目が覚めたら甲冑になっていました。
それが俺の一覧の行動をざっくりと一言で表すとしたら上の一文が確かだ。
現実離れなこの現状に、認めたくなくても認めざるに負えない彼は現実逃避していた。
(あーーー。やべー、まだローンを払いきっていないんだが、それと新しい職場を探さないといけないんだけど? 待て、早まるな俺。ワンチャンこの高層マンションの一室っぽい部屋はもしかしたら俺の物かもしれないぞー)
想像してほしい。
目が覚めたら化物になっていて、謎の一室に転移されていた。
(とにもかくにも、ひとまず自分を確かめよう。……何言ってんだ俺?)
自分で言っていることを自分で疑うという矛盾。
もう家族や同僚に自分の性癖がバレるとなった今、俺のSAN値は0、発狂寸前。まだ正気を保っていることに俺自身が疑っている。
「まずは試してみるか」
心機一転。
過去はもう過ぎ去ったこととして、己のことを知ろうと行動する切り替えの早さが、前の会社で優秀だと言わせていた片鱗を示してくる。
「身体能力は先程嫌でもわかったが、口は────おっ、開いた」
鋭い三角形と逆三角形が噛み合ったデザインの面頬、それがゆっくりゆっくりと開き、鋭い剣山のような歯と歯の奥から細く長い舌が出てくる。
「もう完全なエイリアンだろ!? 幼い頃見たら
あーだこーだと自分の体を弄くりまわしては、一人漫才を早数十分。
「…………疲れた」
青いソファーに背もたれ、だらけることにした。
説明がつかない己の生態に、頭が一旦パンクしかけて疲労困憊の身となる前に休息を取ることとする。
(────────まとめよう)
(俺が部屋を見通せたのは『千里眼』らしき能力、見ようとしたら扱える感じ。また扉とぶつかった際の音からして『耐久力』もずば抜けているのか? 音が人間が金属製の壁にぶつかった音じゃないのよ。最後に────────)
そうして己の右手を突きだし、再び念じ始める。
空に描かれるのは白色の幾何学模様、ルーン文字に酷似した記号、知らない言語、そしてそれらを囲むような円の軌跡。まるで空というキャンパスに絵を描くように出てくる。
白の魔法陣が展開された。
「
白の魔法陣から武器が登場する。
ハープを連想させる白の大弓が二双、空中に漂いつつ守護霊のように彼の後ろを付いてくる。
(この『武器生成』っぽい力。威力はわからないけど、使い道はあるのか?)
わからない。
とにかく片づけてみよう。
なんか消えた。
(……………………なにこれ?)
一旦俺の今までの行動を振り返ってみれば、
·クビにされた腹いせに自棄酒。
·謎の赤い部屋で連行。
·目が覚めたら甲冑。
·口が怖い。
·なんか出た。
·家族に性癖(強制)カミングアウト。
もう俺、喚いてもいと思わない?
「……そういえば、おかしな点があるんだよなー」
『千里眼』を扱い、もう一回自室を全体像を見てみるが────うん。やっぱりおかしい。
「窓がない」
そう。自室の内装を100%再現しているこの一室には窓がない。
扉も寝室や浴室を除いて、外への出入口は、
てか、この身体妙に熱いんだけど? 誰か空気の入れ替え、クーラー点けてくれー。
「この、如何にも硬そうな鉄のドアがねー」
コンコンとノックしても開かず、ちょっと強めに小突いても開かず、「お前も家族になるんだよー!!!」とファミパンして、ドガンッ!!と明らかな鉄球クレーン車の鉄球がコンクリートの建物にぶつかった際に聞こえる破壊音が響く。
音が音であれだが、まあ怪物になった弊害と割りきるしかないな。
「────~~~~ッ!! いっ──たくなぁい???」
痛覚すらマトモに働かない、いや天井突破している『耐久力』の前ではたかが鉄扉に全力で殴った程度では傷一つつかないのだろう。
「万事休す、か……」
脱出不可能と無意識に悟った俺は、キッチンに備え付けられている設備を再確認する。
えーと、包丁にフライパン、冷蔵庫を開けば空っぽでコーヒーメーカーと紅茶セット等々、…………うーーん。あれだ。
ひとまず器具だけは準備しました、って感じだ。
はぁー、せめてあのゲームだけは用意してほしかった。あともう少しでクリア出来たんだよな……。
(他にも調べれる物ないかな……ん?)
すると先程の鉄扉から何か聞こえる。
耳を澄ましてみれば、カツンカツンと規則正しいリズムの足音が聴こえてくる。どうやら人が近づいているらしい。
(────────人? いや、俺と同じ人型のバケモンの可能性もミジンコレベルに存在している。とにかく営業の心得その一「人間は見た目なんだよ……(悲しい現実)」を信じて────アカン! 俺の見た目R18Gレベルのグロテスクやった!!)
夢に出たらトラウマランキング堂々の一位を冠する西洋甲冑の悪魔が、此処に来て初めてのコミュニケーションにコミュ障並みに同様している。クソッ! こんなに焦ったのは大学の入試に遅刻しかけた時ぐらいだぜッ!
