ある男の冒険譚   作:愚痴氏

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想像したことある?
明らかに地球ではない世界で地球投げが使われていることを。


魔物討伐なんてもうやらない

州都ともなれば、買われている馬なども相応に多いはずなのに、その餌の供給源さらには燃料の一部を供給する草むらにしては……

「狼が出るには草の丈が低すぎるように思うけど」

「知らずに来たのか?豪胆だな」

「なんとでも言ってくれ。今朝知らされてそのままのこのこ雁首揃えてやってきただけなんだから」

一昨日来やがれではないが、ちょうど一昨日までは州都に存在すらしなかった男だぜ。

村で羊飼いしてたりするように、畜産物を州都まで卸しに来るのならその餌のために訪れることもあったろうが、傭兵によって稼いでいる俺達は、わざわざ草むらを漁ったりしないんだ。

「可哀そう、でもないか。狼もたまに出るが、今回狩るのはマンドレイクだ。昼は大人しいと言っても踏み付けたら声上げるからな、ここから注意しな」

おや?俺達結構草の中を歩いてきたはずだけど。大丈夫だったんか?

 

俺の何気ない一歩が全滅に追い込んだ。なんて、物語(ストーリー)でもなかなかない理不尽展開だ。

「お前、襲われないからと言って家の周りをずっと荒らされ、しかし下手に抵抗すると殺される。そう言う状況のとき、どうする?」

「どうって、ああ、そう言うことか」

「そういうことだ」

そういうことらしい。マンドラゴラって動けたのね。

 

で。

昨日まで。つまり俺がいない状態でも哀れな発狂植物達を狩ってきたのだろう彼らはクそれぞれズリもどきや子羊のような精霊を実体化させテキパキと準備を進める。耳栓を取り出し、それぞれの耳につける。

「俺達は?」

「大丈夫、もうすぐ働いてもらうから」

全然安心できないんですが。

 

「草結、いくよ?」

「いつでもどうぞ」

そんなやりとりが目線でなされたかは知らない。

 

草が結ばれると同時、突風が吹き抜ける。

「「「「キィエエエエエエエエェェェェェェアァァァァァァ!!!」」」」

シャァベッタァァァァァァァ!!??

 

まさしく発狂。当たり前のように狂った声量の狂った音程の狂った声は、二人だけだとそのまま死んでいたかもしれない。

 

「ね?」

耳栓が風で飛ばないようにか両耳を上から抑えながら実にイイ笑顔を見せてくれる。

「ね?じゃねええぇ!ああそうかわかったよ!こんな危険生物がいるんなら真っ暗闇でゴブリン狩るよりも大変だろうさ!」

「魔物ですよ」

「興味ねえ!」

同時に俺は驚嘆もする。所詮人間だけ相手すればいい傭兵と違ってトンデモ能力を備えた奴らを狩らなきゃいけない冒険者は実に大変だなあ、と実に他人事な感想を抱く。

だってそうだろ?

 

草結により遠目からマンドラゴラの声を誘発すると同時に風で空気ごとの声を吹き飛ばして大きく発狂を減衰させるなんて、俺とアイハには到底できない。

翻ってアイハはどうだ。加減速。それ自体はとても強力で、俺が接近戦を演じるうえではこれ以上なくアドバンテージとなりうるが、こんな特殊能力持ちを完封するような奴らを見てしまえば……少々嫉妬にも近い諦念を感じても仕方ないだろ。

 

そうして三十秒ほどが経過しただろうか。

尻すぼみに消えていく断末魔のごとき鳴き声から直接比喩の表現を抜き去るべく俺達は動き出すことになった。

 

マンドラゴラは犬に引き抜かせろ、なんてことわざもあったよなと今更ながら思い出す。

草結されているヤツが悲鳴を出し尽くした個体であり、即ち俺が引き抜いても大丈夫な相手である。

「再度悲鳴を発するまでどれくらいかかる?」

落ち穂拾いのように無造作に引き抜くとまだ気力は戻りきらないのか、みぎゃ、と犬に顔面を踏みつけられたような反応を示した。

あらかわいい、なんて呑気なことを思う。

 

「?」

まだ耳栓取ってなかったんかい。

耳栓を取るよう手振りで示して取らせると、もう一度同じ質問を繰り返す。

「大体十分くらいかな」

割と時間タイトじゃない?

そりゃ猫の手も借りたくなるわけである。

 

「そうそう」

は?

「このやり方に慣れたのか、おこぼれを狙って魔物たちが襲ってくるようになってしまってね?」

なるほど、俺達の出番かな?

