縛りでショタった呪術師の青春?   作:アンハピ

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今回もシリアスかつ結構重め。
あと今回からシリーズものとしては1話あたりの文章量多いかなっていうのと、自分のモチベーションを長く保つために5000字程度にしてお試し投稿です。
あと来週からリアルも少し忙しいので、半分の長さに話を綺麗に詰める練習も兼ねてます。



永訣

 

旧犬鳴トンネルにおける特級呪霊との戦いから一晩明け、僕と先生は呪術高専に帰ってきていた。

 

あの後、車で1時間程度で瀧上の邸宅に到着するなり、高級旅館もかくやというおもてなしを受けてすっかり疲れも吹き飛んだわけだが、余程忙しかったのか奈沙さんには会えず終いで帰路に着くことになった。

最後にお礼とまた会う約束くらいはしたかったが、帰りの見送りにも顔を出せないほどなんて、名家の当主という立場は僕が思う以上に激務のようだ。

 

そして今度は高専に帰還するなり、一息吐く間もなく二人揃って夜蛾学長に呼び出しを受けているわけだが…。

 

「悟、今回の件、申開きがあるなら先に聞いてやる」

 

どうやら先生は三級の僕を特級案件に同行させる旨を誰にも伝えていなかったらしい。

その上、戦闘において基本傍観に徹し、同行させた僕に戦闘をさせたということもすでに情報が伝わっていた。

 

瀧上家の人たちはみんな優秀だと一泊した時点で理解していたが、それにしても仕事が早い。あれだけの人材が集まっていながら御三家とやらに数えられないなんて、血統を大切にする呪術界らしい、と帰りの飛行機で先生がぼやいていたのが記憶に新しい。

 

「はい!今回の件は教師として一生徒の可能性を見抜いた上で、的確な判断と指示のもと同行、および任務の対応に当たらせた次第です!ゆえにこの呼び出しは不当なものと判断します!」

 

ガツンッ!と勢いよく学長の拳が先生の脳天に直撃する。

今のは音だけで痛いのがわかった。

僕もゲンコツされるんだろうか…頭が変形しないか心配だ。

 

「お前が反省していないことはよく分かった。…上もカンカンだ。また別途、呼び出されると思っておけよ、悟」

 

上層部まで怒り心頭とは、僕を連れて行ったことは大人たちとしては余程の問題らしい。

流石にかなりの面倒ごとになっていることをやっと理解したのか、「うげぇ、それは怠い」なんて嫌そうにしている。

まぁ、本来大切に育てるべき生徒に教師が渡る必要のない命懸けの綱渡りをさせたようなものだし、当然といえば当然なのだが…。

 

「そして薬袋、お前もこのバカが声を掛けたとはいえ、自分の意思で着いて行った以上処罰は免れん。後で反省文を書いて提出するように。初犯であることと本件の呪霊討伐に一際貢献したことを加味して今回に限り温情だ。次はないと思え」

 

「は…はい、本当にすみませんでした」

 

うぅ、ゲンコツは免れたとはいえ反省文か…。

寮の部屋とかでこっそり書かないと、もし涼くんに見つかったらお説教確実だ。

涼くんのお説教は暴力こそないものの、圧とねちっこさが半端じゃないから、下手をすれば学長のお説教より苦手だ。

何だか僕も随分不良生徒になってしまったようで天国のお母さんに申し訳が立たない。

 

「…それから最後に」

 

まだ何かお説教のネタがあるのだろうか。

もう先生は横で欠伸し始めている。本当に肝の据わった人だ…一周回って感心する。

 

「お前たちがここに来る10分ほど前に、今回の任務を依頼してきた瀧上の人間から連絡があった。お前たちと任務に同行した当主、瀧上 奈沙が…遺体で発見されたそうだ。状況証拠から呪詛師の犯行の可能性が……どうした?」

 

 

「え…?」

 

 

その話を聞いた瞬間、全ての音が遠くなった気がした。

キンキンと耳鳴りのような音が脳内に響く。

何を言われたのかが分からない。

奈沙さんが…なんだって?

