ドキッ! イレギュラーだらけの聖杯戦争!   作:大根ハツカ

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Fate/Pseudograph

 

 

 

 

「──聖杯の降臨を観測。きちんと勝利マスターの手に渡りましたっと」

 

 眼鏡をかけた監督役の神父は教会の椅子に寝そべって、だらしなくそう呟いた。

 

 かくして聖杯戦争は終わりを迎えた。

 六騎のサーヴァントは死に絶え、たった一人の勝利者が聖杯を獲得する。

 あとはマスターとサーヴァントが願望を叶えるだけ。

 ────()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 此度の聖杯戦争で用意された聖杯は冬木のオリジナルとは程遠い模造品。出来損ないの亜種聖杯だ。

 その程度のリソースでは、勝利者の願望を叶えるには至らない。根源に辿り着くなどもってのほか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 形式として近いのは、かつてオスロで行われた亜種二連聖杯戦争。だが、その実態はトーナメント戦とバトルロワイヤルを掛け合わせたもの。

 

 その名も、()()()()

 世界各地で行われた聖杯予選──7ブロックの聖杯戦争、合計49騎のサーヴァントから7騎の勝利者を選出する。亜種聖杯を獲得したそれぞれの勝利者達は互いの亜種聖杯を奪い合い、最後の一つを真の聖杯として完成させる超大規模魔術儀式。

 49騎の頂点を決める聖杯戦争。足りない質を量でカバーする何とも魔術師らしからぬ美しくない解決法だった。

 

 主催者の目論みは今の所順調に進んでいる。

 7つの聖杯予選において、7騎の勝利サーヴァントは選出された。

 ただ、問題があるとすれば──

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………()()()()か、接近に気付きませんでしたよ」

 

 

 裁定者(ルーラー)

 それは聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果が未知数であり、それを調停する存在が必要であると聖杯が判断した時に召喚されるサーヴァント。

 この特殊な聖杯決戦において、召喚されるのは当然だとも言うべき存在。

 

 だから、それはイレギュラーではない。

 イレギュラーは別にある。

 

 それを思い浮かべて、監督役である神父はため息を吐いた。

 

「まさか夢にも思いませんでしたよ。世界各地七カ所で行われた聖杯予選、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 Irregular_1。

 

 第一聖杯予選会場。

 そこに、此度の聖杯戦争における勝利者がいた。

 ()()()()()()()()()()()()()()姿()()

 

 

「ほほう、これが亜種聖杯か。なるほど力がみなぎる。流石の余でも、()()()()()()()連戦はキツイ所であったからな」

 

 

 それは薔薇色の瞳を持った青年だった。

 黄金の弓を背負っていて、クラスはアーチャーであることが窺える(別クラスの可能性も捨てきれないが)。

 

 彼にはマスターがいなかった。

 それも当然だ。民の命を弄ぶ悪性の魔術師は()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、つまり。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………この聖杯があれば、シータとまた……………………いや、」

 

 青年は聖杯に願望を告げようとして、しかしぐっとそれを堪えた。

 もしも、彼が少年だったなら言っていたのかもしれない。この世のどんなしがらみにも囚われず、全身全霊で妻を愛せた若造なら我欲に走れたのかもしれない。

 

 けれど、今の彼は違う。

 (彼がそうと決めた)精神的な全盛期ではなく、王として・英雄として完成した肉体的な全盛期。

 本当の願いを諦め、英雄としての務めを果たす。

 

「シータ……許してくれなくても構わない」

 

 その英雄の名は、ラーマ。

 インドにおける二大叙事詩の一つ『ラーマーヤナ』の主人公で、ヴィシュヌ神の転生体でもあるインド神話最大の英雄。()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

 

 

 第一聖杯予選。

 勝利サーヴァント、アーチャー:ラーマ。

 勝利マスター、不在。

 

 

 

 

 

 Irregular_2。

 

「やぁ、ライダー。私の真名は()()()()()()()()()()()()()()()これからよろしく頼むよ」

「私が言うのも何だけど、それはあまりに反則(チート)じゃないかい?」

 

 それは小学生のような少女だった。

 モナ・リザを幼くしたかのような美貌。

 彼女こそは別の亜種聖杯戦争に召喚されたキャスター:()()()()()()()()()()によって作成された複製人形である。

 

