案してくる秋斗くん。

確かにまずは組み合わせの幅が広く、自由度の高い私服から勉強してみるというのは悪くない。なによりモテるコーデを実地で享受してもらえるというのなら願ったり叶ったりだ。

 

「それじゃあ、今日の放課後お願いしてもいいかな?」

 

「よし決まり!あ、浪川はどうするよ?せっかくならお前も一緒に3人でいかね?」

 

「別に俺は構わない。ちょうど去年来てた夏服が小さくなってたところだ。買い替えついでに付き合ってやる」

 

「んだよ素直じゃねぇな〜。一人だけ仲間外れは嫌だから一緒に連れてってくださいって言えよ浪川〜」

 

「だまれ不良モドキ」

 

またさっきの調子でやいのやいのと揉め始めた二人だが、まぁ仲がいいようで何よりだ。

 

それにしても、よくよく考えてみるとこの3人で放課後に遊びに行くだなんて初めてのことで、すでに今からワクワクとした遠足前日の子供のような感情が胸に湧き上がってきた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

放課後、僕たち3人は高専から一番近い距離にあるショッピングモールにやって来ていた。平日の夕方ということもあり、ほとんどが主婦や学校帰りの学生で人も疎だ。

 

「そんじゃ、上の階にある店から順に見ていこっか!2階に美味いクレープ屋があるから途中で買い食いしようぜ?」

 

「お前…昼にあれだけ食ってまだ食うのか?」

 

「育ち盛りはどんだけ食っても許されるんだっつの」

 

この中で一番高身長とはいえ、日々の授業や任務で引き締まった彼には贅肉など存在しない。つまりはあれだけ食べても全てが効率よく消費されているということだ。

 

僕の場合は成長に消費されない分のエネルギーはどこに行っているのやら…ちなみに僕の体は成長が止まっているだけでなく、体重の変化も12歳を迎えたその日から変化していない。

多分どれだけ過食を繰り返しても太ることはないので、その点に関しては世の女性たちが羨むことだろう。

 

「ふふ、でもなんかいいよね。こうやって友達と放課後に買い物に行くってさ。学生って感じがするよ」

 

「しーちゃん、中学の時とか友達と遊びに行ったりしなかったの?」

 

「えっと、そういうのがなかったわけじゃないんだけどね…」

 

そう言って言葉を濁す。

 

中学二年生の夏休み…クラスの僕を含めた男子3人と女子3人で大型施設に遊びに行った時のことだ。

 

女子の買い物は男が耐え難いほどに長い、そんな当たり前の事実をあわよくば彼女ができるかもしれない、そう考えた思春期の少年3人は失念していた。

 

約2時間、店の外で待ちぼうけを喰らわされたのだ。

なんのために男女混合できたのか…女子も初めはそう言ったことを考えていたのかもしれないが、少年たち相手はつまらなかったのか途中から自分たちの世界に入ってしまったのだろう。

 

あれぐらいの歳の男女とは意外に話が合わないものなのだ。

そして、真の悲劇はその後だった。満足いくまで衣服の物色してきたのだろう女子に…僕は拘束された。助けを求めて二人の友人に手を伸ばしたものの、その手は空を掴んだ。

 

「…そのまま更衣室に連行されて、女の子たちに着せ替え人形のおもちゃにされたんだ…。まぁそうだよね、こんなちんちくりんじゃ恋愛なんか考えもしないよね…どうせおもちゃですよ、ふふっ」

 

「トラウマ掘り返してしまった…なんかごめんよ、しーちゃん」

 

「2時間放置か…よく帰らなかったな少年たち」

 

遠い目をする僕を見て、黒歴史を垣間見た二人はなんとも微妙な表情だ。僕こそごめんよ、せっかくの楽しい時間に水をさしてしまって…。

 

「ま、まぁ!今回は男3人だし、気を取り直していこうぜ!」

 

「そうだな、少なくとも長時間待たされることもなければ、着せ替え人形にされるなんてこともないんだ」

 

「秋斗くん、涼くん…ありがとう!持つべきものは親友だねっ!」

 