 

「……紫鶴、ちょっとおいで。少し外します」

 

「ん…あぁ、分かった」

 

あまりの衝撃に愕然と立ち尽くす僕を見た先生は、学長に一言断りを入れるなり、すぐに僕の手を引いて一旦外へと連れ出した。

 

「……何かの間違いですよね」

 

だが、先生は何も答えてくれない。

 

「……奈沙さんが死んでたなんて、そんなの…そんなの嘘ですよね?」

 

駄目だ、男がそんなすぐに泣いちゃ駄目なのに、分かっているのに溢れる涙が止められない。

嘘じゃないなんて分かっているのに、頭がそれを理解しても心が認めようとしない。

 

「紫鶴……これが呪術師だ」

 

先生はまっすぐに僕を見据えて、あまりに残酷な現実を突きつけてくる。これで折れるようなら呪術師として到底やっていけないし、それまでの才能だと自ら認めることになるぞという、厳しさとどこか諦念の感じられる表情。

でも、その突きつけられた現実を飲み下すには今の僕には余裕も時間も足りなかった。

 

「呪術師である以上、いつどこで死んでもおかしくないんだ。それは任務で呪霊に力及ばずなのかもしれないし、呪詛師との戦いに敗れてのことなのかもしれない。紫鶴だってそうだ。場合によっては秋斗や涼がそうなることだって今後ないとは誰も断言できない。それに言い方は悪いかも知れないけど、遺体があっただけでも呪術師としては幸運な部類だよ」

 

分かっているつもりだった。

この世界に入ると決めたその時に、仲間や知り合いの誰かが簡単に死んでいなくなる世界だってことは、散々説明されていたのだから。

でも、結局は分かっているつもりになっていただけで、本当の意味では理解していなかったんだ。

 

「……とりあえず、今日はもう部屋に戻るように。反省文のことは学長に少し待ってもらうように僕から伝えておくから。いいかい?」

 

先生にすごく気を使わせている自覚はある。

学長もきっと任務で半日行動を共にしただけの人間の訃報に対して、ここまで大きなショックを受けてみせた僕を不思議に思っているかもしれない。

結局、僕は先生の問いかけに無言で頷いて、壊れかけの人形のような足取りで部屋まで歩き出した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「待たせてすみません」

 

紫鶴が一人で寮に戻るのを見届けてから、五条は再度学長室に戻ってきた。

心配ではあるが、こういう時はあまり第三者がとやかく言うものでもないとこれまでの経験則から判断したのだ。

 

「いや、構わん。尋常じゃない様子だったが、薬袋は瀧上の当主と何かあったのか?」

 

学長室では夜蛾が新しく作成中なのだろう呪骸にボタンを縫い付けているところだった。

そして、先ほどの紫鶴の様子からただならぬ事情があるのだろうことを察していた。

 

「任務先で二人は婚約を交わしたんです。もちろん、紫鶴が成人してからという制限付きですけど」

 

それを聞いて夜蛾は持っていた針も呪骸も手のひらから落とした。

 

「な…婚約だと?本気で言っているのか?」

 

五条も夜蛾とは長い付き合いになるが、ここまで困惑しているのは初めて見たかもしれない。

 

「本気も本気、紫鶴の方が彼女に一目惚れして即アタック。向こうもそんな紫鶴を見て好ましいからと、条件付きで受け入れたんですよ」

 

任務に三級の生徒を連れて行っただけでも問題だが、監督役の教員が生徒と成人女性との恋愛現場に遭遇、挙げ句の果てに婚約まで見届けたなどと、既に夜蛾の胃には3箇所ほど穴が空いていそうだ。

 

とはいえ、法的にまずい何かがあったわけでもないし、何より相手が良識のある大人の女性だったと言うのは不幸中の幸いだ。

 

そして、生徒とその想い人との約束はあまりにも早く破られてしまったのだ。知らなかったとはいえ本人に直接、訃報を伝えてしまったことが余計に胃にダメージを加えてくる。

 

「……それは悪いことをしたな」

 

「呪術師をやって行く以上は遅かれ早かれ経験することだし、紫鶴はそれを知るタイミングが今日で、相手が初恋の相手だっただけでしょ」

 

気遣って先に帰らせたのだから心配してないわけじゃないのだろうが、特に動揺した様子もなく言ってのける五条。

 

「随分とドライだな」

 

「御三家の人間は生まれたその時からこの世界で育ってるんでね。ドライにもなるよ、反吐が出るけど。とはいえ、生徒が呪術師として最初に経験する死が、まさか婚約者とは思いもよらなかったけど…」

 

「そうか…そうだな。呪術師をやって行く上で、ある程度のイカれ具合、高いモチベーションは必須だ。あの子は非術師の家系出身のようだが、それを差し引いても優しすぎるきらいがある」