 抑止力によってサーヴァントと同じ能力を封じられた彼女は、それでも単独で稼働し、異なる聖杯戦争に参加した。

 ならば、召喚されるサーヴァントは決まっている。レオナルド・ダ・ヴィンチを模した複製人形──つまり、マスターそのものが()()となり得る。

 

「くぅ、羨ましい……‼︎」

「あー、私って感じがするね」

「なぜ私はこちらの姿で召喚されたんだい? 私もその姿を選びたいっつーの」

 

 だが、召喚されたサーヴァントはマスターと姿形がかけ離れていた。

 本来、レオナルド・ダ・ヴィンチは自身の霊基を改造して女体化して召喚されるサーヴァントである。しかし、今回ばかりは訳が違った。

 

 

 ()()のレオナルド・ダ・ヴィンチ。

 一般的にイメージされるような天才の姿がそこにはあった。

 

 

「その顔でその口調は違和感があるからやめて欲しいなぁ」

「オリジナルに対してなんて言い草だ。これでも戦闘力はキャスターの私とは比較にならないんだよ?」

「代わりに新たなモノを発明する天才性は劣化しているのだろう?」

「うっ」

「そこは私が担おう。私にキャスターの能力は引き継がれていないけれど、彼女の考え方・天才性は搭載されているからね」

 

 ここに最強のタッグが形成される。

 天才のインスピレーションを学習したマスターと、()()()()()()()()()()()なサーヴァント。

 

 

 第二聖杯予選。

 勝利サーヴァント、ライダー:レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 勝利マスター、グラン・カヴァッロ。

 

 

 

 

 

 Irregular_3。

 

 かつて、相良豹馬という魔術師がいた。

 聖杯大戦に参加することも出来ず、敗退した哀れな男だ。

 

 彼には、相良熊馬(さがらゆうま)という一人の子息がいた。

 奇跡的に魔術刻印を受け継いだ熊馬は、しかしユグドミレニアが没落した事で相良家を建て直す事ができず、父と同じく聖杯戦争に挑んで周りを見返す事に決めた。

 

 魔術を使い民間人から魔力を搾取し、それでも足りない魔力を使い魔のネズミを生贄にしてサーヴァントを召喚する。

 しかし、運命のイタズラか。彼は父と同じく、聖杯戦争に参加する事なく敗退する事となる。

 

 

「ふふ、ははは」

 

 

 既に、相良熊馬の手にマスター権たる令呪はない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はははははははははははは───あははははははははははははははははははははは‼︎」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その女は美しかった。

 女の美貌は男達を惑わせ、サーヴァントさえも狂わせた。

 

 7()()()()()()()()()()()()()()()

 6()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その時点で勝利者は決定された。

 彼女は全てのサーヴァントを従えるマスターであり、彼女はたった一人自由意志を持ったサーヴァントであった。

 

 

「おまえたちが(わたくし)の上に立てるはずがないでしょう?」

 

 

 傾国の美女は血溜まりで笑う。

 その真名は妲己。紂王を堕落させ贅沢の限りを尽くし、多くの人間を虐殺した稀代の悪女。太公望に討伐された金色白面・千年狐狸精である。

 

 

 第三聖杯予選。

 勝利サーヴァント、キャスター:妲己。

 勝利マスター、キャスター:妲己。

 

 

 

 

 

 Irregular_4。

 

「あ、勝利できましたか。ハラハラしましたね」

「心にも無いことを言うな。このオレが負ける訳がねぇだろう? まったく、オレを召喚するなんざルール違反にも程があるぜ」

 

 40歳くらいの冴えない魔術師の男に対し、尖端が五本に分かれた槍を携えたサーヴァント不敵に笑った。

 そして、こう続けた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 超弩級のルール違反──()()()()()

 正確には神霊そのものではなく、神霊が英霊に憑依した形で召喚された擬似サーヴァントに近い存在。

 しかし、だからと言って油断する訳にはいかない。このサーヴァントは神霊である中身はもちろんのこと、英霊である器もまた最強クラスの英雄である。

 

「僕はこれでも()()()()()()()()ですからね。これくらい、なんて事ない児戯ですよ」

「何でテメェみたいなのが聖杯戦争なんかに参戦してんだ?」

「僕はエルメロイⅡ世のファンのようなものでしてね。彼と同じ体験をしてみたい思うのは当然でしょう?」

 