なんて優しい言葉をかけてくれるのだろう。

彼らならきっと僕の心に住み着いた闇を禊ぎ払ってくれるはずだ。

 

……そう考えていた時期が僕にもありました。

 

「しーちゃん!この組み合わせなんかどうかな⁉︎」

「しーちゃん!こっちも中々イケてるよっ‼︎」

「しーちゃん!かっこいい系と見せかけてあえてこんな変化球もいいんじゃない!」

 

これもっ!あれもいい!あっちも!………

 

「…おい」

 

「あ!こっちも似合うんじゃ…!」

 

「おいっ!桜庭っ‼︎」

 

「え?どったの浪川?」

 

「いい加減にしろ…薬袋の顔が能面になってるぞ」

 

僕ははたして…急に何かに覚醒した秋斗くんによって着せ替え人形にさせられていた。意気消沈といった様子の僕をようやく認識した秋斗くんは、完全にやらかしたという表情だ。

 

おかしい、お店に入る前までの会話から何をどう間違ったらこの展開に繋がるのか?親友だっていうのは僕の思い込みだったのか?だってそうでもなければ、僕の黒歴史を再現しようなどとは思わないはずだ。

 

「あー…大丈夫…?しーちゃん?」

 

「…薬袋?どうした?」

 

「……いよ」

 

「「え?」」

 

「ひどいよ‼︎二人のバカやろーー‼︎」

 

そう叫んで試着室を飛び出してがむしゃらに走り出す。

後ろで「お、俺は何もしてないっ!」と叫ぶ涼くんの声が聞こえた気がしたがそんなの関係ない。

 

悔しい…男としての誇りも何もかもこんな形で打ち砕かれることになるなんて。二人ならば親身に相談に乗ってくれるとそう思ったのに、結局僕は二人にとっても着せ替え人形に過ぎなかったんだ!

 

「し、しーちゃんっ⁉︎」

 

「待て!どこに行くんだっ‼︎」

 

慌てて僕を追いかけようと試着室を飛び出して走り出す二人。

歩幅的にも足は二人の方が断然早いし、このまま普通に逃げたって捕まるのは時間の問題だ。

 

だが、疎とはいえそれなりの人だかりができるのがショッピングモールだ。小柄な体を生かして僕はその人だかりの中に駆け込むように身を紛れ込ませた。

 

「しーちゃん!どこっ⁉︎」

 

「くそっ!見失った!どうするつもりだ桜庭!お前のせいで俺まで悪人扱いされたぞっ‼︎」

 

「う、うるせぇっ!今はそんなことよりしーちゃん探すのが先だろうがっ!」

 

この状況で意図的に身を隠されでもすれば、小柄な彼を見つけるのは至難の業だ。しかし、早く見つけて誤解…いやうち一人に関しては誤解もクソもないが…を解かなければ今後のスクールライフにも響きかねない。

 

「ハァ…ハァ…全然見つからないんだけどっ…!」

 

「息切れしてる場合か、お前のせいでこんなことになったんだろうが。大体何をどうしたらあの過去を聞いて同じ仕打ちをするなんてことになるんだ?」

 

そう詰め寄られた桜庭は「うっ」と至極気まずそうに目を逸らす。

 

「……いや、なんというかその」

 

「なんだ、モジモジするな気色悪い」

 

凍てつく波動が浪川から放たれている気がする。

この事態を引き起こした原因たる自覚もある手前、これは観念するしかなさそうだ。

 

「わ、笑うなよ、俺は……」

 

「俺は可愛いものが好きなんだっっ‼︎」

 

クワッ!と顔の横にオノマトペが見えた気がするが、見た目不良がこんな人混みでなんてことを言ってくれるのだろうか。完全に不審人物の変態だ。すでに数名の主婦が何あれ?と言いたげな視線を送ってきている。

 

「お前はっ!こんな場所で何を叫んでいる!社会的に死にたいのかっ⁉︎」

 

「うるせぇ!こうなったらヤケクソだ!全部ゲロってやるよ!」

 

