縛りでショタった呪術師の青春?   作:アンハピ

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シリアス続きだったので日常パート。
ただ安心してはいけない。
だって呪術界の話なのだから。
みんなも声を合わせて言ってみよう!

「呪術界はクソ‼︎」




分陰

 

2012年7月30日

 

一年全員がそれぞれの任務に向かっていたために、休日とも呼べない土日が明けた。

呪術高専も表向きは宗教系の学校であるため、今は夏休みということになるが、その夏休みすら表向きである。

長期休暇中も授業はないが任務はあるのだ。

結果的に在校生は、各々任務に出向く以外の時間を自主練等に充てているため、高専の風景は普段とそれほど変わりがなかったりする。

 

自主練のために校庭へ向かおうと身支度を整えていた僕だったが、バン!と勢いよく自室のドアを開ける音が聞こえたかと思えば、そのまま断りもなく走り込んできた人影にタックルを喰らった。

 

「しーーーーちゃーーーーーんっっっ!!!!」

 

「うぐっ」

 

「おはよう!!久しぶり!元気!?」

 

久しぶりも何も先に任務に出ていた二人とは金土日を挟んだだけだというのに、曇りなき眼で僕を見つめ、全身で会えて嬉しいを表現している。尻尾が生えていたら残像が見えるくらいの速度で振ってそうだ。

 

「お、おはよう秋斗くん。金曜日ぶりだから久しぶりってほどでもなくない?」

 

「えぇー、そんなことないよ!俺は浪川のやつと二人で任務に行かされてそれはもう心細かったんだぞ!あいつ俺に当たり強いし!2年の先輩は優しかったけど顔が殺人鬼だった!」

 

「あはは、そんなこと言ったら先輩に失礼だよ。あと着替えてるかもしれないからノックくらいはしようね」

 

大型犬をよしよしと宥めすかしながら制服のボタンを止めていく。授業ではないので他の動きやすい服でもいいのだが、任務に就く関係上、高専の制服はかなり頑丈かつストレッチの効いた仕上がりなので、みんな自主練も制服を着ていることが多いのだ。

 

「桜庭、俺がお前に厳しいのは単にお前が空気の読めないバカだからだ。誰にでもそうなわけじゃない」

 

主人と飼い犬の如きスキンシップをしていると、部屋の入り口の方からため息混じりの呆れた声で指摘しながら涼くんが入ってきた。

 

「涼くん、おはよ。任務大変だったみたいだね」

 

「あぁ、相手の呪霊自体は数が多いばかりで、2年がいたこともあってそれほどでもなかったさ。それより…そこのバカが集合時間を間違えたり、呪銃の乱射で周囲に余計な被害を出したりと、そっちのフォローが大変だった」

 

涼くんが疲れ切った遠い目で三日間を振り返っている。

もう飼い犬というよりデカいだけの駄犬に見えてきたんだが僕は悪くない。

 

「浪川!お前人のことをバカバカ言い過ぎだぞ!本当にバカになったらどうしてくれんだ!」

 

「もう手遅れだろうが」

 

「んだとコラァッ!!」

 

これはこのまま絡ませると部屋の中を荒らされそうだ。

 

「はいはい二人ともそこまでー。二人も今から自主練行くんでしょ?僕も行くし、もう準備終わるから少し外で待っててよ」

 

そう言って二人を玄関へと促す。

しかし、その途中でふと浪川くんが足を止めた。

 

「薬袋、目が腫れているみたいだが何かあったのか?」

 

目ざとく僕の違和感に気づいたらしい浪川くんが、少し心配そうな面持ちで尋ねてくる。しっかり冷やして寝たんだが、むくみが取れ切ってなかったらしい。

 

正直なところを言えば先日の件が原因なのだが、僕個人のことであまり二人に心配をかけるわけにもいかない。

全員が常に命懸けなのだ。

仲間でも自分以外への心配事は少しでも少ない方がいいに決まっている。

 

「ん、これは…昨日帰ってくる途中で五条先生におすすめの映画教えてもらって…それ見て号泣しちゃったんだよ。半日もすれば治ると思うから、気にしないで」

 

その返答に涼くんは「そうか、ならいい」とだけ短く口にして、秋斗くんの後を追って外に出て行った。

 

「…ダメだな。もっとしっかりしなくちゃ」

 

決めたはずだ。強くならなければいけないと。誰も頼らなくていいくらい、誰にも心配をかけなくていいくらい、自分の手の届く範囲でいいから、その全てを自分で守れるくらいに。

 

今なら涼くんの気持ちが痛いほどよく分かる。

彼はこんなにも重く苦しい感情を持ってこの高専に来たのだから。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

いざ外に出てみれば事前の天気予報で知ってはいたが、今日は憎たらしいほどの快晴だ。外気温35度…あの太陽は僕たちを本気で殺しに来ているのではないだろうか?

