ある男の冒険譚   作:愚痴氏

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アイハは怖いよ

「冒険者とかち合った?つまりは冒険者組合とウチ、どっちにも下水道のゴブリンを倒してほしいと言ってたわけだな」

俺の村では狐狩りやら魔物狩りでも“手が空いてたら手伝う”スタンスなので特に異常があるようにも感じなかったが、ここは村ではなく、下水道が整備されているような州都、人口は数十倍ではきかない。そうなあなあで事がまわっているわけではなかった。

「本来一人で向かって、30匹程度ぶっ殺せば良かったようですよ」

俺の困惑を読んでアイハが先回りしてくる。いやちょっと待て。二倍にしても六十匹って事で百オーバーにはちょっと足りない。これが俗に言う骨折り損のくたびれ儲けという奴では?折ったの剣だけど。

 

でも、なぜ傭兵と冒険者がそこでバッティングする?

 

「まあこれはウチの傭兵に限った話だがな、単純に戦争や紛争がないだろ?傭兵の食い扶持が減るわけだよ」

彼はそれ以上は話さず、アイハに目線を遣る。まるで俺よりもアイハの方が賢いみたいだ。いやまあ間違ってはないけど。

「ゴブリンなどの魔物退治は他の地域では冒険者に全部任せているが、傭兵の食い扶持の少ない地域なら練兵と食い扶持稼ぎを兼ねて傭兵も魔物退治を行う、と。そういうことですか」

「そういうこと」

 

「それで、なぜ冒険者に頼んだものを、魔物狩りに関して専門外の俺達に頼むなんてそんな非効率なことを?」

かと言って俺だけで挑んでいたら命の保証はないのだが。

「お前もそー思うか、俺もそー思う」

は?

「そんなもん、二つの組織にお願いすることで早くに解決してもらうために決まってるだろ。よっぽど困ってたんだろうさ。ゴブリンを退治する()()のことに大金を出すのは惜しいし、暗闇で戦闘というのもぞっとしない。なら他の組織にも頼むことで競争原理を発生させることを狙ったってことだ」

なるほど、それならある程度の筋は通る…のか?

 

「問題はお前と冒険者のソイツのどっちが金を貰えるか、ってところかな。リシアから聞いたことないのか?」

俺は黙ってアイハを見遣る。知らんしそんなこと。

「私も聞いたことがありません」

ところがアイハも首を振った。

 

「そうか。まあこれはウチの傭兵に限る話だからな。そんで、緊急で退治してもらいたいってなった場合、さらにそれを受けてくれる可能性が高いとは言えない場合。少しでも払う額を上げるだろ?それを二つの組織に出しているわけだ。それこそ二人が鉢合わせする可能性なんて考えていないわけだ。つまり、向こうは一人分の金しか用意していないのに二人も来てしまってどうしよう、ってところかな」

「金を折半すればいいのでは?」とはアイハ。

 

「それが一番綺麗な方法だがな、これは組織間の対立の話が絡んできて長くなる。取り敢えず、『冒険者』のカンバンを背負う向こうが金を10割持っていく公算が高いことは理解しておいた方がいい」

 

「じゃあ、俺の剣は折り損……ってことか」

「もちろん組織として金を払ってもらえるよう努力はする。しかし向こうの身ぐるみ剥がすわけにもいかないからね。傭兵が魔物退治という冒険者の領分を侵しているというのが本当のところだ。俺のポケットから幾らかは渡してやれるが大した額を渡せないことはすまないとは思っている」

「本当にそウグッ!!」

余計なことを言おうとする背後のアイハのみぞおちに肘を入れて黙らせる。このあたりアイハが人型でよかったと思う。人型でなければ人語を直接話してメンタルを直接ぽきぽき折ることもないのだが。人語を話せたらロジハラするので変わらない?それはそう。

「……」

「こういった問題は少なくないんだ。俺のポケットも無限じゃない」

それは組織の地力の低さでもあるが、と笑った。俺としては笑い事ではないのだが。が。

 

◇ ◇ ◇

 

「傭兵を辞めますか?」

それは、俺の揺れる内心を察してのことだろう。

幸い傭兵として申請を出してから一日も経ってはいない。

冒険者に転身するか、傭兵のままでいるか。

 