「だまれっ!くそ、こっちに来い‼︎」

 

これ以上の羞恥には流石に耐えられないとばかりに、自分より背の高い男の襟首を引っ掴んで人の少ない通路の方へと引きずっていく。

 

そして、ある程度の場所まで移動するなり周囲を軽く確認してから桜庭に問い掛ける。

 

「…それで?お前のかわいいものが好きだという趣向と今回の件の因果関係について弁明を聞こう」

 

「だって、しーちゃんってめちゃくちゃかわいいじゃん!小さいのもあるけど…それ以上に顔がいいっ‼︎何着せても似合うからつい止まらなくなったというか、新たな可能性を開けそうな気がしたんだよ!俺だって最初は普通に選ぶつもりだったんだよ!文句あるか浪川このやろうっ‼︎」

 

こいつは…錯乱しているのか?なぜこの状況で逆ギレができるのか皆目理解できない。なにより新たな可能性ってなんだ。変態の扉を開いて新境地に辿り着こうとしてるだけじゃないのか?

 

「文句しかないに決まってるだろ、この変態め」

 

「なっ…だ、誰が変態だっ‼︎」

 

心外だ!と喚く180近い金髪ピアスの男に迫られて、今すぐこいつを置き去りにして哀れな友人を探しに行きたくなるが、人手はこんなのでも多い方がいいと思い直してグッと堪える。

 

「つまりなんだ…お前はかわいいものに目がない。そして、薬袋の服を選んでやるつもりだったが、色々試すうちに何着せても似合うから歯止めが効かなくなった…と?」

 

「そうだっ!」

 

「ドヤるな。それにしてもまさかクラスメイトにお前のような犯罪者予備軍がいるとは…人は見かけによらないとは本当だったんだな」

 

勉強になった、と一人納得する浪川。

 

「さっきから黙って聞いてれば、人のことを変態だの犯罪者予備軍だのボロクソ言いやがって!」

 

「事実だろうが、このショタコン野郎」

 

「断じて違うっ!俺はショタが好きなんじゃない!最初に言ったはずだ!かわいいものが好きだと!そこにショタもロリも存在しないっ!」

 

自信満々に言い放つが変態くさいのには変わらない。

というか発言だけ切り取れば小児性愛者のド変態にしか見えない。

 

「もうお前は喋らない方がいいな…」

 

「俺の崇高な趣味が理解できないなんて哀れなやつだな、浪川よ」

 

「カケラも理解したいとは思わん。もうこれ以上お前にツッコむのも面倒くさい。だが、薬袋を見つけたら土下座で謝罪しろ。さもなくば斬って捨てる」

 

凍てつく波動が絶対零度に進化している。

目がマジだった。本気で管斬で斬りかかってくると肌で感じる。

背に腹は変えられないし、薬袋に悪いことをしたという自覚は幸いにもある。

だが、とにもかくにも今は早く哀れな友人を見つけなければと、そう思うのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ショッピングモールの一階、通路の突き当たりにある休憩スペースの隅にある植え込みの影に少年はいた。

全身から放つ空気たるや特級呪霊にも匹敵しそうな禍々しくジメジメとした陰鬱なものだ。

 

「どーせかっこいいとかオシャレは僕には早いってことでしょ…成長しないんじゃ早いも遅いもないっつーのばかやろー」

 

完全にヘソを曲げていた。

不貞腐れた調子でぶつぶつと呟く様は誰もが避けて通る選択をするだろう。

 

だが、そんな彼に忍び寄る影が一つ。

 

「あれ、呪霊かと思って来てみれば、そんなとこで何してんの紫鶴?」

 

「っ!ご、五条先生っ⁉︎なんでここに…?」

 

突然の声にやや大袈裟に驚きながら顔を上げれば、そこには我らが担任にしてモデルも霞む抜群のスタイルを持ったイケメンが、サングラス越しに面白いものを見るような視線を寄越していた。

 

「いやいや、それはこんな隅っこでナメクジみたいにしてる自分の生徒を見た僕のセリフっしょ。秋斗と涼は?一緒じゃないの?」

 

グイッと腰を90度折り曲げて僕を覗き込んだ先生はそう言いながら周囲を見渡す。しかし、いつも一緒にいるクラスメイトが近くにいるようには見えない。

 

「あぅ…一緒に買い物に来たんですけど、その…喧嘩しちゃって逃げて来ました…」

 

目も合わせずにゴニョゴニョ呟く僕を見て、いかにも面白いところに遭遇できたといった笑みを浮かべる先生。

しまった、話す相手を間違えた!

