葦原天理は巫覡である 作:氷桜
明らかな視線の中、店の中へ。
小さく鳴る鈴の音と、何処か古びた建物特有の黴びた匂い。
そしてそれを隠すように置かれた消臭剤の香り。
いらっしゃい、と奥から顔を覗かせた中年の女性を含め。
感じるのは、服屋と言うよりは古書店とかそっちの印象だ……という答え。
「おばさーん、制服買いに来たんだけどー!」
「おや、友奈ちゃん。 そっか、今年からもう中学生だったか」
少しだけ呆けている俺の横をすり抜けて。
ある程度の大声で友奈が叫べば、聞こえてると苦笑いを浮かべながらの答え。
「後ろの子たちもかい?」
「うん。 私はちょっと大きめの買ってこいってお金渡されたんだ」
「だろうね、直ぐに大きくなっちゃうから。 なら皆測ったほうが良さそうだけど」
ぐるり、と一周見て頷きつつ。
恐らくは店主の目線は、俺の前で止まる。
「男の子がいると色々恥ずかしいだろうし……少し席を外してくれるかな?
それとも先に測るかい?」
「あー、それn『あ、私達は大丈夫です~』…………おい」
まあ当然といえば当然だが、異性がいる場所。
それも中学校に入る直前ともなれば配慮して当然。
そう言われることも前提で来ている以上、先に測って貰った上で素材屋を見て来ようと思ってたのだが。
横からそのちゃんが口を出す。
事が事だけに、強めに叱責するように言葉を発したが。
「……あー、良いのかい?」
「はい。 ……出来れば、一人にはしたくないので」
「それに、てんくんの服も丁度見たいと思ってたしね~」
先程の仕返しのつもりか、或いは
表情が曖昧で確認できないが、多分……
半ば呆れているのか、それとも面白がっているのか。
友奈だけは首を傾げつつも、少しだけ照れているように見えたのはまだ救いだと思う。
ただ、強く言ってくれないので結局意味がない。
(え、本気?)
少しだけ呆然とする中で、銀に手を引かれて顔を近付ける。
「……いや、まぁ。 今までアタシもちゃんと言ってこなかったのもあるんだけどさぁ」
「急に何だよ」
「良い機会を作られちゃったな、ってこと。
前々から言うか悩んでたんだけど、お前……特に一人暮らしするようになってからだな。
服装のチョイスが凄い何とも言えない」
「は?」
自分の服を見下ろす。
普段から来ている和装。 今は
三人と共に十五夜を過ごした後……くらいだったか。
その服の着安さ、過ごしやすさに目覚めたというのはある。
日常生活の時なんかは、外にも着ていける色で選んでいるつもりなんだが。
「なにかおかしいか?」
「一点一点はまともなのに、何で手を出すと微妙になるんだ……?
人形とかああいうのは素直に凄い、って思えるのに」
えー、そうか?
紺の上下の作務衣、下に青色のシャツに下着。
靴下も青で揃えてるのに?
「その顔、全く分かってないだろ……?」
「全く分からん」
全身同じ色良いじゃん。
青とか黒とかの寒色系列好きなんだけど、駄目なのか?
「……えーっと、どうするんだい?」
「ミノさんが色々話してるみたいだし、私達先で良いんじゃないかな~?」
「……そうね、攻め過ぎると逃げるって言うし」
聞きたくない言葉が聞こえた気がする。
気の所為だということにして忘れる。
(なんかこう、圧力の方向性変わってきてないか?)
そんな事を思いつつも。
自分で選んだ顛末だと割り切って、銀の話へと意識を無理矢理向ける。
じぃっと、せんちゃんの目線も感じながらだが。
「じゃあ言うけどさ」
「うん」
「その靴下、何の模様付けた?」
「え? サンチョっぽい垂れ猫?」
「そーいうとこだよ!」
何故だ。
そのちゃんには結構評判良かったんだぞ、態々縫ったのに。
「ワンポイントって意味では良いだろ!?」
「その服に態々合わせる類じゃないとアタシは思う」
「ぇー」
服の色に合わせて縫ったからこれにしたんだが。
人形とかは色々調べて、良さそうな服っぽく造形してるから楽でいいけど。
見えないところのお洒落ってこういうのじゃないのか?
「……いや、家で履く分には好きでいいと思うぞ?
或いは寝る時とか、まあ自由な時間な」
明らかに不機嫌になったのが伝わったらしい。
何と言えば良いんだろうなぁ、と凄い悩みながら言ってくれてるのは分かる。
でも銀、お前の背後の方にいる友奈の服装も酷いって言ってやってくれ。
上着羽織ってたから分からなかったが、かるしうむって書いてあるそのシャツは何だ。
しかも割と堂々と着てるぞ。
「まあ、うん?」
「でも今、それを選ぶ理由は分かんない」
「銀には分からないか、このセンスが……」
「無いわー」
呆れた目、駄目なものを見る目で見られた。
何故だろう、普通に罵倒されるより傷付く。
「……夫婦漫才は終わりでいいの?」
同じように話を聞いていたせんちゃんも、負けず劣らずの目で見てくる。
ただ、その視線の冷たさは他の比例するものではなく。
背筋に氷柱が突き立った、という表現が的確にさえ感じてしまう。
「あ……あの、千景、さん?」
「なあに?」
笑ってる。
うん、笑ってる……よな?
でも笑ってる風に見えない。
『うわ、わっしーまた大きくなってるんよ~』
『もう要らないのだけど……』
『おや、まあ。 念の為に二周りくらい大きいのにしておくかい?』
……余計な声が聞こえてきて、多分それも原因なんだと思いつつに。
「……ごめんなさい」
素直に全面降伏して、彼女の機嫌を取ることに注視した。
そうしないと、危険域に突入すると全神経が囁いていたから。
間に合えば良い、と信じて――――全力で。
…………許されたのか、何なのか。
貸し一つ、という理不尽な言葉が聞こえたのはその直後。
……尚、その後で女子たちの着せ替えの玩具にされたのは言うまでもない。
たまには馬鹿話もしたいですよね。