全集中の呼吸。著しく増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、血管や筋肉を強化・熱化させて瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸術。
超越生物である人喰い鬼と渡り合える程に身体能力が強化され、そこから各“型”に沿った剣術を繰り出すことによって、岩塊よりも硬い鬼の頸をも斬り落とす事が可能となる。
しかしこれは初歩の初歩。この呼吸をどこまで型に生かせるのかが重要となる。呼吸が未熟であれば日輪刀の色は薄く、隊士として出世出来ない。
原作知識として知っているだけだったので、習得にかなり時間を要するかとも思っていたのだが、どうやら私はなかなかに才能があるらしい。血筋を踏まえると有り得るのではないかと思っていたが。
鍛え始めて半年足らずで呼吸を習得し、常中もまもなく完成というのだから、転生者としての特典を疑うレベルだ。
しかし仮に常中を身に付けたとして、それで鬼に殺されずに済むかと言われると怪しいところ。事実柱であったとしても上弦の鬼には1対1では敵わないし、最終決戦である無限城戦では柱のほとんどが死んだ。
つまり呼吸は強力であっても万能ではない。
そこで私が考えたのが、呼吸をより深化させること。原作で上弦の壱と相対した不死川実弥が行っていた、筋肉に意識を集中させることで臓器がまろびでることを防いだり、上弦の陸と戦闘を行った宇髄天元が行った、筋肉で心臓の動きを止めることで油断を誘ったり。これらの技術は常中の範囲を超えているように思える。
呼吸を極めることでそこまで自在に体を動かすことが出来るならば、常中よりもさらに先があるのではないかと考えた。
正直常中を使える時点で隊士内でも上澄みとなるのだから、もう充分であると思う自分もいる。
しかし、それでは足りない、そうじゃないと心の中で叫ぶ自分もいる。そこまで力を欲する性格だっただろうか。前世の記憶を振り返っても、そんな性格ではなく、むしろ臆病な方だったと思うのだが。
…まぁ、鬼殺隊に入るかどうかもまだ決めてないし、やっても損はないか。
そう考えながら、再び鍛練へと戻った。
***
それからさらに1年と半年。私はまだ山の中にいた。常中は疾うの昔話に習得し、呼吸の深化へと勤しんでいた。私は筋肉を自在に動かすことは勿論だが、血管一本一本に意識を巡らせるということに重きをおいていた。原作にて止血を可能とした技術の一つ。
しかしそれは意識を巡らせているのはせいぜい動脈と静脈までということになる。
人体は血管に覆われているといっても過言ではない。脳にも血が通っている。つまり全ての血管、即ち細小動脈と毛細血管にまで意識を張り巡らせることが出来れば、それは常中以上の呼吸といっても良いのではないだろうか。
それを思い付いてから毎日、一歩間違えば死ぬ身体強化をしていた。今日も山を走り回りながら、血管
「──がっ?!っ、あ゛あ゛っ!?うっ…!?」
僅かでも気を抜いた瞬間、視覚が白く霞み、全身が張り裂けそうな痛みが走る。口からは胃酸だけでなく魚など食べたものや、血が逆流し、吐く。
───なんで、
痛い、辛い、苦しい。そんな言葉では表せない程に壮絶な苦しみが体を襲う。毎日していても全く慣れず、むしろ苦しみは増している気さえする。
───なんで、私がこんな思いをしなければ、
倒れ混みながら、私は意識を底へ沈めた。
***
そこは見覚えのある風景が広がっていた。見覚えのある道、家、街並み。一瞬理解出来なかったが、そこは間違いなく転生前に私がいた街だった。もしかして鬼滅の刃の世界に転生したのは夢だったのか、とも思ったがすぐ違うと分かった。
道行く誰かに話しかけることもできなければ、何かに触れることもできなかった。
何よりも私がいた。転生する前の臆病な私が。走馬灯とでもいうのか、俯瞰して過去の自分を見ていた。
私は人が嫌がることを率先して行うタイプだった。いや、それは聞こえが良さ過ぎるか。ごちゃごちゃと揉めるのが嫌で、私がすれば回りの人達が快適に過ごせるだろうという、自己犠牲を率先するタイプだった。
それは外だけでなく、家でも。特に私の家は母子家庭であったため、母だけに負担をかけるわけにいかないと、毎日必死に生きていた。
そんなある日。私の弟が事故で亡くなった。私の後をついてくる、甘え上手で可愛い弟だった。
その日私は弟を迎えに行き、一緒に帰る途中だった。信号が青になり、弟が私の手を振り切って横断歩道を駆けた。そこへ突っ込んでくる1台のトラック。私は弟を助けるためそこへ飛び込んだ。
次に目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。私も私で重症といえる怪我だったが、まだ小さい弟は全身を強く打ち付けたことにより、そのまま亡くなった。
トラック運転手は酒を飲んで運転していたらしく、赤信号に気付くのが遅れたらしい。ニュースでよく見る飲酒事故だった。
目を覚ました次の日、私は母と話した。
「あんたがいながら、なんで!?
