白になりたい黒   作:名も亡き一般市民

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文章下手はご愛敬。書きたいことを書きまする。


灰青

 

藤の匂いは初めて嗅いだ。母は花が好きだったが、藤は見たことなかったな。

 

藤襲山へきての感想はそんなものだった。鬼の監獄とは思えぬ美しさではあったと思うが、それよりも早く鬼と会いたかった。

前世?の記憶が甦ってから迷いが無くなった影響なのか、全身の血管全てを意識することは可能となった。

が、剣術は習ったばかりだしこの呼吸が鬼に通用するかも分からない。一回ぐらい実践できたら良かったのだが。

何より私は鬼への怨みというものが薄い。いや原作を知っているから全く何も思わないわけではないが、大切な誰かが殺されたわけでもない。一応死にかけてはいるが、別に何とも思わなかった。

 

自分が理不尽不条理に脅かされない力が欲しいだけで、それがたまたまこの世界だと鬼狩りの技術だっただけのこと。

そんな思考なので、いざ鬼と対峙した時ちゃんと殺れるのかどうか若干不安だった。

 

 

などと考えていると選別の説明がされるようだ。

原作でも見た産屋敷家のご子息二人、と思ったが出てきたのは普通の鬼殺隊士。なんでだ。説明はされなくても内容を知っているので、さっさと山へ入った。

 

 

 

そして山へ入ってまもなく二体の鬼に遭遇した。どちらも頭から角が這えてていかにも鬼っぽい鬼。この目で見える色は赤と黒が混じったどす黒い色。これまで二回ほど鬼を見ているが、やはり皆同じような色らしい。

「よこせぇぇ!血を、よこせぇぇ!!」

とても喧しい声を出しながら襲ってくる。

本来なら忌避感であったり恐怖感であったりを感じるところなのだろうが、私は妙に落ち着いていた。

 

今の私にとって、人や物事を判断する物差しは一つ、不快かそうでないか。よっていざ鬼を見た時に不快に思うのかが心配だった。

けどどうやら問題ないらしい。

(寄越せ?誰に向かって口を聞いてる?)

と瞬間的に思った。充分不快に感じたので、一安心だ。

軽く息を吸い込みゆっくりと吐き出す。口からシィィィィという音が漏れる。選別の鬼相手なら例の呼吸は必要ない。

 

 

雷の呼吸 弐の型 稲魂

 

 

自分を中心に半円を描くように刀を振るい、ほぼ同時に二体の首を落とした。落とした頭もついでに細切れにしたので喧しい断末魔を聞くこともなかった。

最大の悩みである鬼への殺意は何の問題もなかったので、私は少し気分を高揚させながら山の奥へと進んだ。

 

 

 

 

***

 

 

私は鬼を全て殲滅させる気持ちで鬼を狩っていた。

鱗滝さんに比べればどの鬼も弱く遅い。複数で来た時も難なく対応出来た。元が人間ということを考えると憐憫の気持ちが無いわけではなかったが、私の兄弟子の仇がこの山にいるのだ。すぐその気持ちを押さえつけた。

 

兄弟子の名前は錆兎。厳しくも優しい、自慢の兄弟子だった。

ずっと一緒に鍛練をしてきて、辛いことも沢山あったけど幸せだった。育ての鱗滝さんと、錆兎と義勇。鬼殺隊に所属しても、時間の空いた時に三人で狭霧山に帰って、四人で過ごす。そんな日々がずっと続くのだと思っていた。思いこんでいた。

 

一人で戻ってきた義勇は、とても見ていられなかった。鱗滝さんは静かに義勇を抱き締めていた。

 

ありふれた日常を壊した鬼が、この山にいる。

私が、必ず錆兎の仇を打つ。

 

そう思いここまで鬼を狩っていたのだが、まだその鬼に会うことはなかった。

 

 

 

 

 