 

「へぇ〜!3人が喧嘩ねぇ?で、なんでまたそんな面白いことになったのさ?」

 

面白がってることを隠す気もないと来たかクズ教師め。

だが、ここまで話した以上、そのままほっといてくれるとも思えない。腹を括るしかなさそうだ。

 

そうしてことの次第を包み隠さず全てゲロった僕は、近くにあった休憩スペースのソファに先生と二人腰掛けているのだが…。

 

「あっはっはっは!ヒィ…お腹痛いっ、なるほどねぇ…秋斗にそんな趣味があったとはっ…そして紫鶴はお人形扱いされて男としてのプライドが傷付いちゃったわけか、かわいいねぇ…ふふっ」

 

大爆笑である。

それはもう盛大に人目も憚らず手を鳴らして大笑いだ。

かわいい生徒が真剣に悩みを打ち明けたというのにセイウチかよテメェ。

 

「ははっ…ふぅ…。いやぁ久々にこんなに笑ったよ、腹筋が倍に割れるかと思った」

 

「サイコロステーキくらい細切れになってくたばってください」

 

「まぁまぁ、そう怒るなよ。お詫びにこれあげるからさ」

 

そう言って先生は持っていた手提げ袋から何やら取り出して僕に渡してきた。見てみれば個包装の八ツ橋のようで、紙袋にも有名な和菓子店の名前が書かれていた。

 

「僕のお気に入りでね、仕事終わりに時々買いに来るんだ」

 

「それでこんなところにいたんですね…はむっ…⁉︎ん、おいひぃ」

 

滑らかな口当たりのこし餡がもちもちとした生地の中から豊かな風味と共に口内に広がる。確かにこれは甘い物好きな先生のお気に入りになるのも頷ける。

 

「でしょ〜?味がわかるみたいで先生感心!…で、この後どうするつもりなの?多分二人は紫鶴のこと探してるんじゃないかな?」

 

「…でも、今更どんな顔して会えばいいのかわかんないです」

 

美味しいもので一瞬吹き飛んだ陰鬱な雰囲気も本題に入るなり再び影を落とす。せっかく3人で遊びに来たのにその空気をぶち壊してしまったという負目を感じる気持ちが半分、トラウマを再現されプライドを傷つけられた怒りの気持ちが半分。僕の心を引き裂くようにかき乱しているのだ。

 

「別にお互いさっさとごめんねしちゃえばいいと思えけどねぇ…。でもこっちから謝るのもそれはそれで癪に触るってところかな?」

 

「まぁ…そんな感じです」

 

「なるほどね……よし、ならばここはかわいい生徒のために先生が人肌脱いであげよう!」

 

ガバッとソファから勢いよく立ち上がってそう宣言する先生を見て、なんだか嫌な予感がするのは気のせいだと思いたい。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ここにもいないか…全くどこに行ったんだあいつは」

 

「うぅ、もしかして怒って帰っちゃったのかも…」

 

「…もう一度携帯に電話を…ん?」

 

「あれは!しーちゃん‼︎探したんだ…よ…?」

 

モール内の端から端まで一通り探したものの見当たらない友人の姿に、一人で帰ってしまったのではないかと不安になる二人。

だが、そんな二人の心配を裏切るように探し人は向こうからやって来た。

 

「……なにさ、言いたいことがあるなら言ってよ」

 

だが、その姿が問題だった。

一緒にいた時は間違いなく高専のジャージ姿だったというのに、今の僕の格好は

 