俺はこの経験をもとに進退を迫られていた。

 

「……冒険者になれば、()()()報酬を得て魔物退治を行うことができます。傭兵は、戦争屋と揶揄されるように魔物との戦闘においては冒険者に一歩劣ることになります。逆に、傭兵になれば戦争に手を貸す代わりにその国への入国は冒険者と比べて容易であることは間違いないです」

冒険者も傭兵も、武力ということに変わりはないのだと彼女は語った。

それは俺のように傭兵と冒険者の間で悩む若者も少なからずいることを示していた。いやでも傭兵団の建物がせいぜい一軒家だし財力の差は歴然としている()がある。

 

「私は、どちらを選んだとしてもついていくだけです。もちろん私が良いように情報を操作しますが」

ククク、と似合わぬ笑い声を彼女は上げた。

「操作……するのか?」

できるのか、とは言わない。

「当たり前じゃないですか。私は貴方と心中する筋合いはありませんもの。したいのなら貴方が選んだ女性とでも勝手に死んでください」

溢れる罵詈。しかし眉尻が下がっているのがそれが冗談という証左だ。

でも、俺が死んだら彼女も死ぬことになるのだが、心中と一緒ではないだろうか?

 

下手に突ついて話しをややこしくするつもりもなく、俺は早速居住まいを多少正しアイハに向き直る。

すると察したらしいアイハは口を固く結び直した。

 

「端的に言って、俺とお前では多数との戦闘には到底ついていけない」

だってそうだろう。

俺で一人、もしくは一匹。アイハでもう一人、もしくは一匹。都合2つしか押さえられない計算になる。

それは、先のゴブリンとの戦闘において大きな欠点となる。レナウンの精霊術が遠距離から狙い撃ちしていたのを見ると特に強く感じた。

アイハは首肯の意を示して続きを促す。

 

「魔物との戦闘でも、傭兵との戦闘でも、対多数も一対一(タイマン)も両方起こるし、偶発的に対多数へ変わるのは避けられない。俺達は仕事を選ばなきゃいけない」

「それで?」

「手数が必要でない方ってどっちなんだろうな?」

アイハが少しずっこけた。貴重な光景だ。

 

「ーーーそこまで来て分かりませんか。手数が不要な方なんてありませんよ。間違いなく。問題はそれをカバーできる存在が近くにあるかどうか。冒険者なら相手を見つけてーーーパーティーって言うんでしたかねーーーその相手に手数を任せる。これは同時に傭兵であっても名前が変わるだけで変わりません。その相手に与えるメリットを言語化できる形で提供する。これに尽きます」

うん?いきなりむつかしい話し。

 

「どっちでも苦労することには変わりないですよ、とわざわざ言い換えなければ分かりませんか。私最初に言いましたよね、どちらでもついていくだけだって」

そりゃ言っていたよ、言ってたのは覚えてる。俺もめちゃくちゃ馬鹿でもない。

 

「でもそう言う意図とは思わねえじゃん」

もうちょっと言い方変えないとわかんねえよ。

 

「あとは好きなように選ぶので良いんですよ」

ニヤと笑いアイハは嗤った。

俺の懸念など存在すらも否定して。

 

◇ ◇ ◇

翌朝。

オッサンは言う。まるで良いことが起きたかのように言う。

「いつもならあれで傭兵の方が泣き寝入りせざるを得ないが、昨日のお詫びというか、その代わりというか。共同で魔物討伐を行う提案がなされた。両者から数名ずつ人員を出してそこそこの人数を討伐して貰う。傭兵サイドとしては、人員にそれほど余裕がない分お前一人だ」

「雇ったばかりの新人を大規模な作戦に一人で向かわせるって正気ですか?OJTってご存知?」

アイハはすっごく真っ当なことを言う。

「おーじぇいてぃー?ってのがなんなのか知らんが、そもそも今傭兵団の州都支部にいる傭兵ってお前だけだぞ。あとは現役引退した俺と、事務や書類、経理を任せてる奴だけだ」

「「え゛」」

 

それほど人員に余裕がないんじゃない。全くないんじゃない?もしかして、この傭兵団、めちゃくちゃ人員難なのでは??