 

あれが普通の反応なのだと理解している。

だが、長く呪術師として生きていると、こう言った時の感情が麻痺していることに気付かされるのだ。

 

「そして悟、お前には言うまでもないだろうが、あの子のようなタイプこそ"あいつ"のようにならないとも限らん。よく見ておいてやれ」

 

"あいつ"という言葉に空気が重く沈んでいくのを感じる。

 

「…もちろん、分かってますよ」

 

この出来事をどう乗り越えるか、特訓よりも今はそれこそが彼に課された最大の試練だった。

 

「……腐るなよ、紫鶴」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

あれからどうやって部屋まで戻ったのかが記憶にない。

気がつくと自室に置いてある二人掛けのソファに腰掛けていた。

ふと時計を見れば18時、学長のところに行ったのが13時ごろだったから随分長い時間をこうして過ごしていたらしい。

 

 

彼女が……奈沙さんが亡くなった。

 

 

遺体を見たわけでもないし、言葉だけ聞かされたって実感なんか湧くわけがない。

なのに、呪術師としてカケラでもこの世界の厳しさを知ってしまったからこそ、実感の有無以上にそれが事実だということが嫌というほど分かってしまう。

 

「……なんで、僕の大切な人はいなくなるんだろう」

 

父が出て行った時も、母を失った時も、そして最愛の人を失った今も感じた途方もない喪失感。

なんだか自分一人だけこの世界に取り残されたような気がして、ひどく寂しさが込み上げてくる。

僕の大切な人が何か許されないような悪事を働いたのだろうか?

僕を捨てた父は生きていて、愛してくれた母と彼女は死んだ。

 

 

 

 

なぜ?なぜだ?なぜ僕から奪う?なんで僕ばかりこんな目に遭う?なぜだ?どうして?なんで?どんな理由があって…?

 

 

 

━━━━━━━━━そうか。

 

 

 

殺した奴がいるから、奪う奴がいるから、人の命を弄ぶことをよしとする悪がいるから……僕はこんなにも苦しい思いをしているのか。

 

だったらやるべきことは一つしかないじゃないか。

分かりきった、単純で、明快な一つの答え……僕から何かを奪おうとするやつを僕は許さない。

例えどれだけ自らの手を血で汚すことになろうとも、妥協してはいけない。

その甘さがまたいつか、僕の大切なものを奪うかもしれないのだから。

 

僕は自分を人にひけらかすほどではないけれど、真面目で優しい人間だと思っていたし、そうあろうと努力してきたつもりだ。

だって、昔お母さんが僕に言ったんだ。

困っている人がいたら助けなさい、親切にしなさい…それが巡り巡っていつかあなたが困っている時にあなたの助けになるから…と。

よく聞く美辞麗句だ。

でも、そう言っていた母は父に捨てられ、最後には惨たらしく呪霊に殺された。誰も助けてくれなかった。

 

奈沙さんもとても優しくて暖かくて、こんな僕のことを疑うこともせずに受け入れてくれた。ありのままの僕を好きになってくれた。常に家の人たちや守るべき市民のことを思っている人だった。それでも殺された。彼女も誰も助けてくれなかった。

 

人に優しくしていれば自分も優しくしてもらえるだなんて、そんなものは結局、耳触りのいいまやかしだったんだ。

なんで今までそんな簡単なことに気づかなかったのだろうか?

 

自分も優しくしてもらえると見返りを求めた時点で、それは真の優しさとは言えない。

そして、見返りを求めない優しさもまた、結局はそこら中に蔓延る悪にいいように利用されるのだろう。

 

全ての人を信用しないわけじゃない。

いい人がたくさんいることも僕は知っている。

先生や学長、硝子さんだってそうだし、秋斗くんも涼くんもいい人で大切な仲間だ。

 

だけど、それ以外は信用してはいけない。

もうここから先の僕の一生において、新しい大切なものを求めることはしない。

欲張ってはいけないんだ。

だって人の手の届く範囲は限られているから。

取りこぼせば、また僕はこの地獄の苦しみを味わうことになる。

それだけは許せない、嫌だ。

今持っている宝物だけを守ることを考える。

自分の手の届く範囲だけならきっと守れるはずだから。

 

 

 

そして、そのためにはもっと『強さ』が必要だ。

 

 




しーちゃん闇落ちの予兆
今後二人の友達力が試される…かも。
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