しかし最終選別六日目。山の奥から悲鳴が響いたため急いで向かうと、あちらこちらに死体が転がっており、その真ん中に無数の手で体を覆った異形の鬼がいた。

その鬼はこちらに振り向くと、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

「また来たな。俺の可愛い狐が。」

 

その一言で何故か確信した。無意識に、少し呼吸が荒れる。

 

「錆兎、を…私の兄弟子を殺したのは…お前だな?」

 

「あん?なんだ不躾に。さびととやらは知らんが、その狐の面を持った鱗滝の弟子は全員殺すことにしてるからなぁ。それにしても何年ぶりだ?鱗滝の弟子は。口元に傷のある宍色の髪のガキを食って以来だなぁ。」

 

「宍、色…」

 

改めて確信した。コイツが、錆兎を!!

 

「お前だけは許さない。」

 

口からヒュゥゥゥという音を漏らし、肺へと酸素を送り込む。

 

「全集中・水の呼吸」

 

参の型 流流舞い

 

水流に身を任せ流れるように高速機動。縦横無尽に動き様々な角度で鬼に斬りかかる。

鬼は私を捕まえようと大量の手を伸ばしてくるが、遅い。速度では私に分がある。

しかしその分今まで斬った鬼よりも明らかに再生が早い。私が斬った箇所も既に治りかけている。

鬼相手に長期戦は言うまでもなく不利。体を刻んでもすぐ再生するなら、鬼の急所。頸を狙うしかない。

 

「ちょこまかと動くな!」

 

私は先程の流流舞いよりも敢えて速度を落とし、鬼の視界に入る。

鬼は再び手を伸ばしてくるがーーー

 

弐の型 水車

 

その場で回転しながら円を描くように刀を振るい、鬼の手を全て斬り落とした。直ぐ様再生するだろうが、その僅かな時間があれば充分。

伸ばしきった鬼の腕の上を走る。私を捕まえるために殆どの手を使っていたため、残るは頸を守っている二本のみ。

私には錆兎のような力はないけど、速さがある。走って勢いをつければ腕ごと頸を斬れる!

私は水平に刀を振る水の呼吸の基本の型を繰り出した。

 

壱の型 水面斬り

 

 

パキンッ、という音が鳴った。勿論頸を斬った音ではない。刀が折れた音だった。

鬼の体の上で、頭が真っ白になった。そして、そんな無防備な所を見逃してくれはしない。

 

「捕まえたぞ。狐の娘。」

 

鬼はニタリと悪どい笑みを浮かべた。

 

「うっ、ぐう…!!」

 

鬼は私の両腕両足を掴み、空中で磔にする。

ギチギチと力がこもり、鋭い痛みが走った。

 

「くくく、さぁーてお前の泣きっ面を拝ませて貰うとするか。」

 

私は死ぬ。鬼に散々陵辱されたのち、死ぬ。もう、会えない。鱗滝さんにも、義勇にも。

そう思うと涙がポロポロ溢れた。泣いたところで鬼を喜ばせるだけだと言うのに。

 

「痛いか?痛いよなぁ?!恨むなら鱗滝を恨めよ娘。そんな分かりやすいお面の印を持たせてる鱗滝を!!」

 

痛みなどどうでも良かった。親しい人達にもう会えないことが悲しい、誰も助けることが出来ずここで死ぬことが悔しい。

誰もが劇的に死ねる訳じゃない。よくよく考えなくとも当たり前のこと。選別で死ぬ剣士が多くいることも分かっていた。

けど、私がここで死ぬとは思っていなかった。何故か自分は出来る、生き残って人を助けられると思いこんでいた。

それが、この結果。鱗滝さんの想いを踏みにじり、錆兎の仇である鬼に殺される。

 

「ぁっ、」

 

ゴキリと鈍い音が四肢から鳴った。

 

「ぁ、ぁ…」

 

続いてブチブチと肉が剥がされる音がした。もうすぐ手足を引きちぎられると分かった。

 

「…」

 

ブツリと目の前が暗くなる。そのまま目を閉じ ーーー

 

