「そういえばすずって昔はしょっちゅう変身してたわよね」
ある昼下がり、桃とシャミ子ちゃんとミカンちゃんとの四人でまったりしていた時。ファッション誌を読んでいたミカンちゃんがふとそう呟いた。
魔力外装……確かに昔はやってたけど……。
「えっ!? すずさんも変身できるんですか!」
「まあ一応……入院してたしもうずっと変身してないんだけどね」
自分の魔力外装は元々ミカンちゃんの呪いで怪我をしないようにと桜さんと考えた防御用の姿だ。
だからもう呪いは無くなって、守りを固める必要は無いんだから変身する理由はないんだけど……。
「どんな姿なんですか! カッコイイやつ!?」
シャミ子ちゃんがめちゃくちゃ食いついてきてる。
危機管理フォームっていうシャミ子ちゃん姿も変身できると桃から聞いたし、親近感とか好奇心なんだろうか?
そんなにカッコイイものでもないんだけどな……。
「どちらかと言えば可愛い系よね」
「そうだね、すずは鳥系のまぞくがルーツだからもふもふなやつだよ」
「もふもふ! 見たい!」
興味津々なシャミ子ちゃんの興味をさらに煽り立てるようなことを二人は言う。
「ほらすず、シャミ子が変身をご所望よ?」
「いざって時に変身できないとすずも困るよね、これもリハビリだよ」
「もうミカンちゃんの呪いも無いからいざって時は無いと思うんだけど?」
「あるよ。もしかしたらすず個人を狙ってる魔法少女も居るかもしれないし、その場合だと姉の結界が無いところだと守り切れない」
そういえば、リコさんを追って来た紅玉さんは二日間桜さんの結界が無かっただけで居場所を突き止めたと聞いた。
もし……もしあの時自分を襲った魔法少女がもう一度自分を狙ってきたとして、その時に自分はあまりに無力だと。
そう言われてしまったら、多少不本意でも変身のリハビリは確かに、する他ないのかもしれない。
「わかった……変身、するよ」
──
そんなこんなで説得されてしまったこともあり、四人で外に出て来ていた。
自分の魔力外装はそこそこサイズがあることもあってばんだ荘の部屋の中では狭い、というか床が抜けてしまう可能性もあるからという桃の判断だ。
流石にそこまで重くはないと思うんだけどな。
「その、シャミ子ちゃん。結構恥ずかしい恰好になるから笑わないでね」
「笑いませんよ、もふもふは恥ずかしくありません」
事前に予防線を張る言葉にシャミ子ちゃんはそう返す。
そう言ってくれるのは嬉しいけどもふもふへの期待が隠しきれてない。
桃もミカンちゃんも後ろでカメラを起動したスマホを構えて待ってるし。恥ずかしい写真を撮る気満々だ。
それでも、言ったからには覚悟を決めるしかない。足を肩幅に開き、両腕を羽のように広げる。
「や……やわらか着ぐるみフォーム!」
気合を入れるためのかけ声と共に魔力が全身を包むようなイメージで形作っていく。
着ぐるみのように厚めに、柔らかい系の防御力を意識して……。
体に纏わる魔力がだんだんと物理的な形に変わる。足、腕、胴体、そして最後に頭まですっぽりと覆われて変身は完了する。
「変身タイムジャスト十秒ね」
「やっぱりブランクあるね、昔はもうちょっと早かったかな」
なんて冷静に分析しながらも二人のスマホからのシャッター音が隠せていない。
今の自分の姿は簡単に言えばずんぐりむっくり体型な黄色い鳥型のマスコット。ゆるきゃらと言われても通ってしまいそうな着ぐるみ姿だ。
既にこれを知っている二人がこれなら、シャミ子ちゃんの方はというと。
「もふもふ……! 触ってもいいですか!」
「い、いいよ……」
目をキラキラさせてこちらの姿を見るシャミ子ちゃん、興奮で動く尻尾が隠せていない。
この姿ではほとんど動けないので、胴体とか触られるとちょっと困るからほとんど何も掴めない形状になっている手を先に差し出す。
「おおぉ……」
ぽふぽふと感触を確かめるように触るシャミ子ちゃん。ちなみに防御用フォームだから触られてる感覚は無い。
衝撃や攻撃を防ぐ為に、基本的に外からも内からも触覚の類はシャットアウトされるようになっているので、実は結構不便だったりもするんだけど。
「どう……?」
「おぉ……もふもふ……というよりふかふか……? 羽毛布団を濃縮したみたいな感じです……!」
「その上で寝ると気持ちいいよ」
「えっ桃、昔はすずさんと一緒に寝てたんですか?」
「そこは引っかからなくていいから」
そういえば、昔は魔法少女の活動で疲れちゃった日なんかは抱き枕代わりにされたっけか。
あの時の桃の寝顔、可愛かったな。
「……あれっ?」
「大丈夫ですか!?」
突然体の力が抜けて倒れてしまう。
痛みは無い、そこは防御用フォームなのでそのくらいではダメージはない。
でもこの感じ、もしかして。
「ま、魔力切れみたい。やっぱりこっちもリハビリが必要かも」
昔は本当に最初の頃しかこんな事無かったはずなんだけど、やっぱり筋肉と一緒で魔力も使っていないと衰えたりするんだろうか。
なんて考えながらひとまず立ち上がろうとして体に力を入れるものの、このずんぐりむっくりな体ではどうやってもごろごろと転がることしかできない。
「桃、ごめん。起こして……」
手をぴこぴこと動かして、桃に助けを求める。
着ぐるみフォームの大きな欠点、それは自分で立ち上がれない事。
それだけは体が大きくなっても、据え置きだった。