 そんな理不尽を成したのは、聖杯決戦において最強に近い魔術師。

 魔術協会三部門の一つ、時計塔の頂点に君臨する十二人の君主(ロード)の一人。考古学科(アステア)の学部長であり、中立派のトップを務める者。

 

 カルマグリフ・メルアステア・ドリューク。

 魔術の腕においては全参加者最強のマスターである。

 

「馴染みますか、()()()()()()の霊基は?」

「自分の身体のように動かせる。()()の身体だからか? それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「そのどちらもだと思いますよ、()()()()

 

 ケルト神話最大の英雄、クー・フーリン。

 ケルト神話万能の神格、ルー。

 その二つを掛け合わせたサーヴァントは、紛れもなく最強に違いない。

 

 

 第四聖杯予選。

 勝利サーヴァント、ランサー:ルー/クー・フーリン。

 勝利マスター、カルマグリフ・メルアステア・ドリューク。

 

 

 

 

 

 Irregular_5。

 

「この私はね、アサシンであると同時にアルターエゴでもあるのだよ」

「あるたーえご? とは何ですか、ししょー」

 

 それは骨が浮き出た細身の女、髑髏を仮面で顔を隠した暗殺者だった。

 彼女は素朴な顔をした何処にでもいそうな少年に話しかける。それはまるで、先生と生徒のような関係だった。

 

「サーヴァントの一部分のみを抽出したエクストラクラスだと思ってくれて構わない。元の私は()()()()()()()()()()()()()()()が、今の私はたった一人だけの私だ」

「? ししょーはたくさんいたんですね」

「ああ、私はね。だけど、心残りがある。1()9()()()()()()()であった私は、後継を作れなかった。私が積み上げた叡智は何一つとして残らなかった。私は誰かに山の翁を『継承』したかった」

「それが、ししょーの願いですか?」

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 19人目の山の翁、百貌のハサン。

 彼女はその身に秘めし数多の人格の一欠片。

 『()()()()()()()。自らの技能を他者へ伝える事に特化した人格である。

 

「君を山奥で見つけた時は感動した。君が私のマスターとなった時は咽び泣いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 或いは、このマスターこそが聖杯決戦最大のイレギュラーと言っても過言では無かったのかもしれない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私が君を育て上げる。私達が持つ数多のスキルを一身に注ぎ込む。()()1()8()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、君にはあらゆる状況に対応できる最強のハサンになってもらう」

 

 そんな一方的な発言に、マスターたる少年は何も文句を言わない。

 だって、そもそも少年には意思がない。ただ流されるままに山で暮らし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 少年には意思がない。

 少年には意見がない。

 少年には意味がない。

 

 だから、少年はアサシンの事を慕う。

 名前すら持たない自分に『後継』という役割をくれた師匠を。

 流されるままだった自分に生きる意味を与えてくれた師匠を。

 その師匠の為ならば、彼は何だってできる。

 

 

「任せてください、ししょー。()()()2()0()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 第五聖杯予選。

 勝利サーヴァント、アサシン:百貌のハサン(継承のケレート)。

 勝利マスター、山育ちの少年。

 

 

 

 

 

 Irregular_6。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ‼︎‼︎‼︎ と。

 一歩踏み締める度に大地が揺れる。

 大気が軋み、海が荒ぶる。

 

 それは硬い石のようでもあり、流動する水でもあるような不可思議で温かな光だった。

 太陽のエネルギーを無理矢理にヒトガタに押し込めたかのような白いシルエット。

 端的に言うならば、それは()()だった。

 

 魔術協会からの追手も、聖堂教会からの刺客も無視して、巨人は太平洋を()()()横断する。

 ニュースでは異常気象による台風という形で隠蔽された巨人は、神秘の隠匿というルールを完全に破り捨てて行動する。

 

 

「“ア———aaア———アha、aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa———”」

 

 

 巨人の真名はアンタイオス。

 地母神ガイアの息子。

 大英雄ヘラクレスに殺された者。

 後世では、巨人として語られる神話存在。

 

 

 ───だが、それは誤りだ。

 シルエットしか分からないが、彼女の姿は女性であり息子とは言えない。

 