温暖化だなんだと毎年メディアが騒いでいるが、言われてみれば僕たちが小学生の頃でももう少し涼しかった気がする。

 

夏の風物詩にして嫌われ者の蝉だが、彼らは25〜33度でよく鳴くと言われている。それを上回っている今となっては鳴き声が聞こえない。というか、あちこちの植え込みの下に死骸が見える。長年を地中で過ごし、ようやく広い世界に出てきたと言うのに、切なさを覚えるあまりに儚い一生。

環境問題の深刻さを痛感するばかりだ。

 

この学生服は夏服で通気性にも優れているとは言え、激しい戦闘での負傷を少しでも減らすために、基本年中ほとんどの生徒が長袖長ズボンだ。

流石にこの格好で長時間外で運動していれば命に関わるので、自主練時にはジャージを着ている生徒もいるが、あいにく僕は持っていなかった。道中自販機で飲み物を買っていかなければいけない。

 

そしてなぜ僕の制服は、上はともかく下が半ズボンなんだ。

勝手にオーダーを変更した担任のせいなのは間違いないのだが、今思えば注文受けた側も負傷の危険を考慮して断らなかったのかと思う。まぁ、これまでそれほど格闘戦をする戦い方をしてこなかったから特別問題にはならなかったのだが。

 

しかし、今日からは違う。

先生とも話したように筋力はつけられなくとも、格闘の技術を磨くことはできるのだ。素早く反撃に移れる受け身の取り方、体重や筋力が足りない分、相手の勢いを利用する技など接近戦に強くなるための手段はいくらでも転がっている。

だから…。

 

「涼くん、ちょっとお願いがあるんだけど…」

 

「どうした?」

 

「僕と格闘訓練してくれないかな?」

 

それを聞いて涼くんと秋斗くんが驚いた様子でこちらを振り返る。秋斗くんに至っては買ったばかりのコーラのペットボトルを落とした。開けた時に大惨事なりそうだが大丈夫だろうか?

 

「本気か?大体、お前は接近戦が苦手だろう。手足のリーチも素のフィジカルも違う。怪我をするぞ?」

 

「そうだよ!こんな筋力ゴリラと格闘訓練なんかしたらしーちゃん死んじゃうよ!術式で死なないかもだけど!」

 

「誰が筋力ゴリラだ、デカいだけの駄犬が」

 

また二人でやいのやいのと揉め始めた。

本当に仲がいいなこの二人。

あと秋斗くんが駄犬なのは共通認識だった。

 

「怪我を躊躇してたって…それじゃいつまでも強くなれない。だからお願い。僕も強くなりたいんだ」

 

そう言って深く頭を下げて頼み込む。

そんな僕の様子を見て、流石に二人とも違和感を感じたらしい。

 

「…任務で何かあったのか?」

 

涼くんの言葉に図星をつかれた僕は、うっかり肩をビクつかせてしまった。昔から隠し事とか嘘は下手なのが、こんなところで仇になるだなんて。

それでも、全てを話すつもりはない。

 

「…違うよ。ただ僕も二人みたいに戦いたいって思ってるだけ。体のことを言い訳にして後衛に徹するのは嫌なんだ。旅館の特級の時なんかは無茶して突撃したけど、今後はあれより強い呪霊と戦う時があるかもしれないし、そもそも一対一で戦うことになるかもしれない。そうなった時に格闘戦はできませんなんて泣き言、言ってられないでしょ?」

 

全てではないがこれも本当のことだ。

少しだけ良心が痛むが、あの苦しみと痛みは僕だけのものだから、二人にまで背負わせる必要はない。

 

「五条先生に許可は取ってるんだろうな?」

 

どこか解せないと言った様子だが、一先ずそれは飲み込んでくれたらしい。

一応これまでは格闘的な訓練は後回しにして、ひたすら呪力操作の訓練に努めてきたわけだが、先日の話から格闘も解禁されている。そこは問題ないはずだ。というか、禁止されてても多分勝手に頼んでいた。つくづく自分の不良具合が進行している気がして泣けてくる。

 

「大丈夫、任務帰りに先生が、今後はより呪力操作の上達と接近戦に強く出れるようにするって言ってたから」

 

「…分かった。但し手加減はしない。俺の訓練にならないからな」

 

