第二の就職先はアブノーマリティです   作:サイコロさん

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Prolog 第二の就職先はアブノーマリティです

 

 ────────ガタン、ゴトン……。

 

 何かが降りてくる音がする。

 重々しい荷物を運んでいるように丁寧に、ゆっくりと降ろされていた。

 貨物用エレベーター。しかし、これは生半可な荷物を運ぶようなものではない。まるで檻の中にいる危険な猛獣を刺激しないようにピリピリとした緊張感で空気が支配されていた。

 

(……あー、なんか揺れている? 地震? もしかしてまだ酔っているのか、俺?)

 

 そんな猛獣の檻の中心にいたのは一人の男性。

 彼は眠たげな目を凝らしては、今置かれている状況を理解しようとしていた。

 

(────ああ、かなり酔っているな。少し飲み過ぎたのかも────マジで惨たらしく逝けや、上司さんよぉ……!!)

 

 彼は所謂、上司に無理やりクビにされた身だった。

 勘違いしないでほしいのは、彼は若くしながらも優秀で人当たりが良い社員だった。

 しかし、彼は()()()()()()人間関係のトラブルに巻き込まれた、謂わば被害者である。

 勿論、彼は優秀であるものの若かった。普段はあまり飲まない酒に溺れるほどにはグビグビとラッパ飲み、冷蔵庫を飾っていたワインボトルを次々と空にしていた。

 

 故に、()()()()()()()()()()()()

 

(…………それにしてもこんなに赤かったっけ? 俺の部屋)

 

 檻は約5メートルの正方形の面積で、床も壁も天井もなにやら硬そうな金属製で構成されている。

 薄暗い部屋には申し訳ない程度の赤色のランプが部屋を照らしている。

 彼がうーん、うーんと頭の中にある記憶と部屋の形状を照らし会わそうとすると、

 

『────、────ッ、あー、あーマイクテス。マイクテス』

 

 どこからともなく、誰かの声が聞こえてきた。

 

(ん? なんか聞こえてくるな?)

 

 中性声。男性にしては高く女性にしては低いといった声が狭い部屋に反響する。

 どうやら天井にスピーカーらしき機械が取り付けられていたようだ。

 

『────眠りを妨げてすまない。私は【管理人】という者だ』

「管理人? ……ああ、よろしくな?」

 

 彼は声の主は何者なのか、【管理人】と名乗っていること以外全く分かっていない。

 肝心の彼はこのピリピリとした緊張と厳重な警戒心ので構成された重苦しい雰囲気をいまだに把握していなかった。

 あるいは今も尚、酒に酔っている彼の脳では、この異常に気づけなかったのか。

 

『早速で悪いけど、一つ質問させてほしい』

「……? まあ、答えられる範囲内なら大丈夫だけど」

『そうか。ありがとう』

 

 寝ぼけながらも反応していく彼。

 とにかく活動していない酒浸けの脳に鞭を打っては、現状を理解しようとするものの、先に口が動く。

 

『では、問おう』

 

 やがて寝ぼけた脳はようやく目覚めて、現状を理解し始めようとする。薄々この部屋の異常性に気づきつつも、彼は反射的に口が動いた。まるで前からわかっていたかのように。

 

 

『【T-00-00】、君は我が社になにをもたらす?』

 

 

 既に答えは出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の種シナリオ再開

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………なにこれ?」

 

 先程の若い男性は現在、困惑の真っ最中。

 まず赤暗く狭かった金属製の部屋から打って違い、白いLEDの光に包まれた部屋でポツンと立っていた。

 まず彼が周りを見渡して見れば、オフィスとかにありそうな背の高い観葉植物、向かい合った二台の青いソファー、ソファーとソファーの間には低めの木の横長い机。また机の上には電源が付けられている持ち運び可能のノートパソコン。此処を表現するならばリビングだろう。

 奥にIHコンロや流し台、ぶら下がっているフライパンや調理器具が入ってある棚、まさしく必要最低限の設備が備えられていた台所。簡易的な料理なら作れるだろう。

 壁には二つの扉があり、一つは洗面台とトイレにシャワー付きの風呂(脱衣所あり)等の浴室。

 もう一つは大きな黒のシングルベッド、空っぽな本棚に壁掛けライト、勉強机に高級感溢れるオフィスチェア、ここは────寝室だろうか。

 

(…………とにかく、まとめよう)

 

 長ったらしい内装チェックを終え、ざっくりまとめる。

 ①今居る場所はリビングっぽい広い部屋。

 ②一つ目の部屋はシャワー付きの浴室。

 ③二つ目の部屋は大きめの寝室。

 ④結論、ちょっと大きくなった俺の部屋。

 

「……」

 

 彼は黙る。

 そして考える。

 そもそも彼の家はマンションであるが、こんなに大きくもなければ綺麗さもない。なんならゲームがないので絶対に自分の家ではないのは一目瞭然。

 しかしこの家具の配置、自分好みの照明器具、さらには子供の頃から座ってみたかった社長椅子、間違いなく自分の部屋だ。

 

(とりあえず、目の前にあるものを片付けるか)

 

 現在進行形で存在感を発しているノートパソコン。

 そこ彼は近づこうとする。

 

(……あれ? なんか違和感がある……?)