 そして、何よりも。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 其の正体は()()

 或いは急膨張(インフレーション)、離広光体現象。

 地母神ガイアの子供ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 かつて、我が物顔で地球に居座るオリュンポス十二機神を排除する為に、アンタイオスというアーキタイプ:アースは産み出された。

 しかし、その思惑は上手くいかなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その瞬間、肉体という(はこ)を失った事で圧縮された魔力が解放され、光体という形で巨人までに規模が拡大された。

 ギリシャ神話において、アンタイオスが巨人として語られたのはこの為である。

 

 光体とは元のカタチを復元するための形態。

 或いは、より強き個体に新生するための前段階。

 だからこそ、アンタイオスを殺してはいけない。

 彼女は死ぬ度に強くなって蘇生する。その能力を生前から──現在は宝具として所有している。

 

 聖杯予選で何度も殺害されたアンタイオスのパラメータは計り知れない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「わっ、わたしが気絶している間にっ、どんどん大事になってませんかっ!?」

 

 そんな桁外れなサーヴァントに魔力供給するマスターも普通ではない。

 フランスに生まれた、ただのパン屋の田舎娘。聖杯予選に巻き込まれただけの一般人。

 

 しかし、彼女には才能があった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女の名はエレイシア。

 並行世界においては埋葬機関・第七位の代行者であり、この世界においては何処にでもいるただの少女である。

 

 

 第六聖杯予選。

 勝利サーヴァント、バーサーカー:アンタイオス。

 勝利マスター、エレイシア。

 

 

 

 

 

 Irregular_7。

 

 そして、最後。

 全ての聖杯予選が終結した()()、そのサーヴァントは召喚された。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。貴方が、我が(マスター)となりて試練を与えしものか」

 

 現れたのは『偉大なる英雄』。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 召喚場所はそんな神々しいサーヴァントには似合わない墓地だった。

 

「そうだ、アタシがお前さんのマスターだ。よろしく」

 

 対する魔術師は、傷だらけで薄汚い女だった。

 服に煙草の匂いが染み付き、それと共に死霊魔術師(ネクロマンサー)特有の死臭がこべり付いていた。

 彼女は()()()()()()6()()()()()を手中に収め、地べたに座り込んでいる。

 

「……私の参上は少しばかり遅かったか」

「そう卑下するな、セイバー。こりゃ仕方ない。この地は()()()()で、これは()()()によって強さが大きく影響される聖杯戦争だ。サーヴァントを召喚する前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なぁ、()()()()()?」

 

 第七聖杯予選はサーヴァントが召喚される前に終結した。

 理由は単純。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 文句なしの最優。

 聖杯決戦における最強のサーヴァント。

 大英雄ヘラクレスの姿がそこにあった。

 

「それに、本番はこれからだ。力は温存しておいてくれよ」

「どうやら、私は最高のマスターに召喚されたようだ」

「見る目があるじゃねぇか。アタシはお前に相応しい一級品のマスターだと自負しているぜ。なんせアタシは───」

 

 その魔術師は死霊魔術師(ネクロマンサー)とは思えない朗らかな笑みを浮かべて言った。

 

 

「───()()()()()()()()()()獅子劫界離(ししごうかいり)の娘、獅子劫界無(ししごうかいな)だからな‼︎」

 

 

 

 第七聖杯予選。

 勝利サーヴァント、セイバー:ヘラクレス。

 勝利マスター、獅子劫界無(ししごうかいな)

 

 

 

 

 

 勝利者は揃った。

 全員が勝利サーヴァント。

 全員が勝利マスター。

 

 もはや彼らに油断はない。

 相手が誰だろうと油断はできない。

 運だろうが、実力だろうが、敵は紛れもなく聖杯戦争を勝ち抜いた勝利者。

 皆等しく、七騎の頂点に立った聖杯保持者(グレイルホルダー)。この世界の運命を左右させる規格外(イレギュラー)である。

 

「まさか夢にも思いませんでしたよ。世界各地七カ所で行われた聖杯予選、そのどれもでイレギュラーが発生するなんて」

「しかし、特に問題は無いのではないかね?」

 

 そして、決勝戦の舞台。

 聖杯戦争の始まりの地、日本・冬木の教会にてルーラーは告げる。

 監督役である神父──()()()()()()()()に向かって。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 即ち、一番初めのイレギュラー。

