葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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叙-3

 

明らかな視線の中、店の中へ。

 

小さく鳴る鈴の音と、何処か古びた建物特有の黴びた匂い。

そしてそれを隠すように置かれた消臭剤の香り。

いらっしゃい、と奥から顔を覗かせた中年の女性を含め。

感じるのは、服屋と言うよりは古書店とかそっちの印象だ……という答え。

 

「おばさーん、制服買いに来たんだけどー!」

 

「おや、友奈ちゃん。 そっか、今年からもう中学生だったか」

 

少しだけ呆けている俺の横をすり抜けて。

ある程度の大声で友奈が叫べば、聞こえてると苦笑いを浮かべながらの答え。

 

「後ろの子たちもかい?」

 

「うん。 私はちょっと大きめの買ってこいってお金渡されたんだ」

 

「だろうね、直ぐに大きくなっちゃうから。 なら皆測ったほうが良さそうだけど」

 

ぐるり、と一周見て頷きつつ。

恐らくは店主の目線は、俺の前で止まる。

 

「男の子がいると色々恥ずかしいだろうし……少し席を外してくれるかな?

 それとも先に測るかい?」

 

「あー、それn『あ、私達は大丈夫です~』…………おい」

 

まあ当然といえば当然だが、異性がいる場所。

それも中学校に入る直前ともなれば配慮して当然。

そう言われることも前提で来ている以上、先に測って貰った上で素材屋を見て来ようと思ってたのだが。

横からそのちゃんが口を出す。

 

事が事だけに、強めに叱責するように言葉を発したが。

 

「……あー、良いのかい?」

 

「はい。 ……出来れば、一人にはしたくないので」

 

「それに、てんくんの服も丁度見たいと思ってたしね~」

 

先程の仕返しのつもりか、或いは()()()()そう言っているのか。

表情が曖昧で確認できないが、多分……()()な気がする。

 

半ば呆れているのか、それとも面白がっているのか。

友奈だけは首を傾げつつも、少しだけ照れているように見えたのはまだ救いだと思う。

ただ、強く言ってくれないので結局意味がない。

 

(え、本気?)

 

少しだけ呆然とする中で、銀に手を引かれて顔を近付ける。

 

「……いや、まぁ。 今までアタシもちゃんと言ってこなかったのもあるんだけどさぁ」

 

「急に何だよ」

 

「良い機会を作られちゃったな、ってこと。

 前々から言うか悩んでたんだけど、お前……特に一人暮らしするようになってからだな。

 服装のチョイスが凄い何とも言えない

 

「は?」

 

自分の服を見下ろす。

普段から来ている和装。 今は()()()()()()

 

三人と共に十五夜を過ごした後……くらいだったか。

その服の着安さ、過ごしやすさに目覚めたというのはある。

日常生活の時なんかは、外にも着ていける色で選んでいるつもりなんだが。

 

「なにかおかしいか?」

 

「一点一点はまともなのに、何で手を出すと微妙になるんだ……?

 人形とかああいうのは素直に凄い、って思えるのに」

 

えー、そうか?

 

紺の上下の作務衣、下に青色のシャツに下着。

靴下も青で揃えてるのに?

 

「その顔、全く分かってないだろ……?」

 

「全く分からん」

 

全身同じ色良いじゃん。

青とか黒とかの寒色系列好きなんだけど、駄目なのか?

 

「……えーっと、どうするんだい?」

 

「ミノさんが色々話してるみたいだし、私達先で良いんじゃないかな~?」

 

「……そうね、攻め過ぎると逃げるって言うし」

 

聞きたくない言葉が聞こえた気がする。

気の所為だということにして忘れる。

 

(なんかこう、圧力の方向性変わってきてないか?)

 

そんな事を思いつつも。

自分で選んだ顛末だと割り切って、銀の話へと意識を無理矢理向ける。

じぃっと、せんちゃんの目線も感じながらだが。

 

「じゃあ言うけどさ」

 

「うん」

 

「その靴下、何の模様付けた?」

 

「え? サンチョっぽい垂れ猫?」

 

「そーいうとこだよ!」

 

何故だ。

そのちゃんには結構評判良かったんだぞ、態々縫ったのに。

 

「ワンポイントって意味では良いだろ!?」

 

「その服に態々合わせる類じゃないとアタシは思う」

 

「ぇー」

 

服の色に合わせて縫ったからこれにしたんだが。

人形とかは色々調べて、良さそうな服っぽく造形してるから楽でいいけど。

見えないところのお洒落ってこういうのじゃないのか?

 

「……いや、家で履く分には好きでいいと思うぞ?

 或いは寝る時とか、まあ自由な時間な」

 

明らかに不機嫌になったのが伝わったらしい。

何と言えば良いんだろうなぁ、と凄い悩みながら言ってくれてるのは分かる。

 

でも銀、お前の背後の方にいる友奈の服装も酷いって言ってやってくれ。

上着羽織ってたから分からなかったが、かるしうむって書いてあるそのシャツは何だ。

しかも割と堂々と着てるぞ。

 

「まあ、うん?」

 

「でも今、それを選ぶ理由は分かんない」

 

「銀には分からないか、このセンスが……」

 

「無いわー」

 

呆れた目、駄目なものを見る目で見られた。

何故だろう、普通に罵倒されるより傷付く。

 

「……夫婦漫才は終わりでいいの?」

 

同じように話を聞いていたせんちゃんも、負けず劣らずの目で見てくる。

ただ、その視線の冷たさは他の比例するものではなく。

背筋に氷柱が突き立った、という表現が的確にさえ感じてしまう。

 

「あ……あの、千景、さん?」

 

「なあに?」

 

笑ってる。

うん、笑ってる……よな?

でも笑ってる風に見えない。

 

『うわ、わっしーまた大きくなってるんよ~』

 

『もう要らないのだけど……』

 

『おや、まあ。 念の為に二周りくらい大きいのにしておくかい?』

 

……余計な声が聞こえてきて、多分それも原因なんだと思いつつに。

 

「……ごめんなさい」

 

素直に全面降伏して、彼女の機嫌を取ることに注視した。

そうしないと、危険域に突入すると全神経が囁いていたから。

間に合えば良い、と信じて――――全力で。

 

…………許されたのか、何なのか。

貸し一つ、という理不尽な言葉が聞こえたのはその直後。

 

……尚、その後で女子たちの着せ替えの玩具にされたのは言うまでもない。




たまには馬鹿話もしたいですよね。
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