猿展廻戦   作:NHM

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猿展開戦 外伝 SONOU

 「どう行きゃいいんだよ!」

 

 少年院での特級案件、それにより虎杖悠仁が死亡してから数日後。釘崎野薔薇は人里離れた山の奥にいた。と、言うのも前日の任務で疲れ切った野薔薇に五条から

 「生徒のみんな〜!姉妹校交流前に例のコト、やるよ〜!と言うわけで以下の場所に集合!追伸、着替えは各自持ってきてね〜」

 といった絶妙にイラつく文面のLINE送られてきたためだ。

 

 だがよりにもよってその場所がイノシシやタヌキくらいしかおらず、最近鬼熊の被害報告すら出ているような山の奥であり、その上途中でスマホが圏外になりガイドが機能しなくなり何度か道に迷っため早くも釘崎は堪忍袋の尾が切れ、そしてその次の瞬間…野薔薇の影がより大きな影に包まれ不思議がり背後を向くと…そこには鬼熊が居た。

 

 「う あ あ あ あ!お…鬼熊が山を練り歩いてる」

 

 そう言い終わるが早いか釘崎は愛用の武器を懐から取り出して釘を腹に打ち込もうとし…ぬるりとした感覚が先端部から伝わった。次の瞬間に打ち込まれたの体はぐらりと横にずれ、熊の体に埋もれてよく見えなかったのだろう、その躯体を被っていた一人の男が姿を表した。

 

 その体とそこにみなぎる呪力はその身長や筋肉のつき方、そう言ったあらゆる要素が格闘戦に適応されているとしか言えず、彼女の脳裏に緊張を走らせるには十分であった。

 

 「ったくいきなり攻撃かい、血の気の早い生徒やで」

 「…術師は常在戦闘だろ」

 「ククク…その通りやな。まっそれくらいの方がええやろ。とりあえず五条から紹介されとるやろうから必要ないやろうが、一応自己紹介させてもらうで。ワシは灘・真・神影流当主宮沢熹一や!」

 「あの…私なんも聞いてないんですけど…いいんスかこれ」

 「えっ」

 

◆◆◆

 

 鬼熊を背負っている熹一に案内してもらい漸く辿り着いた場所にあったのは比較的新しそうな一つの道場と、その周りの原っぱでピッチングマシーンのボールをひたすら体に受け続けている真希、大岩にただひたすら勢いよく拳を当てているゴリラモードのパンダがいた。

 

 「じゃーん!これが高専と灘神影流の合同訓練!体術強化合宿や!」

 「体術強化合宿?」

 「せやっ!基礎的な体力やら体術の強化目的で大体五年くらい前からやらせてもらっとる。メインは各々にあった灘神影流の技の習得訓練とたまにワシとの組み手。レベルによっては簡易領域とかも教えてやるわ」

 「ふーん、それがあれ?」

 「そうや。例えば真希ちゃんの場合は眼鏡がなくても避けれるよう弾丸滑りって言う当たってから避ける技習得目的やね。

 パンダくんはゴリラモードの内部破壊の制御のために塊貫拳って技の特訓。狗巻くんは朝昇のツテで黒竜寺に行かせてとるわ」

 

 そう言われた野薔薇が目を凝らすと真希のジャージには所々に穴が空いていて、またパンダの手にもほつれができていて彼らがその修行をいかに長く行ったかが感じられた。

 

 「っし!やるかあ!…そういや伏黒は?」

 「道場のなかにおるで。とりあえず野薔薇ちゃんもそこで訓練してもらうことになるからワシがこの熊の解体してる間に荷物をおいて動きやすい服装に着替えといてくれや」

 

 そう言われて野薔薇が入ったなかでは古典的な昭和の漫画にありがちなバネで動きを再現されつつサンドバッグに蹴りを入れている伏黒がいた。

 

 「あ…あんた何やってんの」

 「…パワーちゃん3号」

 「え?」

 「だからパワーちゃん3号だよ!」

 「おーっもう準備終わっとるやん。せやったら早速始めるか!灘神影流トレーニングの開始や!」

 