そう思っていたが、続けられるセリフは少々予想外なものであった。

「一網打尽にするから、耳をふさいでいて」

あ、そういうことね。すべてを察した俺とアイハは身をかがめ耳を指でふさぐ。

 

直後、遠くの方で発せられる大音声。

「「「キィエエエエエエエエェェェェェェアァァァァァァ!!!」」」

おそらくアイハと俺の心情は一致していたことだろう。

 

うるっせえぇぇ!!

 

◇ ◇ ◇

 

「あー、酷い目にあった」

解放されたのは夜にもなり門が閉じられようとした時だった。

人間が十分で引き抜けるマンドラゴラの数と、再度発狂可能なマンドラゴラが釣り合っていない。それに加えゴブリンやらよくわからん魔物やら狼やらが集まって、まるで魔女の大鍋の中のごとき地獄の様相を呈していたいやちょっと待て狼ってマンドラゴラを薬として使えるのか?

 

いや俺よく頑張ったよ。対集団にはめっぽう向かない中で体力以外損耗なしで生き残れたんだから。

正直何をしていたのかよく思い出せない。

「マンドラゴラって一本おいくらだっけ?」

「頭を使わせないでくださいよアウトドア派。多分私たちの持ち分の金で何とかくらいじゃないですか?」

数日分の旅費。そう考えると安いのか高いのか。俺には判別がつかない。

「マンドラゴラって確か毒物だよな?」

「調合室借りれたら借りましょうね。明日以降で」

毒物でも何でも、鮮度というものがある。マンドラゴラの毒がどれくらいで効力を失うのか知らないが、いつになく覇気の失われたアイハの声音にそれ以上アイハに脳を使わせるのをやめた。

 

「とうとう毒もちかあ」

古今東西毒はよく使われている。薬だって毒だしな。人を殺すのに毒を使わずとも水に十五分ほど沈めれば十分とは言え、手段が増えることは俺達にとって至上命題と言えた。

精霊による毒消しを除けば、「なんにでも効く毒消し」なんてものは存在しない。蛇の毒だって壊血毒や神経毒など多彩だ。母さんほどではないにしても、俺が戦う接近戦の相手が自己回復持ちではかなり不利になるため、回復では治癒できない毒での毒殺が必要だ。

 

当然マンドラゴラの毒などもどこかでは解毒方法が見つかってしまうかもしれないため、一種の毒では到底足りない。

「気に入らない相手に一服盛って仲良く縛り首とか嫌ですからね。絶対使うときは一族郎党まとめて皆殺しですよ」

「やらねえよ」

疲れているときに変なツッコミをさせるな。

「変な女に言い寄られて渡してもダメですからね。それも愛だと言い切るのなら止めはしませんが」

「まず俺に言い寄る女とやらを空想から現実に出してきてから言ってくださーい」

村だと同年代一人もいなかったし、州都では俺はただの田舎者だ。どこに惚れる要素があろうか。いやない(血涙)。そのことは数日で思い知らされている途中である。

 

そんなこんなで阿保みたいでそれでいて危険人物とみなされかねない会話を交わしているうちに傭兵団だ。

「おつかれさん。それよりも、喜べ。ようやく人殺しだぞ」

言い方ァ!

「それよりも金は?」

アイハ、お前のは歯に衣着せぬ通り越して牙剥き出しなんよ。

「明日に冒険者組合に顔を出すからそれ以降かな」

「良かった。金子はそろそろ尽きてきた頃だったんですよ」

「人殺しは傭兵やっていく上で登竜門だからなァ。ちょうど良いのが出てきて助かった。罪人を盗賊として殺させるとこだったわ」

蛮族かな???

 

「疲れてるときにボケを増やさないで……?後俺ら、盗賊ぐらいは殺したことありますし」

「そうか。詳細は同意を取るときに伝えるから、また明日。おやすみ」

うーんこの一方通行。

 

◇ ◇ ◇

帰り道、いつものように安い黒パンを口内の唾液で溶かしながら歩く俺に対しアイハの舌鋒は鋭い。いやちょっと待て俺なんも悪いことしてなくないか?

