葦原天理は巫覡である 作:氷桜
からから、からから。
がやがや、がやがや。
新品の、どうにも着慣れないブカブカの制服を身に纏い。
同じように戸惑いを含ませながら、親と共に通学している同じ格好の男女。
通り過ぎる度に、或いは歩きながらに目線を車椅子に向けて。
『彼女も?』
『大変そうだなぁ』
と、微かに漏れ聞こえしまう。
『……気にしないほうが良いぞ』
『でも困ってたら助けてくれそーだね?』
『そういう問題でもないのですが……』
詰め襟が首元に引っ掛かりながら。*1
鞄の外側にお守りのように見せかけた、
今までのそれに加えてもう一つ、以前のものに出来るだけ近付けて作ったそれ。
神当人が触れ、認識したということも有り。
割とすんなりとたかしーが降臨・宿る御神体と変貌することに成功した。
その時のせんちゃんとのやり取りは、それはもう凄いもので。
『高嶋…………さん?』
『ぐんちゃん。 うん、そう。 高嶋友奈だよ?』
編みぐるみと彼女だけを残し、部屋……神域から去って結局一晩。
翌朝は目とその周りが赤かったことから察したし、銀も同様に何も言わず。
ただ『ありがとう』の一言だけで済ませた、俺達だけの秘密の一つ。
(……クラス分けはどうなるんだろうな~)
途中合流したそのちゃん美森ちゃんを含め六人。
一人は転校生として、残りは新入生として。
何だかんだ、という言い方は嫌いではあるが……同じ学校に通った経験は初めてで。
だからこそ、確かに気になると言うか。
期待している、という部分は否めない。
「どうなるんだろうなぁ」
銀も同じ考え、同じ心境なのだろうか。
零れ落ちた言葉は俺と同じで。
賛同の意味を込めて肩に一度触れ、そして離す。
「話は行ってるだろうから、誰かが対応できるように考えてくれてるとは思うが」
「だいじょ~ぶだと思うなぁ~」
朝だからか(と言うか不定期に)歩きながらでも眠り、そして起きたそのちゃん。
彼女も彼女で誰か近くにいたほうが良さそうではあるのだが。
問題しか無さそうなのに、大丈夫と言い切るのだから何かありそうなもの。
「そ~いう手回し
「……そのっち、ちょっと刺々しいわよ」
分かるでしょ~。
分かるけど。
互いが……いや、俺達の間でだけ通じる言葉。
それだけを聞いても意味が分からないだろうし。
分かったとしても結局『何故』で止まる。
「?」
「友奈には関係ないから気にすんな」
多分今は、という言葉は飲み干す。
酷く苦く、喉に引っ掛かるような嘘。
迂闊に言葉に出すことも出来ず、そうならないで欲しいと願う嘘。
『……苦しいよね、分かるよ』
きちんと
故に、その言葉を共有できる相手も。
その気持を理解する言葉を知れるのも、現時点では互いくらい。
だからこそ、何かが嬉しそうにする声色が混ざっているのが少しだけ怖い。
「でも。 皆一緒のクラスになれればいいよね!」
「……騒がしくなりそうだなぁ」
少しだけその光景を想像し、くすりと笑いが溢れた。
『知り合い』が多いから、友奈は彼方此方で声を掛けられたり頼られたり。
橋渡し的に俺達四人と繋ぐ形になるだろうし、必然的に絡むことも増える。
友奈が騒いで、美森ちゃんがぴしゃりと咎める。
そのちゃんが不可思議なことを口にし、銀が呆れながらも対応して。
少しずつ筋力が戻ってきたとは言え、活動に支障が出る銀を全員で支援する。
休み時間にはせんちゃんも混じり、騒がしいも楽しい日常を送れるはずだ。
(……直接、そんな光景が見られるだけ良いことだよな)
その輪の中に俺がいなくても成り立つ、その関係性を見られるだけで良い。
昔のことを覚えているやつがどれだけいるか次第だが、最悪は俺だけ孤立する程度で済めばいい。
(後……たかしーも含めるなら五人)
未だに杏さんにタマ先輩はリハビリ……に近い精神安定途中だから、学校に通うのも難しい。
だがまあ、
恐らくは神託に近い何かも巫女に降りたのだろう、其処まで問題にもならなかったという。
そっと耳打ちされるように、派閥の活発化に関して忠告を受けた……というのもあるが。
やはり俺達が動く分、『神樹サマ』へと近付こうとする奴等も動くというのは確実視出来そう。
(何が正しいのか……本当に良く分からん)
少しだけ強く、急に車椅子を押しそうになり。
慌てて急制動とまでは言わないが力を抜く。
「天理?」
「すまん、ボーッとしてた」
そんな言葉で誤魔化せるとは思っていないけれど。
口に出す言葉は、結局そんな答えを生み出し。
「……まーくん」
押し黙っていた、黒髪の少女の手が重なる。
瞳を伏せ、唯一確実に別の教室に移動することが分かっていて。
そして大葉刈も当然持ち込めず、着の身着のままという状態。
それがどれだけ今の彼女を恐れさせるか、分かっていても。
彼女自身が選んだ選択だ、という一点だけは変わらないし変えられない。
そんな揺れる瞳と、微かに意図を感じる声色。
少なくとも姉弟には見えないはずで。
近くとも親類、或いはそれ以上のなにかに見えているのか。
先程よりも視線が集まるのを感じる中、小さく頷き耳元で声を零した。
「大丈夫……俺も、せんちゃんも。 そうでしょ?」
「……うん」
同じような不安は、誰もが持っているから。
銀も、美森ちゃんも、そのちゃんも。
根本的に臆病な、失うことを恐れる友奈はその筆頭。
(だから、俺が異物って見られるんだろうしな……今は特に)
大橋の方のイネスに日常的に遊びに行っていたなら別かもしれない。
それでも、少なくとも。
見惚れる男子生徒を産み出すだろう、影のある少女を見た人物は然程多くはない。
だからこそ、俺に集まるのも敵意や害意……或いは嫉妬か。
この時代になって大分落ち着いたとは聞くけど、心の中で熱されてしまう感情までは隠せない。
それを同性だからこそ理解し得る俺は、何も言わずに。
段々と近付き、そして飲み込んでいく校門の前へと目を向けた。
一足先に駆けている友奈は、その入口。
つまりはクラス分けの書かれた看板を前に大きく手を振っている。
「
それだけで、乗せられたままの手に力が籠もったのが伝わり。
――――何を返すこともなく。
少しだけ甘えさせるように、そのままにさせていた。
三柱も、何も言わずに。
ただ、その光景を見詰めていた。
・入学式。
・実際クラス幾つくらいなんでしょうかねこの年代。
・大雑把に2~3クラスと裁定して書いてますが、もう少し減るのかな?
・神樹館はしずくの存在考えるとクラスが二つ以上あるっぽいですけど。