◆◆◆

 

 「何よっ!これっ!」

 と、釘崎は悪態をついていた。彼女の体がバネで壁につながり相当力を入れなければ動けなくなっている。そしてその状況で数メートル先まで移動しサンドバックに基本的な蹴りや野薔薇の場合トンカチを叩き込む、といった訓練を数時間行っていた。その過程で力を抜き壁に激突した回数は数知れず、疲れ切ってしまっている。

 

 「何って…パワーちゃん3号やん。確かに見てくれはチョウ悪いけど基礎的な身体能力を鍛えるにはええんやで。それに見た感じ伏黒くんも野薔薇ちゃんも体力とか馬力が足りとらんみたいやし技の方も術式で結構あるんやろ?せやったらまずは基礎中の基礎、体力固めからや」

 

◆◆◆

 

 「なんじゃあこの食事は」

 

 野薔薇がノルマの関係で伏黒よりも長時間の訓練を終えた先で待っていた夕食、そこには野薔薇と出会っていた時に狩っていたのだろう熊肉でできた鍋(味のクオリティは聞くな、ワシはめちゃくちゃ機嫌が悪いんや)と熊の生き血が食卓に並んでいた。そしてその食事を先輩方と伏黒、そしてキー坊が死んだ目をして貪っている。流石に田舎とはいえ最低限のインフラは整っていた野薔薇の故郷よりも遥かに野生的なその食事に野薔薇は面食らった。

 

 「うまいから喰うんやない。生きるために喰うんや。それに血はビタミン、ミネラル、タンパク質が含まれる完全食なんやで。もちっとリスペクトしてやれや」

 

 

◆◆◆

 

 「これってなんの役にたつのよぉ」

 さらなる修行、翌日の早朝からの滝行を行っている釘崎の壮絶なセリフである。なお流石に釘崎は女子であるため五条から勝手に彼女の部屋から送られてきた水着を着用している。(そしてそのことをのちに知った野薔薇曰く、五条よ死ね!)その隣で伏黒は気を保っているのかいないのか、微動だにしていなかった。

 

 「昔っから滝行は精神修養の定番やん。後ワシも最近知ったんやけど五条曰く呪術的にはしっかり意味がある訓練らしいで。なんでも精神統一による呪力のキレの向上やらの効果があるらしいわ」

 

◆◆◆

 

 「あったけぇ〜、焚き火とうさぎ最高だわ」

 「脱兎は数を出せるからな。こう言う風にあったまるのには最高だ」

 

 二年生の方を見に行くため一時的にキー坊が道場へ戻ることになり、その間一時休息を与えられた彼女たちは焚き火に温まりつつ追加で伏黒が召喚した脱兎を毛布がわりにしてあったまっていた。そうして幾分か身体に熱が戻って来た頃、背後で草が揺れる音がし、呪力を感じないため獣か何か思い背後を振り返った。

 

 そこに居たのはキー坊と比較しても遜色ない体格の白髪、そして上半身は何も身に纏わず下半身には袴を履いていて、その古典的な和風のイメージとは正反対に現代っ子の野薔薇とも遜色ないような最新型のスマート・フォンを袴のポケットに突っ込んでいる老人だった。しかしながら彼の最も特異な点はその呪力の性質だった。

 

 まるで自然と同化しているかのようなそれは、フィジカルギフテッドでもないのに数メートルと言う至近距離で視覚で認識することで漸く感知できるものだった。

 

 「伏黒…」

 「ああ」

 

 それを感知した彼女らは釘崎はいざという時のために持ってきておいた釘とトンカチを、伏黒は手印を構えすぐにでも戦闘に移れるような体制をとった。そんな膠着状態が幾許か経過した時、その緊張と不釣り合いな山鳥の声が響く。刹那、老人の雰囲気がガラリと変わる。

 

 「許せなかった…!」

 

 その一言を皮切りにその男が野薔薇と伏黒へと攻撃性を滲ませながら歩みを進め始める。進行に呼応するように暖を取るために用いていた脱兎が無数の数へと分裂しその男の視界を塞ごうとした…

 

 「灘神影流、鷹鎌脚!」

 が、その男の蹴りの一閃で蹴散らされる。まるで鷹の爪のように鋭いその一撃は脱兎の壁を破壊してもなお余り、彼らの肌に鋭利な刃物で皮を斬られたような傷をつけるに至った。

 

 (灘神影流!宮沢さんの関係者か?いやそれよりもこいつは…強い!おそらく少年院の呪霊(特級)よりも遥かに!)

