葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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多分圧力その他諸々からして一番苦労してたのこの人ですよね。


叙-9

 

特殊教室棟の一階と二階を結ぶ階段。

踊り場から見上げ。

二階で手摺に凭れ掛かる相手。

 

そのちゃんより僅かに明るい金の髪を保ち、二股に分け。

腰程まで長く垂らし落とした、見覚えのない相手。

 

「盗み聞き?」

 

「隠すつもりがあるなら……もう少し声小さくしたらどうですか、()()

 

何を基準にして言ったのか。

ただ、隣の少女はそれを確信して言ったように聞こえた。

 

「あ、流石に分かる?」

 

「友奈ちゃんはどうか分かりませんけど……気付いてて話を続けましたよね?」

 

少しだけ置いてきぼりのような。

けれど話しかける機会を狙い、話の進行を待つ。

 

「やー、やっぱ強引だったかな?

 助けてくれる子って聞いてたから何とかなると思ったんだけど」

 

あはは、と笑う声は普通にも聞こえ。

新しく部活作る気だったんだけどね、と表向きの理由を口にする。

 

……美森ちゃんが言葉にする前に。

先んじて口を開いていた俺がいた。

 

「先輩、誤魔化す必要はありませんよ?」

 

「は、何言ってんの?」

 

少しばかり勇み足だったな、と言った後で後悔しながらも。

三柱からは特に指摘もなく、唯聞いているような雰囲気を感じている。

これもまた勉強……とでも言いたいのか。

 

「……美森ちゃん、言っても良いかな?」

 

横からの言葉に口調が少し荒れる中。

極めて落ち着くことを心掛けながら、美森ちゃんへの許可を貰う。

 

勿論それは、迂闊に口には出せないこと。

但し――――()()()()()()()()()()()()()()()別問題。

直接的に口にするか、もう少し婉曲的に問い続けるか。

その最終判断は、結局役割を担わされている少女が持つ。

 

「……せめて場所を移しましょう。 先輩もそれでいいですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

()()

 

ちらり、と俺へ向けた目線は何処か重く。

後で何かを要求してくるだろうことは明白。

まあ、それを踏まえた上でも。

代わりに言われてしまった、という事実だけは変わらない。

 

言葉の奥に溜息を交えながらの提案に。

明らかな含みを持たせた返答――――それに言葉が返り。

良し、と頷いた後で……此方よ、と廊下を進んでいく。

 

移動する、と言ってもほんの数十秒。

一度だけ訪れた家庭科室の隣の部屋へと鍵を差し込み、中へと踏み込んでいく。

 

……何も言わずに付いて行く中で、手の甲側の皮膚を軽く拗られた。

 

「痛っ」

 

「お仕置き」

 

思わず上げた言葉。

耳元で囁かれた言葉。

少しばかりの親愛を混ぜ込んだ、囁き声。

 

背筋に奇妙な感覚が走るのを実感しながらも、中へと滑り込み後手で扉を閉める。

 

(…………)

 

くるり、と中を一周見る途中で、携帯端末が軽く振動するのが分かった。

室内は予想以上に整理されており、準備室という名目を保っている様子。

 

人一人が座れるようなスペースの机の上には今は何もなく。

恐らく家庭科室に繋がる扉の方は曲がり角で、その先が見通せない。

 

「まだ私一人分しか準備終わってないのよねー」

 

丸椅子が幾つか積み重ねられている中から二つ、床に置き。

手のひらを向け、座ることを進めた上で自分も同じように座った。

やや遅れて座り込み、少しだけの静寂。

 

「さて」

 

「……先に、一番重要なことを共有しているか確認しても良いですか?」

 

先に口火を切ったのは目の前の少女……いや、先輩か?

 

ただ、実際にはほぼ同時。

一度だけ目線を交差させた上で、以後は全面的に美森ちゃんに任せることにする。

必要があれば口は出すが――――先程のお仕置きが響いている、と言い訳しておく。

 

「ああ、うん。 ……って言っても、()()()()()()()()()()()でしょ?」

 

「だと思いますけど。 命令されてる内容は多分……違います、よね?」

 

「でしょーね。 ま、私にはほぼ拒否権は無いような感じだったけどさ」

 

少しだけ切り込んで聞けば。

此方への警戒を緩めたのか、ほんの少しだけ普段の態度らしきものが見えた。

()()()()()()()、というのが極めて近いような。

けれど、何かに雁字搦めにされているような酷く疲れた様子の表情。

 

「で、どうする? 私から言おうか?」

 

「いえ、私から言います。

 …………()()()()()()()()()()()()()とかの命令は受けてますか?」

 

恐らく問題になるとすれば其処。

普通に考えれば互いに矛盾した命令を出すとは思えないけれど。

亜耶から聞いたこと……派閥の暴走、という観点からすると何が食い違うか分からない。

 

互いに初めて会って話せる今だからこそ、そうした摺合せが出来る状況で。

本来ならこんな事している場合じゃない、というのは俺達側の意見ではあるのだが。

事情を知るかどうか、という大きな差異がある以上仕方ない事。

だからこそ、念入りに深掘りをしてくれている。

 

()()()。 私が……ああもう、回りくどいのは面倒だから直接言うわよ?

 命じられたのは結城友奈を含めて何人かを纏めておくこと。

 実際選ばれるかは分からないけれど、勇者として選ばれた時に全員が動けるようにしておくこと」

 

他にやりようがあったかも知れないけど、いつ選ばれるとかは聞いてなかったからね。

失敗したかなぁ、なんて笑ってはいるが。

その内心は異様な程に焦っているように見える。

 

「……今更だけど、東郷美森で良いのよね?」

 

「はい」

 

「貴女もその一人に含めるように言われてる。

 ……そうでもなければ、言うつもりもなかったんだけど」

 

でしょうね、とは何方に向けた言葉なのか。

感情の乗らない乾いた声が美森ちゃんから漏れて、その肩を軽く叩くことで軽く集中から解き放つ。

 

「……やっぱり別口でも声掛けてたか」

 

そんな言葉が、室内に響き。

もう誰が、何を信頼できるのかが曖昧になる脳を振って落ち着かせる。

 

「そういやアンタは? 事情を知ってるみたいだし、東郷……って呼ばせて貰うけど。

 彼女と親しいから色々聞いてる感じ? 男を入れろ、なんてのは全く聞いてないんだけど」

 

そうすれば、此方に対する警戒心を一気に高めて。

雪崩のように言葉を浴びせかけてきた。

……そうなれば、言えることは一つ。

 

「全部の事情を知ってる、唯の一人……葦原家の天理と言います、先輩」

 

葦原、と口の中でその名前を転がしたのが分かった。

それが彼女の中でどういう意味を込めてか、其処までは分からずとも。

 

「恐らく、協力点を見出すという意味では力になれるとは思いますよ」

 

それで、と舌の先に言葉を乗せた。

 

「先輩……未だに名前も聞いていませんが、教えて貰えますか?

 此方の事情と、そちらの事情。 交換するくらいは許されると思いますから」

 

「ああ……ああ、そうね。 ――――黙っていなくてもいい、か」

 

恐らく、抱え込み続けると言った部分が彼女の一番の負担か。

 

そこからの解放の判断を、自分の立場だけでは許されない側の人間。

社会的に、立ち位置的に弱みを握られている。

……弱者側の人なんだろう、と感じながら。

 

「犬吠埼風。 今年転校してきたばかりの二年よ。 宜しくね、後輩」

 

そんな言葉を契機に。

振り回される側の人間との邂逅を、果たした。

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