葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「そういや、神樹館に比べて此処ってどうなんだ?」
「どうしたの、急に」
中学校が始まって一週間程。
それなりに授業も始まり、クラスの配置変え……席替えも行われた後のこと。
放課後に、クラスの提出物を持って美森ちゃんと二人で職員室に向け歩いていく。
「いや、俺達の学校からすると……なんというか、優秀な人員が行く? みたいな風に見ててさ」
「……ああ、授業の進捗度とかってこと?」
「そうそう。 この辺りはもう習ってる、とか差があるのかなぁって」
ある程度予想していて、そしてその通りに進んだと言えばいいか。
教室への出入りの問題も有り、銀の席は教室側の一番後ろへ。
一番前でないのは何だかんだで立ち上がって書類などを取りに行くことがあるからで。
そして、その補助役として俺が仰せつかっている……というよりは
理由としては極めて単純に。
『今住んでいる住所が同じ』という問題があり、そしてそれを教諭は把握している。
恐らくは大赦側からも何かしらの言伝はあったと思うが、それでも周りから見てどうなるか。
集合住宅でもなく、(大きさは兎も角として)普通の一軒家であることも拍車を掛け。
半ば強制的な部分もあったが俺が名乗り出、幾らかのところを友人たちが手助けする形になったわけだ。
だが、そんな事を踏まえてもクラスでの役割分担は変わらない。
それぞれの授業に応じた担当分けがあったり、或いは委員会に所属したり。*1
そんな形で『国語』の担当となった銀と美森ちゃんの役割を引き受け、こうしているというだけ。
まあ、今現在では其処まで負担に思うこともない。
「そうね……国語や数学は自習で学んだ事を復習している感覚かしら」
「おお、優秀」
「当たり前のことをしているだけよ?」
持ち上げられるようなことじゃない、と謙遜しているが。
既に自分で学習する癖をつけている、というその事自体が凄いと思う。
実際パソコン関係や情報関係で彼女に相談するとまず間違いない答えが返ることも有り。
趣味と自習と、何方も両立できているのは尊敬して然るべき。
こういう機会でもないとはっきり口に出せないので、普段よりも多めに口にする。
「当たり前のことが出来るってだけで凄いじゃん」
「……もう」
露骨に照れながら、職員室へと書類を運び終え。
後はもうやることもないし……帰るだけではある。
校庭の側からは部活動の声が大きく聞こえる。
新入生は部活を決めるための仮入部期間中というのもあってか。
廊下にはあまり人影もいないからか、普段よりも彼女の距離感も近い。
「いや本当に。 俺もどうしても休んだりしちゃうし」
「私がいたほうが良い?」
「いてくれたら……理由もなく休むことはなくなりそうだよなー……」
「……ふぅん」
満足気に、何かを考えているのは分かるが。
今更逃げる手段もないだろうし、大らかに受け入れられるものを受け入れる気持ちで階段を登る。
そんな中。
『そんな訳で今人探してるのよね~』
『そうなんですか~!』
聞き慣れた声と聞き慣れない声。
特に隠しているわけでも無さそうな用件ではあるのだが。
内容に自然と集中してしまう。
「……あれ、友奈ちゃんかしら?」
「だと思う。 なにかの協力でも頼まれてるのかね?」
同じ段で顔を見合わせる珍事。
目をぱちぱちと数度見開き、視線が少しだけ口元に向かい。
何もなかったように再度上へと顔を持ち上げる。
『
『あら、何か気になることでもある?』
『ちょっと友達にも話してみていいですか?』
……そんな声が反射し、頭上から降りてくる。
ゆっくりと一段一段登りつつ、再びに美森ちゃんへと重なる視線。
「……人助けの為の部活?」
「そんな部活、聞いた覚えある?」
「部活動紹介じゃ出てこなかった……わよね?」
やはり互いが間違ってないことを再認識。
そして、友奈が人に聞く事を覚えたことにちょっと感動している。
一番印象が強かった頃は文字通り『周りから頼まれれば』。
自分一人で出来るかどうかは別として引き受けて。
結果的に怪我に近い状態に陥ることも珍しくなかったから。
問題はその『友達』が誰か、というのもあるんだが――――。
『良いわよー。 そもそも入れるかどうかは私が決めるけど、そういうことじゃないわよね?』
『はい、友達も誘ってみるつもりですけど……。
自分だけで判断出来ないなら頼ろう、って学んだので!』
『はー、偉いわねえ……』
……ただ、あの話はちゃんと意思疎通できてるのか?
もう思い切って顔を覗かせることも考えているが。
『入部を判断できる権限を持つ』相手、ってなんだ?
隣の少女へと横目を向ければ。
何やら考え込むように、口元へと手を当てている。
もしかして、とか溢れて聞こえる言葉は何処か物々しく。
「……どうかした?」
「……ちゃんと聞いてみないと分からないけれど、もしかしたら」
彼女だけが聞いているなにかに合致するのか。
後で聞こうと思いながら、声に。
……恐らく向こうも聞かれていることに気付いているだろうけれど。
少しずつ近付く中で。
『
『んー、取り敢えず家庭科室分かる?
あの準備室を借りられるようにしてるから、放課後に顔出して欲しいな』
『分かりました!』
……あー、という言葉が二人同時に漏れた。
その言葉自体に意味はなくても、それを選んで使ったのなら。
それも友奈を直接的に誘ったのだったら、先ず関係者だろうと察しがついたから。
それじゃあ、と声を上げて友奈が遠ざかっていく音が聞こえて。
向こうも、その背中を見送った後だろうか。
『さて、と……そんなところで何してんの?』
頭上から、声が降り注ぎ。
やはり気付かれていたことを知る。
上へ人差し指を向け。
微かに彼女が頷いたのを認めて、二人で並んで進んでいく。
出来る限り不自然ではないように。
ただ、まあ。
隣り合って、手さえ絡められる距離というのは。
……そうだよな? 美森ちゃん。
目元が全く笑ってないけど。