 この聖杯決戦は始まりからしてイレギュラーであった。

 

 Irregular_0。

 ()()()()()()()0()()()()()()()()()()()()()

 

 七つの亜種聖杯戦争を連結させたからこそ、ルーラーが召喚されたのではない。それでは因果が逆だ。

 そもそも、亜種聖杯戦争では最大でも5騎のサーヴァントまでしか召喚できない。

 

 まず、亜種聖杯戦争で七度勝利を収め、七つの亜種聖杯を用意する。

 そして、そのリソースを利用してルーラーを召喚し、()()()()()()()を使用する事で超巨大規模の聖杯戦争を成立させる。

 それがこの聖杯決戦の全容。監督役──クラウス・フランプトンが目論んだ儀式である。

 

「ええ。期待していますよ、ルーラー。これが聖杯戦争である以上、貴方よりも強いサーヴァントは存在しない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「期待に応えようぞ。それが汝への報酬だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ルーラーの真名を知らぬ者はいない。

 それはあのヘラクレスさえも超え、世界各地の老若男女に名を轟かせている。

 世界最高の知名度と死すら覆す奇跡を行使するサーヴァント、それがルーラー:()()()()()──()()()()()()()()()である。

 

 それでも、クラウスの顔は晴れない。

 

「……やはり、嫌な予感がします。私の創り上げた聖杯決戦を根底から覆すような、そんな極大のイレギュラーの予感が」

「汝の魔眼は何時から未来視の機能を手に入れたのかね?」

「私の魔眼は()()()のままですよ。義父(ししょう)と同じくね。ですが、魔眼のせいで不安になっているというのは正しいですよ」

 

 クラウスの眼鏡の奥には、宝石のように輝く瞳が収まっていた。

 それは代行者の師匠───カラボー・フランプトンの『泡影の魔眼』と同じく、測定の過去視を行う魔眼。その名も『幻始の魔眼』。

 しかし、彼が持つ『幻始の魔眼』はカラボーの『泡影の魔眼』とは()()()が違う。『直死の魔眼』が虹のランクに手をかけるように、『幻始の魔眼』もまた宝石ランクには留まらない。

 

 

「何せ、私の()()は『()()』。全てを台無しにして、(ゼロ)に帰す事しか脳がないのですから」

 

 

 『直死の魔眼』が究極の未来──“死”を視るように。

 

 『幻始の魔眼』は究極の過去──“起源”を視認する。

 

 自らの掌を見つめる度に思い知らされる。

 この手で誰かを救う事ができない。

 この手で命を繋ぎ止める事はできない。

 この手はただ、世界を破綻させる事しかできない。

 

 だからきっと、聖杯決戦にも致命的な綻びが存在するはずだ。

 クラウスの経験が叫んでいる。お前の想定通りに進んだ事なんてただの一度だってないぞ、と。

 

 そして、クラウスの予感に応えるように動きがあった。

 まず初めに、ルーラーがその()()に気がつく。

 

「……まったく、難儀なものだ。嫌な予感ほどよく当たるというのは」

「何が起こりました?」

()()()()()()()()()()()()

 

 ルーラーというクラスには、『神明裁決』という名のスキルが存在する。

 それは聖杯戦争に参加するサーヴァントに対して命令を下せる特殊な令呪を、全サーヴァントに対して二画ずつ保有するという法外な効果を持つ。

 49騎のサーヴァントが参加するこの聖杯決戦においては、ルーラーは背中に98画の令呪を持っていた。

 

 ……()()()1()0()0()()()()()()

 その異常が示すモノとは──

 

 

()()()()()()()()()5()0()()()()()()()()()()()()()()()()

「───────は?」

 

 

 

 

 

 Irregular_EX。

 

 天羽(あもう)リクは不幸な少年だった。

 これまでの人生が悲惨だったとかではなく(ある意味悲惨でもあるのだが)、そのままの意味で運が悪かった。

 

 警察沙汰は当たり前。道を歩けば頭上に植木鉢やら看板やらが降ってくるし、信号を渡れば飲酒運転の車が突っ込んでくる。傷害事件に巻き込まれた回数は両手両足を使っても数え切れないし、()()()()に命を狙われた事もある。