 

 一歩踏み出す。

 そんな当たり前な行為にさえ、違和感の念を抱いてしまう。

 そう。ようやく彼は違和感に気づき始めた。

 

(いや、待てよ……)

 

 違和感。

 彼はこの違和感が、この部屋に対してのだと思っていた。

 しかし違う。

 そもそも彼は周りを見回しただけだ。

 文字通りの意味で、彼は辺りを見回しただけで()()()()()()()()()

 

 

 なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そこからの彼の動きは迅速だった。

 彼は何故か見えた浴室への扉へと駆けようとするものの、

 

(────────ッッ!??)

 

 勢い余って壁にぶつかる。

 「ガシャンッ!!」と金属性の扉が悲鳴を上げるが、彼に痛みは────ほとんどない。

 壁や彼に目立った損傷は無いけど、同時に自分の体が明らかに()()()()していることが判明してしまった。

 

 それでも藁に(すが)る気持ちで水面台へ向かい、そこにある鏡でようやく彼は自分の姿を確認できた。

 

「ッ、なんだこれは……!?」

 

 それは人間(ヒト)を模した()()だった。

 いや、もしも自分があの異常性を知らなければ、違和感を抱いていなければなんらかのコスプレだと一蹴していたに違いない。

 

 第一印象としてはまるで西洋甲冑、彼の身体のほとんど覆う漆黒の鎧。 

 頭は騎士の兜を模した形で、一本の細い横線の穴から不気味に輝く緑色の双眼がギョロりと覗けば、泣く子も黙るだろう。

 手足の爪は刃物のように鋭く、肉食獣を連想させてくれる。

 

「この……SFチックさを感じさせるような、半人半機械のエイリアンっぽいやつは……てか無駄にカッチョいいなオイッ!」

 

 思わぬ事態に戸惑う彼。

 しかし、戸惑っているのは己だけではなかった。

 そう。この異常事態(イレギュラー)に……。

 

 

 

 

 

 狭い部屋を光らすのは壁一面を埋めるモニターの青い人工光。

 薄暗い部屋には机と椅子が置かれており、あとはモニターを操作するためのキーボードのみの殺風景な内装の小部屋。

 

 管理室。

 会社を運営するために必要不可欠な場所。

 人体で例えるならば頭であり脳でもある。いや、この会社においては間違いなくこの表現が正しい。

 

 そんな管理室には一人、いや正確には()()というべきか。

 モニターの人工光を反射し美しく(なび)く空色の長髪、その一部を赤い髪飾りで結んだワンサイドアップ。

 日光に触れていないのか、それは自然に作れない美しくて生気を感じさせない白肌。

 常に瞑っている両目。メリハリの効いた蠱惑的な体つき(スタイル)

 赤ネクタイと黒スーツ、その上に白衣を着た傾国の美女。

 

 彼女の名前は【アンジェラ】。

 人の手によって造られた存在でありながら、最も人間そっくりの見た目で世界最高峰の人工知能であり「感情」を理解している無二の存在。

 彼女の役割は「【管理人】のアシスタント」であり、数多の【管理人】をアシスタントしてきた彼女からすれば、下手な【管理人】よりも遥かにいい管理ができる。

 

 しかし彼女の役割はあくまで「【管理人】のアシスタント」。

 過度な干渉は【管理人】の為にはならない。

 【管理人】の疑問に応える事やパニックになった際、あるいは未知のイレギュラーの対処する際のアドバイスが彼女の役割。

 

 現在、【管理人】は今後一緒に苦楽を共にする他部署に挨拶しに外へ出かけている。

 普段の彼女なら部屋の中でじっと立ちながら【管理人】が帰ってくるのを待つ、はずだった。

 

「……」

 

 彼女を知っている者からすれば驚くであろう程には目を見開き眼孔を開く。

 月と見間違えるような金色の瞳が、今ばかりは開かれていた。

 モニターに接続されたキーボードを慣れた手つきで打ち込み、無数のモニターの中から一つの画面に注視させる。

 

 ちょっと高級そうなオフィスビル。

 人が住むなら最低限どころかかなり良い設備が充実している。

 

 そんな一室には人ではない何かが居た。

 それを表現するとしたら「西洋甲冑」の一言が合うのではなかろうか。

 しかし、それはまるで肉体と鎧が一体化しているかのような見た目や人間じゃないものが人間らしい立ち振舞いは不気味さを感じさせる。

 ロボットである彼女の方が、まだ視覚的に比べれば人間に近い。

 

「…………」

 

 本来、機械は感情を発しない。

 しかし彼女は唯一「感情」を理解し得た人工知能。

 無言から発される静寂は居心地悪く、今の彼女に声をかけようとすれば視線で殺されて怪物の餌にされるだろう。

 

 それまでに、彼女は(あらわ)にした。

 ダムの水が放出されるように、溜め込んだ何かを吐き出すように、心の底にこびりついた鬱憤を吐露するように、彼女はいろんな感情が混じった視線を八つ当たり気味にモニターに映る怪物へとぶつける。

 

「…………………………」

 

 彼女の心中は誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして誰もが気づかなかった。

 既にこの世界は壊れていることに。

 あるいは()()()()ならば気づいているのだろうか。

 

 頭上で操る糸は千切られた。

 戯曲の楽譜は塗り潰された。

 舞台裏の囁き声は遮られた。

 

 此処からは誰も、私さえも予測できない。しかし見届けることだけならば誰だってできる。

 

 さあ、物語の始まりと君の瞳に乾杯でもしよう。 

 彼らの幸先が良いものでありますように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、パソコンの秘蔵フォルダ消し損ねたァアーーーーッ!!」

 

 …………うん! ワインがうまいな!




 主人公のイメージはチェンソーマンに出てくる武器人間(騎士か鎧)みたいな感じだと思ってください。
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