葦原天理は巫覡である 作:氷桜
結城友奈。
東郷美森。
犬吠埼風。
乃木園子。
現時点で集めるように言われている、中学校に所属する四人。
そしてもう一人。
「樹……アタシの妹。 適性? が高いとかで集めるように言われてるのはこの五人ね」
……取り敢えず、色々言いたいことはあるが。
「銀は入ってないんだな」
俺達だけに伝わる言葉。
そして、それを正しく隣の少女は拾い上げ。
先輩……風先輩でいいか。
彼女は誰?と首を傾げていることから事情を聞かされていないのが伝わってくる。
「現状があるし……もう別扱いしているんじゃない?」
「一時期はまだ戦わせようとしてたのにか?」
「ほら、天理君の事情だってあるでしょ」
それもそうだが。
唯でさえ銀は自分を責めがちなのに、此処でも明確に除外されたら明らかに内心が曇る。
自分が戦えない……友人を戦わせ続けてる、って意味で彼奴も不安定になったりするから。
まだ同じ立場、近い立場の俺がいるから落ち着けているが。
しかし、何でこういう担当が俺と美森ちゃんになってるのか。
こういう時こそ利用できるもの、という面でそのちゃんじゃないのか。
「あー……それじゃあ、そっちの事を聞いても良い?」
もそもそと話し合いを続けていれば、居場所が無さそうに先輩が聞いてくる。
何処まで話して良いものか、というのはあるのだが……伝えるべきことは伝えるか。
「美森ちゃん、足りない部分は後追いするから任せて良い?」
「構わないけど……今日は少し及び腰?」
「好きに考えてくれていいよ」
くすり、と漏れる声。
内心を知り得ているだろう上で問う余裕がある……いや、
自分以上に焦っている相手を見て落ち着けた、という都合もありそうだが。
「あー、あっついあっつい」
手扇で露骨に呆れを見せている風先輩もいるが。
気にしていない様子のほうが大きいのは十二分に強いと思う。
「では私が担当しますが」
「何でも良いけど」
「……私は、『最も勇者適正値が高い人物』の補助に回れ、と言われています。
その……風先輩は『勇者』に付いて何処まで知っていますか?」
「んー? バーテックスって怪物が襲ってくるからそれを倒さなきゃいけない。
失敗すると神樹様が枯れてアタシ達も死ぬ。
で、それに対する幾らかの武器の扱いと倒す手段……くらい?」
そもそも向こうが抱えてる知識とも擦り合わせつつ。
命令の内容的に、相互に問題が発生する訳ではないこと。
そもそもの役割の知識に関しても聞いてみれば。
「あ、精霊が宿るから滅多なことじゃ大怪我しない……とも言ってたわね。
実際にどうなのかまでは試させてくれなかったけど」
こんな所?と合わせて投げ返されれば。
間違ってはいませんね、と二人で頷く。
「幾らか付け加える事はありますが、基本的には聞いてるってことですか」
「寧ろ、アンタ達が何でそんな詳しいのか知りたいくらいなんだけど……」
「……
へ、という言葉。
目を白黒とさせながら、恐らくその奥に見えるのは負の感情か。
言葉に仕切れない、隠しきれない何かを控えているのを感じた。
(……なんか、見覚えがある目の色だな)
何処で見たのか、それは思い出せないけれど。
言葉にしづらい何か、見つけようとしている切っ掛けを見たような。
そんな淀んだ――――濁った感情の穢れ。
「まあ、それは後々で説明できる時にすることにしない?」
だから、此処で割り込んだ。
今するべき話じゃない、というお題目もあったし。
ちりちりと焼き付く感じのある警戒を促すような感覚。
これ自体は幾度も経験し、その度に世話になってきた頼れる感覚。
故に、それに従って。
「……聴き逃がせない言葉もあったけど、そうね。
今するべき話じゃない、か」
逃さない、とでも言いたげな。
いつかは必ず聞き出そうとする人の熱意にも似た執着心。
それが美森ちゃんへと向かうのを感じ、改めて介入することを心に刻み込む。
「……風先輩、基本的には協力できると考えても大丈夫ですか?」
「そうねえ。 寧ろ事情を知ってる子が一人いてくれるだけでアタシは楽になるけど」
問題はそっちよね、と向けられたのは俺へ。
幾分か和らいだ視線の色ではあったが、扱いに困っているのは有り有りと感じ取れる。
「元々は関係者だけで固めるつもりだったのよ。
それ以外は全部弾くつもりだったし、一応顧問の先生にも大赦から話は行ってる筈」
「でしょうね。 私でもそうしますから」
「だから、本来なら葦原……だっけ? アンタも入れるつもりは無かった」
「ええ。 俺も唯の部活なら入るつもりも無かったんで」
銀の世話とかもあるし。
大赦への顔出しも、亜耶との顔繋ぎも。
個人的な都合が付くなら、幾らでも暗躍する方法はあるのだし。
「なんだけどねえ……」
此処で問題になるのは、何処の範疇までを関係者とするか。
そして表立っては部活として固めるのなら、俺を弾く理由付けか。
例えば『女子だけにしたい』とかの理由。
例えば『なにか活かせる特技を持つ』とかの理由。
最悪俺は除外されても仕方ないとしても、部活の内容を知れば銀は参加しようとする。
そして、それ自体を大赦側は否定しきれるかは極めて怪しい。
元とは言え勇者の肩書を持ち、ほぼ唯一の極近接型の戦闘経験者。
その経験が生きないとは思えない。
そして、もう一つ……いや二つ。
伏せている手札――――せんちゃん達をどうするか、という問題にも繋がる。
「……ただ、風先輩。これは何となくの勘なんですけど」
「ん~?」
「友奈を入れるとするなら、先ず間違いなく俺へは声掛かってたと思います。
遅かれ早かれ、何かしらの問題にはなってたかと」
これは俺個人の感想で。
そしてある種の確信を含んで。
『だよね。 友奈ちゃんならそうすると思う』
たかしー分析とも被るなら確定と思っていいな、これ。
「は、友奈とも付き合い……あるんだっけ?」
「さっき言ってた知り合いへの相談、って多分親を除くなら俺達だと思いますから」
多分、相談できる程に親しい知り合いが出来ているなら紹介してきていた筈。
少なくともそういうところは欠かさない奴だったし。
人助けの前に自分を鑑みろ、という言葉を叩き込んだ以上。
外部目線、或いは自分の鏡として見ているだろう相手へは聞いてくるだろうから。
「ですんで……幽霊部員、或いは力仕事とかの雑用係でも良いですし。
或いは表立っての対応要員でもいいので、何人か偽装を兼ねて加入させて貰って良いですか?」
「……アンタね。 何処まで手を伸ばしてるわけ?」
そんな呆れられる目を向けられましても。
美森ちゃんも同じように向けてくるのは流石に心外なんだが。
「出来るところまでですよ」
怪しい、という目は――――結局。
その日の間、晴れることは無かった。
・此奴外部目線から見ると情報抱えすぎて怪しすぎるんですよね。