「時代は副業だと思うんですよ。本業では餓死しない程度の金を六割程度の出力で稼ぎ続けて、副業で一発当てましょ。本業の傭兵も、母様のように回復能力がなければ綱渡りですから」

「ハハッ」

「どこぞの黒鼠を連想させる笑い方やめません?人をイラつかせるだけですし」

アイハは人じゃないんだよなあ。人ならロジハラかまさないはずだし。はい論破。

「加減速なんて言う使いどころが限られる能力殺戮にしか使えねえだろ。どれだけ頑張っても火の勢いは火を扱える精霊に任せるのが適当だし、水や風も然り。どこまでも中途半端な器用貧乏は汎用性を求められる場所でしか輝けないんだ」

一つとして同じものがないとさえ言われるほど多様な精霊術を備える中で、どうしたって闘争を目的とする以外に使いどころのないものは存在する。身体が闘争を求める、的な。違うな。

 

母さんの回復能力なんて最たるものだ。自己再生にも近いその能力は、汎用性がとんでもなく高く同時にあらゆる危険な行動も彼女にはノーダメージ。首を切っても生えてくるんじゃないだろうか?知らんけど。

 

その能力を生かす場面と言えば常に命の危険すらある危険な状況以外にないわけで、それゆえにリシアは傭兵として身を立て活躍出来ている。

「人間の能力差ってそれほど大きくないですもんね」

暗に「おまえが弱いんだろうがスカタン」と言われて俺のハートは少し傷つく。元から傷だらけ?言うな言うな。

 

「人間は道具を使う生き物なので本人の能力差はそこまで影響しないのでは?」

「文字が上手い人はペンがなんであっても上手く書けると言いますね」

「二十年も生きてない若造に何を求めているんだ」

その程度で届く高みなんてそう大した高さではないだろう。

 

ロジハラにはロジハラを。

それで反論して負かしてもそれは一人相撲めいていた。

もちろんそんなこと口に出したら「このロジハラはロジハラではない。ただの説得だ」と言われるだろうけども、相手に現状変更の意思を抱かせない論破は、相手に「自分はこう変えよう」と思わせない限りはただの「ただしさ」の押し付け、自慰行為以外の何者でもないだろう。

 

疲れたのかいつにも増して鋭くなったアイハの舌鋒を躱して俺はタンパク質を探す。肉、肉が食いたいのだ、俺は。なんなら肉ですらなく骨髄や臓物ですら構わないのだが、近くに牧場などがある様子もない州都では肉よりも保存のきかない食品が高価くなることもあるだろうから贅沢は言わない。

そもそも骨髄も専用の道具がなければ食いずらいし、剣で唐竹割にするのも…なんか違うじゃん。主に衛生面。昨日下水道に入った剣だぜ?

 

狼の肉でも少し干しておくべきだったかといらぬ皮算用をしているよそで、昨日と違う道のりにまだやっている店を見つけた。乾酪(チーズ)と言えばよく知られる、乳を加工した保存食である。

 

 

「へー、こんなチーズもあるんか」

店主が一かけらを切り分けようとすると、ギコギコとおおよそもとは液体だったものから出ていいと思えない音が聞こえる。

ホントに乳製品か?干からびてんじゃねえの。

 

「よく分かんないですね」

俺と同じくらいにはバカ舌を持つアイハの感想は、だいたい信用できる。つまり、何もわからないと言うことだ。

少し食物を腹に入れて機嫌がわずかに上向いた幼児のような精神性のアイハの催促をよそに、俺もと残りの欠片を口に入れる。あ、コレ乳製品だ。

バカ舌なのでそれ以上のことは分からない。バカ舌がよ。

「おいくら?」

そして店主から告げられた金額に絶句する。

一食分でなんで数週間分の食費をトバさなけりゃならんのだバカかよ。

 

三大欲求の一つが理性を凌駕しつつあるアイハをつとめて無視して俺は店主に買えない旨を伝えた。

「えぇ~?今買わないでおいたら明日にはもういないかもしれないんですよ?」

悪魔のごとき提案も今は力ない。金がなければすべて始まらないのだ。

「金がねえ」

そう店主の前でアイハに伝えると店主の態度は豹変、まるで餓えた子供を追い払うかのようにしっしっと手で払われた。結局金が目当てだったのね!!

 

当然といえば当然、しかしあんまりにもあんまりで、俺は思わず隣のアイハに同情した。

「お前、黒パン食べる?」

「食べる―」

調子のいい奴。

 

◇ ◇ ◇

翌日。

 

「ひどいよ……こんなのってあんまりだよ」

俺はえぐえぐ人目を憚らず滂沱の涙を流す。

隣のアイハの目など気にもかけない。

鼻水も垂れているけど気にしない。

「うわ……きちゃな」

 

……気にしない。

 

 

「それで?泣いて自己憐憫に浸ってないで早く終わらせてくださいよ」

アイハのあまりにも心無い声。こいつはひでえや。

 

「飯抜きとかあんまりじゃないかな……」

「でもそうでもしないと覚えないでしょ?」

俺の味方はいないのか。ぐうの音も出ない正論しか言わないから困る。もう少し…こう…なんというか…手心というか…

あるわけないんだよなあ。

 

「俺だって覚えたくなくて覚えられないんじゃない。これでもやるだけはやってるんだけど」

努力は評価してくれよ努力を。

 

「知識面はアイハがやっていたんだろう?着実に進めばいいさ」

おっさん……!!