 路地裏で出会ったエセ占い師の言うことを信じるならば、彼は()()()──生存の為に使われる幸運が極端に少ないらしい。15年生きてこられたのが奇跡だと、占い師には驚かれた。

 

 もちろん、奇跡なんて天羽リクに起こるはずがない。

 生きてこられたのには訳があった。それは彼が生まれつき持っていた()である。

 

 天羽リクには“死”が見えた。

 ──というと、究極の未来視だとか、神様だって殺せる力だと勘違いしてしまうかもしれない。彼の瞳はそんな大層なものじゃない。

 ただ、彼自身を殺そうとする“死”──簡単に言えば()()を可視化する事ができた。

 

 事故が起こりそうな道はうっすらと赤色に染まり、事件を起こしそうな人はその内側から赤色のオーラを醸し出す。

 それを避ける(基本的には避けられないので、巻き込まれる準備をする)事で、彼はか細い生存の道を歩いてきた。

 

 危険に慣れ親しんだ彼は怖いもの知らずだった。

 危険を可視化できる彼は引き際を弁えていた。

 

 ───()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ある日の下校途中、天羽リクは血だらけで尻餅を付いている少女を見つけた。路地裏の暗い奥で倒れているからか、歩く人たちは誰もそれに気づかない。

 彼は親切にも駆け寄り、彼女に手を伸ばした。

 

「きみ、大丈夫かい? 救急車でも呼ぶか、それともぼくが背負って連れて行こうか?」

「…………驚いた。()()()()()()()()()()()()()

「──────え?」

 

 それはドレスの上から黒い甲冑を纏った、見目麗しい金髪赤眼の少女だった。

 もしも、そこに聖杯大戦の勝利者───赤のセイバーが存在すれば驚愕した事だろう。或いは、とあるロードの弟子である墓守りでもいい。

 ()()()()()()()()──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、重要なのはそんな事ではない。

 やっと、()()に気づいた。

 だけど、遅い。遅すぎる。致命的な遅さだ。

 もっと早くに気づくべきだった。もう遅い。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「魔眼……いや、()()か? 霊体化しているわたしを見つけられるとは、かなり高ランクのものか───()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……ぁ、っ⁉︎」

 

 ぐいっ、と瞳に手が伸ばされる。

 避けようとして、体勢を崩す。立場が逆になった。

 天羽リクが路地裏に尻餅を付き、立ち上がった彼女がそれを見下す。

 

「魔術師としては下の下。魔術回路がたった5本しかない上に、質も悪い。だが、眼だけは一級品。……いいか、おまえで妥協してやろう」

 

 …………逃げろ。

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろっ‼︎

 今からでも間に合うかもしれないッ、逃げろッ‼︎

 

 脳に響く頭痛が警鐘を鳴らす。

 ドクドクと心臓が天羽リクを苛む。

 なのに、彼の足は動かない。

 

 そうしている内に、天羽リクの手に彼女が触れる。

 瞬間、バヂィッ‼︎ と右手に(あざ)のような印が刻まれた。

 

「ぁッ、がっ⁉︎」

「それは()()だ」

「…………ッ、れい、じゅ……?」

「おまえとわたしの契約の証。わたしが三度だけおまえの願いに応えてやる。だが、契約の対価として、おまえの魂はわたしの物だ」

 

 それはまるで悪魔の契約のようだった。

 今すぐにでもクーリングオフしたいに決まってる。

 それでも、天羽リクは魂が抜けたみたいに動けない。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 顔が、ではない。

 顔も綺麗だと思うが、それよりも。

 その()()()()に見惚れた。

 こんなに澄んだ悪意(アカ)は初めてだった。

 

 たとえ今日死ぬのだとしても。

 一秒だって長く彼女を見つめていたい。

 

 

「我が真名は()()()()()()()()()()()()。嵐の王、死者の群れの長。アーサー王の一側面、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 笑みを浮かべた悪魔を見上げる。

 おそらく、一秒すらなかった光景。

 されど、地獄に落ちた今となっても、天羽リクはその記憶を鮮明に思い返す事ができる。

 

 

「──決めた。おまえがわたしのマスターだ」

 

 

 その日、少年は運命に出会った。

 

 

 






という話を誰か書いてください。

※この話はガチで続きません。一話だけ、プロローグだけです。
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