 

雷の呼吸 伍の型 熱界雷

 

 

雷鳴が轟いて、体がふわりと浮いた。気がした。

 

 

 

 

***

 

 

 

正直、他の選別者を助けるつもりはなかった。

 

ここにきてる以上覚悟はしてきてるだろうし、仮にラッキーで生き残ってもこの先すぐ死ぬのは目に見えている。

 

尚且つ私にとって自分自身が最も大切だ。命の優先順位は1位が自分。他の人がどうなろうと関係ない。

 

 

が、私を不快にさせるなら話は別だ。

あの鬼がさっさと殺していれば放っておくだけだった。けどあの鬼はなぶり殺すように、手足をゆっくりと千切ろうとしているのが見えた。

気に食わない。相手のことなど関係なく、自分が楽しむために自分のやりたいことをする。心底気に食わない。

 

 

 

 

 

 

確固たる自分を持ち、自分が何者なのか分かれば、すべての下らない感情は消える。

 

私の何も乗っていない刃から、逃れられる鬼はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼吸は全集中。一息で鬼の懐まで入った。

 

下方から四本の手を切り上げると同時に、左腕で捕まっていた人を抱え、素早く飛び退く。一定の距離を空けて、抱えていた人を仰向けに寝かせた。

 

鬼は一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、醜い声を響かせながら多量の手を伸ばしてくる。

量はある。普通なら見えない死角を使い殺そうとしてくるが、私には見えている上、遅い。

刀を素早く振るい球状のドームを描くように手を切り落とす。

地面から巨大な手を出してくるのも分かっていたため、一歩引いて稲魂でバラバラにする。

分が悪いと思ったのか、攻撃をしつつ巨大な手で地面に潜ろうとした。

が、先程よりも荒い、手の攻撃。居合の形を取るには充分な隙だった。

 

 

 

雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃

 

雷の呼吸の代名詞、霹靂一閃。鬼の体を追い抜き、納刀。首がコトリと落ちた。

 

 

 

***

 

 

 

地面を蹴る音が聞こえたと思ったら、首が落ちていた。

あの狐の娘を食らうまでもう少しだったというのに!!

四肢を引きちぎろうとした瞬間、あのガキが割り込んできた。いやそれは結果的に分かっただけで、動きは速くて見えなかった。

 

くそっくそぉっ!!どうせあのガキも、蔑んだ目で俺を見やがるんだろう!!!

 

自分の頸を斬った鬼狩りが振り向く。

その瞬間、怖くて目を閉じなかったことを後悔した。

振り向いた顔は虚無。瞳は何も映していなかった。憎悪を向けられることも、見下した顔をされることもなかった。

 

なんだその目は。俺なんかまるで興味ないのか。

その時何故か怒りよりも悲しみの感情が芽生えた。いや悲しみというよりも、途轍もない寂しさ。

このまま誰にも見られず死んでいくことが、こんなに寂しいことだとは思わなかった。

なんで、なんでこんなことになったんだ。

寂しい、寂しい。誰か、手を握ってくれ誰か…

 

 

そう思った時まだ残っていた唯一の手を細切れにされた。

そしてその瞳に漸く俺を映し、

「随分と都合がいいと思わない?」と言った。

「悲しむのは勝手だけど、散々人を殺した鬼が抱いていい感情じゃない。さっさと死ね。」

 

…あぁ、本当に、どうしてこんなこと ーーー

 

 

 

 

***

 

 

 

ハッと目を覚ます。まだ薄暗いが、太陽が東から上りかけている。体を起こそうとするが手足に鋭い痛みが走って起きれなかった。

錆兎を殺した鬼に捕まったのは覚えているけど、そこからどう助かったのかは覚えていなかった。

私はすぐそばに水が流れている川のそばに寝かされていた。頭の下には枕代わりだろうか、真っ白な羽織と藤の花が畳んである形で置かれている。手と足には添え木の治療が施されていた。

