葦原天理は巫覡である 作:氷桜
もうちょっとだけ続くんじゃ。(終わりは何処だ)
「~♪」
少しだけ不釣り合いな大きさ。
けれど、彼女が持つならばこれくらいが相応しいような画面。
移り変わる映像は、丁度男女が楽しそうに語り合っている一場面。
「……良いのかなぁ」
「何が~?」
ぽつり。
零した言葉が広がり。
室内で反射して、空間に消える。
それを拾い上げた金の少女は、手元の
「いや、二人でって話だったけど……こうして部屋で良かったの?」
「部屋
「そっかぁ……」
映画が見たい。
そう切り出されたのは今朝方、引っ越した一室での事。
『外でお散歩もしたいんけど~……』
『うん』
『てんくんと一緒に、これ見たいなぁ~って』
勿論、それを断る理由もない。
いいよ、と答えた時に浮かべた笑顔に。
幾百度目かの見惚れを起こしつつ。
(やっぱり勝てないなぁ)
そんな事を、改めて思う。
正直、互い違いに色々と告白し。
その後もずっと付き合いは続いていく間柄。
可能な限り均等に、それでいて無理しない程度に色々と遊んだりしているつもりだが。
たまには複数、ではなく一人で……というのを希望するのも理解できるし俺もしたい。
特に、春休みという奇妙に長い時間を持て余す今が好機で。
夜の間に少しずつ形代を作り上げ、神域に祀ることを繰り返すのなら昼は若干自由が効く。
(昼も使って良いんだったら……もうちょい楽に進むんだけどなぁ)
あの場所……神樹の中であったからこそ、昼夜問わずに実行できた形代、人形作り。
此方では夜だけにしろ、と強く戒めてきたのはワカとヒメの二柱だった。
二人のモノを作り上げた時は特にそんな指定は無かったのだが。
曰く、『陽光が恐らくは不味い』とのこと。
天の神、という属性を持つワカやその妻であるヒメ。
或いはあの同郷の神ならば何方でも問題はなかったらしいのだが。
月の神……月夜の中ならば土地神にも均等に安らぎを与えてくれるから、と。
当初の予定に反し、微妙に制作が遅れている要因の一つは間違いなくこれでもあった。
そんな関係ない思考とは別に、そのちゃんは手元の機械の釦を押下。
ぴ、と再びに再生され。
二人の男女の軽快な会話が流れていく。
「……やっぱり、古くても良いものは良いよねぇ~」
ぎゅ、と彼女に抱き締められたサンチョC(紫色)が変形しながら。
体の一部、側面部をやや密着しながらに座るソファーの上。
羨ましそうに見るそのちゃんの横顔からは、複雑な心境が見て取れる。
「単純に古い、っていうだけでも……この時代まで繋がってるってことだからなぁ」
「西暦時代の映画だもんねぇ、これ」
良く残っていたな、と思うのが半分。
良く残してくれたな、と思うのが半分。
バーテックスの襲撃や戦い、生き残る為に切り捨ててきたもの。
色々あった筈なのに、これが残されているという物事そのもの。
感謝と、驚愕とを。
半々に煮詰めながらに見詰める場面は、所々で移り変わる。
僅かに混じる
脳内で日本語っぽく翻訳されるのは、多分もう一人の強い影響。
極端に敵性言語……と言い張る英語を使わずに翻訳するから、俺にも多少染み付いてしまっている。
まあ完全に汚染されたわけじゃないから、出るとしても無意識……だと思っているが。
「お、ぉお~~」
頬を朱に染めて、画面に齧り付いて見詰めている。
その場面はやはりに
その少し前……つまりは濡れ場の辺りから此方を含めて見ていたのは把握済み。
だが、互いにそれを口にする勇気も何もなかったのは多分良かったこと。
(確かに面白いのは間違いないんだよな~……)
外国で作られたものを日本語に翻訳しているからなのか。
今までに見たもの……と言うよりは普通にテレビで見られる物よりも幾分か激しい演出が多い。
見ていて興奮するのも分かるし、ついつい目線が引き寄せられるのも納得できるんだけど。
「……やっぱり、多くない?」
「……………………」
問い掛けた言葉に返事はない。
一本の映画……俺が知る限りだと平均で二時間に満たないくらいが多いのだが。
現状、その中でキスとか、或いは
こういう種類の映画ってこうなるものなんだろうか。
何方かと言えば
「そのちゃん」
「今良い所だから~」
「あ、はい」
その言に嘘はない。
確かに最後の決着をつける場面で。
けれど、何処か顔の赤さは継続したままで。
(絶対別の理由もありそうなんだけど……)
深く追求はしないようにする。
ただ、二人で画面を見詰め。
決着を付け、二人で故郷に帰るところで映画が終わり。
「…………え、えっと」
「うん」
互いに、目の前のテーブルの茶菓子を飲み食いしながらの感想戦。
のはずなんだけど。
「面白かったね~」
「それで誤魔化されないからね?」
何でこの映画を選んだのか、はまあ良い。
良くないけど良いことにする。
ただ、見終わった後に即座にメモ帳に書き込みし始めたのはどういうことだ。
「駄目?」
「ダメです」
強く言葉で断ち切るけれど。
えへへ、と笑いながら口にするだろう言葉には、多分勝てないだろうと思った。
「だって……二人でもなければ、見られないでしょ?」
――――でも、メモとは関係ないよな?
そんな言い合いと。
ゆっくりと過ぎる時間を過ごした、春休みのとある日常。