あんたが死ねば良かったのよ!!」
──母は父がいなくなってから、精神的に不安定になり、厳しい口調になることも多かった。
…母は弟を私以上に溺愛していた。そんな弟が突然いなくなり、悲しみとパニックに襲われたのだろう。
──分かっている、分かっていた。少し時間を空ければ母も冷静になる。「あんなこと言ってごめん。」と謝ってくれるはず。
そう分かっていたが、ここで私の自己犠牲が悪い方へ出た。いや、自己犠牲して良かったことなど一度もなかったのかもしれない。
夜、他の皆が寝静まった頃。全身痛む体を何とか動かし、点滴を腕からブチブチと外して、病室の窓を開けて飛び降りた。
迷いはなかった。強いて言えば、病室の階数が高くて助かったとは思った。
そして私が死ねば弟が戻ってきて、母も喜ぶなどという下らない思考に捕らわれていた。
ゴシャッという音を聞いたか聞かなかったか。定かではないが──
一つ言えるのはそうして私は息を引き取ったということだ。
幽霊のようになった私はここで終わりなのかと思ったが、どうやら転生してから今に至るまでの軌跡も見せられるらしい。
──私がこの世界の父と母を殺し、弟2人を泣かせた軌跡を。
***
目を覚ますと、血だまりの中。皮膚が裂けドロドロと血が溢れ、目からも血が流れ、全身は痛みが走る。
あんな過去を見せられ、気分は不快の絶頂。自分の不甲斐なさに絶望した。
…しかし、何処からか他の感情も芽生えてくる。
──なんで、人が嫌がることを私がしなきゃいけない?感謝されることもないのに。
──なんで、私が人のために毎日必死に生きなきゃいけない?母にありがとうと言われたことは一度でもあっただろうか。
──なんで、私ばかりが損をする。なんで母に責められる。私だって弟を守りたくて必死だった、なんで死ねと言われるんだ。
──横断歩道は青でも危ないと伝えたのに、なんで飛び出した。なんで私の言うことを聞かないんだ。
どいつも、こいつも。
トラックの運転手は酒気帯び運転と過失致死傷罪がついて終わりだろう。死刑になることも、何十年も牢屋に突っ込まれることもない。
新聞やニュースは悲劇として取り扱って、それで終わり。皆せいぜい2ヶ月もすれば忘れる。世間からすればその程度の認識だろう。
「ふざけんな。」
血だまりの中ポツリと呟く。
漸く分かった。なんで呼吸も日輪刀もなしに鬼を殺せたのか。なんで鬼殺隊に入るわけでもないのに呼吸という力を求めたのか。なんで一歩間違えば死ぬ身体強化をしているのか。
憎む心が、私に
私は、私を不快にさせる全てを憎んでいる。理不尽不条理の概念だけでない。人も鬼も、事柄も。
だから、だからこそ力が必要だ。人、鬼問わず全てを捩じ伏せる圧倒的な力。
原作とか、そんなことは知らない。誰が死のうとも私には関係ない。
私さえ良ければそれでいい。私を邪魔するものは排除する。全て。
「…ふっ、くっ、くくく…ふひひ…」
思わず笑いがこみ上げる。自己犠牲を信条としてきた人間の末路がこれか。この世界のラスボスと同等並みのクズじゃないか。
「あっははははははは!!!!」
山の中に狂ったような笑い声が響く。いや、狂ったようなではない。狂っていた。裂けた皮膚はいつの間にか閉じ、目から血は止まっていた。
恍惚の表情で天を見上げ、血だまりの上に立つ。鬼と比べても遜色ない女が、そこにはいた。
コソコソ裏話
鬼滅の刃に自己中な人って鬼以外出てこないなぁ、バーサーカーな人も親分と役立たずの狛犬ぐらい?んじゃ自己中×バーサーカーっていう天災みたいな人考えよ~!という軽い気持ちで作ったら想像よりやべー奴できてドン引きしてるぞ!