「傭兵団の幹部連中は今頃戦場を探して彷徨ってるだろ。何せ戦争がなければ傭兵はただメシを糞へ変換するだけの奴だからな」

そこはこう、ただ飯食らいぐらいで抑えませんかね。

 

「ここで傭兵続けますか?」

アイハが念を押すように続ける。

「ちょっと考え直そうかな」

複数人前提の俺に一人パーティーはキツいっす。

 

◇ ◇ ◇

「よお、昨日ぶり」

「おう、ってちょっと待て。折れた剣のままか?!!」

俺の腰を指さす男はジェイソンくん。今はクズリもどき連れてないんだね。

「うん、金もねえし」

いや実はあるにはあるのだが、そうすると数日分のね、宿代がね、消え去るのよ。

「金がねえなら小間使いなりで稼げよ……」

言われみれば全くもってそのとおりである。

 

「斬れないなら殴り殺すまでよ」

そして取り出したるは近所で拾ったイイ感じの石!!

「子供の遊びじゃねえんだぞ……」

早速ツッコミに疲れた様子だが、まだ俺のバトルフェイズは終了してない。

満を持して取り出したのは折れた棍棒!!!!尚三十㎝程度のため断端をぶっ刺した刺突武器として使用する方がよさそう。

「もう勝手にして勝手に死んでくれ……」

悪いけど本気と書いてマジである。

 

「大丈夫、人類の祖先も物を投げて獲物を狩っていたらしいから」

「お知り合いで?」

「あのー」

「昨日相席した奴」

「なるほど、昨日はずいぶんと心労をおかけしたようで」

「いえいえ、ご丁寧に。ってそれよりこの人は誰だ?!!」

「ああ、俺の精霊だよ」

「あのー」

「おま、おま、お前精霊生きとったんかい???」

「言ってなかったっけ」

 

「身内ノリでずっとしゃべくり散らかすな!!特にお前!ジェイソン!」

ああうん、忘れてたわ。

「ああすまん」

「ん。で、そっちはどなた?」

つ、と糾弾の指がアイハに向けられる。

「ああ、アイハと言います。三秒後に忘れてもらっても構いません」

「忘れるかどうかはこっちが決めるんだよ」

それはそう。

「小粋なトークが……」

そしてアイハはどこに向かうつもりなんだ。

 

「自己紹介が遅れたね。僕はリード。精霊は草結の精霊術だ」

なんだその重量が増えるほど威力が増えそうな技は。

いやそれより。

(Lead)?」

「聞いたことない?冒険者ってコードネームで呼ばれるんだよ」

「何それかっこいい!!」

俺の中の少年ゴコロが疼き出す。男性が多く罹る、十四才くらいに患う病気は治まりはしたけど完治不可能で、予後不良だ。いや待てよ?村の女衆がよく姦しく騒いでいる「理想の結婚パターン」もその病気と考えれば男女関係ないのかもしれないね。

 

閑話休題(それはともかく)

 

「ジェイソンって偽名だったんかよ?!」

「そんな古い名前、実名で使うワケないだろ」

「そうなんか」

知らんかったわ。俺の知力は一上がった。

 

「こらこらこら、時間は有限なんだから関係のある話をしてくださいよ」

そうだった!

「草結って文字通り、草を結ぶってこと」

「そういうこと。触れれば転倒!浮いてるやつも地面にひれ伏すさ」

「なにそれすごい」

草むら限定だけどアイハの上位互換じゃないか?

 

そう思ってアイハの表情を窺うと、睨みつけて返してきた。こわ。

それはそうと。

「そんなこと傭兵の俺達なんかに話して大丈夫か?」

「連携が取れなくて死ぬよかましだろうさ」

ヒュウ、と口笛を吹こうとするが、失敗した。

 

そうして失敗した俺をアイハは生暖かい目で見守っていた。

やめろよと手振りで指示するが、危険のない環境では俺の指令に言うことを聞かず目尻を愉快そうに下げるだけ。クソ、後で覚えてろ。テメーだけは飯抜きだ。

 

ちょっと居た堪れないような目を向けるオブザーバーたちに対し、俺はゴホンと一つ咳払いをした。

「アイハの精霊術は加減速。速度の上限下限はそこまでだが大体効かない例を見たことがないから汎用性としては草結とどっこいだな」

「サポート役が二、攻撃力があるのは一か」

俺でもわかるよ、バランス悪いって言いたいんでしょ。

 

「俺自身も直接戦闘力ないわけではないし、オオカミの群れ倒したし」

「あんなのまぐれに近いですがね」

アイハ、おめーは茶々を入れんと話が聞けんのか。

「アイハ、ステイ」

「はい」

 

「仲がよさそうで何よりだね」

穏やかな感想だが、母さんからの薫陶を受けた俺には副音声として「五月蠅い」と聞こえた気がした。耳が痛い。

 

「で、うるさい奴を黙らせたところで。俺も単独で狼ぐらいには対処できる直接戦闘力はあるんだけど」

お前は?

