私の本質を理解した後は早かった。あれだけ苦労した身体中の筋肉血管に意識を張り巡らせることが、あっさりと出来るようになった。そして、鬼殺隊には入ることに決めた。刀を半ば合法的に手に入れられる上、金にも困らない。何より鬼に後手後手で対応する必要があるのが非常に不快だ。
まともな手段で刀を手にいれるには育手のとこに行かなきゃならない、何処に行くかと考えているうちにまさかの鬼に遭遇。鍛練にて血を流しまくったのでなくはないと思っていたが。
鬼を見るのは2回目だったが1回目のように動揺することはなく、とはいえ刀がないと殺せないのでさてどうしたもんかと思っていたところ、「大丈夫か?!」という声と共に黄色の刀を持った鬼殺隊士が颯爽と現れた。
この早さで駆けつけるとは、なかなか優秀な人だと思ったが、どうやらたまたま近くにいただけらしい。色的にも壬ぐらいだ。
鬼も大した強さじゃなく、あっさりと決着がついた。近距離での戦闘を不利だと考えたであろう鬼が距離を取った瞬間、雷の呼吸伍の型熱界雷で首を落とした。
その隊士が私のことを心配していたので、違和感無いよう対応し、鬼殺隊に入りたい旨を伝えた。
驚いた表情と色をしていたが、明日案内すると言うことと怪我の有無を確認する理由で、藤の家へ行くことに。
まぁ別に問題もないし、連れていってもらうことにした。
***
怪我を見てもらったりお風呂に入ったりした次の日。その隊士に連れられて育手の所へ向かった。この隊士はその育手の人に剣の指導をしてもらったらしい。
その話に相槌を打ちながら歩いていると、それなりに大きな道場のような建物が見えた。
隊士が声をかけ、出てきたのは中肉中背といった男性。年齢もそこまで行っているようにも見えず、色も特別な色をしている訳でもない。まぁ刀さえ貰えれば何でもいいか。
隊士が帰り、挨拶もそこそこに鍛練が始まった。
それから10日後。最終選別へ行く許可を貰った。正直刀を貰えればすぐにでも出ていこうと思っていたが、考えてみれば刀を使っての鍛練はしたことが無い上、そもそも藤襲山の場所も知らない。仕方ないので大人しく鍛練を続けていたが、すぐに許可を貰えたのは幸いだった。
その3日後に刀を貰い、馴染んだ服を着て、藤襲山へ向かった。
隊士が来たり、育手と会えたのが最終選別間近の時期だったり、本当に転生特典でもあるのかも。
俺の名前は…いや、別にいいか。誰も興味ないだろうしな。簡単に俺を説明するなら鬼に家族を殺され鬼殺隊に入った、雷の呼吸を使う階級壬の隊士。3年程育手に指導してもらって、最終選別を経て隊士となり、つい最近漸く階級が1つ上がった。
まだまだ弱いのは分かっているし、現場に間に合わず殺された亡骸を見ると胸が苦しくなるが、それでも前向きに励んでいた。
その日は既に一体鬼を滅しており、まもなく朝を迎えるところだったので、藤の家に向かう最中だった。
「ーーー!!!」
近くの山の方から何かの叫び声のようなものが聞こえ、思わず体を跳ねさせた。鬼だと直感し、急ぎ走って山へ入った。聞こえた声的にそこまで距離は離れていない。
いくらも経たないうちに声のした場へ駆けつけると、そこには6尺ほどの鬼と身なりがボロボロで銀色の髪を靡かせる女性がいた。
女性が着ている服には血が所々についており、声をかけながら鬼の前に躍り出た。
「その血塗れの女を寄越せぇぇ!!」という声と共に鬼が仕掛けてきたため、鋭い爪での攻撃を避けながら応戦。雷の呼吸の剣技に対応しきれず、鬼が一歩引いたところで熱界雷を浴びせ首を落とした。
普段よりも手早く終わり、軽く息を吐いた。そして女性へと声をかける。
「大丈夫ですか?!怪我は!?」
血塗れで怪我の心配が一番だったが、鬼を見慣れてない人が遭遇すると驚くか呆然とするか。近くに亡くなった人がいれば当然哀しみの感情に襲われることになる。
つまり落ち着かせた上で事情を説明(刀を所持している件含め)しなければならず、錯乱する人も多いため俺は苦手としていた。
「ええ、何ともありません。お助け下さりありがとうございます。」
そんな中返ってきたものは平静な声。そして笑顔。
近くで見てみると顔の整ったかなりの別嬪であり、普段なら向けられて嬉しい笑顔のはずだった。
しかし、この状況でその笑顔。いや助かった安堵で笑顔を浮かべる人も今までいなかった訳ではない。されどそれとはまた別種の笑顔に感じ、総毛立った。
その上鬼のことや刀のことを聞くこともなく、鬼殺隊に入りたいと伝えられた。