時間は残酷なまでに過ぎていく。
焦る俺なんかを無視し、足音が近づいてくる。
そして無情に鉄扉からノック音が二回、もう腹を決めるしかない。
(かくなる上は────
勢いに身を委ね、脳が受け取った情報を口へとただただ流す機械と化する。
まさにプレゼン前の緊張感、営業マンなりの戦闘態勢に入った瞬間、鉄扉が上下に開いた。
(────────────────────────は?)
驚愕。
俺の思考は埋め尽くされた。
鉄扉が上下に開いた、そんなギミックに驚かされた部分もあるが、どうでもよくなる程には衝撃を受けた。
(────────人形?)
不自然なまでに美しく、そして
人間としては、あまりにも人間ではなくて。
精巧な人形の方が納得できる。少なくとも自分を見てなんも反応をしないのは流石におかしい。
感情を抑えている、とかそういう次元の話ではない。本当に感情そのものを抜き取られたかのような立ち振舞い。
綺麗で滑らかな絹を連想するような白めな銀髪。
紅玉を嵌めたかのような無機質で冷たい赤い瞳。
淡雪のような柔らかく冷たそうな白肌はシミ一つ存在せず。
あまりにも人間味がない
そんな失礼なことを思ってしまう程に、彼女は見目麗しかった。
「……! あっ、すまん」
「…………」
背丈は俺より低い────ざっと170前後。
扉を塞がる形にいた俺が退けば、彼女はうんともすんとも反応をしないまま、手に持っていた掃除道具でテキパキと掃除し始めた。
「…………」
「…………」
無言が場を制圧する中。
甲冑はそのまま彼女に視線を向ける。
(いや待て待て待て待て。本ッ当に彼女は人間なのか? もしかしてあれか? 精巧に作られ過ぎた自立型人形じゃないか? ほら、あまりにも……)
明らかな化物と一緒に居るのに、何の驚きも、恐怖も、好奇心も、感情の欠片そのものが見当たらない。
すると、彼女のポケットから何か落ちる。
一冊の古びた黒色のメモ帳。
大きすぎず小さすぎない丁度いいサイズ。
謎の染みで汚れている表紙、
「…………!」
「ほら、落としましたよ」
両手塞がっていた彼女の代わりに拾う俺。
これで話し合う段階まではこれた、あとは話題だが────これは、質問でいいだろう。
「ああ、申し遅れました。自分は────………!??」
「…………?」
話そうとした直後、自分の名前が思い出せないことに気づく。
まるでノイズがかかっているように、故意に名前が隠されているようだ。
「…………?」
「おっと、すみません。どうやら記憶が……名前だけがどうにも思い出せなくて…………」
「そう言えば
「…………」
「ん?」
「…………」
訴えるような視線なのか、ビー玉のような目が俺を────正確には、手にある日記帳を見てくる。
「これは失礼」
「…………」
俺はいっこくも早く、視線から逃げるように日記帳を手渡そうとする。彼女の白魚みたいな長く細い指が伸びてくる。もう彫刻ではなかろうか?
ふざけたことを考えたせいで、手を滑らして互いの手が触れてしまう。
「あっ、やべ」
「…………ッ!?」
手に触れた、その時だけ彼女はようやく反応してくれた。
(……)
だが、これが恋の始まりという生易しいものではないことは俺自身がよく知っている。
俺は今、騎士甲冑の怪物となっている。そんな気色悪い怪物になっているのだから、触れただけでも気絶寸前なんだろう。
よくよく思い返してみれば、彼女は俺に関心を持たないように行動をしていたのでは? だって明らかに脳を弄くられたような冷酷さも、俺という怪物を無視しようと頑張っていたのでは?
……あれ? なんか泣けてくるぞ?
「……! ……!」
一方、彼女自身は俺に触られた指をじっと眺めていた。
安心して、多分人体に害はない(と思う)。
「…………」
「? それは……?」
すると彼女自身が手を差し出す。
まるで「握手」のように……。
(彼女自身が望んだ行為ならばやるのがいい。しかし俺が彼女に触った場合、害はないのか……)
俺が悩んでいると、彼女は強引にも俺の手を引っ張り出した。
「わ、わかった。これでいいか?」
俺が自身無さげに差し出した甲冑の手を優しく包み込むように、指と指を絡むようにゆっくりとじっくりと長い長い握手をしてきた。
「…………!!!」
彼女は泣いた。
喚き声もしない、ただ涙を流した。
「ちょっ!? えーーあんさん! 何してはるっか!」
「…………!!」
場を和ませようとした芸、下手な関西弁で語る俺を尻目に彼女は泣いていた。
彼女は……いや、そう言えば名前らしきものはあった、一か八か呼んでみることにしてみる。
「いや、
「…………!」
俺がミウを呼ぶと、彼女は耐えられなかったのか部屋から逃げるように飛び出した。
わからない。もしかして知らない怪物に名前を知られた嫌悪感と恐怖から逃げたのかもしれない、けど……
(なんとなくだが、呼んであげるのが良かった気がしたんだよな……)
とりあえず、彼女の忘れ物である掃除器具を片づける。
(……ん?)
そこには、謎の腕章が落ちていた。
英単語のOの中には脳で満たされ、ぶっ指すような形で英単語のLのデザイン、シンプルなイラストであり、とても見覚えがあった。
「…………………………………は?」
いや、見覚えしかない。
これは俺がやっている
「
ようやく、気がついたね。
ここからが、本場だよ。
定期投稿がムズいッピ。