葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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中間パート。


フリージア/鷲尾須美は勇者である・破
破-1


 

神世紀297年、春。

アタシが小学五年に上がると同時。

『お勤め』の候補者達の鍛錬が始まった。

 

「ぜぃやああああああああああ!」

 

用意された木製の的を上段から叩き割り。

地面を叩いた衝撃でそのままもう一度飛び、後ろへと下がる。

 

大赦……仮面を付けた神官の人から与えられた携帯端末。

其処に一つだけ入れられたソフトが、神樹様から力を借り受ける媒体。

 

起動しても、それだけでは動くはずもなくて。

祝詞……力を借り受ける為の言葉を唱えることで漸く身に付けることが出来る装置。

どういう仕組みで動いているのか、ちょっとだけ興味があったけれど。

聞いても何も教えてくれないだろう、と諦めた。

 

アタシに与えられたのは、身の丈を簡単に超えるような二丁の大斧。

そして身を守るためのモノなのか、赤っぽい衣装。

神官の人が言うには『神樹様の力を借りるのに相応しい衣装』らしいけれど。

細かい部分は全く分からない。

でも……。

 

世界を護るための役割、と言われてしまえば。

アタシには、断る選択肢は既に無かった。

 

それは、家族を守りたいから。

友達を護りたいから。

彼奴と、約束したから。

 

「最後。 連続して現れた場合を想定してください」

「はい!」

 

神官の人が、何か記録を取るように手元の資料に記している。

そうしながら指示されたのは、今割った的の隣……真っ直ぐ3つ等間隔で置かれた的。

 

破壊する順番は指定されなかったから、アタシの好きでいいってことか。

そう認識し――――地面を思い切り蹴り。

自分の身体とは思えない速さで真っ直ぐ的を貫いた。

 

一枚、二枚……最後、三枚目。

斧に微かに引っ掛かる感じ。

けれど、速度に引かれた刃が板を簡単に破壊する。

 

(……先ず慣れるまでが大変だなぁ、これ)

 

何が出来て、何が出来ないか。

どれだけの力が出せて、どれだけの動きができて。

そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

勿論、今のアタシだからこそ出来ることも沢山あると思うけれど。

考えと動きが上手く一致しなきゃ、全力は出せないと思っている。

運動をするにしても、アタシが普段から心掛けている事。

この考え方も、彼奴から教わった事だったなぁ……そういえば。

 

急制動、地面に足を引っ掛けて強引に速度を落とす。

その分土が抉れ、同時に砂埃が周りを飛び散る。

小石が跳ねて、頬を擦ったのが分かった。

ある程度速度が落ちたのが分かった段階で、その場で跳躍。

元いた場所へと戻っていく。

 

(思いっ切り振り回せばどれくらいの威力が出るのか。

 どれくらいの高さまでなら飛べるのか。

 アタシの全力で走って、目で判断する距離と動くのに掛かる時間も気になる)

 

一つが気になれば、他のことも気になる。

多分、実際には小さい変化の積み重ねで。

まだ鍛錬は始まったばかりだけど――――こうして候補として選ばれた以上。

やれる限りはやりたい。

 

「はい。 本日は以上です。 次回は明後日を予定していますので、同じ時刻に」

「分かりました!」

 

何処か人間味の無い、一方的に伝えるだけの挨拶を終えて。

元の制服へと姿を戻し、神樹館から離れた鍛錬場を離れようと歩き始める。

 

(……うへ、こんな時間か。 もう少し余裕があればイネス行きたかったなー)

 

時計を見れば、思っていたよりも遅い時間帯。

 

今頃は……天理は何してるんだろうか。

ついこの間……と言っても二月くらい前。

初めて連絡先を交換したから、連絡しようと思えば出来るけれど。

そうしてしまえば、アタシはアタシじゃなくなってしまう。

 

(でも、まぁ。 明日は時間出来そうなことくらいは伝えてもいーかな?)

 

ぱすん、と言う何かを貫く音と。

どすん、と響く何かを強く叩きつける音。

 

彼方此方から聴こえてくるそれらは、各勇者候補生達の数値を確認しているはず。

きょろきょろと、今後協力していくことになるだろう仲間達の姿を見ようとすれば。

 

「お、()()に……園子かぁ」

 

同じクラスに所属する二人。

薄紫色の衣装を身に纏い、大きな弓を持つ黒髪の少女。

紺色の衣装を身に纏い、槍……のような武器で色々試している金髪の少女。

今年になって初めて同じクラスになって、話しかけているうちに仲良くなった二人。

 

須美はなんだか真面目さんで、園子は直ぐに寝たりなんだかふわふわしてる。

アタシの周りでは珍しい二人だったけれど。

いつものようにしていれば、割と直ぐに仲良くなれた。

 

(そういや……どっちも遠巻きにされてる感じはあったか?)

 

鷲尾に乃木。

どっちもアタシの家よりも大きな力を持っている家の二人。

だからかもしれないけれど、必要最低限以上は誰も近づかないようにしてた気がする。

まあそれはアタシには関係ないし、多分彼奴も同じこと言うけど。

 

少しだけ訓練の姿を遠巻きに見た後で、家に向けて本格的に歩き始める。

明日は空いた。

他の皆はどうかは分からないけど――――。

 

(その内、休みが合うようだったらイネスとか案内してみよーかなー)

 

多分、行ったことも無いだろう。

仲良くなっておけば、互いの考えを知っておけば。

得にはなっても、損することなんて無い。

それに……友達(ダチ)と放課後に遊ぶのなんて普通なんだから。

 

「うん、そうしよ」

 

良いこと考えたアタシ!と自画自賛しながら。

夕日の中へと、ランドセルを背負い直した。

 

……頬の擦り傷に気付かないままで。

帰り道に偶然会った彼奴と、父ちゃん母ちゃんには心配させたけど。




*変更点

・候補者、として各名家から何名かが推薦されている。
・鍛錬中のみ全員に勇者システムが仮に与えられている。
・(これらは後の防人計画の考えの発端に繋がる)

・「勇者候補者」時代から既に三人に面識がある。
・原作よりも銀が積極的に動いた結果、五年生時点で神樹館の中でも付き合いが生まれている
・(上記を踏まえ)まだ休日や放課後に遊びに行ったことはない
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