アイハが珍しく大人しくしているのを意外に思いながら言外に聞いた。

 

「冒険者ってのは基本ソロでね、そのあたりは問題ないよ。戦力に不安があるけど、安全に狩る手段ならある。ゆっくり行こう」

魔物狩りには疎い俺達は頷いて返した。

 

◇ ◇ ◇

 

草が青々と生い茂る、(草結という名前から類推するなら)いくらでも罠を作れそうな平野部は、俺の地元では見かけなかったものだ。草同士を絡ませるような長さになる前にかなり減っちゃうからね、仕方ないね。同時にある疑問も浮かび上がった。

 

「草が刈られていない……?」

アイハが代弁する。

「こっち側は商人も来ないからな。魔物に襲われるとしたら、討伐に来た俺達か、干し草として消費するために訪れる住民ぐらいだよ」

「ところでさ」

俺はたまらず口をはさむ。

 

「きっと気のせいです気のせい。気にしてたらハゲますよ」

「いいや、言うね。暗い下水道でゴブリン相手にするのとどっちがマシ?新人傭兵に与える順番間違ってねえか?」

「んなもん傭兵なんて言うただ飯食らいになったのがいけないんだろ。冒険者ならそこらへん仕事斡旋してもらえるのに」

「他所の国に行って骨になって帰ってくるだけの傭兵になるのがいけないんでしょうに」

総スカンである。フルボッコだドン。もう一回遊べるドン。

「骨が残っただけマシというものでは?それが本当に本物の骨かはさておき…あっ」

こころない はつげん を してしまった!

 

俺は直前の発言を反省した。ものすんごーく反省した。

口ぶりからして彼かその親族の手元に遺骨が返ってきたのだろうことは十分に察せられたのに、ロジックハラスメントしてしまった。これではロジハラアイハに染まっているようではないか。ロジックハラスメントは人の心がある人間はやってはいけない。いいね?人をばかにすると深い恨みを抱かれるので、できるだけ人をばかにしないようにしたいものです。

 

 

「あー、言い過ぎた」

「あー、うん。こっちも二対一でリンチしているようなもんだったね。失礼。ほらジェイソンも」

「俺関係なくね?」

「関係ないけど、自分だけ謝ったらバカみたいでしょ」

「冗談は顔だけにしときな?」

それはそう。で。

「ひとの こころとか ないんか?wwwwww」

滅茶苦茶アイハの煽りが腹立つなあ。やっぱり飯抜きは二日増やしてやろうかな。

 

あっ!四葉のクローバー!レア物だ。

クローバーと言えばおじさんちでもなんか羊が大量死したなあ、なんてしょうもないことを考えながら、レア物を採ろうとした指先に別の感触が当たった。

 

ふにょん。ふにょん?

 

粘体生物(スライム)さん、こんにちは。

「ではしねぇい!」

俺はその核目掛け、折れた棍棒を刺す。

やっぱり撲殺天使してるだけで十分では?

「それ無害だよ」

え?

 

粘体生物(スライム)は金属とかもまとめて溶かして栄養にする代わりに動きがあまりに鈍いから脅威になりえないって」

「え、でも故郷では母さんがなんか嫌だっつって悪即斬してたんだけど」

なんでだろ。柔らかい球体二つくっついてるから同族嫌悪?そんなばかな。

「取り敢えず殺したところで報酬もへったくれもないから時間の無駄。ほら行くよ」

「私もアイツ嫌いです」

「なんで。いや聞くまい」

そっと視界を下に下ろせば地平線。

「なんか勝手に納得されてて不快なんですが。勝手にコンプレックス作らないで貰えます?」

こっわ。

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