葦原天理は巫覡である 作:氷桜
ある程度予想していたとは言え、入学式では眠気に襲われ。
その後の各クラスでの自己紹介や暫くの予定解説。
「葦原天理です。 趣味は色々作ったり読書とか内向系です」
苗字のあいうえおから早い順で振り分けられた最初の席。
入り口側の一番前、つまりは最速の場所というのは慣れているが。
相も変わらず早いなぁ、と思ってしまうのは仕方ないことだろうか。
「東郷美森です。 料理などを好んでいます」
「乃木園子~。 皆宜しくね~」
「三ノ輪銀です。
あー、ちょっとした事故でこんな事になってるから、
代わりにアタシに出来ることならするから宜しくなー」
「結城友奈です! 知ってる人も多いだろうけど宜しくね!」
喧々囂々。
知り合いの挨拶の声が妙に響いて聞こえる中で、銀の目線が此方に向いた気もする。
『……おい、あの三人知ってるか?』
『いや……でも皆可愛くねえ? このクラス当たりかもな!』
自己紹介されるに連れ、幾らかの男子生徒の声が聞こえてくる。
まあこうなるだろう、とある程度予想していたから其処まででもないが。
内心でほんの少し黒い感情が首をもたげ、そして直ぐに沈下する。
(……ただ、友奈に目をやらない理由も良く分からないんだよなぁ)
元気いっぱいに挨拶をする彼女へ向けられる視線は、何方かと言えば友情が強く見える。
漏れ聞こえる声も、やけに彼女だけは少なく聞こえるし。
『アレじゃない? ”俺だけは知ってる”とかいうタイプ』
(良く知らないんだがどういう感想なんだそれ)
ただ、まあ。
変にそういう相手がいないらしい、というのは今までの話で予想できていたし。
公言……或いは口に出せる程表立った人気が広まっているわけでは無さそうか。
(良かったんだか何だか、なぁ)
明日一日は実質役職決めとか配布物の確認、そして視力の関係もあるから
実際の授業の開始は翌週の頭からで、それまでは色々な場所を覚えたりで費やす。
特殊教室を多用することになる音楽や美術など、覚えておかないと不味いのは勿論の事。
更衣室の場所とトイレの場所は真っ先に教え込まれたのは……何かあったんだろうなぁ。
中学校、と変わるだけで見られる基準も変わってくるものだし。
「ま、いいか……」
独り言として呟いた言葉、向けた目線は黒板へ。
それを聞き咎めた隣の女子が胡乱げな表情をしている中で。
「はい、今日は此処まで。 じゃあ……きりーつ」
何処にも設置されている神樹サマへの礼を済ませて、本日の用件終了。
最低でも今年一年以上は付き合うことになるだろう、担任が教室から出ていくと同時。
彼方此方で知り合いや新しい付き合いを求めての雑談が始まる。
『ねえ、東郷さんって言ったっけ? 何処から来たの?』
『…………あの、乃木さん? ね、寝てる……』
(まあ美森ちゃんは予想できてた、何でそのちゃん寝たままなんだよ)
唯一の転校生扱いのせんちゃんは職員室に挨拶に行った後、学習の習熟度を確認していた筈。
時間的にはほぼ同じ筈で、図書室辺で合流しようと話をしていたが。
遅れないか何とも言えないなぁ、これ。
(それに対して銀は……ちょっと遠巻きにされてる、か?
あー、でも話しかけに行く機会狙ってる奴等がいるな)
男子生徒三人ほどが目線を露骨に向けている。
アレは銀の顔を知っている奴と見た。
必然、そうなると俺も知られていてもおかしくはないが……。
いっそ露骨な程に此方を見ないことから考えても、狙ってやってそうだなぁと思い当たる。
「銀ちゃーん!」
「うぉっ!?」
そんな事を思っていれば、友奈が飛びつくように銀に張り付いていた。
「危ないからやめてくんない……?」
「あ、ごめんごめん」
「それで?」
「この後時間あるかなーって」
何してんだ彼奴、と呆れる感想を浮かべつつ。
配られた幾らかの書類や教科書類を鞄に詰め込み、そちらへ向かって近付いていく。
「全く無いとは言わんが、また急に何言い出してるんだお前」
ぺちり、と頭を軽く叩く。
あいた、と小さく漏らして銀から離れ。
気安そうな態度と、彼女の対応からして視線が幾らか此方へ向いた。
そして同時にやってくる、一瞬の静寂……地味にこれ苦手なんだよな。
大体列で二つ三つ程先。
出来ればこっちか誰かの近くに寄せて貰えると色々と対応しやすいんだが。
「んー、時間あるなら今日の夜一緒にどうかなー、って。
久々にお父さんお母さんが時間作れたみたいなんだ」
「其処で銀を誘う理由が良く分からんのだが……」
「だって銀ちゃんがくれば皆来るでしょ?」
なにかおかしい事言ったかなぁ、と首を傾げるな。
此方がおかしいことを言ってる気分になってくる。
当たり前のこと、と自分の中で判断しているからそうなるんだろうが。
……半分以上は間違ってないからたちが悪い、とも言える。
『でも目の付け所間違ってないよねー。 良いなぁ、私も行きたーい』
まあそうだよな、たかしーは色々話したり遊びたいよなぁ。
……亜耶も大丈夫だろうか。
ちょっと不安が再燃したし、近々会いに行かないと。
「まあそれは良いわ、後で聞いてみる。
それより待たせてる相手がいるんで連れてって良いか?」
「え。 あ~~そっか、この時間ならもう待ってるかもなんだ!」
「思い出してくれて何よりです」
お前も同じ現場にいたもんな。
話半分っていうか聞き流してなかったかは怖かったが、一応覚えててくれて何より。
『……あれ、結城さんの知り合い?』
『……彼奴アレだろ? 大橋の方で暮らしてたやつ』
『あ、なんか見覚えあると思えば……昔近所に住んでた子じゃない?』
そして、話題はやはり此方に向く。
いつかはこうなっただろうし、致し方ない部分はある。
「銀、準備は?」
「出来てるよ」
目線を一度そのちゃんと美森ちゃんへ振った。
どうするんだ、という意味だと捉えた上で。
軽く頷くことで分かってる、と答える。
(連絡だけしとくか……あー、いやでも変わらんか。 こうなっちゃったら)
元々通学路で見られてたのもあるし。
「二人はどうする? 俺達先に行ってようか?」
「行きます。 ……ほら、そのっち」
「ん~?」
寝惚け眼を擦り、早速睡眠欲を満たした彼女へ冷たい目を向けつつ。
ざわざわ、と広がる声色の中で……溜息を一度漏らした。
もうこれ、明日には噂広まってるだろ絶対。