持っていた斧と鉈を手放した。それらは重力に従って突き刺さる。優しい人達が使っていたそれは、私が使ったことにより刃を赤く染めた。その色は私のものか、はたまた身体中に刃が突き刺さり僅かに体を痙攣させるだけとなった生き物のものなのか、私にも分からない。
疲労感が凄まじく倒れそうになったが、そんなこと今はどうでも良かった。
来た道をゆっくりと戻る。出来るなら走って戻りたかったが、体は思う様に動かない。
血まみれの肉体を引きずって、歩く。目には黒しか映らない。
***
私が産まれたのは山の中にある小さな家。杣人として生計を立てる家庭に産まれた。生活は貧しく質素なものであったが、優しく手を引いてくれる父、優しく包み込んでくれる母と過ごす日々はとても幸せだった。
父は赤と橙が混ざったような、お日様の色。母は白と黄が混ざったような、お月様の色。
そんな日常に変化が起きたのは、5歳の時。双子の弟が産まれた。双子というだけあって、瓜二つ。小さな手に恐る恐る指を触れさせると、優しく握られた。ただそれだけなのに、涙が出るほど愛おしかった。
どちらも空の色のような、淡い青色。父と母が加わると、そこには天そのものが見えるようで、私はとても幸せな気持ちになった。
だから、何としても守りたいと思った。この幸せを。
***
家に戻る頃には、すっかり日が昇っていた。2人の気配は家の中にはなかった。
家に近付く気配が3つ。見なくても誰が来ているか分かる。というより既に知っている。
勢いよく家の扉が開かれた。そこに立っていたのは白樺の精かと思う程に美しい女性。色は真っ白。私とは似ても似つかない色。
「ーーさん?!ーー!?~~」
何かを言っているが、耳が塞がれたように何も聞き取れない。けど色で分かる。大して関わりのない私のことを心配してくれている。なんて優しい人格者なのだろうと、何処か他人事のように思った。
「あ゛まね、ざん…」普段とはまるで違う声に驚かせてしまったようだ。申し訳なく思いつつも言葉を重ねる。
「ゆう、いち゛ろ゛う、むい゛ちろ゛う、を、おねがい゛します…」
それだけを何とか言葉にして、私は家を飛び出した。後ろから声は、今の私には聞こえない。
体は疲れてるはずなのに、驚くほど軽いような気がする。
そのまま山の奥へと走り続けた。
私の名前は時透銀華。時透家長女にして、何も出来なかった女である。
私が幼い頃、空の雲を見て「ねずみ色の花みたい」と言ったことがあるそうです。オリ主の名前はそこから取っております。