原作では死んで炭次郎の師?となるはずであった真菰を意図せず手鬼から助けてしまった。手鬼に捕まっていた時は誰かまでは判断しなかったので仕方ないが、これで原作に何かしらのズレが生じるのではないかと考えると億劫になる。
助けなければ良かったかもしれないが、やってしまったものは仕方ない。まぁ律儀に原作を守る理由もないワケで。
そんな真菰は山を降りてから暫くは色々と話しかけてきていたが、そのうち私の背で寝てしまった。怪我も軽くないし、まもなく鬼狩りとして働かなければならないのだから、寝て回復するのはいい。
ただ狭霧山がどこなのか分からないため、道すがらで暮らす人々にいちいち話を聞かねばならないのが面倒くさい。
私の目を見てビビって逃げる者までいる始末。そもそも、わざわざ送ってやるほどの義理もないはずだが、何をしているんだが。と何処か他人事のように思う。原作キャラだからかもしれないが、何故かそれだけの理由とは思えなかった。
あぁ、いつからかは分からないが片方の目だけが真っ赤に染まっているようだ。10日程度の育手に教えられ初めて気がついた。
原因は不明。まぁ何でもいいことであるのだが。
漸く狭霧山らしき山が見えてきた。この山の麓に家があるはずなので、ユサユサと揺すって真菰を起こす。
流石に寝起きは悪くないようで、少し揺するだけですぐに起きた。一言二言言葉を交わし、再び歩き出す。どうやらもうすぐらしい。
田んぼの畦道を挟み、家が見えてきた。炭次郎がこの道を通って3人で抱き合うシーンあったなぁとファンらしく感慨深い思いになる。
その時家の扉が勢い良く開いた。そこから出てくるのは天狗の面をつけた人物。皺などを見れば老体であることは分かるが、私の目には真っ赤な強者の色が見えた。
色からは一切の衰えを感じず、改めて柱は化け物なのだと理解した。
「真菰!!」「鱗滝、さん!!」
正面からの老いの弱さを感じさせぬ声と、背中からの喜びを隠せない声に挟まれる。
鱗滝さんは瞬○か?とツッコミたくなる程の速度で走ってくるため、真菰を正面で抱え差し出した。
「よく戻った!!!」
「うん…うんっ!死にかけたけど、戻ってきたよ鱗滝さん!!」
***
真菰の怪我の処理を行い、寝かせたところで私と話がしたいと言うので大人しく座る。パチパチとなる囲炉裏の火の調整を終え、私の方へ向く。
「そうか。君が真菰を助けてくれたのだな。」
「はい。」
「改めて、師範として礼を言わせて頂く。本当に感謝する。」
自然な所作で土下座を繰り出そうとするので流石に制する。
「いえ、たまたまですので。あの鬼が気に食わなかったから斬った。その流れで偶然助けた。ただそれだけです。」
「それでも助けられたことに代わりはない。あの子が君がいなければ死んでいたと言っていた。こうやって話をすることも出来なかったであろう。」
感謝されてるのは悪くないのだが、どうにもしっくりこない。謙遜ではなく本当に自分のためなのだから。
「……自分のためでもいいのだ。君が動いたことで助かった人間がいる。それでいい。」
「……」
一瞬驚いたが、そういえばこの人も鼻で感情が分かるんだったか。しかし考えていたことまるまる当てられると流石に気味が悪い。
「何かお礼をしないといかんな。儂に出来ることならば聞こう。」
「いえ本当にそういうのは…」
と言いかけたが、妙案が浮かぶ。折角だ、開発中の呼吸に組み込むことにしよう。
「それでは一つ。お願いがあります。」
***
「…んん…」
私こと真菰は目を覚ました。昨日は助けてくれた銀華におぶられ狭霧山へ帰り、鱗滝さんの元へ帰ることが出来た。
その後銀華の紹介をして、怪我の手当てをして、そのまま寝た。
狭霧山へ帰る道中も銀華の背中で寝てしまったし、助けられたしで本当に銀華には頭が上がらない。
けど、藤襲山で話した時よりは打ち解けられたかなとも思う。名前で呼ぶことを許してくれたし。どちらかと言うと名字を教えたくないみたいではあったけど。
布団から体を起こし、軽く腕と足を動かして見る。まだ痛みはあるが、大分良くなってはきていそうだ。