 

ふと気配を感じた方に顔を向けると、五~六尺ほどの女性が茂みから出てくるところだった。肩口ほどに髪を揃え、目元が軽く隠れる程度に前髪を伸ばし、髪の先は青く染まっている。目は私から見て左目が青いびいどろのような色、右目は真っ赤に色づいていた。

「怪我は?」

凛とした声が飛んできて一瞬反応が遅れたが、大丈夫である旨を伝える。

「取り敢えず木で固定してるし、止血もした。両手両足折れてるからさっさと休んだほうがいい。」

ぶっきらぼうな言い方だったので少しドキリとしたが、助けられたのは事実なので、「ありがとう…」と答えた。

 

そして最も聞きたいことを口に出す。

「あの、手の鬼は?」

「殺した。」

「…そう。」

 

やはり。と思った。目の前の女性からは鱗滝さんと似たような雰囲気を感じたから。戦うところは一度も見てないけど、恐らく相当強い。少なくとも今の私よりも遥かに。

助かった安堵もあったが…正直錆兎の仇は私が取りたかったという思いが強い。けどそれは私が弱かったからということは分かっている。捕まる前に仕留めてしまえば良かっただけなのだ。

少し、ほんの少しだけ湧いた嫉妬心を抑えつつ、「助けてくれてホントにありが、」と言いかけた所で、

「言いたいことあるなら言えば?」と被せられた。

「いや、あの、」と言い淀んでいると「鬱陶しいんだよね。その色。」と少し語気を強めてぶつけられた。

 

色?何のことなのだろう?今私はお礼を言おうとしただけで…

言葉に詰まっていると、その人は後ろへと背を向けてしまう。そのまま歩きだしてしまった。

止めたくとも今の体ではそばに行くことも出来ない。だから ーーー

 

「ごめんなさい!私、あなたに嫉妬してたの!!」

 

言いたいことを本音で伝えることにした。

 

「あの鬼は、私の兄弟子の仇だった!ずっと殺してやるって思って鍛練してきた!あの鬼は絶対に私が殺したかった!…けど、力が及ばなくて、死にかけた。あのままだったら絶対に死んでた。うろ…師範の元に帰ることもできずに。だから!」

背を向けた女性は足を止め、振り向き、目を合わせてくる。

「だから、助けてくれて、ありがとう。あなたが助けてくれたから私はまだ生きてる。ありがとう。これが私の本音。」

 

「…」

その人は静かに歩いて私の所へ戻ってきて、私を横抱きにする。思考が追い付く前にスタスタと歩き山を下り始めた。

「え、ちょ、ちょっと…どこ行くの?」

「どこって、帰る。もうこの山に用ない。ついでにおろす。」

「で、でもあと一日なのに今帰っても。私は、これだけ怪我してるから無理だろうけど…」

「あと一日?終わったよもう。今はここにきて八日目の朝。」

「え、えええ!?八日目?!てことは、私七日目まるまる寝てたの!?」

「そういうことになる。」

「…あの、ますますごめんね。沢山迷惑かけた。」

「別に。大した迷惑はかかってない。本音で話してくれるだけいいよ。」

 

私を抱えたまま、下っていく。

 

 

 

 

 

 

 

これが今後長い付き合いとなる、私こと真菰と、女性こと時透銀華の出会いだった。




(白になりたい黒)コソコソ裏話

真菰ちゃんと手鬼との戦闘シーンは炭次郎と手鬼との戦闘シーンを参考としてるのでそこを見ればイメージしやすいはず。

真菰ちゃんキャラ崩壊疑惑。こんなに感情ままに話すかなとも思ったがまぁ主人公のせい。

真菰ちゃんはかわいい。だから肉体的にも精神的にも苛めたい。

あまねさん妊娠中のため説明にこず。姉二人は体調を崩し仕方なく歴の長い隊士に説明を任せた。


使用呼吸
雷の呼吸→?の呼吸
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