黒いバケットハット

白とグレーのボーダー柄の半袖Tシャツ

紺色のワイドすぎず細身すぎないオーバーオール

ベージュのスニーカー

 

しかも、頭のてっぺんからつま先まで高級ブランドものである。犯人は言うまでもなくあの白髪サングラス、全部奢ってやるから感謝しろなどと言って僕を手早く着替えさせるなり、タイミングを見計らって僕を二人の前に突き出したのだ。当の本人は2人の死角になる位置からこちらを高みの見物…一体なんだと言うのだ。

 

おかげさまで試着室を出るなり女性店員に声をかけられ、店に飾るファッションモデルとして撮影を依頼された。

てっきり五条先生にお願いしているのかと思ったが、子供服の店だ…ターゲットは僕に決まっていた。

 

「か…かわ…」

 

「…っ⁉︎おいっ‼︎桜庭‼︎」

 

「はっ!わ、わりぃ!」

 

一瞬で暴走しかけた桜庭を怒鳴りつけて抑える浪川。

おそらく今日一の苦労者だろう彼の声に、流石に自重して気持ちを抑える桜庭。だが指だけワキワキ動いていて不気味だ。

 

「えーと…しーちゃん、さっきは本当にごめん!俺調子に乗っちゃって思わず…とにかくごめんっ‼︎」

 

それはそれは…綺麗な土下座だった。

だが、ここは人目もあるショッピングモールだ。

 

「そのことはいいから土下座はやめて!人集まって来ちゃうからっ!」

 

「あっ…ごめん、つい」

 

「…その、僕も色々選んでくれたのにごめんね、ちょっとムキになっちゃった」

 

「し、しーちゃん…!」

 

僕の許しの言葉を聞いて頭を上げた秋斗くんの瞳が輝き、みるみる涙ぐんでいく。

 

「ありがとう!しいちゃんっ‼︎」

 

「っ⁉︎おいこらっ‼︎」

 

「うぐ‼︎ちょっと離れてっ!」

 

いつもの5割マシのスピードでしがみついて来た大型犬。

危うく押し倒されそうになるも間一髪で踏みとどまる…が、重い。

 

「ぐずっ…てかしーちゃん、その服どったの?」

 

「うぇ!えと、これは……」

 

「めっちゃ似合ってる!これならモテ期到来確実だよしーちゃん‼︎」

 

な…なん…だと⁉︎似合っているだとかは言われ飽きたが、これが…こういうのがモテるファッションだというのかっ!

面白半分でふざけてチョイスしたものだとばかり思っていたが、まさか本当に生徒のために!あの!クズ教師が!イケてる服を選んだ!だとっ⁉︎

 

「ほ、ほんとに?これなら僕もイケてる?」

 

「ほんとほんと!超オシャレ!……俺が選んだ服じゃないのは悔しいけど」

 

なんと言うことだ…素直に嬉しい。とりあえず、最後の方は聞かなかったことにしよう。

ありがとう、五条先生!僕、彼女作るよっ…‼︎

 

「…仲直りは済んだか?」

 

「涼くんっ!あの…さっきはごめんね、涼くん止めてくれたのに」

 

「いや、俺も止めるのが遅かった…だからいいっこなしだ。お前はいい加減離れろ」

 

そう言って僕にしがみつく秋斗くんを引き剥がし、それにしてもと続ける。

 

「その服は自分で選んだのか?」

 

「あぁ、これはね…」

 

「いやぁ、上手く行ったみたいでなによりなにより〜!」

 

パンッパンッ!と手を叩く音と共に今まで身を隠していた先生が僕たちの前に姿を現した。褒められたのが嬉しくて一瞬忘れかけていたけど。

 

「先生⁉︎なんでこんなとこに…ていうかずっと見てたんすか?」

 

「うん、たまたま休憩所の隅っこでナメクジになってる紫鶴を見つけてね。話聞いたら喧嘩したなんて泣きつかれたもんだから、ここは教師として華麗に仲を取り持ってあげようとアドバイスしてあげたってわけ」

 

「なるほど、じゃあ薬袋のこの服は先生が選んだんですね」

 

「そゆことっ!まぁ、僕のイケてるファッションセンスにかかれば、どんな地味男も華のある色男に大変身しちゃうからね」

 

誰が地味男だ!つーか泣きついてねぇし!