「ありがとう、よろしくお願いします」

 

一先ず生徒の中でも屈指の格闘センスを持つ涼くんとの特訓を取り付けられたのは大きい。先生がいる時は、また先生と訓練を行う形になるだろうが、知っての通りあの人は多忙だ。

今は少しでも時間を無駄にせず、少しでも早く強くならなければいけない。

 

「しーちゃんがそうしたいなら応援するけどさ、もし浪川にボコられたら、いつでも仕返ししてやるから俺のことも頼ってね!」

 

それだと僕が涼くんに虐められてるみたいなんだけど…。

 

「お前が来たところで十中八九返り討ちだろうが」

 

「しーちゃんのためなら俺は強くなれる!可愛いは正義!ラブイズパワー!!」

 

最近ちょっと…いやかなり本気で心配しているのだが、秋斗くんの頭の病気がだいぶ進行している気がする。あと恥ずかしいからアホなことを他の学年の生徒が聞いているかもしれない校庭で叫ばないでほしい。

 

「いやぁ〜、珍しく任務のない夏休みだって言うのに、精が出るねぇ生徒諸君」

 

そこに突然やってきたのは五条先生だった。

てっきり昨日のことで上に呼び出しを受けていると思ったのだが、なぜこんなところにいるのだろう?

 

「先生、偉い人たちに呼ばれたんじゃないんですか?」

 

どストレートに聞いてやれば「あー、あれね」とヘラヘラしている。まさか…。

 

「めんどくさいから適当に理由つけて逃げてきた!」

 

「えぇ…それ、後でもっと酷いことになりません?」

 

「大丈夫大丈夫〜!なんたって僕最強だし頼りにされてるからね。上もしつこくして僕の機嫌損ねるのは嫌がるでしょ」

 

自分の立ち位置というものをよく理解して立ち回っているようで何よりだ。お偉いさんたちはさぞストレスが溜まることだろう。

 

「…それより、紫鶴はもういいの?」

 

途端に真面目なトーンで問いかけてくる。

なんの話かは言うまでもないだろう。

一晩しか経っていないのに、こうしてここにいる僕を見て、何があったか知っている先生が無理をしていると思うのも仕方ないことだ。

 

「どうするべきかは自分なりに分かったので…大丈夫です」

 

「そっか……。あぁ、それから紫鶴、反省文は来週の月曜まで待つって学長から伝言」

 

「あ!ちょっとそれはっ」

 

「…反省文?」

 

一番それを聞かれたくない人がいるところで言うなんて先生のバカ!

直前のやりとりを不審そうに聞いていたが、当然それはそれとして聞き流してくれるはずもなく、静かな怒気を纏って躙り寄る涼くん。圧が…圧が強い…。

 

「あ、まずった?ごめんごめん、それじゃ僕はこの後お仕事があるから、大怪我しない程度に頑張ってね〜」

 

そう言って無下限呪術まで使って姿を消した先生。

あの野郎、僕を死地に追いやって逃げやがった!

信用してはいけないリストに五条先生も入れた方がいいのかもしれない。

 

「薬袋、安心しろ。ちゃんと訓練しながら何があったか聞いてやる」

 

一体何を安心しろと言うのか、確かに怪我は覚悟でお願いしたが、大怪我になるんじゃないだろうか。

 

「あの、お手柔らかにお願いします…」

 

「手加減はしないと言ったはずだ。それから、任務のことも聞かせろ」

 

ぐ、やはりそっちも聞くのか…当たり障りのない返答を考えておかねば。

 

「ていうか、二人が格闘訓練するなら俺暇なんだけど!」

 

「知るか、筋トレでもしてろ」

 

「しーちゃん!浪川のあとは交代して俺とやろ!」

 

「…体力残ってたらね?多分死ぬかもしれないし」

 

構ってオーラ全開で駄々を捏ねる秋斗くんを冷たくあしらいながら、早速構えに入る涼くん。

そんな彼の向かいに立ちながら、涼くんの発する圧…いやもうこれは殺気と呼んで違いない…を全身に感じて冷や汗が流れてくる。まぁほぼ100%秋斗くんの相手をする体力は残ってなさそうだ。

 

それでも、強くなると決めた。

 

そのためなら僕は…!

 

「お願いします!」

 

 

 

 

 

 

1秒後、僕の体は宙を舞っていた。

 




顔面殺人鬼の先輩はそのうち出るかもしれない。
呪術高専の夏休みの仕様がわかんなかったのででっち上げた。
詳しい人いたらおせーて。
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