その時外からカカンッという木刀がぶつかる音がした。ヒュウウッという呼吸音も聞こえるため、鱗滝さんが呼吸を使っているみたいだ。
けどなんで?と思い少しずつ体を動かして障子をゆっくりと開ける。するとそこには水の呼吸をしながら鱗滝さんに打ち込む銀華の姿があった。
「銀華って雷の呼吸じゃなかったの!?」と思わず大声。
「真菰、おはよう。」
「あ、うん。おはよう…じゃなくて!」
「まだ分かってないから、適正呼吸が。雷の呼吸も悪くないけど、しっくりくるかと言われると微妙。なら良い機会だから教えて貰おうってことで。」
真菰はじっと銀華を見る。その人の呼吸の適正に合わせた型があり、それが水であったり雷であったりするのだが、適正でない呼吸を使い動くことは体に大きな不可がかかる。よって適正を見つけることは鬼狩りとしての第一歩、だと思っていた。
どうみても疲れた様子はなく、まだ教わったばかりだと言うのにすでに水の呼吸を掴んでいるような動き。あまり好きではないが、天才というものなのだと思う。
それでも才能の差を見せられたぐらいで折れる人間は、鱗滝一門にはいない。
「銀華、私も負けないから。」
「?うん。」
良く分かってなさそうな銀華を見て笑う。鬼狩りはいうまでもなく大変なものだが、同期の友人が出来て嬉しく思った。
***
数日程そこで過ごし、水の呼吸をある程度覚えた(勿論まだまだ使えないが)所で、一度育ての元へ帰ることになった。
鎹鴉により選別突破したことは既に伝えてあるのだが、流石に一度帰れという鱗滝さんの指示に従うことにした。目的も達成した上に、ここにいても刀は手に入らないしで、もういる理由はない。
真菰は山を出るまで送ると言っていたが、怪我が悪化すると鱗滝さんに止められ渋々諦めたようだ。「また任務とかでね!藤の家で会えたら一緒にご飯食べよう!」と言っていた。
助けられた相手とはいえ、何故そこまで気に入られたのか。
「それでは、失礼します。」
早朝、鬼が出ないうちに出ようということで身支度を整え出ようとする。
すると、「これを持っていけ。」とあるものを渡された。
それは黒と白が基調となった狐のお面。
「これは…」
「それは厄除のお面といって、我が鱗滝一門に授けるお面なのだ。是非持っていってほしい。」
「ですが、私は鱗滝一門ではありません。それを私ごときに授けてよいのでしょうか。」
「君は一門ではないが、既に儂から呼吸を習っている。着けていれば真菰が喜ぶだろう。それに、君は選別突破直後の隊士と思えぬほど強い。強いが…それ故困難にみまわれるだろう。気休めにしかならんかもしれぬが。」
「……分かりました。頂戴致します。」
道中、渡された面を見やる。一から人の手で作ったとは思えぬ精巧な造り。自分には勿体ないのではないかと思う。
ただ、この面越しなら自分の顔もこの世界も見なくて済む、かもしれない。自分という現実を見なくて済む。そう思い早速面を被るのだった。
***
「……」
数日だが、剣を交わした。家で過ごした。実力は既に柱に届くのではないかと思うほど。この鼻が過敏に反応するような心の不安定さもなく、体と心が両方鍛えられている。
しかし、はっきりとは言えないが何処か違和感を感じ取った。感情があまりにも一定すぎる。制しているなどではなく、欠落しているのではないかと思うほど。それに言葉の節々から垣間見える自己肯定の低さ。
抜群の安定感がある、しかし何処か不安定。それが銀華から感じ取ったものだった。
(何かのきっかけで、それがなくなってくれればいいのだが。)
天狗の面の下で、背中の見えなくなった一人の隊士を思った。
鱗滝さん家までの道中の会話
「あの、助けてくれて本当にありがとう…」
「もういいよ。」
「えっと、いつから鍛練してたの?」
「3年ぐらい前。」
「へ、へぇ~…」
「あの、話しかけない方いい?」
「別に…自由にしてていいよ。」
「じゃ、じゃあさ…名前教えてよ。」
「…」
「あっ、えっと、嫌なら別に、」
「銀華。」
「!銀華…いい名前だね!」
「そう、なのかな。」
「うん!あ、私真菰!」
「うんそうだね。」
「あれ、教えたっけ?」
「いや、まぁ……」
こんなんでしたby真菰