確かに顔もスタイルもいい先生に比べれば、スタイル分だけ劣るかもしれないが結構顔には自信あるんだぞ!と食ってかかりそうになる。まぁしかし、おかげで仲直りできたのは事実なので今日は水に流そう。

 

大人とはそうして心に余裕を持って生きているものなのだ。

 

「…いきなり着せ替えられて2人の前に突き出された時は裏切られたのかと思いました」

 

「えぇ〜?そんなこと、この僕がするわけ無いじゃない?まぁ、話を聞く限り2人も悪気があったわけじゃなさそうだったし?何度も試着が嫌だってことなら、一発で一番似合うモテる服を選んでやれば万事解決!」

 

なるほど、僕の精神的負担も最小限にしつつ事態解決を図るなんて呪術師最強の名は伊達ではないのかもしれない。

 

「五条先生…僕、今日初めて先生を人として尊敬できそうですっ!」

 

「え、今までは⁉︎ていうか、協力してあげたのにその言い草はひどくない?紫鶴の中で僕の評価どうなってんの?」

 

「それは初対面から今までの行動を振り返れば理解できると思います」

 

えぇ?何かしたっけ?などと首を捻っているこの男はとりあえず置いておこう。

今はそれよりも…女の子に!ナンパを仕掛けるっ!

ちょうど僕たちから近い場所に近隣の女子校の生徒と思しきかわいい子が3人でおしゃべりしている。

そう、時は来たのだ!

 

「秋斗くん、涼くん…2人が褒めてくれたから僕も自信が湧いて来たよ!」

 

「しーちゃん…」

 

「…行くのか?」

 

2人の少し心配するような、後押しするような視線が胸を熱くしてくれる。

この通じ合う感覚、これが男の友情。

僕は今、最高に青春していると断言できる。

 

「うん!いってくる‼︎」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

寮への帰り道、僕は来た時と同じ高専のジャージを着て、左右を2人に挟まれながら歩いていた。

 

「……」

 

「えぇと…しーちゃん?だいじょぶ?」

 

あまりにも気まずい沈黙に耐えかねたのか、秋斗くんが恐る恐ると言った様子で問い掛ける。

 

反対に涼くんはかける言葉など到底思い付かないのか、さっきからこちらを見てくれない。

 

惨めだ…あんなにノリノリで100%いけると思って突撃したのに、結果は女子高生3人に囲まれて写メを撮った挙句、プリクラに連行されてしばらく解放してもらえなかった…。

可愛い子に囲まれたのだしモテるにはモテた…が、求めていた展開とちがう。

 

「……きっと僕は一生彼女なんてできないんだろうなぁ。そりゃそうだよね。どれだけ頑張っても良くて中学一年生くらいにしか見えないんだもの、女の子たちだって対象外だよねぇ…ふふふ」

 

「なんかもう見てられないんだけど…。全身から禍々しい呪力が溢れてる…」

 

「そっとしておいてやろう。こう言う時は下手な慰めの言葉は逆効果だ」

 

今は涼くんの適切な配慮にさえ心が砕けてしまいそうだ。

男としての誇りなんてはなから存在しなかったのだと思えば幾分か心は安らぐ。

 

そうして歩いていれば、もう高専は目と鼻の先だ。

 

「お?ようやくお帰りか。紫鶴にお届け物だよ」

 

正門の前に誰かと思えば五条先生が小脇に荷物を抱えて待っていた。途中から姿が見えないと思ったが、さっさと1人で帰っていたとは…。まぁ、あんな恥ずかしい現場を見られなかったのだと思えば寧ろ先に帰ってくれて良かったのだが。

 

しかしながら、お届け物とは一体なんだろうか。

そう思いつつ受け取れば、箱には制服一式の文字。

どうやら注文していたものが今日届いたらしい。

 

