白色の壁。白色の天井。『木』でできたフローリングの床。『清潔』なベット。『ゆっくり』と動く時計。『シミ』一つない服。『埃』もない『綺麗』な部屋。
「マリア」と呼ばれることが多い私は、この空間で生活している。
チクタク、チクタクと時を刻む時計と、スピーカーから流れる機械音声だけが、この部屋で私に影響を与えるものだ。
いつも通りの時間。正しく、正確に、1秒の狂いもなくゼロを示す。
午後5時ちょうど。いつも通りの声が聞こえる。
「オツカレサマデシタ。マリアサン。ツギハベンキョウノジカンデス。」
今日も、ノルマの運動を終えて、機械音声から次のノルマを待っている。
運動の次は勉強の時間だ。
私はこの時間が一番好きだ。機械音声が話すお話はとてもおもしろい。
お姫様を助けるために『苦難』を乗り越える王子様。
『家族』の病気を治すために『危険』な冒険に出る男の子。
『間違った』道へ進んでしまった『親友』を救うために動く女の子。
それぞれ違う場面だけど、誰かのために一生懸命に頑張る姿勢には、とても感動する。
何回も何回も聞いたお話だけど、聞くたびに涙を流してしまう。
けれど、なぜ自分から『辛い』道に進むのだろうか。そこだけがわからない。
頑張りが報われるお話もあれば、報われないお話もある。むしろ、報われない悲劇のお話のほうが多い。
頑張りが報われにくいなら、途中であきらめてしまうのが普通ではないのだろうか。
機械音声は『愛してる』からだと言う。
『愛』。知識としては教えられている。誰かを、何かを、大切に思うこと。
今はまだわからなくても良いと言われた。
いつか私にもわかる日が来るのだろうか?
『他人』に会ったことがない私には難しいことなのかもしれない。
「ホンジツハココマデデス。ツヅキハマタコンド。オヤスミナサイ。」
「おやすみなさい。」
次はもう少し理解できるようになりたい。
被検体「マリア」
「マリア」という名は、愛をイメージして付けられたもの。本名は存在しない。
いわゆる試験管ベビーとして生を受け、そのまま母親に宿ることなく誕生した。
精子、卵巣共に提供者は不明。
誕生後も実験部屋に隔離され、人と一度も接触することなく成長した。
部屋では機械音声からの指示に従い、日々を過ごしている。
「マリア」に実施されている実験は、超人育成計画の一部によるもの。
超人に必須とされる「愛」の定義を確かめるため、「愛を与えられずに愛を獲得できるか」をテーマとして実験が行われている。