どうしよう、今このおっさんが救いの神に見える。

 

「それよりも、だ。どこまで進んだ?」

「二十五文字目です……ハイ」

「駄目駄目じゃないか」

「ハイ」

上げて落とすのやめてくれませんかね。今は悪魔に見えるよ。

ほれ見ろと言わんばかりのアイハのドヤ顔。他人にはわからないが、俺にははっきりわかる程度のドヤ顔が腹たつ。

 

「えぐ…えぐ…」

涙で歪んだ景色の中、俺は貴重な羊皮紙を消費して文字を書き連ねる。

「あーあーあー、文字が歪んでる。それだと違う文字に見えちゃいますよ」

アイハは茶々を入れてきた。

ちがいがわかんねえんだよ!えぐえぐ。

 

俺は、生まれてこの方十数年取り組んでこなかった文字というものに、初めて取り組まされていた。

 

「ふむん。こればっかりは数をこなすしかないからなあ。よし、サポート特化型の精霊のアイハには基本戦術についてコーチングしようかな。気が散らないように別室に行こうか」

 

 

◇ ◇ ◇

「アイハ。()()の中で指示を出しているのは、君だな?」

「……そうしてそう思ったんです?」

「単純に、いる時といない時で反応の速さが段違いだから」

ーーーしまったと思った。それは、私が彼の危険を取り除くために自然と行っていた行動だからだ。

 

「いやね?手助けしてやるなとは言わない。僕だって精霊術が降りかかってくる時とかは助けてもらってるから。でもね、いつも助けてもらっているせいで彼の戦闘技術が場当たり的になってしまっていることは気づいているだろう?」

ーーー全然知らない。私は、戦闘技術など必要としなかったから。

でも、それは納得のいく話だった。通常人型“以外”を象る精霊が、人語を解することはあれど人語を話すことはできない。よって、私の『手助け』が他の精霊のそれと違い、長期的に見れば彼の成長の阻害因子になってしまっている……という説明は、ストンと腑に落ちた。いや私の胸が真っ平らとかそういう話ではなくて。

 

「君の“眼”は、彼から一歩離れている分視野が広く取れているから有用だろう。しかし、それは同時に最もその恩恵を受ける人間の能力を落とすことにもなりかねないことに注意して欲しい。何せ、君がいなくとも彼は生きることが出来る。いつか彼より先に死ぬ未来が来るかもしれないんだから」

「……それは」

 

それは、同時に私のコンプレックスでもある。私の精霊術は時間を加減速する程度の能力。決して私の精霊術は他の精霊のように直接攻撃したり外敵から彼を、そして私を守ることができない。

全て他人の力を借りなければ満足に成し遂げられない。

「だってそうだろう。……精霊が精霊術で直接身を守れないのなら、邪魔にならないように傍に退くか、もしくは逆に肉壁となるぐらいにしか使えない。そうなれば、司令塔を失い困るのは彼だ」

 

「それでも」

「何か?僕を納得させられるのなら、言ってみて欲しい。僕も君をやりこめたい訳じゃない。僕が求めるのは反論。君のように人語を話す精霊を他に知らないんだ。他に例があるのなら話して欲しい」

 

「うぅ……」

「ああ、()()()()()()()()()、しないでね。ウチの傭兵団としての基本戦術を教えるのは口実だけど嘘じゃないんだ。その時間はあって困ることはない」

暗に時間を取らせるなという圧力を受けて、私の目頭に溜まり始めた涙がヒュンと引っ込んだ。

やりこめてるじゃないか。十分過ぎるほどに。

 

「そうそう、その調子」

「ぐぬぬ……」

妙に腹立たしい。

 

「で、必要なのはここからなんだけど。リシアが独身ってマジ?」

……途端空気が弛緩する。

さっきまで涙がこぼれ掛けていた私が阿呆みたいじゃないか。

 

「ええ、そうみたいですね」

男親はいない。男女のペアでないと有性生殖では子供が生まれないわけで、片親の行方が気にかかるところではあったが性格の悪いリシアはなかなか教えてくれない。

「そーかそーか、いや、ただの確認だ」

 

いやしかし、そうなれば、義理の子が一匹生まれることがわかっているのだろうか?アイハには判別がつかない。

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