「制服今日届いたんですね…でも、なんで先生が僕の制服を?」

 

「あの後、制服ができたって高専から連絡が来てね。紫鶴もいつまでもジャージじゃ困るだろうと思って、配達を待つより僕が行った方が早いから、チャチャっと受け取りに行って来たんだよ」

 

今日は一体全体どうしたというのだろう。

やけに気の回る優しい先生に悪寒を感じなくもないが、せっかくの好意はありがたく受け取っておこう。

 

「気を遣ってくれてありがとうございます」

 

「いーのいーの!それよりサイズに手違いがあったら大変だし、早速着替えて見せてよ?」

 

「えぇ⁉︎ここでですか?そ、外ですよ?」

 

「別に気にするなよ、男同士だろ?それにもうここは高専の敷地内、誰も見てないよ」

 

なんだか偉く強引な気もするが、男のくせに恥ずかしがっていると思われるのもいやだ。

仕方ないと意を決してその場で制服に着替えることにした。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「なっ…なな…」

 

「おぉ〜、紫鶴ったらよく似合ってるじゃないの」

 

「しーちゃん!いいよそれ!超かわいいじゃん!」

 

「なんじゃこりゃぁぁあ‼︎‼︎」

 

届いた新しい制服は頼んだはずの通常仕様ではなく、明らかにカスタマイズが施されていた。それも先ほどショッピングモールで先生が選んだファッションに近い雰囲気の仕様になっている。

 

長袖の制服にサスペンダー付きの半ズボン、黒のハイソックス、ご丁寧に下に着るシャツまでセットになっている。

 

「うんうん…如何にも"私立小学校のお坊ちゃん"って感じでいいんじゃない?これなら美人なお姉さんもイチコロ!よかったねぇ、僕に感謝してくれちゃってよ!」

 

この口ぶりからするに勝手に注文を改変したのだろう先生は、悪びれることもなく感謝を要求してきた。

 

親切で取りに行ってくれたんじゃない。僕が受取人だとその場でバレて作り直しになるから先回りしたんだ…!

なんて用意周到な男だろうか、そんなところだけマメだなんて全然嬉しくない!

 

「一応聞きますけど、僕が頼んだ普通のやつは?」

 

「ん?ないよ?だって君が頼んだのそれと、替えのもう1セットだけでしょ?」

 

つまりだ…僕はこれから毎日これを着て授業を受け、これを着て任務に赴くことになる。

事の次第を知っている秋斗くんや涼くんならいざ知らず、先々で関わる補助監督や他地区の高専生にこの姿を見られるというのは、いくらなんでも恥ずかしすぎて死んでしまうかもしれない。

 

「今すぐ作り直してもらうように言ってきます!」

 

「あー、それはやめた方がいいんじゃないかな?だってほら、今担当の人にすごく喜んでたってメールしちゃったし…どう取り繕っても角が立つよ?…お、いい写真撮れた。夜蛾センに送ってやろー」

 

また先手を打たれた‼︎

くそ、諦めるしかないのかっ…!

 

「はぁ…俺はもう知りませんよ、先に帰ります」

 

付き合いきれんとばかりに1人で寮の方に歩いて行ってしまった涼くん。薄情者め、僕たちの友情はそんなものだったのか!

 

「しーちゃんしーちゃん!こっち向いて!写真撮らせてよ!ほら笑顔笑顔ー!」

 

こいつはこいつでショッピングモールでのことをもう忘れてるんじゃないだろうな?一度厳しめに躾をした方がいいかもしれない。

 

「あ、そうそう。今回の制服代、特注にしたせいで予定より高くなっちゃったから、足りなかった分は後でちゃんと振込忘れないように。はいこれ請求書」

 

その時、僕の中で何かがプツリと切れる音を聞いた。

 

「このぉ……いい加減にしろぉぉぉお‼︎」

 

その日、高専の正門一帯が更地になった。

 




次回からまた任務のお話。
シリアスな雰囲気を書けるようになりたい。
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