 

 「釘崎!宮沢さんのとこまで逃げるぞ!」

 「…ええ!」

 

 少年院での遁走、それに連続しての逃走という選択肢を選ばざるを得ないのは彼らの自尊心をひどく傷つけた。だがそれを選ばざるを得ないほどの隔絶した差が彼我にあることを理解した故に逃走の選択を選ぶ。

 

 そして脱兎が稼いだ一瞬で呼び出した玉犬に無理やり自分と釘崎を乗せると即座に玉犬は駆け出した。しかしながらオートバイに匹敵する玉犬のその速度を持ってしてもなお依然として老人と離れることはなく、寧ろ空を蹴ることで三次元的な動きをすることで寧ろ近づかれてすらいた。

 

 だがその動きの唯一の弱点、それは空にいるときは直線的な動きしかできないこと。それを既に見抜いた野薔薇は釘を、そして伏黒は背後に回り込ませた鵺の雷撃により突かんとした。そしてそれは確かに直撃する軌道であり、老人の身体にその雷速の一撃が当たるのは必然そのものだった。

 

 「灘神影流弾丸滑り!」

 「なにっ!」

 

 その雷撃を滑らせて目の前の釘に当て弾く、そんな条理を無視した動きで無効化すると伏黒たちの目の前へと着地した。咄嗟に玉犬の爪が振るわれたが山王の上半身がブレるかのように見える動きで回避されると技ですらない突きの二連撃で伏黒と野薔薇は戦闘不能に追い込まれた。最早自らの敗北は決定的であり伏黒は死を覚悟し今にも魔虚羅(切り札)を切ろうとした…

 

 「おーっ、随分とやんちゃしとるのぉ。尊鷹。ワシの弟子にやっとん んねん」

 

 そしてその寸前、灘・真・神影流当主、宮沢熹一が姿を現した。

 

 「熹一か、呪術高専と提携して弟子を取ったと聞いてな。その実力を少し見るために手合わせしてやろうかと思った。せっかくだから実戦のフリをしてみた」

 

 「…いや連絡の一つは入れろや。とりあえず手当するから伏黒くんたち道場連れてくわ」

 

 そう言ってキー坊たちに背負われて道場に帰り、布団の上に寝かされた野薔薇たちは尊鷹の打ち込み方が良かったのかものの1時間たらずで動けるようになった。そして時を同じくしてしれっと付いてきた尊鷹が何やら料理をしていたのか美味しそうな匂いが道場の中に充満し始める。その匂いに釣られて野薔薇が起き上がってくるとそこには見ただけでわかる綺麗に盛り付けられた料理が並んでおり、思わず野薔薇が箸をつけた。

 

 「え…何これ、うっま。お代わりある?」

 「ああ、いくらでも食べるといい。花御から害獣の肉をもらったはいいが食べきれなくてな。遠慮せず食べなさい。後今時の若者がWi-Fiもない環境は辛いと思ってな。Wi-Fiが繋がるようにしておいたぞ」

 「感謝します」(ガシっ)

 そう言って野薔薇は思わず尊鷹に握手した。

 

 

◆◆◆

 

 一日の修行が終わり野薔薇が布団に潜りながらSNSを覗いていると…

 

 「スタ◯の新作フラペチーノはやはりハズレがないな」

 と言う文面とともに深山幽谷という言葉が似合うような山奥でフラペチーノを飲む尊鷹の写真がアップされていた。

 

 「どんだけヤンチャやねんあの爺さん!」

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