あまりにも早い判断。まるで最初から分かっていたと言わんばかり。
鬼とは違う、人間とも違う。何か別な生き物を見たような感覚だった。
その次の日の夕刻。育手の元へその女性を送り届けた。すぐ育手の所へ向かいたいという女性の希望により、俺の育手へ文を出してみたところすぐ受け入れとなった。
その道すがら色々と話してみたが、やはり昨夜の薄ら寒さは消えることはなかった。笑顔のはずなのに、何処と無く恐怖を感じる。話をしているのに、自分がいないような、違和感。
もしかしたら自分がおかしいのかもしれない、失礼だと思うことにして送り届けたのだった。
結局最後までその違和感は消えることはなく、理解することもなかった。
「最終選別に向かっていい。」
自分の口から出たとは思えない程、小さな声だった。
少し間が空いて、「分かりました。」と凛とした声が返ってくる。
「失礼致します。」という声の後、道場の扉がピシャリと閉められた。
私は鬼殺隊の剣士を育てる『育手』をしている者である。今は引退したが階級は己まで行ったことがある、自分で言うのも何だが実力者だ。
年齢は25とまだ若いが、十二鬼月との戦いにて足を負傷。私の場合風の呼吸と雷の呼吸を合わせたような呼吸を扱っており、足が使えなくなると隊士としての力が半減だと、自らお館様へお伝えし、引退となった。
けども分かっていた。引退理由は怪我だけでなく、単純に柱と十二鬼月との戦いをみて、心が折れたから。今まで自信満々に鬼狩りをしていたのに、鬼と戦うことが途端に怖くなったから。
そんな自分でも呼吸と剣術はそれなりであったため、育手として若手を排出することに力を入れ、いつしかそんな恐怖心も何処かへ行ったような気がしていた。
そんなある日。弟子から送られてきた文を読み、新しい弟子となる者がくることになった。私の弟子達は最終選別は突破しても、階級を上げることが出来ずに亡くなってしまうことが多く、自分の指導不足に苦慮していた。よって次からの弟子は多少時間がかかってでもすぐ亡くなることのない、強い剣士を育てようと志していた。
「本日からお世話になります。時透銀華と申します。宜しくお願い致します。」
その挨拶と所作。それを見ただけで目の前にいる者が自分では制御出来ぬ化け物であると分かった。
強い剣士からでる独特の雰囲気とか、そういうものでない。鬼に近いような、生物として何かが違うと感じる。
そしてそれは、稽古を初めてすぐに確信へと変わった。
呼吸は既に出来ていた。どころか常中まで。なぜ出来るのか問えば「必要であるから覚えただけです。」と何ともないように即答された。
自分が常中を覚えるまで、どれだけ時間がかかっただろうか。
剣術の稽古では流石にというか、私が圧倒した。まぁ当然のことであるのだが、内心ホッとして指導へ移った。いくら常中で身体能力が同じであっても剣術は経験が物を言う。これならまだ教えられることがある。
そう思っていたのも束の間、その2日後から突然互角になった。覚えるのが早いなどというものではない。初見のはずの動きも紙一重でかわされ、僅かな隙をついて反撃してくる。
そして更に次の日。何度目かの打ち合いの後、突然勝てなくなった。動きの速度が違うだけでなく、まるで先読みをしているかのような反応。そして怪我をまるで恐れないように、全て紙一重でかわされる。辛うじて剣で受けようとしても剣ごと体が吹き飛ばされる。
聞きたいことは本当に沢山あった。けれど、稽古終わりに一つだけ聞いた。
「何故鬼殺隊を志した?」「私のためです。私が私であるために。」再び即答だった。
分からない、分からない。分からないということはここまで恐ろしいことであったか。
「…そうか。」それだけ返答した。
私は育手を辞めよう。
時透銀華→普通にしてるつもり。けど鬼に襲われたあと笑顔だったりいきなり常中使えたりしたらそりゃ不気味ということに気付いてない。cv日笠陽子
隊士→雷の呼吸の使い手。階級壬。正義感が強くこれから強くなりそう。別嬪を助けられて少し高揚したけど一瞬で冷や水かけられた。ぶっちゃけ怖い。
育手→分からない存在だから怖い。何なら鬼より意味分からん。血管全てを意識することでの身体強化による肉体変化を感じとっているため、それなりの強者。この後育手辞める。が、今まで育てた隊士がまだいるので住居は変えるつもりはない。仕事を変えるだけ。
この後この2人が登場する予定はないです。